7 分 2019.02.28
都会のバイクレーンを自転車で通勤するビジネスパーソン

政府による公益推進の力になるAI

執筆者

Keith Strier

EY Global and EY Americas Advisory Leader for AI

Tech visionary, business strategist, experience designer, AI evangelist. Incurably focused on what’s next.

George Atalla

EY Global Government & Public Sector Leader

Working with governments to address complex issues and build a better working world.

7 分 2019.02.28

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AIは、政府が抱える最大の課題を克服し、市民生活を劇的に向上させるポテンシャルを秘めています。

現在、世界中で企業が人工知能を使用し、日常的なタスクの自動化、意思決定の改善、カスタマーエクスペリエンスの向上を進めています。しかし、AIは民間セクターの専売特許というわけではありません。政府もまた、組織の合理化やプロセスの実行をAI技術で変革できる可能性を認識しており、民間セクターと同様のサービス革命を市民が期待している事実に気付きつつあります。

つまり、政府は市民のデータを一括して把握でき、プライバシーを保護しながら、部署をまたいで適切な方法によりデータを共有できます。それはまた、そのデータを使って新たなサービスを創り出し、市民が次に必要とするものを予測し、危機を防ぐために措置を取れるということです。

「AIはあらゆる規模の国にチャンスをもたらします」EY Global・EY Americas AI担当Advisory LeaderのKeith Strierは語ります。「当初は大規模な諸国が先行するかもしれませんが、ターゲットが絞られているかニッチなAIアプリケーションで『自分より上位ランクの相手と戦う』のでない限り、小規模な国々も十分に張り合うことができます。国家の権力や強さに関する従来の基準におさまらない、グローバル競争のための新たな基礎を得ることができるでしょう。          

AIは政府に対して、民間セクターに当てはまらない二つの大きなチャンスを提供します。

  1. AIにより、政府が市民に関して保有する膨大な量のデータを構造化・分析し、社会的利益のために活用することができます。つまり、結果と機会の不平等を定量化し、抑制することが可能です。第三者とデータを共有し、(データを非公開に保った上で)市民生活を向上させるアプリやサービスを作成することもできます。
  2. AIは、市民によるAI技術の使用・活用方法を発展させる独特の機会を政府にもたらします。政府はAIの倫理的使用のロールモデルとなり、企業による適用方法を調整し、その課題に対応できるよう市民を教育する責任を負っているためです。
ターゲットが絞られているかニッチなAIアプリケーションで『自分より上位ランクの相手と戦う』のでない限り、小規模な国々も十分に他国と競争できます。
Keith Strier
EY Global and EY Americas Advisory Leader for AI

しかし、AIの展開により、政府は企業と同じリスクにさらされることになります (アルゴリズムにバイアスをかけるなど)。そして、政府は規制上の役割を担っているため、大規模な情報漏えいが1件生じただけで(最近起こった米国国防総省の職員3万人の個人を特定可能な情報の漏えいなど)、政府への信頼は回復不可能なほどに損なわれます。

このように複雑な背景を踏まえて、私たちが政府に推奨するのが「trusted AI(信頼できるAI)」のフレームワークの活用です。これにより、AIベースのシステムの機能のあり方を検討するだけでなく、ソリューションの全段階に内在するリスクを特定・軽減することができます。例えば、サービスとしてアルゴリズムを扱っていることを政府から市民に公表できるため、市民はオプトアウトするか、人間のスタッフによる処理を選択することができます。

果たしてAIとは何であり、政府はこれをどのように活用できるのでしょうか。  

市民の期待の高まりは、現在政府が抱えている課題の一つにすぎません。急速な都市化、人口の高齢化、複雑な社会経済的問題により、公共サービスは圧迫されています。そして、経済成長の低迷により予算が抑制されているため、政府は効率的で持続可能なソリューションを見つける必要があります。

AIは一連の技術や機能として、政府によるこれらの課題の解決を支援することができます。特定の人間の能力を補う、場合によってはそれらを代替することにより支援が可能です。

支援の方法には三つの主な分野があります。

  1. センシング。 AIは、人間の感覚機能の増強や代替により、視覚的検出などの単純な作業をスピードアップすることができます。例えばAIソフトウェアは、街路の防犯カメラや交通監視カメラをリアルタイムで自動的に分析できます。これにより政府は公共交通機関を最大限に有効化し、大気汚染を抑制し、交通の流れを管理することが可能です。
  2. 思考。 AIと関連技術(機械学習、ディープラーニング、自然言語処理など)は、大量のデータを人間よりはるかに速く、場合によってはより効率的に分析・処理できます。一部の国では既にこれらの技術の利用を進め、事務管理作業の処理やさまざまな生徒のニーズに合わせた学習のカスタマイズなど、教育と学習のギャップを埋めるための教師の支援に活用しています。
  3. 行動。AIや、インテリジェントオートメーション(バーチャルアシスタントやチャットボットなど)等の関連技術により、人々は簡単な意思決定のタスクから解放されます。これにより、市民と接する部署の職員は、サービスや市民のエクスペリエンスを向上させる活動に集中する時間を増やすことができます。例えば、韓国の冬季オリンピックでは、AI搭載の翻訳ソフトウェアが配備された数台の人型ロボットが、観客や選手への情報提供に活用されました。

AIは仕事にとってどのような意味を持つでしょうか。

AIを活用したアプリケーションは、政府に対する市民の信頼を築き、扱いにくいという一般的な認識を解消するのに役立ちます。しかし、政府は信頼を維持するために、AIがすべての仕事を奪うわけではないことを労働者と市民のいずれにも明確に説明する必要があります。実際に、世界経済フォーラムは最近の報告書の中で、AI技術が7,500万の一般的/反復的な職業に取って代わる可能性があると指摘しました。しかしまた、1億3,300万人の新規雇用が創出される可能性があり、これらの仕事はスキルや創造性がより必要なものとなるでしょう。

例えば、AI技術により、膨大な量の非構造化データから知見を認識、理解、活用することができます。その結果、政府関係者(特に計画、人事、顧客サービス、調達分野)が実質的にAIモデルの管理者となり、必要に応じて監視や調整を行います。また、得られた知見を利用して、豊富な情報に基づいた意志決定を下し、リソースをより適切に割り当てることができます。

したがって、AIにより日常的または手作業による仕事の必要がなくなる可能性がある一方、総じて、人間の知能を拡大(代替ではなく)することができるようになるでしょう。

動き出すAI

AIを賢く利用する政府は現在の課題を克服でき、市民生活を大きくトランスフォームできると私たちは考えています。一連の記事では、これを実現できる六つの分野に注目しています。また、政府がAIを規制する必要性や、政府がAIベースのシステムを効果的に展開する方法についても紹介しています。

以下の六つの分野をリストアップし、それぞれについて実際の例を示しました。

  1. 財政管理の改善
    英国の労働年金省は、年金詐取を行っている犯罪組織に関して、アルゴリズムを使用して特定し、取り締まるためのテストを行いました。アルゴリズムにより、何十億というデータ項目の中から複製されたIDを検出することができるようになっています。これを給付制度全体に展開することにより、当局は数百万ポンドの損失を防げることを期待しています。

  2. 未来の都市の構築
    シンガポールは、「スマートネーション」イニシアチブの一環として、自走式タクシーを公道で走らせる取り組みを進めています。無人バス用のテストパークとしてミニタウンも建設されています。その目的は、自動車への依存度を減らし、温室効果ガスの排出を抑制し、市民の移動をより早く簡単なものにすることです。

  3. 市民の生活をより安全に
    日本の神奈川県警は、2020年の東京オリンピックに先がけて予測型警備活動を試験的に行うことを計画しています。AIベースのシステムがビッグデータを分析し、複数の犯罪の背後に同一犯がいないかどうか検知します。また、犯罪発生の可能性がある場所やタイミングを予測することもできます。その知見に基づいて行動することにより、県警は犯罪を抑制し、東京はより安全な都市になるでしょう。

  4. 国防と安全保障の強化
    米国のマサチューセッツ工科大学の研究者は、スタートアップのテクノロジー企業と協力して、サイバー攻撃の85%を検出できるAIシステムを開発しまし。このシステムは、職員が早い段階で決定を下すことにより、セキュリティーの漏えい防止を促します。長期的にはセキュリティーシステムと予防戦略を改善することもできるでしょう。

  5. 市民のエクスペリエンスの向上
    デンマークの地方自治体は、市民によるソーシャルネットワークへの投稿を分析し、AIを使用して直面している最大の問題の特定を行っています。これにより、問題に積極的に対応し、予測分析を使用して発生前に問題に対処することができます。

  6. 児童、ホームレス、薬物乱用者などの脆弱な市民の支援
    私たちはロンドンの自治区と協力し、保護が必要な児童を特定するためのAIベースシステムの試験運用を行いましたこのシステムの成功率は85%にのぼり、わずか7カ月間で、ターゲットを絞ったサービスから恩恵を得られる1,700家族を特定しました。

AI採用の備えは十分ですか。

自社の組織や市民がAIのメリットを受けられるようになるために、対処が必要ないくつかの根本的問題があります。 以下のような内容です。

  • データをクラウドで保存・管理していますか。
  • さまざまな機関からのデータを統合できますか。
  • 最高データ責任者や最高デジタル責任者など、社内で適切な役職を設定していますか。
  • どのようなAI技術の導入が社内で進められているのか、その理由、その変更が従業員にどのような影響を与えるかについて、従業員は理解していますか。

以上の問題に対処することにより、現在の能力と今後の前進に必要な取り組みの内容について、理解を明確化できるでしょう。

サマリー

政府はAIを通じて、効率と効果を向上させることができるだけでなく、市民により良い、より個別化されたサービスを提供することができます。しかし、AIの使用のロールモデルとなり、企業による応用を規制し、その課題に対応できるよう市民を教育する責任も政府は負っています。そして最も重要なこととして、政府はAIがもたらすリスクを特定・管理する必要があります。

この記事について

執筆者

Keith Strier

EY Global and EY Americas Advisory Leader for AI

Tech visionary, business strategist, experience designer, AI evangelist. Incurably focused on what’s next.

George Atalla

EY Global Government & Public Sector Leader

Working with governments to address complex issues and build a better working world.