前川氏:生成AIを使うことが非常に当たり前になってきている感触を抱いております。われわれも相当な波を感じており、もはや生成AIを使うこと自体が結構当たり前になってきています。利用実態として、現在の世の中の状況では、一説によりますと生成AIの市場規模は、昨年度で約7兆円、2030年には30兆円規模になるのではないかと言われています。生成AIのトップランカーのOpenAI社は、企業価値が早くも10兆円を超えて13兆円となっている状況です。たった半年で時価総額が3倍になるような世界観で規模が拡大しています。こうしたすさまじい速さに他企業もついて行くことが今後必須になると考えています。こういった状況の中で、OpenAIのAPIを使いながらさまざまなアプリケーションレイヤーでのサービスが、グローバルで展開されてきています。カオスマップが追い付かないくらいさまざまなアプリが日々公開されており、もはや捉え方としてはAI業界というよりは、生成AIというひとくくりで1つの業界になってきたと捉えています。
そして生成AIが進化する今後、私たちの求められるスキルも変わっていくと考えています。まず人間としての基礎力と、どこに向かいたいのか、志という意味でのアスピレーションを含め人としてどのように持っていきたいのかが重要になってくるでしょう。そして好奇心、分からないものや不確実性が高いものに取り組んでいくことに対する意思が強く求められるようになると思っております。一方でAIを使いこなすという文脈では問いを立てる力、現場でAIを使うに当たっての現場感に基づく暗黙知などをとがらせていくことも必要です。この辺りがやはりAIを使いこなす、共存していく時代で一人一人が強めていかなければならないスキルだと思っています。
そして今後、世の中ではどういう領域においてAIが強くなってくるかというと、膨大な知識が必要とされていた専門家の領域が、よりAIに取って代わられる可能性があると思っております。大量の言語や大量の知識を参照しながら処理する力は、AIの方が強みを発揮していくでしょう。
生成AIがカバーしきれない部分で、人としては付加価値を出していくべきではないでしょうか。現場人材やジェネラリストが再度脚光を浴びると予想しています。今はジェネラリストが技術、会計または法務知識などセクションに分かれたスペシャリストを束ねるオペレーションやマネジメントをしていると思います。今後は技術、会計といったそれぞれのスペシャルファンクションは生成AIに任せながら、それを束ねるジェネラリストに一人一人がなっていくことで、より知識を使いながら付加価値の高いことができてくるのではないでしょうか。
これまで大きな会社の運営をしている一人一人の従業員は、高い業務標準化を実装しながら、業務の細分化で全体のオペレーションを設計することで強みを発揮してきたと思います。しかしこれからは、管理側のメンタリティを中心に一人一人のマインドセットが形成されていくことを感じます。生成AIが関連業務を代替しながら、仕事に取り組むために必要なメンタリティを各人が持つことで、より企業の成長にもつながってくるのではないでしょうか。企業活動全体のマインドセット変革も、生成AIが後押ししてくれると期待しています。
いわゆるマネジメントについて、管理を中心とするような体制から、メンバーや会社の方向性、アスピレーションを啓発していくリーダーが求められていく可能性があると考えています。一人一人の仕事に対する向き合い方などの変革の時期に来ていると感じています。
最後にセクションとして「生成AIのその先へ」をお話しいたします。現在は生成AIの普及期でさまざまな企業で使うのが当たり前になってきていますが、生成AIをうまく使いこなした企業が、競合他社に対して差別化していくフェーズになってくるのではないでしょうか。その先は生成AIという名前を付けずとも当たり前のように日々使う時代が当然やって来ると思っています。社内にたまっている独自のデータやオペレーションの中に自然と組み込まれる世界が来るでしょう。ここをいかに視野に入れながら実装していくかが必要です。そして新しいテクノロジーは、若い世代の感性や行動力が重要かと思いますので、チームやタスクフォースの中で若手の登用なども含めながらうまくやっていくことで既存の企業の強みとの融合を図っていけると考えています。