
第1章
適時かつ十分なコーポレートレポーティングによりステークホルダーからの信頼を勝ち取る
財務報告にせよ非財務報告にせよ、コーポレートレポーティングが存在価値を持ち続ける上で、透明性が重要なことに変わりはありません。
調査によれば、財務報告にせよ非財務報告にせよ、コーポレートレポーティングが存在価値を持ち続ける上で、透明性が重要なことに変わりはないことが示されています。調査対象である財務部⾨のリーダーの74%は、投資家が投資判断に⾮財務情報を使⽤する機会が増えていると答え、76%は透明性を求める社会的圧⼒が⾼まっていると回答しています。同時に、コーポレートレポーティングは、多くの市場で規制当局による監視の強化に直⾯しており、現在の報告モデルが⽬的に合っているかどうかが問われています。
ステークホルダーはより高い透明性を期待している
74%の財務部門リーダーが、投資家は投資判断に非財務情報を使用する機会が増えているとの見解を示しています。
定量的な⾮財務報告情報は、透明性を⾼める基盤と⾒なされているものの、かなりの数の企業が、コーポレートレポーティングにそのようなデータを取り⼊れていません。例えば、地域によって、定量的な重要業績評価指標(KPI)を提供する大企業の数は増えていますが、企業文化に関するKPIを提供している企業は37%にとどまっています。
こうした要求に対処するために、財務部門は優先順位を付ける必要があります。
適時かつ十分な情報開示を担う企業文化の推進
財務部⾨のリーダーは、企業⽂化において財務部門が主導的な役割を果たすとともに、チームの信頼性やスキルを活⽤できると考えています。財務部⾨が健全な企業⽂化をどのようにサポートし、強化できるかという問いに対し、財務部⾨は「高い透明性とオープンな環境を重視している」という事実が明らかになりました。透明性を実現するためには、価値観や⾏動様式に対する期待値を明確にし、慎重に伝えることを優先する必要があります。
⾮財務報告における財務部門の役割を明確化
⾮財務報告における財務部門の役割を明確にすることは、信頼できる情報をステークホルダーに提供する上で役⽴ちます。透明性が高くオープンであることは、ステークホルダーが求める情報を提供するための鍵ですが、情報自体が確かなものであり、信頼のおけるものでなくてはなりません。財務部⾨のリーダーは、データ分析や、⾮財務情報の信頼性を得るための管理⼿法の確⽴など、さまざまなスキルを兼ね揃える必要があります。

第2章
企業文化の報告における分断を解消する
企業文化は、企業価値の維持・向上に必須の要素と考えられています。
財務部門のリーダーは、企業文化は、企業の価値を高め、保護する上で中心的な役割を担っていると考えています。調査によれば、企業⽂化に関して定量的なKPIを報告している⼤企業は3分の1にとどまっていますが、その4分の3以上が「投資家が企業⽂化に関する情報を求める傾向が⾼まっている」との⾒解を⽰しています。
投資家は企業⽂化に関する情報を強く求めている
79%の財務部⾨リーダーが、「投資家が企業⽂化に関する情報を求める傾向が⾼まっている」と述べています。
企業文化の衰退に関して企業が支払う対価は、しばしばニュースのトップを飾ります。この調査結果は、もはや企業⽂化が、企業価値と無関係な要素とは考えられていないことを明確に⽰しています。83%が「価値観や⾏動様式が根付いている健全な企業⽂化が信頼構築にとって重要である」と回答し、81%が、リスクマネジメントにおいても健全な企業⽂化が重要であると回答しました。
企業文化に関する報告に取り組む際は、以下の点を考慮する必要があります。
データの活用と企業文化に関するKPIの報告の定義
すでに作成している大量のデータを信頼できる企業文化に関するKPIの報告に組み込むことで、企業文化に関する報告を増やすことができます。 調査対象の財務部⾨のリーダーの79%は、企業⽂化を理解するためのデータを保有していると回答していますが、ほとんどの企業は、通常このようなデータを報告する習慣がありません。例えば、今現在、従業員の満足度や愛社精神といった「従業員エンゲージメント」に関する報告があるのは⾟うじて半数を超える程度、内部告発や地域的なコーポレートガバナンス・コードの違反に関する報告については半数未満となっています。
一方で、財務部⾨のリーダーは、企業⽂化に関するデータの管理やデータ品質、さらに、これがステークホルダーの⾼い期待に応えられるかどうかについて、懸念を抱いています。そのため、関連するスキルを⾒つけ構築するだけではなく、適切に管理するなどの包括的なアプローチが必要になる可能性があります。
財務部門の⽂化を改革
財務部門内の⽂化を変えることで、ステークホルダーとの関わりやコミュニケーションを促進し、最終的に財務部門のアプローチの透明性を⾼めることができます。調査によると、財務部⾨のリーダーの71%が、透明性を向上させるには財務部門の⽂化を変える必要があると回答しています。この回答には、リーダーの多くが、⾃⾝のチームがリスク回避的であり、過去の業績にしがみついていると感じていることが関連しています。当然のことながら、文化を変えることは簡単なプロセスではありませんが、財務部門のリーダーは、望ましい行動様式と価値観を明確にし、自ら実証する必要があります。

第3章
データ分析や人工知能に対する信頼を構築する
企業は、非財務データが財務データと同等の信頼を得るよう、客観性や信頼性といった問題に対処する必要があります。
財務情報と⾮財務情報の双⽅が、透明性にとって鍵であるため、⾮財務データは財務データと同等の信頼性を保持することが必要です。しかしながら、⾮財務データに対して信頼できるアプローチを構築するには、財務部⾨のリーダーは多くの課題に直⾯すると考えられます。
具体的には、プライバシーやコンプライアンスなどのデータ保護に配慮するとともに、関連するリスクを管理しながら⾮財務データを活⽤する能力があるかなどが考えられます。それと同時に、開⽰するデータの客観性と信頼性が確保できるか、特に、データの取得や分析において、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)や⼈⼯知能(AI)を利⽤することについて信頼性を確保できるかという懸念が生じます。CFOの60%が、AIが生成する財務データの品質を既存の財務システムのデータと同等に信頼することはできないと回答していることを考えると、これは特に重要と考えられます。
データ分析やAIにおいて信頼を構築するには、優先事項が2つあります。
⼤量のデータを収集し分析する、⾼度なツールの導入
RPAを使⽤すれば⾯倒で時間のかかるタスクを効率的かつ効果的に完了させることができ、AIを使⽤すればコーポレートレポーティングに関する理解を深められるにもかかわらず、ほとんどの財務部門はまだ、導⼊テストを終え⼤規模に展開するところまでは⾄っていません。調査対象のファイナンシャルコントローラーのうち、コーポレートレポーティングのデータ収集を⾃動化するためにRPAを利⽤したと回答したのはわずか30%であり、AIを使⽤して⾼度な分析を進め、データに基づく情報を得たと回答したのは30%未満でした。
導入促進に向け、財務部門のリーダーは、慎重にリスクを管理する必要があります。
⾼度なシステムによる信頼性を確保した開⽰情報の提供
今日の既存の財務システムの多くはすでに信頼を得ており、管理もされていますが、AIは同じレベルでは信用されてはいません。財務部門のリーダーの60%が、AIが生成する財務データの品質を既存の財務システムのデータと同等に信頼することはできないと回答しています。さらに、CFOは付随するリスクについても懸念しています。
人工知能に対する信頼を構築する
60%のCFOが、AIが⽣成する財務データの品質を既存の財務システムのデータと同等に信頼することはできないと回答しています。

第4章
今後の展望
健全な企業文化は企業の価値を高める鍵であり、不健全な企業文化は企業の価値に重大なリスクをもたらします。
企業の価値にとって、⽂化の意義はこの上なく明確です。健全な企業文化は企業の価値を高める鍵であり、不健全な企業文化は企業の価値に重大なリスクをもたらします。企業⽂化は、コーポレートレポーティングにおいて2つの点でますます重要な役割を果たすようになると考えられます。1つ⽬は、透明性の⾼いレポーティングを推進する上で財務部門が中⼼的な役割を担い、投資家と真剣に向き合い、急速に変化するレポーティングに対する要求を満たすことができるような、適時、かつ十分な説明責任を果たすことができる⽂化を創り出すことです。2つ⽬の役割は、企業⽂化に関して有意義で信頼できる、データに基づいた情報をステークホルダーに与え、企業⽂化と業績との関連性を⽰すことです。
コーポレートレポーティングにおいて、適時、かつ十分な説明責任を果たす⽂化を推進する上で、重要なポイントは3つあります。
- 企業⽂化に対する情報開示に向け、スキルセットや管理手法の確立など包括的なアプローチを検討する
- 多才な人材を融合し、財務部門の文化改革を促進して、課題を克服する
- AIに対する信頼を構築する
サマリー
企業は、コーポレートレポーティングについて、より高い透明性が求められていることを認識しています。透明性という課題を推し進めるために、財務情報と非財務情報のバランスの取れた、先を見据えたコーポレートレポーティングの作成に向けて、企業の姿勢そのものを大きく変えることが求められています。
この課題を実現するためには、企業自らが提供する情報の適時性、信頼性、十分性を果たすという新しい企業⽂化や企業風土を取り⼊れる必要があります。すなわち、ステークホルダーの信頼を得るために、適時かつ十分なコーポレートレポーティングを作成すること、企業⽂化に関する情報開示を拡充すること、データ分析や⼈⼯知能に対する信頼を構築することです。