6 分 2022年7月11日
金融株の株価と街の光の反射

インテグリティで、悪意ある空売りへの対策を強化できる理由とは

執筆者 Campbell Jackson

EY Global Claims & Disputes Leader

Forensic professional with more than 25 years of experience. Regularly provides expert evidence and testimony across multiple jurisdictions, courts and tribunals.

6 分 2022年7月11日

違法な空売りの潜在的脅威を上場企業の優先課題にする必要があります。空売りされた場合、それに対応するためには、事前の準備が⽋かせません。

要点

  • 市場のボラティリティが高まり、仕手筋が自らの利益のために企業の株価を操作する方法を模索する中、空売りが増えている。
  • 規制当局がこうした動向を注視する姿勢を強め始めているものの、空売り筋により企業が混乱に陥った場合に有効であることが実証されている戦略はほとんどない。
  • 客観的な調査を行い、その結果に従って行動する空売り筋は、価値を提供し、市場の透明化と監視を促進する。

この24カ月の間に、空売りによる混乱の広がりが劇的に加速しています。

これは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックと財務報告の時期が重なって市場の不確実性が⾼まり、空売り筋が企業の株価に影響を与えやすい素地が整ったことによるものです。ボラティリティの⾼まりが予想される現状は、⾃らの利益のために株価操作を⽬論む仕⼿筋にとって好機となります。これについて、これまで⽬にしてきた常軌を逸した⾏動と結局は同じだとみなすマーケットフォロワーが少なくありません。しかし、調査を⾏うと、市場の透明性のために⾏動する合法的な空売り筋やヘッジファンドは、有益な⽬的をきちんと果たす存在であり、よく考えた上で⾏動を起こしていて、常軌を逸してはいません。企業の誠実さを保ち、⾃らの⾏動を通して、市場で起きていることに対し、合法的な監視を促す重要な役割を担っているのです。⼀⽅、根拠がない、あるいは偽りの主張に基づき、⾃らの利益のために⾏動する空売り筋は、市場の懐疑的な⾒⽅を煽り、ターゲットとする企業の評判に⼤きなダメージを与えかねません。

  • 空売りについて詳しく知る

    すべての空売りが良くない⾏為とされているわけではありません。ほとんどの空売り⾏為では、トレーダーが市場の動きを(通常、徹底的な調査により)先読みした上で⾏動を起こす戦略を取り、企業の株価下落で利益を得ます。また、空売りは必ずしも物議を醸すものでもありません。実際、⾃社の収益や価値の⽔増しを試みる企業の実態を露呈させることで、⾦融詐欺をある程度⾒破る⼿段になる場合すらあります。

    損害を与えることを意図した空売り筋は、従来の空売り筋とは異なるアプローチを取ります。巧妙かつ組織的で、企業に⼤打撃を与えることを⽬的としているのです。このシナリオでは、空売り筋は通常、ターゲットとする企業の株式に対して⼤量のショートポジションを取ってから、その企業に関する好ましくない情報を流して株価を下落させようとします。その結果、株価が下落すると、空売り筋は利益を得ることができるのです。

こうした傾向の背景にある要因の1つは、不正な空売りを取り締まる罰則などが⽐較的少ないことです。上場企業は特定の財務情報の開⽰を義務付けられており、そのデータの正当性を何としてでも⽴証しなければなりません。⼀⽅、損害を与えることに⼼⾎を注ぐ空売り筋は、倫理基準に縛られずに何でも主張することができます。また、強⼒な強制措置がないのをいいことに空売りを積み上げ、さらに⼤きな利益を上げ、自らが有利になるように市場を操作し、影響⼒を増していくのです。

規制当局も、空売り攻撃の急増に注⽬するようになってきました。しかし、現在のところ、脅威の察知と対応戦略の策定は企業が担わなければなりません。ただ、幸いなことに、次の被害者になるリスクを軽減する⽅法があります。

全ての開示情報を精査する

投資家と空売り筋が問題なく簡単に⼊⼿できるデータや情報は、⾄る所にあります。企業が開⽰するデータが増えれば増えるほど、プラットフォームが直⾯する問題は深刻になり、空売りの準備を整え、実⾏しやすくなります。この防⽌に不可⽋な最初のステップは、開⽰する情報の質と信頼性を事前対応的かつ定期的にチェックすることです。財務情報と⾮財務情報の両⽅の最新性と正確性を確保し、リアルタイムでの更新を徹底させることが上場企業には求められます。特に、財務諸表、経営幹部の在任期間、役員が活動拠点を置く組織内の地理的場所に関するデータに注意を払ってください。こうした分野の情報などに誤りがある場合、損害を与えようと企む相⼿に付け⼊る隙を与えかねません。

次に、機関投資家からどのような要求や質問が出されているかをモニタリングしてください。特に注⽬を集め、綿密に調べられている分野はどこか、また、⾼レベルのセキュリティが施されていたり、潜在的リスクが⾼かったりする情報のうち、どういった情報が聞き出されようとしているのかを把握しましょう。

開⽰情報については、報告の透明性を積極的に疑い、クロスチェックを⾏って、市場の期待や認識に沿ったものであることを確認してください。また、じっくり時間をかけて開⽰情報の内容を理解した上で説明し、財務諸表の中の各キャッシュ・フローの区別を明確につけましょう。

最後に、業界のトレンドに沿った対応をするとともに、どの企業が監視の対象となる可能性があるか、あるいは他業界のどのような⾯が問題視されているかを把握してください。何を期待されているか、何に監視の⽬が向けられるかを常に先読みしましょう。経営幹部が時代の変化に対応し、重要な透明性を提供する上で、これが役⽴つはずです。

これらの各ステップでは⾔うまでもなく、規律が鍵を握ります。何が起きているか、どの情報を開⽰しているか、それが事業にどのような影響を及ぼす可能性があるかを常に把握しておくことが企業に求められます。1つのささいな過ちを犯しただけで、重⼤な問題が⽣じてしまうのです。

全てのリスクを把握する

どの企業も空売りの対象となる恐れがあるとはいえ、対象になりやすい業界があるのも事実です。例えばテクノロジー企業は、会計基準がどのように適用されるかにより、業績が良い方向にも悪い方向にも著しく変化する可能性があります。空売り筋は、同じ業界内で同じような問題を抱えることになると思われる企業を次々とターゲットにすることができるのです。

個⼈レベルの過去の問題や評判もリスクとなります。空売り筋が問題を⾒つけた場合、その個⼈を追跡して企業にたどり着き、すでに公になっている可能性のある過去の出来事や過ちを理由に相⼿の名声を傷つける可能性があります。優良な成⻑株もターゲットになりやすいです。リターンが⼤きく、伸び率が⾼いほど、監視の⽬は厳しくなります。空売り筋は何が成⻑の原動⼒かを調べ、それが十分に信じられるかどうか疑問を投げかけてくる可能性があります。

規制当局やステークホルダーとの信頼関係を構築して透明性を示すこと、また、優れたガバナンスとコーポレートインテグリティの基盤を組織内で構築することが、自社の利益を守る一助となります。EYグローバルインテグリティレポート2022によると、インテグリティが重要だとした回答者は過去最高の97%に上りました。その一方で、経営幹部が自社のコーポレートインテグリティ・プログラムの有効性を過信することが多いことも明らかになっています。

最適なインテグリティ環境づくりは全社的な取組みです。職階や職能に関係なく価値観を共有し、また、⾼い透明性を確保し、いかなる犯罪や違反も認めない職場にすることができます。先に述べたように、規制当局も空売りの問題に注⽬するようになってきました。企業がインテグリティと透明性を確保し、⾃社業務を管理するためにできることが増えれば増えるほど、課題が⽣じた時に、それに対処する態勢をより万全に整えることができるはずです。

事前に混乱に備える

法的課題、管轄の複雑さ、コストといった要因が、空売り筋に対して何らかの⼿段を講じることを難しくする場合が少なくありません。そのため、空売り攻撃にあらかじめ備えておくことが不可⽋です。クロスマネジメント計画を策定し、社内の誰が迅速な対応を担うかについて、その順番を事前に決めておきましょう。これは通常業務で処理できる問題ではありません。⾃社を守るためにどうすれば⼀番良いかについて、あらかじめ戦略を⽴てておくことが経営幹部チームと取締役会に求められます。空売りされた場合の対応に注⼒するチームを設置し、詳細な戦略を事前に策定しておく必要があります。

万が⼀最悪の事態が起きた場合、その会社の監査⼈に⼤きく依存することになるのは⾔うまでもありません。それ以外にも、第三者的⽴場から対応の準備と精査をし、市場への対応で経営陣を支援するアドバイザーが必要となります。継続的な情報開⽰という観点と、市場への情報提供という観点から下すことが求められる意思決定において⽀援を得るために、社内、社外を問わず、法律顧問も必要になるでしょう。

対応計画は、何が事実で、何が捏造かを⾒極めるため、提起された問題を先⼊観のない⽬で判断する役割も担うことになると考えられます。空売り筋が提起した問題が信ぴょう性に⽋けていたり、裏付けがないものであったりした場合、真実を明らかにし、それに関する事情を説明し、市場に信を問う戦略を取るべきです。会社にとってプラスの展開が期待できます。⼀⽅、経営陣は必ず、憶測ではなく、実態を踏まえて決定を下すよう肝に銘じておかなければなりません。

空売り筋が仕掛けてきた場合に備えた戦略の策定にあたっては、検討すべき実践的なステップがいくつかあります。

1. 評価する

業界のトレンド、金融情報、潜在的リスクがある分野を精査しましょう。

2. 準備する

潜在的なサイバー攻撃に備えるのと同様に、業界のトレンドを参考として、リスクがあると判断した分野に重点を置き、潜在的な空売り攻撃に対する対応戦略(事前と事後)を策定しましょう。

3. 注意を払う

先述の指標と、それがやがてどのように変化していくかを注視しましょう。方針と対応は文書化し、また、こうした変化に合わせて変更を加えてください。

4. モニタリングする

市場センチメントと会社の評価を継続的にモニタリングしましょう。

5. 助言を求める

リスクのある主要分野に関する第三者的立場からの評価や、対応の準備と調整を第三者に委託することを検討しましょう。

6. 取り込む

適した外部アドバイザーを選定してチームを立ち上げ、早い段階でプロセスに取り込みましょう。

空売りを仕掛けられた時に対応すべきかどうかを検討する必要があるという点にも注⽬する必要があります。対応が早すぎた、あるいは、そもそも対応をした結果、市場の期待を煽るだけに終わったという例も⽬⽴ちます。⼀⽅、確実性を⾼めることができず、市場を動揺させるだけだったというケースも⾒られました。また、空売り筋が⾏動を起こす上での拠り所とする情報を増やしてしまうかもしれません。空売りが企業に与える影響はそれぞれ異なるのです。

知識の浅い空売り筋やヘッジファンドの場合、報告の内容が⾮常に曖昧で、提⽰の仕⽅もずさんであるため、これに対応することはリスクが⼤きすぎる場合が少なくありません。根本的な問題について説明が⼗分でなかったり、あるいはその問題が実態に基づいたものでなかったり、会社の基本的な開⽰情報で裏付けされていなかったりする可能性があるためです。そうした場合には、問題を何とかうまく切り抜けることがおそらくより良い解決策となるでしょう。

サマリー

空売りによるリスクの軽減においては、どれだけ準備が整えられているかが鍵を握り、経験がものを⾔います。空売りの対象になった企業を支援し、対応戦略の策定を⽀援したことがある組織の話を聞きましょう。対応戦略の策定⽀援で最も頼りになるアドバイザーを集めてください。業界関連の問題と会計情報開⽰の動向をモニタリングし、危険(レッドフラグ)、知⾒、監視に伴う判断を⼗分に理解し、管理を徹底させましょう。

この記事について

執筆者 Campbell Jackson

EY Global Claims & Disputes Leader

Forensic professional with more than 25 years of experience. Regularly provides expert evidence and testimony across multiple jurisdictions, courts and tribunals.