リスクへの対処
自然、社会、金融、製造に関する資本が他の分野に流出している場合、企業は長期的に資本の創出を継続できないかもしれません。SDGsの17項目は、すでに企業や社会にとって課題となっているリスクの分野に対応したものですが、これらのリスクは対処しなければ存続・増長してしまう可能性があります。
サプライチェーンは特に気候変動や天然資源の枯渇の影響にさらされていますが、これはSDGsの目標12、13、14、15に対応しています。そして、平和と公正(SDGs目標16)、人や国の不平等(SDGs目標10)、一部地域における開発の遅れ(SDGs目標1、2、3、4)により、新興国市場のポテンシャルは抑制されています。ステークホルダーはこういったリスクの発生や悪化に対する企業の役割について説明責任を追及するため、これらを始めとするリスクに対処することはビジネス上で大いに意味があります。企業は、これらの分野のステークホルダーのニーズに応えることにより、事業を継続するための社会的ライセンスを維持することができるのです。
投資家は、投資決定にあたり「環境、社会、ガバナンス(ESG)」のリスクにますます注意を向けるようになっています。第3回EY投資家調査(2017年)では、脆弱(ぜいじゃく)なコーポレートガバナンス、劣悪な環境パフォーマンス、資源不足、気候変動、人権リスクが、投資家の意志決定を変える可能性が最も高い要素として挙げられています。
調査に参加した投資家たちは、投資の意思決定の全段階にわたり、さまざまな非財務情報を活用していました。SDGsにコミットすることを公表している企業は、戦略的優先事項をSDGsにリンクさせています。また、SDGsの進捗状況を測定、公表、報告することで、ESGリスクを管理し、ESGのパフォーマンスに関連した競争上の優位性を生み出す能力について投資家に強いメッセージを送っています。地域社会によるSDGsの達成を支援することは、投資家が自身のリスクを管理しポートフォリオを構築する機会にもつながります。
資本を引き寄せる
今後、SDGsを中心とした世界的な開発課題へと投資フロー(上場および非上場の両方)が向かうことが予想されます。国連は、SDGsの達成コストを年間約3.3〜4.5兆ドル程度と推定しています。私たちは、以下の実体験をもとに、革新的な金融モデルが今後開発されると考えています。
- 気候にフォーカスした多国間上場ファンドを通じて、政府・民間セクターからの資金がプロジェクトに充てられた気候変動ファイナンス
- 革新的な非上場金融商品(グリーンボンドの発行など)
世界銀行は115のプロジェクトを通じて235億米ドルを拠出し、SDGsに沿った課題の解決方法の特定に向けて途上国を支援しています。また最近、欧州の機関投資家から出資を得て、そのようなプロジェクトの資金調達を支援する、1億6,300万ユーロ相当の株式指数連動サステナビリティ債を発行しました。
自行のSDGsイニシアチブの一環として債券のアレンジを行ったBNP Paribasによると、債券の投資収益率は、Solactive SDG世界株価指数(社会的、環境的な持続可能性の問題について各業界で認知される有力企業で構成)の対象銘柄である企業の株価パフォーマンスに直接連動しています。これらのことから、SDGsに歩調を合わせたビジネスモデルを持つ企業が、新たな資金源から直接メリットを得られることが分かります。
理念にフォーカスする
SDGsは、世界中の多くの企業の理念に重大な影響を与える可能性があります。SDGsへの貢献は、あらゆるステークホルダーが共有できる価値を創出する一つの手段です。そのため共通の共有成果をめぐりステークホルダーを活気づける強い推進力として、企業は対応していくべきです。他者のための価値の創造、私たちが暮らす世界の改善、あらゆるレベルで組織をインスパイアすることに根ざした理念に企業がフォーカスするとき、利益を推進し、持続可能な価値を創造する能力が高まる可能性があります。SDGsにより企業は、イノベーションの促進要因となり、従業員の参画と意欲を促し、新たな市場とチャンスを切り開き、将来的に幅広いリスクから企業を守るような課題に自社の目的をフォーカスすることができます。
理念を活性化させ、共鳴し、最終的にポテンシャルを発揮するためには、その理念が事業にとって関連性が高く、実行可能であり、変革的なインパクトを持つものでなければなりません。SDGsは、ステークホルダーに深く関連する刺激的な方法で大胆な理念を定義し、理念を自社の戦略の基盤とし、長期的に株主価値を高められる前向きな変化のきっかけを作る上で、企業を支援します。