サステナビリティ情報開示のグローバル動向 2024年3月号

EYではサステナビリティ開示・保証に関連したグローバル動向の最新情報を毎月お届けしています。




地域別アップデート

【Global】

国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)

 ISSBは、ISSB基準に基づく開示制度の導入と実装に際して、国や企業を支援することに引き続き注力しています。2月、ISSBは、「法域ガイド(プレビュー)」(*1)を公表しました。このガイド(*2)は、各法域がISSB基準との整合を図り、規制当局がISSB基準を各法域の規制枠組みに組み込むための戦略を検討する際の一助となることを目的としています。最終版は2024年6月末までに発行される予定です。

2月にニューヨークで開催されたIFRSサステナビリティ・シンポジウム(*3)では、50を超える国・地域から企業、投資家、規制当局、その他の関係者が集まり、ISSB基準を世界各国のベースラインとして確立する方法について意見交換を行いました。EYは、新しいISSB基準に関連する能力と専門知識をクライアントが構築することを支援するため、ISSBボードメンバーであるVeronika Pountcheva氏を招いた関連イベントを開催しました。


【Americas】

証券取引委員会(SEC)

 米国では、証券取引委員会(SEC)が気候関連開示規則の最終版を公表し、企業に対し、「重要性のある」気候変動リスク、これらのリスクが企業の戦略・ビジネスモデル・見通しに与える影響、気候変動に関連する目標(targets)やゴール(goals)の開示を義務付けました。新規則は、SECに登録された米国企業と非米国企業の両方に適用されます。また企業は、監査済み財務諸表において、深刻な気候現象による一定の影響を定量化する必要があります。

早期提出企業および大規模早期提出企業は、スコープ1および2のGHG排出量について開示が求められ、重要性がある場合には、独立した第三者による保証の対象となります。当初は限定的な保証が求められ、その後大規模早期提出企業については最終的に合理的保証が求められます。

注目すべき点は、この最終規則には、以前の草案で争点となっていたスコープ3のGHG排出量開示要件が含まれていないことです。SECが要求する開示は時間をかけて段階的に導入され、まず大規模早期提出企業が2025会計年度のデータに基づいて、2026年に開示(重要な支出と影響 、GHG排出量を除く)を公表することから始まります。最終規則の要求事項、保証要件、報告スケジュールの詳細な分析については、EYの最新のTo the Point(*4)をご参照ください。

想定されたとおり、SEC規則はすでに法廷で争われており、州司法長官(*5)企業(*6)業界団体(*7)のそれぞれから、法規制の行き過ぎを指摘する声が上がっています。他方、環境保護団体(*8)もSEC規則に対して法廷で異議を唱え、気候変動規則が行き過ぎどころか、むしろグリーンウォッシュや開示格差の拡大から投資家を保護するには十分でないと主張しています。こうした法廷闘争は、SEC規則の実施を遅らせたり、変更したり、頓挫させたりする可能性があります。

3月5日、財務省と内国歳入庁(IRS)は、インフレ抑制法に基づくクリーンエネルギー・クレジットの直接支払規定(*9)を最終決定しました。同規則は、特定の事業体に対し、クリーンエネルギー・クレジットを連邦所得税負債に対する支払いとして処理することを認めています。


カナダサステナビリティ基準審議会(CSSB)

3月13日、カナダサステナビリティ基準審議会(CSSB)は、カナダサステナビリティ開示基準(*10)(CSDS1、2)の草案を公表し、市中協議を開始しました。CSDS 1とCSDS 2(*11)は、ISSB基準であるIFRS S1とIFRS S2と近似しています。この任意の基準は、2025年1月1日以降に始まる年次報告期間から適用されます。意見募集期間は2024年6月10日までです。

カナダ証券監督庁(CSA)(*12)は、CSSB基準の最終化後、同基準をカナダの上場企業に対して義務付けるかどうか、またどのように義務付けるかを決定します。CSAは、サステナビリティ開示基準のうち、気候変動に関連する開示をサポートするために必要な条項のみを採用することを想定しており、これは、オーストラリア、 シンガポール、香港のような国・地域における「気候関連を優先する」 採用アプローチと類似しています。CSAの制度導入プロセスには、パブリックコメントの機会が含まれます。


【EMEIA(欧州・中東・インド・アフリカ)】

企業サステナビリティ・デューディリジェンス指令(CSDDD)

3月15日、複数の加盟国が反対を取り下げたことを受け、欧州連合(EU)加盟国は企業サステナビリティ・デューディリジェンス指令(*13)(CSDDDまたはCS3D)を承認しました。改定されたCSDDDは、従業員数1,000人以上、かつ、年間売上高4億5,000万ユーロ以上の企業への適用となり、指令の影響を受ける企業数が劇的に減少し、2023年12月の暫定合意(*14)から大きく変更されました。改定CSDDDは今後、譲歩された文言を検討するためにEU議会に戻され、2024年4月に最終投票が行われる模様です。


企業サステナビリティ報告指令(CSRD)

各EU加盟国では、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)の移管作業が続いています。これは、CSRDを制度導入するために必要な国内法、規制、行政規定を整備するために、各EU加盟国が実施しなければならないプロセスです。これまでのところ、フランス、フィンランド、チェコ共和国、ハンガリーが移管手続を終えています。ベルギー、ドイツ、オランダ、イタリアは草案を発表し、協議の場を設けています。加盟国の移管期限は2024年7月6日です。

2月28日、インド準備銀行(中央銀行)は、気候関連金融リスクの開示に関する要求事項の草案(*15)を 公表しました。この要求事項は、インド国内の特定の商業銀行と大手金融機関に適用されます。新しい枠組みは、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標の4種類の開示で構成されます。新しい要求事項に関する意見募集期間は2024年4月30日までです。

2月20日、インドの中央消費者保護局(CCPA)は、グリーンウォッシングを抑制するための強制的ガイドライン案を発表(*16)しました。このガイドライン(*17)は全ての企業に適用され、サステナビリティ事項を主張する企業に対する様々な開示要件を規定しています。この協議に対する意見募集は2024年3月21日に終了しました。


【Asia-Pacific】

シンガポール

2月28日、シンガポールは、気候関連情報の開示を義務付けることを発表(*18)しました。シンガポール政府の会計企業規制庁によると、新しい報告要件は、ISSB基準に沿ったものとなっています。年次開示は、上場企業と非上場の大企業に義務付けられ、2025年度に上場企業から開始されます。シンガポール証券取引所は、上場企業のために、ISSB基準採用にあたって「気候関連を優先する」アプローチを実現するために活用されるIFRS S1及びIFRS S2の特定の規定を明確にする公開草案を公表する予定です。


マレーシア

2月、マレーシア証券委員会は、ISSB基準(IFRS S1及びIFRS S2)の導入に向けた範囲、保証、経過的な救済措置及び時期に関する公開草案を公表(*19)しました。意見募集期間は2024年3月21日に終了しました。


日本

3月29日、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)は、ISSB基準に相当するサステナビリティ開示基準の公開草案を公表(*20)しました。現在意見募集を行っており、公開草案への回答期限は2024年7月31日です。



今後の日程

現在予定されている、注目すべき今後の主な日程は以下です。

  • 2024年4月:韓国において、ISSB基準に基づくサステナビリティ開示基準の草案の公表

  • 2024年4月~5月:サステナビリティ保証における倫理に関するIESBA公開草案の意見募集終了

  • 2024年5月:EFRAGによる上場中小企業向けESRS草案(強制)及び非上場中小企業向けESRS草案(任意)の意見募集終了

  • 2024年上半期:英国FCAが、英国が承認したISSB基準及び移行計画タスクフォース(TPT)の枠組みに沿った上場企業向け開示規則及びガイダンスの公開協議開始

  • 2024年上半期:ISSBが2年間の作業計画を最終化

  • 2024年9月:IAASB「国際サステナビリティ保証基準(ISSA)5000」最終化

  • 2024年10月:COP16(生物多様性)がコロンビアのカリで始まる

  • 2024年11月:COP29(気候)がアゼルバイジャンのバクーで始まる

  • 2024年末または2025年初め:EFRAGが、セクター別ESRS及び第三国企業向けESRSの公開協議開始


その他の重要トピック

グローバル・コーポレート・サステナビリティ・レポート2024

OECDによるこのレポート(*21)は、企業のサステナビリティに関する市場慣行が、世界の上場企業の間でどのように進展しているかを検証しています。


サステナビリティ情報開示と保証の現状

国際会計士連盟(IFAC)は、世界のサステナビリティ情報開示と保証実務の動向と分析に関する年次のベンチマーク調査(*22)を発表しました。同報告書によると、サステナビリティ報告は成熟の一途をたどっているものの、開示要件のグローバルな制度への移行が依然として必要であるとしています。


"AIがESG報告の道を切り開く方法"

イングランド・ウェールズ勅許会計士協会(ICAEW)の最新記事(*23)は、ESGに焦点を当てたAIツールの現状を要約し、企業がそのようなツールを導入する前に考慮すべきリスクを概説しています。


International GAAP® 2024

EYはIFRSの解釈と導入に関する詳細なガイダンス(*24)を発行しています。





〈お問い合わせ先〉
EY新日本有限責任監査法人
サステナビリティ開示推進室

牛島 慶一
EY Climate Change and Sustainability Services, Japan Regional Leader, APAC ESG & Sustainability Strategy Solution Leader
馬野 隆一郎
EY新日本有限責任監査法人 サステナビリティ開示推進室 室長 パートナー

※所属・役職は記事公開当時のものです。



関連コンテンツのご紹介

2021年10月22日に欧州監督当局がサステナブルファイナンス開示規則のドラフト版細則を公表

2021年10月22日、欧州監督当局より、欧州の資産運用会社等に対する開示を義務付けた「サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)」における詳細な内容を定めた「ドラフト版細則(Draft Regulatory Technical Standards; Draft RTS)」が公表されました。


監査・保証サービス

私たちは、最先端のデジタル技術とEY のグローバルネットワークにより、時代の変化に適応した深度ある高品質な監査を追求しています。


アシュアランスサービス

全国に拠点を持ち、日本最大規模の人員を擁する監査法人が、監査および保証業務をはじめ、各種財務関連アドバイザリーサービスなどを提供しています。


情報センサー

EY新日本有限責任監査法人が毎月発行している定期刊行物です。国内外の企業会計、税務、各種アドバイザリーに関する専門的情報を掲載しています。





会計・監査インサイト

 

EY新日本有限責任監査法人のプロフェッショナルが発信する、会計・監査に関するさまざまな知見や解説を掲載しています。

会計・監査インサイト