サステナビリティ情報開示のグローバル動向 2024年5月号

EYではサステナビリティ開示・保証に関連したグローバル動向の最新情報を毎月お届けしています。




地域別アップデート

【Global】

国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)

国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)と欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)は5月2日、ISSB基準と欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の相互運用可能性ガイダンス(*1)を公表しました。本ガイダンスは、どちらか一方の基準から適用を開始する企業が、両方の基準への準拠を表明するための一助となることを目的としています。本ガイダンスの詳細については、EYの最新のIFRS Sustainability Development(*2)を参照ください。

4月23日、ISSBは、生物多様性と人的資本(*3)に関する特定の開示基準の必要性と実現可能性を探るためのリサーチ・プロジェクトを開始(*4)すると公表しました。同時に、ISSBは、最初の基準であるIFRS S1とIFRS S2の導入をサポートすることを最優先事項としていくことを改めて表明しました。また、4月と5月に、デジタル・サステナビリティ・タクソノミー(*5)を最終化させ、導入に関する洞察を提供する新しいポッドキャストシリーズ(*6)を開始すると共に、ISSB基準が簡体字中国語(*7)で利用可能になりました。


国際会計基準審議会(IASB)

国際会計基準審議会(IASB)は、財務諸表が、再生可能エネルギー契約が企業に与える影響をより忠実に反映することを確実にするため、限定された範囲での修正を提案(*8)しています。この提案は、IFRS 9「金融商品」とIFRS 7「金融商品:開示」を修正するものです。コメント募集期間は2024年8月7日までです。

予想された通り、国際監査・保証基準審議会(IAASB)は作業計画の最終版において(*9)、2024年から2027年にかけてサステナビリティ保証基準の最終化とその導入サポートを最優先事項とすると明記しています。


【Americas】

ブラジル

4月15日、ブラジルのサステナビリティ報告基準設定機関であるブラジルサステナビリティ報告委員会(CBPS)と連邦会計評議会(CFC)は、ISSB基準に基づく2つの公開草案(*10)を共同で公表しました。この2つの公開草案に対する意見募集期間は2024年6月13日までです。2023年10月、ブラジルの金融規制当局は、ISSBに準拠した開示を2026年1月から上場企業に対して義務付けることを公表しました。


米国

米国では、証券取引委員会(SEC)の気候関連開示規則が引き続き難題に直面しています。30人以上の米国上院議員が、気候関連規則を覆すための議会審査法(CRA)の決議案(*11)を共同提案しました。同様の決議案が下院にも提出されています。しかし、この決議案が成立する見込みは低いです。なぜなら、たとえこの決議案が下院と上院の両方を通過したとしても、バイデン大統領が行使すると予想される拒否権を覆すのに必要な票数がほぼ確実に足りないためです。4月には、SECは規則の施行を一時停止しました。一方で、SECの規則に異議を唱える複数の訴訟が統合された第8巡回区控訴裁判所が、規則に対する様々な法的な異議申し立てを検討しています。また直近では、第8巡回区控訴裁判所は、19人の民主党州司法長官に対し、SECの規則を支持して訴訟に介入することを認めました(*12)。訴訟の解決時期は依然として不確実です。

カリフォルニア州知事ギャビン・ニューサムは、5月10日の記者会見で、2024-2025年度州予算案の修正(*13)を発表しました。ニューサム氏は、この予算案でカリフォルニア州企業気候情報開示法SB-253とSB-261を適用するための財源を確保する必要があると述べました。この2つの法案は、カリフォルニア州で事業を行う企業に対し、GHG排出と気候関連財務リスクの開示(*14)を義務付けています。



【EMEIA(欧州・中東・インド・アフリカ)】

英国

5月16日、英国(UK)は、サステナビリティ開示要件(SDR)フレームワークの適用に関する更新情報(*15)を公表しました。2025年第1四半期に、政府は、英国サステナビリティ報告基準(UK SRS)の草案について協議する予定です。UK SRSは、英国が承認するISSB基準の名称です。承認を受けた後、政府は自主的な使用のための最終的なUK SRSを公表します。その後、英国金融行為規制機構(FCA)は、英国上場企業に対しUK SRSを使用した上場規則要件の適用を強制化するか、および、移行計画の開示をより強く推奨することについて協議しますが、改訂の時期は未定です。また、いかなる改訂も、2026年1月1日以降に開始する会計期間より前に発効することはないことが発表されています。UK SRSの策定プロセスに関する詳細は、5月16日に同時に公表された政策文書(*16)に記載されています。

4月23日、FCAはグリーンウォッシング防止ルールの最終ガイダンス(*17)を発行しました。このルールは、企業によるサステナビリティ関連の誇大主張を抑制することを目的としており、2024年5月31日に施行されます。


企業サステナビリティ・デューディリジェンス指令(CS3D)

欧州連合(EU)では、EU理事会が2024年5月24日に企業サステナビリティ・デューディリジェンス指令(CS3D)を正式に採択しました。この指令が法制化された後、加盟国は2年以内にそれぞれの国内法に移管することになります。


企業サステナビリティ報告指令(CSRD)

企業サステナビリティ報告指令(CSRD)の移管は進行中であり、加盟国は2024年7月6日までに国内法を同指令に適合させる必要があります。4月29日、欧州議会と欧州理事会はCSRDに基づくセクター別基準及び第三国企業向け基準の採択を2026年まで延期することを承認(*18)しました。ただし、CSRDの適用日および段階導入のタイムラインに変更はありません。この動向に関する詳しいガイダンスについては、EYの最新のEU Sustainability Development(*19)を参照ください。


【Asia-Pacific】

韓国

4月30日、韓国サステナビリティ基準委員会(KSSB)は、サステナビリティ開示基準の公開草案を公表(*20)しました。強制適用となるこの基準には、一般開示基準(KSSB 1)と気候関連開示基準(KSSB 2)が含まれ、いずれもISSB基準に基づいたものとなっています。KSSBはまた、任意適用で国内の政策目標に沿った独自の基準(KSSB 101)も公表しています。公開草案に対する意見募集期間は2024年8月31日までで、その後、KSSBはこれらの基準の発効日を決定する予定です。


香港

4月19日、香港証券取引所(SEHK)は、上場企業を対象とした環境・社会・ガバナンス(ESG)の枠組みにおける気候関連開示の強化に関する協議の結論を公表(*21)しました。ISSB基準と厳密に整合する新たな気候関連の要求事項は2025年1月から適用されます。


今後の日程

現在予定されている、注目すべき今後の主な日程は以下です。

  • 2024年5月:EFRAGによる上場中小企業向けESRS草案(強制適用)及び非上場中小企業向けESRS草案(任意適用)の意見募集終了

  • 2024年6月:カナダCSSBによるサステナビリティ開示基準の公開草案の意見募集終了

  • 2024年第2四半期:英国政府による英国の大規模企業に要求される移行計画の草案公表

  • 2024年上半期:ISSBが2年間の作業計画を最終化

  • 2024年7月:日本SSBJによるサステナビリティ開示基準の公開草案の意見募集終了

  • 2024年8月:韓国KSSBによるサステナビリティ開示基準の公開草案の意見募集終了

  • 2024年9月:IAASB「国際サステナビリティ保証基準(ISSA)5000」最終化

  • 2024年10月:COP16(生物多様性)がコロンビアのカリで始まる

  • 2024年11月:COP29(気候)がアゼルバイジャンのバクーで始まる

  • 2024年末または2025年初め:EFRAGが、セクター別ESRS及び第三国企業向けESRSの公開協議開始

  • 2025年第1四半期:英国政府によるUK SRS草案の協議(正式に承認された場合、最終版を公表)
     


その他の重要トピック

“Equipping Professional Accountants for Sustainability.”

IFACは、質の高いサステナビリティ関連情報に対する需要の高まりに対応するため、会計士が知識をアップデートする必要がある4つの主要分野に焦点を当てた新しい報告書(*22)を発表しました。


“What New SEC Climate-Related Disclosure Rules Mean for Boards.”

内部監査人協会(IIA)は、米国SECの気候関連開示規則が米国企業の取締役会に与える影響を概説したガイダンス(*23)を発行しました。


ナイジェリアにおけるISSB基準を導入するためのロードマップ案

2024年4月号で取り上げたように、ナイジェリアの財務報告審議会(FRC)は、ISSB基準を導入するためのロードマップ案(*24)を公表しました。





〈お問い合わせ先〉
EY新日本有限責任監査法人
サステナビリティ開示推進室

牛島 慶一
EY Climate Change and Sustainability Services, Japan Regional Leader, APAC ESG & Sustainability Strategy Solution Leader
馬野 隆一郎
EY新日本有限責任監査法人 サステナビリティ開示推進室 室長 パートナー

※所属・役職は記事公開当時のものです。


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