機能重視からぜいたく体験までの幅広い選択肢
カーシェアリングのような新しいモビリティコンセプトによって、車の非パーソナル化が進むリスクがあります。モビリティサービスを利用する顧客は運転する車の所有者ではないため、インテリアをそれぞれの好みに合わせてカスタマイズすることができないか、できたとしても限度があります。
LEDのような照明技術を使って車のインテリアの見た目を部分的にカスタマイズできるかもしれませんが、より大がかりにすることは難しく、また現段階ではコストが割高です。自動車メーカーやモビリティ関連企業各社は、どの程度まで、またどのように車をパーソナル化するべきなのかという重要な問いを突き付けられているのです。
これについては、ホスピタリティ業界から貴重な教訓を得られます。支払う金額応じて、機能のみを重視したサービスからぜいたくなサービスまで広い範囲から選択できる段階的モデルを消費者自身がよく理解しています。機能重視の場合には限られたパーソナル化に見合った品質となり、ぜいたくさを求めるなら快適さ、パーソナル化、顧客体験が重要です。
自動車の未来においては、通勤用として費用効率が高く、パーソナル化は限定的で他人とスペースをシェアする機能型を選ぶことができる一方で、それなりの料金を払うことによって、自宅で拾ってくれて心地よさやプライバシーを害されることなくマルチメディア体験に没頭することができるプライベートな移動手段を選ぶこともできるでしょう。
「ドライバー」や「購入者」だけではなく「ユーザー」を獲得する戦い
ビジネスモデル全体が車の所有からモビリティのサービス化に移行する中で、自動車メーカーは劇的な変革を経験することになるでしょう。メーカーは商品だけに注力していると、この新しいエコシステムの中で顧客との関係を喪失してしまうという現実的なリスクにさらされます。
しかしその一方で、車内での体験をパーソナル化することで顧客との関係を維持し強化できるまたとないチャンスであることも確かです。自動車メーカーは、テクノロジー企業、インテリアデザイン会社、メディア・エンターテインメント会社など意欲的な協力会社(既存企業と新規参入企業)とのエコシステムを築いていかなければなりません。
車のインテリアに特化した素材業者や自動車製造のティア1サプライヤーも大きな影響を受けるでしょう。マージンの高い部品が排除されたことにより、自動車関連企業は別のハイマージンビジネスに注目し始めました。
これまでの販売・サービス実績やそれを通じて築き上げた顧客との直接的関係を考えると、ディーラー各社もまた自律走行車において顧客の車内体験を創出する独自のチャンスを目にしているのです。自動車メーカーと同様に、ディーラーも顧客との関係を構築し維持するためにイノベーションを行い、新しいビジネスモデルを試行していく必要があります。
業界に大きな影響をもたらすと思われる変化の要因の一つとして、業界の外から入ってくるディスラプションが挙げられます。テクノロジー企業、メディア・エンターテインメント企業、スタートアップ企業、そしてモビリティ関連企業までもが、道路を走る自律走行車や空飛ぶタクシーなど未来のモビリティソリューションの中で消費者が体験できることに関して、各社独自のビジョンを打ち出しています。
こうした機会が広がることによって、地図製作、拡張現実(AR)、人工知能(AI)、そしてディープラーニングなどに関する能力を獲得していこうという動きがサプライヤーの間で活発化しています。
サマリー
モビリティの未来は、未来の消費者、そして未来の技術を今積極的に取り込もうとしている会社がけん引していくでしょう。