9 分 2022年1月31日
Silver electric car at charging station

電気自動車(EV)がパンデミック後の市場を牽引する方法―販売攻勢の先頭に立つために―

執筆者
Martin Cardell

EY Global Mobility Solutions Leader

Focused on business transformation. Passionate about cars and exploring the world.

Gaurav Batra

EY Global Advanced Manufacturing & Mobility Analyst Leader, EY Knowledge

Passionate about mobility disruption. Helping share the auto industry narrative in this disruptive landscape.

9 分 2022年1月31日

消費者は公共交通機関の利用や移動手段のシェアリングを避けているにもかかわらず、主要市場における自動車販売は急激に落ち込んでいます。

問うべき3つの質問
  • パンデミックの収束後に何が起こるのか。その時再び、人々の移動は増加するのだろうか。
  • 人々は、デジタル化した生活様式の中で、サステナビリティに配慮し、移動を制限することを選択するでしょうか。
  • 人々は、デジタル化した生活様式の中で、サステナビリティに配慮し、移動を制限することを選択するのだろうか・あるいは、もとの移動習慣に戻るのだろうか。

パンデミックの間、世界は動きを止めていました。休暇中の旅行は減少し、通勤は過去のものとなりました。

最初の記事では、重大な行動変化、特に、もはや必要なくなった旅行の回避という点に着目しました。旅行量全体は49%減少し、なかでも、出張が61%減と最大の減少幅となりました。

モビリティ業界への影響の深刻さは明白でしょう。現在、旅行の必要性と意欲の双方が大きな制約を受けており、消費者は、公共交通機関や移動のシェアリングを以前ほど利用されていません。また、主要市場における自動車販売は、急激に落ち込んでいます。欧州最大市場であるドイツでは、新車登録台数が、2020年上半期に35%減少しました。スペインと英国では減少幅はさらに大きく、それぞれ、51%と49%でした。

これら全てを受け、自動車販売市場にかつてない大きな課題が生じています。しかも、自動車販売市場はすでに、過去例を見ない(そして政府による統制が強まる一方の)、内燃機関(ICE)車からよりサステナブルなハイブリッド車や完全電動車への転換に伴う苦難の只中にあるのです。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの有効性が現実になった場合に、業界が問うべき重大な質問があります。再び人々が今より移動できる環境になった時、何が起こるのでしょうか。

サステナビリティ、密の回避、デジタル化が進む生活様式、移動手段の意識的選択による新たな優先度に基づき、革命的なリセットを目にすることになるのでしょうか。それとも、以前の移動パターンや移動手段の選択へと徐々に戻っていくのでしょうか。

私たちは、今とは異なる、デジタル化が進展し低炭素化した未来を垣間見ています。仕事や余暇、家族旅行の減少、そして、ビデオ会議やエンターテインメント配信、宅配サービスなどのデジタルな代替手段利用の増加は、移動量の減少と排出量の削減につながります。

感染リスクを最小限に抑えることを強く望む消費者は、不要不急の旅行を控えるとともに、移動手段をよりリスクの低いものに変更しています。クルマは安全な場所となり、まだ行われている移動におけるコロナ対策として現実的な選択になりました。そしてこの点が、自動車購入決定要因として重要性を増しています。

自動車所有者の19%が、新型コロナウイルス感染症を理由に、3カ月以内に1台を追加購入する予定だと回答しています。さらに重要な点は、コロナ対策を目的として初めてクルマを購入する層が生まれたことです。自動車非所有者の32%が、6カ月以内に1台購入する予定だと述べています。いずれの場合も、購入予定者の約半数が、従来、自身の親世代と比較して自動車の所有に対する関心が低かったミレニアル世代に属しています。

新型コロナウイルス感染症に起因するICE車の販売急拡大は、地球温暖化、そして、化石燃料技術が衰退の一途をたどっている業界で生産計画が混乱するという点でも、悪い知らせでしょう。あらゆる市場にわたる規制基準の厳格化、充電インフラへの投資、電動化に関する自動車メーカーの野心的な目標を背景に、現在EV市場は成長の機運が高まっています。「EY Mobility Lens Forecaster」によると、2030年までに、米国、中国、EU(英国を含む)におけるEV総販売台数は年平均成長率22%で成長し、17百万台を超えると見られます。

この予測が現実のものになれば、消費者が、よりサステナブルな車両の選択をする理由になるでしょう。

この待望の変化が今起こっているのは、アフターコロナ時代の消費者が、ビフォーコロナと比べ、よりサステナブルな目的意識を持ち、環境への配慮が進んだ、改良された車両を求めているためかもしれません。調査対象の自動車所有者の約15%が、ICE車ではない車両を所有していました。また、所有者、非所有者の両方の30%が、追加購入や買い替えについての質問に対し、ICE車以外の車両の購入を選択すると回答しました。

新興のディスラプティブなEVメーカーは、購入や所有の適切な体験を提供することで、少なくともニッチ市場として、EVが市場シェアを獲得できることを証明しました。しかし、主流の市場においては、EV普及に常に付きまとってきた問題が、未だに消費者の心理的な障壁となっています。価格、充電インフラの利便性、従来の自動車購入体験や所有のあり方に対する不満に対し、さらなる消費者を起点としたアプローチを取らなければ、まだしばらくの間は、EV普及は低速走行のままかもしれません。
 

パンデミック下の消費者行動を通して得られるEV普及拡大につながるインサイト
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第1章

モビリティの5分類

パンデミック下の消費者行動を通して得られるEV普及拡大につながるインサイト

世界的に見てもEVシフトは現実的であるでしょう。しかし、パンデミック下の消費者行動から、EVの普及、さらには飛躍的な成長に関し、どのようなインサイトが得られるでしょうか。

この点について消費者の行動と選択の決定要因への理解を深めるため、移動手段の特徴に着目し消費者を5つのタイプに分類しました。

1つの問題、異なる解決策

この分類により、パンデミック下の移動に関する消費者の行動習慣について、何が明らかになったのでしょうか。注目すべき点の1つは、同一の要因が異なる結果につながり得ることです。これは、功利的移動者(Expedient Movers、EM)と都市内移動者(Municipal Passengers、MP)の2つのタイプを深堀りした結果、判明しました。

これらの2つのグループには共通点が多く見られます。双方が、ビフォーコロナでは、中~高程度の移動ニーズがあり、移動手段の選択肢が豊富な都市部に居住し、大多数が週に5時間以上を移動に費やしていました。

しかし、移動に関してほぼ同様の選択肢に対して、共通したニーズがあり、共にアクセス可能であったにもかかわらず、両者はまったく異なる解決策を選択しています。

EMの流儀は車を選択することです。大多数(72%)が自動車所有者であり、40%は、週に3回以上マイカーを利用しています。公共交通機関を週に3回以上利用しているのは13%に過ぎません。

対照的にMPでは、公共交通機関が既定の選択です。現在自動車を所有しているのは3分の1未満(30%)です。60%が週に3回以上利用しており、マイカーを同頻度で利用しているのはわずか15%です。

 

パンデミックは、交通に関する環境感度を高めていない。
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第2章

「グリーンギャップ」

パンデミックは、交通に関する環境感度を高めていない。

この結果となったのは、より環境に配慮した生活様式を実践したい意欲より、家庭内のニーズ、利便性、経済的要因が重視されるためと見られます。2つのグループに共通して、環境によい生活に対する肯定的な感情は、それぞれ、37%、42%と低水準に留まっています。パンデミックを原因とした移動手段を選択する上での環境感度も、さほど高まっておらず、双方とも6%上昇したに過ぎません。事実、両タイプにおいては、現実的な理由に基づいて選択が行われていることが窺えます。

これは、高まりつつある世間の気候変動に対する意識とは食い違っており、モビリティにおいて「グリーンギャップ」が存在することを示していると見られます。自身が行う個々のサステナブルな選択が、実際に変化につながることを、消費者は実感できていないようです。

購買意欲

意識、属性、移動手段の選択に大きな差異があるにもかかわらず、EM、MP双方に、自動車購入に関して大きな機会が生じています。両タイプの現自動車所有者の20%超が3カ月以内に買い替えを予定していると回答しました。また、自動車非所有者EMの44%と同MPの20%が6カ月以内に購入を予定しています。

政策に後押しされ、グリーンなEVを手ごろな価格で購入できるようになりました。そして、「グリーン購入(環境に配慮した購買)」に対する消費者の意欲は高まっています。業界が直面する課題は、その意識を現実の普及につなげることです。EVを十分に浸透させるためには、消費者にはさらなる誘因が必要かもしれません。

正しい選択をする

ビフォーコロナ時代より、政府・業界の双方が、交通分野における低炭素化の実現には、よりサステナブルなモビリティへのシフトが不可欠との見解を示していました

しかし、アフターコロナの消費者行動により、これは著しく制限される可能性があります。公共交通機関および移動手段のシェアリングは、経済的にも、利用者の安全衛生に対する意識においても、大きな打撃を受けました。利用状況が以前の水準に戻るのには時間を要するでしょう。一方で、消費者が自動車の利用をやめる兆候は見られません。自動車は利便性、快適さ、個人的な空間を備えていますが、今では感染リスクの低さという追加的要因が加わっています。

今後、消費者が「正しい」乗り物を選択することが、低炭素化の進展に対してより大きな影響を及ぼすでしょう。排出量に基づく規制により非ICE車の利用可能性が向上し、消費者の購入意欲は高まっています。他方、移動手段の決定において、サステナビリティと環境への影響は、依然として、衛生、利便性、快適さの脇役に甘んじています。

「グリーンギャップ」に取り組む

デジタル市場での経験から得られる教訓とは、支持者は補助金に勝るというものです。デジタルを活用する消費者は、専門販売員や従来の割引よりも、所有者や支持者の影響を受けやすいことが明らかになりました。スマートフォンの新モデル発売時に、料金を割り引く必要はありません。利用者が熱心な伝道者となり仲間に購入を薦めてくれるからです。

これとは対照的に、補助金は長期的には非経済的です。購入者の社会的名声や、売上増加とコスト低下による供給サイドでの好循環につながるわけでもありません。それにもかかわらず、今日に至るまで、EVのインセンティブの大半は、支持者からの推奨ではなく、補助金です。

EY分析では、主流のEVの購入を動機付けるために、支持者からの推奨がより大きな役割を果たせる可能性が示唆されています。自身が現実的かつ責任ある購入をしているという確証を得たい購入者に対しては、メーカーや販売員よりも、そのような車両をすでに所有している友人の意見の方が、大きな影響力があるでしょう。また、このような購入者は、EVは社会的な責任を果たしている証であるという考え方について、従来の情報チャネルではなく、個人的なネットワークからのほうが受け入れやすい傾向があります。

本調査結果から明らかになった消費者行動の多様性に対し、メーカーも、EVに関する多様な顧客体験を提供する必要があります。モビリティにおける新たな消費者ニーズに対応するため、例えば、電力事業者と協働して、電力料金に充電コストを組み込むことが考えられます。また、インフラ事業者が誰でも利用できる複数の充電ネットワークへのアクセスを提供する、あるいは、超小型モビリティ事業者や公共交通機関が、網羅的で利便性が高く、費用対効果の高い複合モビリティパッケージを提供し、将来的には、複数のモビリティハブを設置することも有効かもしれません。

サマリー

私たちは、EVの普及に重大な変化が生じ得る転換点に立っています。しかし、消費者の多くが思い惑っています。現在の課題は、いかにして行動変容を促すか、EVの購入、所有、利用のあり方を刷新し、可能な限り多くの消費者を決断に導く斬新なインセンティブを創出することです。

この記事について

執筆者
Martin Cardell

EY Global Mobility Solutions Leader

Focused on business transformation. Passionate about cars and exploring the world.

Gaurav Batra

EY Global Advanced Manufacturing & Mobility Analyst Leader, EY Knowledge

Passionate about mobility disruption. Helping share the auto industry narrative in this disruptive landscape.

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