テクノロジーの進化と共に業務改善に必要になるのは業務代行サービスなのか

執筆者

Keith Pogson

EY Global Assurance Leader, Banking & Capital Markets and EY Asia-Pacific Financial Services Senior Partner

Financial services advisor. Thought leader. Public speaker. HKICPA and ICAEW Fellow. Active advocate for gender equality.

Kara Cauter

EY EMEIA Capital Markets Advisory Partner

Capital markets regulatory leader. Technology led transformation of compliance and control. Committed advocate of women and children. Open minded and outspoken. Gourmet gardener. Runner. Wife. Mother.

7 分 2018.10.19

業務代行サービスやシェアードサービスを活用するビジネスモデルが今後主流になりそうですが、金融市場が直面するリスク管理やコンプライアンスといった課題に常に対応していかなければなりません。

テクノロジーの進歩によってリスク管理のあり方も変わってきており、これは金融機関にとってのチャンスでもあり、脅威でもあります。業務プロセスのデジタル化によって、より効果的で効率的なコンプライアンス対応が可能になると考えられますが、多くの企業にとって、コストや人材面での制約が大規模な技術改善の妨げとなっています。

コンプライアンス重視のシェアードサービスモデルがこうした問題の克服をサポートしているものの、いくつもの大きな障害に阻まれ広範な導入には至っていません。金融機関や規制当局はこうした障害を取り除くために今すぐ行動してこそ、デジタル時代の財務リスク管理のあり方を変革するコラボレーションやテクノロジーが持つ真の可能性を手にできるのです。

今後はコンプライアンス対応におけるコラボレーションが主流となるのか

金融サービスにおける業務代行サービスの利用は決して新しい事ではありません。 コスト削減、資源の一元化、効率性の改善のために、企業は長い間アウトソーシングやコア業務の集約を行ってきました。近年、コスト削減、限られた人材の活用、テクノロジーの効率的利用などを目的に、金融機関はシェアードサービスモデルの利用をリスクおよびコンプライアンス管理領域まで広げ始めています。

デジタルテクノロジーのうち特にオートメーションとアナリティクスは、効率性の向上やリスク管理に携わる多くの部門の業務改善において大きな可能性を秘めています。しかし、デジタル中心の業務プロセスの導入はコストがかさむだけでなく、構築や運営に高いスキルを持った専門家が必要であるため、ただでさえ財務的な逼迫や人材不足に直面している企業にとっては難しい課題です。このため、シェアードサービスモデルを通じて資源を一元化することによって以下のような大量のデータを取り扱うリスク管理領域へのデジタルテクノロジーの活用拡大が可能かどうか、多くの企業が検討を急いでいます。

  • 資金洗浄防止義務違反を取り締まるための1次スクリーニング、規制当局への報告または自動監視、および大容量データ管理のテスト
  • 中央市場のデータリポジトリ、規制規則、および広く利用されているアプリケーション(例えばクラウドプラットフォーム上にあるもの)を含むコンテンツ管理
  • 潜在顧客や通常取引しているベンダーの継続的な識別や検証

規制当局の視点

今後の「コンプライアンス対応におけるコラボレーション」の見通しについて、規制当局の大部分は慎重になりながらも歓迎を示しています。サービス提供業者を直接指導できないことや、シェアードサービスのエコシステムに存在する誤ったデータが与える悪影響といったリスクを特に警戒しながらも、大多数はシェアードサービスモデルによってコンプライアンス状況が改善される好機であると積極的に捉えています。また、市場に参加している小規模な企業が複雑なコンプライアンス対応機能を利用できるようになることで、競争が強化される可能性があるという見方もあります。米国通貨監督庁は、コンプライアンス対応におけるコラボレーションによって地域銀行の「未来に向けた活力」が強化されると確信しており、さらに同庁は地域銀行が、規模の経済の実現やコラボレーションがもたらす潜在的利益の実現に向けてさまざまな機会を追求していくことを支持する」と述べています。

第三者機関であるサービス提供業者を使うことに関して、規制当局が明確にかつ一貫して明らかにしているメッセージは、データ使用に関連するリスクはすべて金融機関側が負うということです。アウトソーシングについての一般意見聴取の結果報告に際して、欧州銀行監督局は、金融機関は、アウトソースする業務プロセス、サービス、そして活動を実質的にコントロールし、その品質や成果を吟味し、独自の立場でリスク評価と継続的モニタリングを行わなければならないという姿勢を貫いています。これは複雑なサービスのエコシステムにおける難しい課題となっています。

導入に向けてどう障害をクリアするか

コンプライアンスを重視したシェアードサービスモデルという新しい動きを金融リスク管理やコンプライアンス業務に導入することに関しては、新しいテクノロジーによるコスト削減や、コラボレーションによる業務改善や業績向上などが図れる機会があるにもかかわらず、なかなか勢いがつきません。

多くの大きな障害が導入を阻んでいますが、もしも銀行と規制当局が直ちに行動を開始すれば克服できる可能性があります。

障害:規制内容に関する混乱による作業の重複。銀行側がコンプライアンス機能をアウトソースしたとしても、規制当局による要求対応への懸念から、大部分がリスク緩和のために自行内で形式的なコンプライアンス対応作業を実施しているのが現状です。アウトソース先として検討しているベンダーを評価しモニターするための業界基準がないため、多くの企業でそれぞれ同じ作業が行われており、外注によるコスト上のメリットが弱まり、本格的展開に向けた意欲がそがれています。

解決方法:責任の所在を明確にする。規制当局がシェアードサービス提供業者の違反に対して金融機関に責任を負わせるという状況において、金融機関がコンプライアンス業務をアウトソースすることに用心深くなってしまうのは無理もありません。これについては、業務プロセスの文書化、業者側における規制上の義務の理解徹底、そしてリスクや役割の明確化などを金融機関と業者が共同で行うことによって克服することができます。

障害:従来続くマニュアル作業。多くのシェアードサービス業者はいまだに手作業中心の業務から進歩しておらず、コスト削減や効率化を実現するには限界があります。

解決方法:プロセスの包括的なデジタル化と自動化。デジタル化がコンプライアンスプロセスの根本的変革をけん引していきますが、完全自動化の実現にはシェアードサービス業者と発注者両方のコミットメントと資源拠出が必要です。こうしたサービスの利用が増えることによって、業務代行サービス企業のテクノロジー投資意欲をかき立てるのに必要な規模までビジネスが拡大し、それによって業務代行企業もまたあらゆる業種へとサービスを広げることができるようになるのです。

障害:導入された場合の評判および規制面での影響。新しいテクノロジーや業務代行サービスを導入する際、当初はさまざまな問題が発生することが予想されますが、それに対して規制当局がどのような見解を持っていてどのような支援を行うかが明確になるまでシェアードサービスへの投資を控えている銀行もあります。

解決方法:イノベーションに対する規制当局の柔軟な態度とサポート。規制当局としても、新しいビジネスモデルやテクノロジーへの移行が円滑に行かないことがあるということは認識しています。英国の金融行為規制機構(FCA)によって作られたイノベーションネットワークを含め多くの企業が、FCAが言うところの「イノベーション関連トピックス」をテストするためのサンドボックス計画を展開しています。このサンドボックスアプローチは、特定の新サービスだけでなく、より広範囲な業務代行サービスに適用することができます。業務代行サービスを利用する側にとっても、コラボレーションモデルへの円滑な移行に向けて業務代行サービス企業とより効率的に協力し合うことができるでしょう。新しい運用モデルへの移行に際して計画とガバナンスを向上させることは、金融機関にとってもサービス提供業者にとっても有益です。

障害:データや規制の一貫性の欠如。金融機関や規制当局の業務プロセス、データの使用、そして基準の定義がばらばらで一貫性を欠いているため、シェアードサービス業者は標準化された最高水準のリスク管理方法の構築に苦労しています。

規制当局による定義や規則・規定が管轄地域によって異なる(特に情報保護に関する用件が複雑で、場合によっては相反する)ことによって、シェアードサービスセンターへの情報の一元化が複雑になっています。技術的にデータレイクへのデータの集約が可能になっても、復元やセキュリティーへの懸念から企業、規制当局、そして広く世間一般が分散型のデータ管理を望むため、データはいつまでたっても分散したままです。

解決方法:データを整理して移行し、正規バージョンを一つだけ作成する。業務代行サービスへの投資から最大の利益を得るためには、金融機関はデータを整理し、つぎはぎ状態の業務プロセスを一つの流れにまとめ、きちんとコントロールしながら段階的にシェアードサービス業者にデータ移行する準備をしなければなりません。これにより、金融機関が優先順位に応じて業務プロセスの変更を行うと同時に、サービス業者が足並みのそろった最高水準のアプローチを提供できるようになります。

規制当局は、規則を標準化することでより多くのコンプライアンス業務の機械処理が可能になります。このような物差しを作ることで、シェアードサービスへの動きが加速化し、業務プロセスの標準化、テクノロジーそしてデータレポジトリの構築の後押しとなるでしょう。

導入の加速化のために直ちに行動を

シェアードサービスの導入によって、財務コンプライアンスの改善やリスク抑制に向けてテクノロジーの本来の力が発揮されるでしょう。ただし、それはサービスがデジタル時代に合わせて進化できればこそ実現するものです。金融市場では、トップクラスの正当な参加者も悪意を持った参加者も活動しています。ここで述べたモデルがその両方に対応するために必要な広範性、規模、そして洗練性を実現するのを阻んでいる障害の克服に向けて、金融機関、サービス提供業者、規制当局が共同で対応していく必要があります。

サマリー

シェアードサービスの導入によって、財務コンプライアンスの改善やリスク抑制に向けてテクノロジーの本来の力が発揮されるでしょう。ただし、それはサービスがデジタル時代に合わせて進化できればこそ実現するものです。

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Keith Pogson

EY Global Assurance Leader, Banking & Capital Markets and EY Asia-Pacific Financial Services Senior Partner

Financial services advisor. Thought leader. Public speaker. HKICPA and ICAEW Fellow. Active advocate for gender equality.

Kara Cauter

EY EMEIA Capital Markets Advisory Partner

Capital markets regulatory leader. Technology led transformation of compliance and control. Committed advocate of women and children. Open minded and outspoken. Gourmet gardener. Runner. Wife. Mother.