9 分 2021年1月18日
浸食が深刻な海岸

金融機関が気候関連リスク・機会への対応を行うための10のステップ

執筆者 Mark Watson

EY Americas FSO Board Matters Deputy Leader

Focused on helping financial services firms become resilient and well-governed. Passionate about sound public policy. Avid movie goer. Electronic dance music fan. Proud Anglo-American.

EY Japanの窓口

EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 金融サービスリスクマネジメントリーダー パートナー

数理ファイナンス、リスク管理、健全性規制などの経験が豊富なプロフェッショナル。

9 分 2021年1月18日

気候変動への対応を行うには、革新的な思考、分析、そして新規ビジネスに関するマインドセットが必要です。

気候変動は、ともすれば難解な学術的議論の対象と思われていましたが、昨今では政治的、社会的に世界的な問題へと急速に移行しています。この現象は、今年世界が記録的な暑さを経験し、カリフォルニア、ブラジル、オーストラリアでの火災、アジアや中央アメリカでのハリケーンの被害がいまだに続いている現実に現れています。

金融機関にとって、気候変動リスクは非常に特殊なものであり、気候変動が企業の業務(および第三者)に及ぼす直接的な影響だけでなく、消費者、顧客、サービスを提供する地域社会への影響にも関係しています。気候変動がもたらす影響は物理的とも間接的ともいえるため、機関投資家にはこの両面での分析を、ポートフォリオの決定、商品やサービスの開発や改良、プライシングや引受、統合リスク管理、事業継続管理などの中核的なケイパビリティに組み込むことが求められています。

まれな組み合わせ

気候変動リスクはビジネス上の問題であり、リスクと機会をもたらしています。ここではリスクや引受のケイパビリティと、気候変動の影響に対処するための地球科学関連の研究を結集した、革新的な新しい考え方と分析が必要となり、企業はサプライチェーンへの直接的な影響と、バランスシートへの間接的な影響を理解しなければなりません。大きな機会が開かれており、気候変動に対応するための新たな商品が必要とされ、あるいは異なる選択肢(例えば、より効率的な住宅など)を奨励することになるでしょう。

議論のペースを加速させる

金融機関が気候関連のリスクと機会を組み込んだビジネスモデルとリスク管理手法を適応させるために全社的な戦略を策定するにあたって、取るべき10のステップを以下に概説します。ここでは、今すぐ実行すべき対策が示されています。

義足で登山に挑む男性
(Chapter breaker)
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第1章

金融機関の経営課題として浮上している気候変動

既存のケイパビリティは、気候変動シナリオの影響を分析するための踏み台となります。

第10回EY/IIFグローバル銀行リスクマネジメント調査(EY/IIF global bank risk management survey)に参加した銀行の半数以上(52%)が、今後5年間の新たな主要リスクとして環境変化・気候変動を挙げており、1年前の3分の1強(37%)から増加しました。5行に4行(79%)が、すでに何らかの形で気候変動をリスク管理アプローチに組み込んでいます。

リスク管理アプローチ

気候変動の状況下で金融機関がそのケイパビリティを発揮するためには、環境変化の規模やペース、炭素・水・電力にかかる将来のコストなどの前提条件を考慮しなければなりません。一般的には、10年から50年先を見据え、マクロ経済要因と環境要因の相互作用を検討することになります。EYの調査では、43%が重大なリスクの洗い出しを継続的に行っています。

つり橋を渡る女性(チリ)
(Chapter breaker)
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第2章

気候変動に対処するために金融機関が取るべき重要なステップ

金融業界では、この10年間、戦略や業務に大幅な変更を加えることはありませんでした。

1. 取締役会・上級管理職のガバナンスと監督を確立する

気候変動リスク管理戦略を推進するためには、強力なガバナンス構造が必要です。

ガバナンスは、どのように取締役会が戦略を監督し、経営陣が戦略を管理するかを決定することから始まります。企業のさまざまな部署をまたいだ、部門横断的な対応が必要です。

気候変動リスク管理が注目されることにより、持続可能性を監督する者の役割と地位が急速に変化しています。例えば、最高持続可能性責任者(chief sustainability officers、CSO)、持続可能性ファイナンスディレクター(sustainable finance directors)、環境・社会・ガバナンス(ESG)ディレクターが新たに創設され、その役割が実質的に拡張されています。新設されたCSOは、気候変動リスクを企業の戦略と運営に落とし込み、事業部門と密接に連携して気候関連の機会を最大限に活用する役割を担っています。

2. CEOが主導する全社的な気候変動関連戦略の策定

明確な目的とビジョンは、協力関係を強化し、新たな機会を創出します。

最も重要となるのは、企業全体の戦略です。戦略は全社をまとめた一貫したものでなければならず、CEOと上級管理職が目的と権限を定義した明確な理念とビジョンに基づき、トップから推進されなければなりません。CEOが主導する明確な戦略は、気候変動への取り組みにおける協力関係を強化するものでなければならず、縦割りの管理体制や組織の一体化への障壁となるような事態を避けることができます。また、企業の気候変動目標とその実施に向けたアプローチを統一するためには、さまざまなリスク管理機能に事業責任者を含めなければなりません。

3. 共通言語の合意と採用

専門用語は難解なものになりがちですが、持続可能性や環境プロジェクトに関連する用語が気候変動リスクを表す言葉を弱体化させてはなりません。

ここで2つの基本的な概念が浮かび上がります。

  1. 物理的リスク:洪水、山火事、干ばつなどの気象現象や長期的な気候変動の直接的な影響から生じる。金融機関は、業務、支店、第三者、資金調達に影響を受ける。
  2. 移行リスク:低炭素経済への移行に伴う影響から生じる。銀行の顧客がこの新しい環境にどのように移行していくかに伴う間接的な影響となる。

共通の名称を使うことで、気候関連のリスクと機会を特定するための正確な分析アプローチが可能になります。

4. 3つの防衛ラインに気候変動リスク管理を組み込む

銀行は、組織全体で重大なリスクに対処し、それらのリスクを管理する上で3つの防衛ラインの役割を明確に定義することで、最も効果的な経営を行うことができます。

気候変動に対する3つの防衛ラインモデルには、以下の主要な特徴があります。

  1. 第1のライン・ビジネスオーナーシップ:企業の運営と第三者との関係の管理、消費者、顧客、コーポレートコミュニケーション、IRの管理
  2. 第2のライン・リスク管理:リスク管理責任者に、気候変動リスクを中核的なケイパビリティと企業のリスク管理フレームワークに組み込む職務を課す
  3. 第3のライン・監視:気候変動がリスクガバナンスに与える影響を評価するために、これまで限定されていた内部監査機能を拡大する
5. 消費者、顧客、地域社会を支援するためのビジネスチャンスとして気候変動を扱う

気候変動は金融機関に多くのビジネスチャンスを提供しており、控えめに見積もっても2.1兆米ドル相当のビジネスチャンスを生み出すと予想されています。

金融機関は、自動車ローン、住宅ローン、クレジットカードなどのさまざまな新商品やサービス、さらには新しいタイプの保険や投資の商品を開発し、革新し続けています。2019年10月、持続可能性を有する債券(sustainable debt)の発行は、1兆米ドルを突破しました。このうち77%がグリーンボンドの発行、10%が持続可能性に連動したローンの発行です。これは称賛されるべきことであり、金融機関が消費者や顧客の需要の変化に積極的に対応していることを示しています。

6. 企業のリスク管理の深い部分に気候変動リスクを組み込む

最高リスク責任者(Chief risk officers)は、企業が気候変動リスクをどのように管理しているかについて独立した見解を示し、企業がどの程度適応しているかについて取締役会と上級管理職に助言を提供する必要があります。

リスクの特定・分類・報告・軽減は、企業のリスク管理フレームワークに組み込む必要のある重要な要素です。

7. 意思決定のために気候変動シナリオ分析を行う

金融機関が5年から20年の間に、消費者、顧客、地域全体の物理的リスクと移行リスクを正確に予測できたとしたら、それは驚異的といえます。

正確性に保証はないものの、金融機関は気候変動リスクを理解し、定量化するためにシナリオ分析を利用し始めています。また、ほとんどの金融機関が、バランスシートをストレステストするために、頑健なシナリオ分析を実施するケイパビリティを構築しています。EY/IIF global bank risk management survey(第10回)によると、北米の銀行の43%が気候変動リスクに関連したシナリオ分析とストレステストを実施しています。気候変動に関連してこれらのケイパビリティを活用するために、金融機関は、さまざまな公的セクターや民間セクターのグループが公表しているシナリオを参考に、あるいは独自のシナリオを開発して、テストの対象となるシナリオについての見解を構築しなければなりません。

8. 引受に気候変動分析を組み込む

最終的には、金融機関が顧客を真に理解し、企業のカーボンフットプリントをよりよく理解するためには、気候変動分析が引受に影響を与えるようにならなければなりません。

金融機関が引受を洗練させていき、気候変動を取り込むには時間がかかるでしょう。気候変動の背後にある科学は日々変化しており、長期的な分析は困難を伴います。利用可能なデータは、消費者や顧客からのものであれ、第三者のデータプロバイダーからのものであれ、まだ初期のものであり、比較することは困難です。

しかし、気候変動を引受や与信のプロセスにどのように組み込んでいるかについて、信用格付機関から受ける質問がますます厳しくなることに備えて、金融機関が信用や保険の引受プロセスに気候変動への考慮を組み込むプロセスを開始することが重要です。

9. 物理的リスクに対する企業のレジリエンス(回復力)の強化

天候は、企業やそのプロバイダーが気象災害に見舞われた場合に、消費者や顧客にサービスを継続的に提供できるかどうかを直接問う試金石です。

業務・企業のレジリエンスをどのように強化していくかという幅広い検討を行う上で、企業は準備のために多くのステップを踏んでいます。企業の取り組みは、危機管理とインシデント対応の枠組みを統合し、コミュニケーションプロトコルを強化することから、自社および第三者(特に重要なビジネスサービスをサポートする第三者)とのレジリエンスの評価とテストに至るまで、多岐にわたっています。

10. ステークホルダーに向けて、一貫性を有し、信頼性の高い全社的な気候リスクに関するストーリーを提供する

金融機関は、他のセクターの企業と同様に、環境や気候変動に関連した情報を豊富に発信しています。

金融機関がコミットメントを開示、あるいは気候変動リスク管理戦略についてコメントする際、その開示に一貫性と信憑性があり、企業全体が信頼性の高い情報源によって検証されていることが重要です。最終的には、各金融機関は、自行、消費者、顧客、地域社会に及ぼす気候変動の影響をどのように管理しているかについて、コミットメントとガバナンスを示すストーリーを社内外の利害関係者に伝えなければなりません。

ローガンロックを押す男性
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第3章

なぜ、先送りにせず、今行動すべきなのか?

気候変動が急速に進み、消費者、顧客、そのサプライチェーンに幅広い影響を及ぼしています。

気候変動の短期的・長期的影響が、金融機関に大きなリスクと機会をもたらしています。

異常気象や気象災害が発生する回数の多さや規模の深刻さを、世界の誰もが感じています。少なくとも、異常気象は企業の事業継続と危機管理の計画やテストの方法に影響を与えています。金融ニーズが変化する中、今後は、そのニーズにより迅速に対応できる金融機関が市場シェアを獲得し、全世界で繰り広げられているサステナブルレボリューションをサポートするパートナーとみなされることになるでしょう。こうした金融機関は、主要なリスク管理の規律、ポートフォリオやプライシングに関する決定に気候関連の分析を組み込んで、リスクとリターンの適正なバランスを取りやすくなります。また、低炭素経済に移行する顧客と地域社会への支援や、頻度と激烈さが増していく気候変動の影響を管理する中で、ビジネスチャンスを見いだし、追求することができるのです。

サマリー

一部の大手金融機関はいち早く行動を起こし、組織構造に気候変動を組み込むべく取り組みを行っています。さらに、12~24カ月で、戦略や業務に大幅な変更を加えようとしています。金融業界が対応を先延ばしにしていられないことを、こうした金融機関は理解しています。今、金融機関には、どれだけ迅速かつ的確に対応できるかが問われているのです。

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執筆者 Mark Watson

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