消費者の信頼を引き出す鍵となるのは価値か?

執筆者

Hamish Thomas

EY EMEIA Payments Leader and UK Advisory Banking Technology Leader

Transformation leader in payments and open banking. Passionate about technology’s potential to create opportunity and manage risk. Optimistic runner. Film enthusiast.

8 分 2019.03.28

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消費者の信頼を築くことは、銀行にとって非常に重要です。消費者にとって最も重要なのは、自分の財産を信用して預けられるのはどこか、という判断になるでしょう。 

多くの市場では、規制当局が後押ししているため、オープンバンキングが世界中で勢いを増しています。それに伴い、新しいサービスを開発することによって、消費者の生活向上を図り、ロイヤルティーを高める機会がもたらされています。銀行がこの可能性を実現するためには、顧客に新しいデリバリーモデルを信頼してもらわなければなりません。顧客の財務データをパートナーで構成するエコシステムに開示してもらい、その見返りとして、顧客体験の向上を約束するというモデルです。

EYのオープンバンキング・オポチュニティー指数は、10の市場でオープンバンキングが浸透する可能性を評価したもので、これによると、たとえ規制やイノベーションを巡って盤石な環境が確立された市場であっても、オープンバンキングの普及を左右する主な要因は、消費者心理ということになります。

例えば、英国はオープンバンキングの規制の枠組みにおける世界基準となっていますが、消費者心理の点では、上位にランクされていません。

英国は、オープンバンキングと財務データの共有に対する消費者の賛同で、10市場中7位となっています。
EYのオープンバンキング・オポチュニティー指数

オープンバンキングが世界で軌道に乗るためには、銀行が信頼というハードルを跳び越えることが、何よりも重要です。つまり、データが十分に保護され、セキュリティが整備されていると消費者に確信してもらい、オープンバンキングという新しいトレンドを受け入れてもらうことが必要なのです。

業界の主な成功指標の中には、顧客がオープンバンキングを特別なものだと意識しなくなる、という指標があります。顧客本位のより良い金融サービスのデリバリーモデルにオープンバンキングが取り込まれるにつれて、消費者は取引先の事業者がこの高度なサービスを標準的に提供してくれるものとして、認識するようになります。品質と保護という点でも、他のあらゆるサービスと同様に保証されると期待するようになります。

そこに到達するには、オープンバンキングのエコシステムに関わっている、あらゆるステークホルダー(銀行、フィンテック企業、規制当局など)がそれぞれの役割を果たさなければなりません。

心理状態

オープンバンキング・オポチュニティー指数の一環として、消費者の心理状態を探るため、私たちはソーシャルメディアやオンライン上のディスカッションを分析しました。このソーシャルリスニングでは、主に三つの分野を対象としました。

  • オープンバンキング:消費者がオープンバンキングというトレンドを明確に取り上げているディスカッション
  • 財務データの共有:財務データや銀行データを、サードパーティーと共有することに関するディスカッション
  • サービス:オープンバンキングで可能になるタイプのアプリケーション、ツール、サービスに関する投稿

総合的に見て、調査対象市場の全てにおいて、肯定的な見方が否定的な見方を上回っていることが分かりました。ただし、市場によって大きな差が出ました。ドイツや英国、スペインなどの欧州市場では、肯定的な見方から否定的な見方を引いた正味スコアが低くなる傾向がある一方で、アジア・太平洋市場の消費者は、より肯定的な見方をしていました。

消費者の心理状態を探る:国別の比較

Consumer sentiment insights country comparison

消費者の心理状態を左右しているものとは?

収集した消費者の投稿内容を分析したところ、一連のテーマも浮かび上がってきました。そうしたテーマからは、オープンバンキングに対する肯定的な見方や否定的な見方の原因となる問題点が見えてきました。

オープンバンキングに対して肯定的な見方を示した投稿の中で、最も多く見られたディスカッションテーマは、「コントロール」(消費者が自分の銀行データやサービスを管理すること)と「イノベーション」(新しいタイプの銀行サービスが生まれる可能性)でした。

オープンバンキングに対する世界の心理状態

40%

オープンバンキングのコントロールとイノベーションに関して、ソーシャルメディア上に投稿された肯定的な発言の割合

消費者は一方で、不正やサードパーティーによるデータの悪用の可能性について危惧しており、「データ保護」や「サイバーセキュリティ」に関するディスカッションは重苦しい内容となりました。世界で投稿された否定的なコメントのうち、この二つは48% の割合を占めています。

ある消費者は、「こうした新しいオープンバンキングは、少し気掛かりです。複数の企業が私の詳細データにアクセスできてしまうと、不正の可能性が高まります」と述べています。

また、別の消費者は次のように述べました。「こうしたオープンバンキングの概念というのは、私が今まで耳にしてきた中でも、特にずさんな計画です。第三者が顧客の銀行口座にアクセスできる機会が増えることで、何か問題が起きてしまうと、責任を問われるのは私たち顧客です。 これは銀行にとって有利なものであり、顧客のためのものではありません」

こうした発言で浮かび上がる懸念は、当然なものであり、顧客データを扱う企業が増えて、そのエコシステムが適切に管理されなければ、不正にさらされる可能性が高まるというものです。その一方で、誤解も見られます。つまり、ほとんどの規制当局は、不正行為や非正規取引の責任を顧客に求めてはいません。オープンバンキングが業界に資するものというよりも、主に顧客へのサービス向上を目指したものであるということです。

では、オープンバンキングのエコシステムに関わる事業者が、消費者から信頼を勝ち得て利用を促進させるために、中立的な 見方をする消費者や 否定的な見方をする消費者を、どのように説得 すればいいのでしょうか。

消費者の信用度という基準をクリアする三つの方法

消費者の信頼を高めるために、銀行、規制当局、フィンテック企業などは、以下の三つの重要分野で、進化を後押しする必要があります。

  1. サイバー保護:消費者のデータを安全に維持するために、より高度なデジタルツールや技術を使用する。
  2. 規制面での保護:消費者保護策を十分に取り入れた枠組みを確立する。例えば、償還請求権や、消費者被害に加担した事業者への罰則など。
  3. 価値を高める:消費者が自分の目標達成にオープンバンキングが役立っていると感じられるサービスを提供する。

サイバー保護

オープンバンキングの手法は、リスクの分散を促すことになりますが、サイバーセキュリティを強化する技術も常に進化し続けています。銀行とサードパーティー事業者(TPP)が、新しいセキュリティソリューションを適切に取り入れれば、安全なエコシステムを構築できます。

例えば、人工知能の進化に伴って、本人確認と決済認証においてすでに改善が見られており、疑わしい取引や不正行為の監視効果も向上しています。こうしたツールは、オープンバンキングのエコシステムの安全確保のために一役買ってくれます。実際に、英国のOpen Banking Implementation Entity(OBIE)は、機械学習や行動解析ツールを評価し、不正リスクの監視に役立てようとしています。

不正の予防では、情報の共有も重要です。決済口座サービス提供者(Account Servicing Payment Service Provider:ASPSP)とTPPが連携し、例外事象や不正、データ侵害に関する情報をリアルタイムで共有できれば、最終顧客への影響を最小化し、エコシステムの安全性確保にも役立ちます。

規制面での保護

今のところ、世界各国の規制当局は、オープンバンキング政策や導入に対してかなり異なるアプローチで取り組んでおり、多くの当局では、消費者保護のために必要な施策を整備するという仕事がまだ残っています。

一部の市場では、オープンバンキング事業への参加を希望する企業に対して、一定の基準を満たすことを求める当局があります。例えば英国は、決済指示伝達サービス提供者には、金融行動監視機構の認可取得、5万ポンドを超える設立資本(他の特定サービスを提供する場合には、それ以上)、専門の賠償責任保険への加入を求めています。口座情報サービス提供者の場合には、登録事業者となることも選択できますが、現時点では任意のみとなっています。

英国がオープンバンキングに対して、照準を絞り込んだ専用のアプローチで取り組んでいるのに対し、関連規制の変更という違うアプローチで取り組んでいる市場もあります。例えばシンガポールは、既存の規制を集約して新しい総合的な規制の枠組みに一本化しようとしています。シンガポール通貨監督庁(MAS)は、「状況に合わせて調整した規制制度をアクティビティー・ベースで、決済サービス提供者に適用する方が、特定の決済システムに適用するよりも、消費者保護、アクセス、コーポレートガバナンスなどの具体的な課題において、MASの対応向上が図れます」と述べています。

どちらのアプローチを取るにせよ、オープンバンキングのエコシステムに参加する事業者が、効果的に吟味・監視されていることを消費者に知らせることは、消費者に安心してもらう上で重要です。

また、被害を受けた消費者を適切に保護する仕組みも欠かせません。 TPPに決済指示を伝達するアクセスを許可すれば、不正取引が起きた場合の銀行とTPP間の責任問題が複雑になる可能性があります。しかし、顧客に影響が及ぶことは、避けなくてはなりません。そうした場合、顧客の視点に立てば、銀行から即時払い戻しを受けるという現状を維持することが必要です。

TPPが消費者の銀行口座情報にアクセスする点については、事業者にオープンAPI(アプリケーションプログラミングインターフェース)の使用を求める規制の枠組みが整備されている市場の方が、消費者保護の仕組みが進んでいます。こうした枠組みがまだ整備されていない米国などでは、一部でまだ「スクリーンスクレイピング」に依存しているため、消費者は自分の口座ログイン情報をサードパーティーと共有しなければなりません。そうした場合には、顧客がオンラインバンキング契約に違反したと銀行に見なされ、顧客がログイン情報を開示した結果、不正行為の被害者となった場合、銀行側は責任を認めない場合もあります。

価値の付加

消費者の信頼を得るには、規制とサイバー保護が決定的に重要ですが、究極的には、オープンバンキングサービスを利用すれば、簡単により良い経済効果が得られると消費者に理解してもらうことが、最も有効な要因となるはずです。

オープンバンキングでは、消費者自身のデータがより良いサービスを生む原動力となるため、消費者は金融サービス提供者からより多くのメリットを得られるようになります。オープンバンキング対応のアプリケーションを使うことで、自身の支出状況のモニタリング改善、自身の財政状況の総合的な把握、より適切かつ安価な資金繰りの特定がすでに可能となっています。こうしたサービスは、世界でも中心的なサービスに近づきつつあります。

今後は、消費者支援を大幅に強化したサービスが生まれる可能性があります。例えばオーストラリアでは、オープンバンキングエコシステムを拡大し、エネルギー、通信、そして最終的には医療や小売などのセクターも取り込む計画があります。そうなれば、生活の他の面の管理でも、消費者を支援するサービスへの道が開けます。金融サービス提供者が、顧客のために各セクターで最高のサービスを特定し、事業者を変更するお手伝いができるようになるわけです。

中国では、金融サービス業界がいち早くオープンバンキングの採用に踏み切っており、銀行はAPIを利用して顧客サービスの対象範囲を広げ、Eコマースなどのライフスタイルサービスに対して金融サービスを提供し、セクターの枠を超えた幅広い製品が関わる広大なエコシステムを築いています。中には、顧客のライフスタイルパートナーとして自社を位置付けようとしている銀行もあります。

こうした動きを見ても、世界の金融サービス提供者がオープンバンキングの活用を開始し、顧客に提供する価値を高めなければならないことは明らかです。そうしなければ、競争力は維持できません。こうしたサービスは、個人が金融と金融以外で掲げる目標の達成を支援するものであり、将来的に必ず消費者の日常生活に欠かせない一部となります。そのような方向へと進む中で、最高基準の品質と消費者保護を確保できるかどうかは、金融業界と規制当局の取り組みに掛かっています。

執筆者:Wayne Brown, Associate Partner, Financial Services, EY. 
執筆者:Anita Kimber, EY – United Kingdom Digital and Innovation Partner. 

サマリー

上位行は、オープンなデータ交換に基づく新しいモデルの採用に向けて、まい進しています。しかし、オンライン上のセンチメント分析では、消費者の信頼が乏しく、信頼を得られなければオープンバンキングを軌道に乗せることは難しいでしょう。 

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Hamish Thomas

EY EMEIA Payments Leader and UK Advisory Banking Technology Leader

Transformation leader in payments and open banking. Passionate about technology’s potential to create opportunity and manage risk. Optimistic runner. Film enthusiast.