30 分 2020年6月18日
スプレーで段ボールに絵を描くアーティスト

Board Agenda 2020:新型コロナウイルス感染症危機に対処する中で取締役会が取り組むべき8つの優先課題

取締役会の議題が複雑さを増す中、欧州の事業に影響を及ぼす主要な課題を完全に把握することが取締役会に求められています。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、欧州企業の取締役会がこれまで直面してきた中で最大の難問です。今回のパンデミックで、極めて厳しい経営環境を乗り越え、数々の予期せぬシナリオに対応して速やかに方向転換を図ることを余儀なくされています。

そうは言うものの、欧州企業の取締役会が今直面している難題は新型コロナウイルス感染症だけではありません。業務執行を監督する立場から、それ以外の幅広い課題への対処が期待されています。具体的には、戦略の決定、ステークホルダーエンゲージメント、目標と役員報酬の承認などの継続的に発生する懸念事項から、気候変動、デジタルトランスフォーメーション、金融犯罪などタイムリーで複雑かつ大規模な課題まで実にさまざまです。

検討事項が非常に多く、最も重視すべき分野を見極めることが難しくなる場合もあります。EY Center for Board MattersがBoard Agenda 2020を取りまとめたのも、そのためです。Board Agenda 2020では、取締役会と監査委員会が今後、コーポレートガバナンス関連で取り組むべき戦略的優先課題を新型コロナウイルス感染症のほかに7つ挙げています。この優先課題は、国、組織、セクターにより重要性が異なるため、重要度のランク付けをしていません。とはいえ、いずれも取締役会が少なくともある程度検討する必要がある課題です。

以下のテーマについて詳しく取り上げます。

 

左を指すネオンの矢印
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第1章

新型コロナウイルス感染症:パンデミックが監視・監督機能に突き付ける課題への対処

危機的状況下において、組織が現在から次へ、さらにその先へと前進できるよう取締役会はどのような戦略をとっているのでしょうか?

取締役会の監督機能が直面する難題のうち、新型コロナウイルス感染症は最大の課題です。今回のパンデミックは企業の業務運営のほぼあらゆる面に多大なリスクをもたらしています。新型コロナウイルス感染症の影響で、取締役会が短期的な火消し作業に忙殺されることは間違いありません。その一方で、パンデミックは、組織のビジネスモデル、ステークホルダーとの関係、労働慣行、従業員の構成に広範な影響を及ぼしています。喫緊の課題が生じた場合、取締役会は中長期的視点を忘れずに対処することが重要です。不確実な状況が続き、今後の見通しが立たない中でも、組織の事業継続計画(BCP)と危機管理計画の評価を継続的に行うことが、この難局を乗り越える上で役に立ちます。

セクターによっては、一時帰休やリモートワーク終了後の従業員の職場復帰、危機を受けて停止していた業務の再開、顧客の新たなニーズに合わせた商品やサービスの変更などについて経営陣と検討することを望む取締役会もあるかもしれません。一方、組織の支払い能力は多くの取締役会の最大の懸念事項となるはずです。

現在の深刻な景気後退を踏まえると、取締役会は今後、給与、予算、支払い条件、サプライチェーン管理などに対するステークホルダーの期待を再設定するために経営陣がどのような取り組みをしているかに注目することになるでしょう。取締役会自体が、配当の支払いで難しい判断を迫られることになるはずです。新型コロナウイルス感染症危機に組織としてどのように対応したかは、今後何年にもわたりすべてのステークホルダーの記憶に残り続けます。決断を下すときには常に、そのことを心にとどめておく必要があります。

  • 取締役会が検討すべき点

    1. 新型コロナウイルス感染症危機への経営陣の対応を取締役会はどのように支えているのか。危機に関連して起きている創造的破壊(ディスラプション)による組織のリスクエクスポージャーおよびその対応を取締役会が適切にモニタリングできるよう、コミュニケーション⼿段を改善し、新しく追加した指標について報告する機会はあるか。
    2. 組織が当面存続していくために、現在、近い将来、それ以降にどのような対応をとる必要があるのか。急速な変化が起きているときに、取締役はどのように実効性を発揮すれば、経営陣と共に戦略を練り直すことができるのか。
    3. 新たな脅威に適切に対応するのに十分なリソースと適切なスキルセットが経営陣にあるのか。あるいは、サイバーセキュリティやサプライチェーン管理など特定分野においては、専門知識を持つ外部に委託する必要があるのか。
    4. 今回の危機が続く間に組織を進化させて、経済回復の波に乗り、新たに生じるビジネスチャンスを生かす態勢を整えるにはどうすればいいのか。
    5. 取締役会が時間をどのように効率的に割り振れば、喫緊の問題と今後の戦略的課題の双方に十分に注力し、かつ組織の目的に沿って対応することができるのか。
カラフルな階段を上る人
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第2章

目的と誠実さ:取締役会の意思決定を強化し、焦点を絞る新たな方法

組織の目的に対する意識を高め、目的を明確に⽰し、組織内に浸透させる取り組みを取締役会はどのように支えることができるのでしょうか?

誠実に行動しながら、自社の目的を果たす企業は、ブランドと評判を高め、顧客と強固な関係を築く傾向にあります。また、イノベーションを成功させ、リスクを軽減し、優秀な人材を集めて定着させることができる可能性が高いのもこうした企業です。そのため幅広い主要なステークホルダーへの長期的価値を実現しやすくなり、このことは長期間にわたって好業績を維持することにつながります。

取締役会はその監督機能において、組織の目的に対する意識を⾼め、⽬的を明確に示し、組織内に浸透させる取り組みをどのように⽀援することができるのかを考える責任を負っています。この責任を果たすにあたっては、まず重要な質問を経営陣にするとよいでしょう。具体的には、「核となる会社の目的は何だと経営陣は理解しているのか」、「あらゆる事業分野に意思決定事項を伝え、事業分野の枠を超えて労働慣行に影響を与える上で、会社の目的はどのような役割を果たしているのか」、「新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、会社の目的にどのような変更を加える必要が出てくる可能性があるのか」などです。

取締役会は監視・監督機能を担っており、組織の目的に対する意識を高め、目的を明確に示し、組織内に浸透させる取り組みをどのように支えることができるのかを考える責任を負っています。

経営陣への質問では、特に会社の環境方針、人権に関する取り組み、従業員とのコミュニケーション、サプライヤーとの関係について聞くとよいでしょう。報酬制度のインセンティブも有意義な質問です。

組織の目的(社会的存在意義)に対する実効性のある監視を取締役会が行うのであれば、適任者を置き、適切な委員会体制を整備しなければなりません。専門的な能力とスキルを備えた人物を新任取締役として採用する必要があるかもしれません。あるいは、核となる会社の経営目的に沿った責任あるビジネス精神を経営陣が持っているかを監督する専任の委員会を新設した方が良いケースもあるでしょう。

  • 取締役会が検討すべき点

    1. 取締役会と経営陣は、核となる組織の目的(社会的存在意義)をどの程度理解しているのか。また、組織はその目的をどれだけ明確にステークホルダーに伝えているのか。
    2. 核となる組織の目的は、戦略の進め方にどのように反映されているのか。
    3. 組織の目的は社会、経済、環境にどのようなプラスの影響とマイナスの影響を及ぼしているのか。また、そうした影響は組織にどのような結果をもたらす可能性があるのか。
    4. 経営陣は日々の事業運営において、核となる組織の目的をどのように果たしているのか。
    5. 取締役会は、核となる組織の目的に照らして組織を評価する体制をどの程度整えているのか。取締役会の活動と注力事項は、その目的にどの程度沿っているのか。
プラスチック皿を捨てる男性
(Chapter breaker)
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第3章

気候変動とサステナビリティ:ESG(環境・社会・ガバナンス)から安定した事業戦略まで

意思決定にあたり気候変動などサステナビリティ関連の問題を取締役会は考慮しているのでしょうか?

会社のサステナビリティ実現に向けた取り組みを進めて公共の利益を守る責任が取締役会にはあります。世界各国の政治家、規制当局、投資家、一般の人々を含むステークホルダーが取締役会に期待しているのは世界的な課題への対処です。また新型コロナウイルス感染症の拡大で、人間の健康を脅かす脅威が業務運営の著しい混乱を招く恐れがあることも浮き彫りとなりました。

取締役会の優先課題は、気候変動と社会的問題に伴うリスクと機会が会社にどのような影響を与える可能性があるのかを把握することです。また、会社の業務運営とビジネスモデルをどのように変えれば、再生可能エネルギー、先進的なリサイクル技術、循環型経済の隆盛など時代の波に乗れるのかについての検討を経営陣に促すことも求められます。サステナビリティは、会社が同業他社を上回る競争力、効率性、レジリエンスを獲得する機会になるかもしれません。

言うまでもなく、気候変動と社会問題を自社の戦略にどのように組み込むかは、その会社のビジネスモデル、目標、セクターに加え、具体的に直面しているリスクにより異なります。これを念頭に、取締役会は今後、十分な情報と専門知識、適した構成とプロセスを確保した上で、経営陣に実効的な指針を示す必要があるでしょう。

また、責任ある投資に向けた動きの広がりにも注意を向けなければなりません。この背景には、持続可能な企業は長期的価値を生む可能性がより高いと投資家が考えていることがあります。気候変動など主要な社会問題・環境問題で自社がどのような影響を受け、これらの問題にどのように対応しているのかについて、着実に投資家へ情報を提供するよう徹底させることが肝要です。

  • 取締役会が検討すべき点

    1. 気候変動などサステナビリティ関連の問題が組織にもたらす重大なリスクと機会を、取締役会と経営陣はどの程度把握しているのか。
    2. 気候変動などサステナビリティ関連の問題を事業戦略全体にどの程度組み込んでいるのか。
    3. 組織内での意思決定に際して、戦略と事業運営の両レベルで、気候変動などサステナビリティ関連の問題をどのように加味しているのか。
    4. 気候変動などサステナビリティ関連のリスクと機会を管理する一環として、取締役会は目標の設定、達成、測定に対する責任を経営陣にどのように負わせているのか。
    5. 気候変動関連リスクをビジネスモデルにどのように組み込んでいるかを含め、長期的なサステナビリティについて、取締役会と経営陣は投資家にどの程度向き合っているのか。
露天市場に並べられたカラフルなドクロのオブジェ
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第4章

不正行為撲滅とマネーロンダリング防止:取締役会の主要な検討課題

会社はどの程度マネーロンダリングのリスクにさらされているのでしょうか?

金融犯罪が急増し、問題になっています。政治家がその撲滅で期待しているのは、企業の協力です。欧州ではここ数年の間に、マネーロンダリング防止法令の厳格化が進められてきました。その一方で、世界各国の規制当局はビットコインなど仮想通貨を注視しています。それは、仮想通貨がマネーロンダラーやテロリストが好んで用いる決済手段だからです。

金融犯罪にさらされることは、特に金融サービスセクターで事業を展開する企業にとって極めて深刻なリスクです。しかし、セクターを問わず、どの企業の取締役会もガバナンスを監督する一環として規制環境の動向をモニタリングする必要があります。仮想通貨や重要な公的地位を有する者などマネーロンダリング防止のコンプライアンスリスクに会社がどの程度さらされているのか、評価結果の提供を経営陣に求めましょう。それ以外に経営陣に尋ねる必要があるのは「こうしたリスクを軽減するため、どのような計画を立てているのか」「社内での経済犯罪の検知と防止を拡充するためにどのような取り組みをしているのか」「ITツールを有効利用しているか」「パートナーや同業他社と連携してベストプラクティスを共有しているか」などです。

取引銀行にも、「マネーロンダリング防止法を順守するために、どのような対応をしているのか」「倫理的で責任ある行動を組織内に浸透させるために、どのような方策を講じているのか」について質問する必要があります。

違法行為の通報を奨励する適切なプロセスの整備もまた、金融犯罪から会社を守る防御策を強化する方法の1つです。例えば、匿名で内部告発できる相談窓口を設置することによって一部のずさんな実態に光が当たり、金融犯罪のリスクが生じる恐れがあるのは組織のどの部分かについての貴重な知見が得られるかもしれません。

  • 取締役会が検討すべき点

    1. EUの第5次・第6次マネーロンダリング防止指令の要件を取締役会はどの程度理解しているのか。
    2. 資金を世界各地に安全に移動させるにあたり組織が利用している方法とプロセスを取締役会はどの程度把握しているのか。経営陣は銀行をはじめとする主要取引先の金融機関についてどの程度把握しているのか、また、取引相手を評価するために適切なサードパーティーのデューデリジェンスをどのように実施しているのか。
    3. 重要な公的地位を有する者(PEP)とのつながりを取締役会はどのように監視しているのか。
    4. 組織は新たなテクノロジーに投資することで、どのようにマネーロンダリング防止法令順守の実効性を高めているのか。
    5. マネーロンダリング防止リスクをモニタリングし、軽減する枠組みを経営陣が整備しており、その枠組みが効果的に機能していると取締役会はどの程度確信を持っているのか。
飛行中のドローンの下に手をかざす男性
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第5章

デジタルビジネス変革:リスク管理と、創造的破壊のプラス面の把握

新たなテクノロジーをどのように活用すれば、長期的に見て、ステークホルダーのためにより多くの価値を創造できるのかを取締役会は認識しているでしょうか?

デジタルビジネス変革は、取締役会に監督機能を担う機関として検討すべき重要な課題を提示しています。まず必要なのは、戦略的機会の把握です。デジタル化をどのように進めれば、業務運営を強化し、顧客とサプライヤーのより良いエクスペリエンスを実現できるようになるのかを検討しましょう。

これを把握すれば、新たなテクノロジーをプラットフォームとしてどのように利用すれば効率化を図り、成長を加速させ、新たなパートナーシップを開拓し、ビジネスモデルを見直して競争優位性を獲得できるのかの検討に移ることができます。また、デジタルスキルを持つスタッフを集めて定着させるためにどのような取り組みをしているのか、変更管理プログラムをどのように利用して新たなアプローチとプロセスを組み込んでいるのかを検証することも可能です。

取締役会の重要な検討課題にはほかに、テクノロジー関連の主要なリスクの出現があります。具体的には、顧客データの盗難などのサイバーリスクや倫理的リスクなどです。倫理的リスクの例としては、人工知能システムが不正確あるいは不完全なデータセットを使って訓練されたため、偏った判断を下すことなどが考えられます。また、特に新型コロナウイルス感染症の影響を鑑みると、創造的破壊を招く競合相手の出現もリスクです。顧客の好むデジタル化サービスをその競合相手が開発したことで、自社のビジネスモデルが根底から揺らいだり、市場シェアが奪われたりする恐れがあります。

企業が今後成功を収めるためには、取締役会がテクノロジーの力を借りて、急激に拡大するデータインテリジェンスを活用する必要があるでしょう。

データアナリティクスなどのツールを利用することで、新たなメガトレンドを特定し、そのメガトレンドがもたらす課題を対処するよう経営陣を指導できます。データから得た知見から、より革新的なビジネスモデルを開発し、新たなパートナーとの連携や、新たなアイデアを考案して競争優位性を獲得することで、経営陣をサポートする際に役立つでしょう。

  • 取締役会が検討すべき点

    1. デジタル化により生まれる組織の戦略的機会を取締役会はどの程度把握しているのか。
    2. 取締役会は、その集合的な知識、構成、専門知識をどのように高めれば、大規模なビジネストランスフォーメーション戦略に本格的に取り組むことができるのか。
    3. 組織の人材戦略と企業文化の醸成に関する戦略に加え、変更を管理する組織能力を正しく認識できていることを取締役会はどのように確認しているのか。
    4. 新たなテクノロジーが可能にする優れたデータインテリジェンス能力を組織、取締役会、経営陣はどのように合法的に有効利用しているのか。
    5. 組織はどの程度長期的に持続可能か。取締役会と経営陣はどのように実効的に連携し、組織の戦略的方向性を未来に適合するようなデジタル化されたビジネスモデルへと導くのか。
すき間なく取り付けられたラブロック
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第6章

リスク管理:戦略的機会と脅威の監視強化

組織に影響を及ぼす恐れのあるさまざまな新しいリスクを取締役会は十分に認識しているのでしょうか?

急速に変化するビジネス環境では、取締役会が検討しなければならない新たなリスクは多数あります。テクノロジー関連のリスクだけではありません。気候変動、疾病の流行、スキル不足、組織文化の欠陥などがもたらす規制リスクやサステナビリティ関連のリスクの検討も必要です。新型コロナウイルス感染症の拡大は、スタッフの健康と生活、生産性を脅かし、サプライチェーンを混乱させ、収益と利益を低下させる予期せぬリスクが生まれる可能性があることも顕在化しました。

このように幅広いリスクを実効的に監視するには、経営幹部と連携して、従来型と非定型の両方のリスクを含め、組織が直面するリスク環境の全体像を明らかにする必要があります。報告の枠組みをチェックし、リスク環境の変化を反映した報告を採用することで、新たな知見を得ることができるはずです。今後は、例えば文化、評判、人材など無形資産に関わる報告が必要になる可能性があります。また、組織の戦略を脅かし、文化に関連するリスクやコンダクトリスクを招く恐れのある新たな競合相手の出現など、市場の動向に関する情報も必要になるでしょう。

新たなリスクと戦略的機会に関する議論により多くの時間を割く必要があるかもしれません。その場合には、委員会の体制の再編とスケジュールの組み換えで対応できるでしょう。また、意思決定にあたって組織に関係する内外のデータをどのように利用しているのかにも目を向けることが求められます。

今日の最大の戦略リスクに対処するスキルとコンピテンシーを経営幹部と上級役員が持っているかどうかの評価を下すことも取締役会の重要な優先事項になるでしょう。このようなスキルとコンピテンシーが欠如している場合には、専門的な知識を持つ人材の採用や外部の専門家への業務委託を提言してもよいでしょう。リスク管理部門は取締役会にとって有益なリソースとなるはずです。その部門がリスクを識別、評価、モニタリング、予測する優れたITツールを利用できるのであれば、特に大きな力になります。

  • 取締役会が検討すべき点

    1. 組織が現在直面する最大の戦略リスクと機会 ( 従来型および非定型)とは。
    2. リスクを識別するプロセスの監督において取締役会はどのような役割を果たしているのか。最大の戦略リスクと機会について、取締役会と役員の方向性は一致しているのか。
    3. 組織のリスク管理・報告がリスク環境全体を十分にカバーしており、リスクをしかるべく考慮した確固たる意思決定を容易にするものであることを取締役会はどのように確認しているのか。
    4. 取締役会を適切な構成にするために、取締役会には何ができるのか。有効なリスク監視を行い、新たな機会を生かしてビジネスモデルをさらに強化するのに適した人材とスキルセットを取締役会は備えているのか。不足しているスキルと知識を外部専門家を活用することで補完できるのか。
    5. 新たなリスクをより適切に識別し、理解し、軽減するため、どのようにテクノロジーを活用しているのか。新たなITツールを設計・利用し、生成されたデータを完璧に理解できるよう、従業員のスキルアップを図っているか。
トレーニング器具「ケトルベル」を持ち上げる人
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第7章

監査委員会の視点:CFOが担う責任範囲の拡大についての把握

監査委員会は戦略的パートナーとしてCFOの専門知識をどのように生かせば、組織のガバナンスを強化できるのでしょうか?

この極めて不確実性の高い環境で、CFOは先進的な知見を取締役会と経営陣に提供しています。その際にCFOが依拠しているのが、予測分析などの新たなテクノロジーです。同時に、これまでCFOの役割の中心だったキャッシュと流動性の管理、財務報告プロセスの監督、内部統制の構築とモニタリングなどの活動も引き続き行っています。CFOと監査委員会との間に信頼を基盤とした強固な関係を築いておくことが肝要です。

これを踏まえると、CFOと取締役会、とりわけ監査委員会との関係は戦略的に極めて重要な問題だと言えます。新型コロナウイルス感染症の拡大で、資産の減損、契約の会計処理、ゴーイングコンサーンなどの分野で重大な財務報告上の問題が起きています。そのため、監査委員会に逐次情報を報告すること、CFOと監査委員会との間に信頼を基盤とした強固な関係を築いておくことが大切です。

CFOと監査委員会の定例会議はその土台になります。オープンなコミュニケーションを定期的に持つことを促し、リスク管理など関係のある問題をタイムリーに話し合うことができます。定例会議では、重要なコーポレートレポーティングと会計の問題も取り上げて、業績と企業価値に短期的または長期的な影響を与える可能性のある幅広い戦略的課題についての議論も行うべきです。

定例会議はまた、CFOが関わる部署との関係性の質について、監査委員会が理解を深める良い機会にもなります。それは、CFOと取締役会およびCEOとの関係だけでなく、経営陣や上級職者との関係においても同様です。監査委員会はさらに、会社の今後の目標達成を支えるのに適した人材を財務部門が擁していることを確認することで、CFOの責任と戦略的権限の拡大を認識できます。

  • 取締役会が検討すべき点

    1. 監査委員会とCFOとの間の関係はどの程度強固であるのか。オープンさと信頼はどの程度考慮されているのか。
    2. 監査委員会はどのようにCFOに異議申し立てを行い、CFOの責任を問い、CFOが適切に職務を遂行しているかどうかを確認しているのか。
    3. 主要なリスクに関する着実な定期報告を支える適切なリスクフレームワークを確実に設計・導入することについて、CFOはどの程度責任を負っているのか。適切なリスク報告と分析結果の監査委員会との共有に関して、CFOはどの程度実効性を発揮しているのか。
    4. 財務部門が必要なスキルと経験をすべて備えていると取締役会はどの程度確信を持っているのか。あるいは、人材を新たに補充して人員構成を変える必要があるのか。
    5. 監査委員会とCFOの会議はどの程度の頻度で開催されているのか。会議では財務の問題とより戦略的な課題の双方をどの程度までカバーしているのか。
ラックに並べられたカラフルなスケートボード
(Chapter breaker)
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第8章

取締役会の実効性:ガバナンス環境の変化

取締役会がより効果的に事業を運営し、ステークホルダーの期待に今まで以上に応えるにはどうすればよいのでしょうか?

ステークホルダーの目から見て実効性のある取締役会とは、会社が目的を持って行動し、投資家から顧客、従業員、サプライヤー、地域社会まで幅広いステークホルダーのために尽くすよう取り計らう組織でしょう。また、取締役会が担うガバナンス機能を、会社の戦略に沿って果たすための適切なスキル、コンピテンシー、経験を持つ取締役を擁することも必要です。

取締役会の実効性を高める上で議長が非常に大きな役割を果たすことは言うまでもありません。その実効性は、取締役会の自己評価制度を統括し、取締役会内にインクルーシブで、互いに信頼し合う雰囲気を定着させることで高められます。具体的には、その時にふさわしいテーマを取締役会会議で取り上げ、優先事項についての議論に十分な時間を割くことができる環境づくりです。

しかし、取締役会の実効性は議長だけの責任ではありません。優れた取締役会かどうかは、チームとして機能するかどうかで決まります。取締役は、建設的な課題を提示し、反対意見を表明しながらも、協働できる人物でなければなりません。職務を果たさない取締役が1人でもいると、取締役会全体の実効性を著しく損なう可能性がある、という点に留意する必要があります。ダイバーシティ(多様性)は、取締役会全体の実効性を測る極めて重要な尺度です。

幅広い視点をもたらす取締役会は一般的に、多様性を欠く取締役会と比べて、会社が市場機会を捉え、リスクを管理する上で役立つということを示唆する調査結果があります。実効性は、取締役の任期を制限することでも高まるでしょう。それらを実行することで、会社の戦略に沿って取締役の構成を変えることができるためです。

実効性の確保で取締役に求められるのは、経営陣の役割を「奪う」ことなく、経営陣から知識を引き出し、自らの理解をさらに深めることです。また、経営陣から質の⾼い情報を、適時、スムーズに提供してもらえるような環境を構築する必要もあります。

  • 取締役会が検討すべき点

    1. 取締役会は、組織の戦略の実現を支える幅広い経験、視点、スキルを備えた取締役が集まり、多様性に富み適格で経験豊かな集団で構成されていることにどの程度確信しているのか。
    2. 取締役と社外取締役の女性比率を高めていくために取締役会に何ができるのか。
    3. 取締役会会議は、取締役が最大限貢献し、建設的な異議を申し立てることができる、インクルーシブな形で運営されているのか。
    4. 取締役会会議で組織にとって最も喫緊な課題により多くの時間を割くにはどうすればいいのか。
    5. 取締役会は取締役一人一人の実績と取締役会のチームとしての実績をどの程度の頻度で正式に評価しているのか。また、この評価の客観性をどのように担保しているのか。中立的立場の第三者に評価の実施を委託しているのか。

サマリー

企業は今、これまで見たことがないような極めて厳しいビジネス環境に直面しています。当然のことながら、こうした環境は数多くのリスクだけでなく、数々の機会ももたらしています。将来がどのようになるかは分かりません。しかし、新型コロナウイルス感染症危機が終焉(しゅうえん)しても、社会が元に戻ることがないのは確かです。