現在:企業と経営層にとって厳しい局面
この調査は2月5日から開始しましたが、早い段階の回答では、経済見通しに対して慎重な姿勢が見られました。しかし、2月19日にS&P500指数が過去最高値を更新すると、それが一気に弱まりました。調査が開始された時点ですでに新型コロナウイルス感染症の影響に対処していたこともあり、2020年2月19日以降、Asia-Pacificの回答はその他の地域ほど著しく落ち込んではいません。
各国政府は国民の命と生活を守るため、国境を封鎖してパンデミックを抑え込む施策を講じ、安全な距離を保つ対策を厳格に実施し、在宅勤務を励行しています。Asia-Pacificでは、ビジネスへの影響が出始めており、世界経済が新型コロナウイルス感染症による深刻な影響を受けるとみている、との回答が94%に上りました。
どのセクターも新型コロナウイルス感染症により直接的・間接的な影響を受けていることから、グローバル全体とAsia-Pacificの回答者の96%が、収益率の低下と利益率の大幅なプレッシャーを予測しています。これを受けて、Asia-Pacificの企業は、流動性チェックの厳格化、直接的なコスト増大と利益率に与える影響の注視、契約の再交渉、財務計画の再検討、進行中の投資計画と不要不急の支出の見直しといった対策を講じています。
Asia-Pacificの回答者の55%は、経済の回復は緩やかで、2021年までかかるとみています。非常事態という環境下で通常の業務を再構築するにはどうすればよいのか──それを探るには、新型コロナウイルス感染症により、消費者行動、従業員エンゲージメント、新たな政策、政府の方針がどのように変化しているかについて、理解を深める必要があります。企業は、アジリティを高めて市場環境の変化に合わせて迅速に対応するべく、次の段階に向けて複数のシナリオを作ることに注力しなければなりません。
わずか6カ月の間に企業の経営層が期待するものは著しく変わりました。世界経済について明るい見通しを示した回答者の割合は、2019年10月の72%から、2020年2月初旬には21%へと低下し、2月中旬からEYの調査が終了した4月までの間に14%にまで落ち込みました。Asia-Pacificでも、強気の見方を示した回答者の割合は、2019年10月の58%から、2月19日以前には41%に減り、2月19日からEYの調査が終了した4月までの間にわずか16%となりました。調査によれば、グローバル全体とAsia-Pacificの両方で2月中旬までの間に経済への信頼感に明らかなシフトが見られ、S&P500指数が過去最高値を更新した2月19日以降では、それが顕著になったことが分かります。
企業収益、短期の市場安定性、与信力、株価評価など主要経済指標に対する景況感も、2019年10月と比べると著しく低下しました。
企業と国民がこの難局を乗り切る後押しをするため、各国政府は総合的な救済策を積極的に打ち出しています。Asia-Pacificの各国政府は、国内経済を強化し、事業の継続を下支えするための資金調達、コスト削減、融資に重点的に介入してきました。その最大の目的は、最も厳しい状況にあるセクターの関係者の生活を守ることと、コストの削減や流動性の確保により、危機を乗り越えて「新しい常識(ニューノーマル)」を企業が見いだせるようにすることです。EYのGlobal COVID-19 Stimulus Trackerを参照ください。
- 中国では、リバースレポで市場に1.2兆元(1,720億米ドル)を市場に投入した後、中央銀行がさらに500億元(73億5,000万米ドル)を追加したほか、政府が貸付資金供給の対象を限界利益のある製造業などの主要産業、民間・零細企業に拡大
- オーストラリアでは、政府がGDPの16.4%に相当する総額3,200億豪ドルの景気対策を実施
- シンガポール政府は、深刻な打撃を受けているセクターを対象としたコスト、資金、信用と事業継続に主眼を置いた総額約600億シンガポールドル(420億米ドル)の総合的な救済策(第1弾~第3弾)を導入
- マレーシアでは、政府が総額2,500億リンギット(580億米ドル)の景気刺激策を実施。この内容は、医療従事者を対象とした特別手当、1回限りの現金援助、中小企業を対象としたマイクロクレジット制度など
- 日本政府は、GDPの約20%に相当する1兆米ドル規模の経済対策を打ち出し、各世帯への現金給付と、与信枠や保証など財政出動を伴う措置の実施を検討。
- 韓国では、政府が医療システム、保育、アウトドアの各市場に11.7兆ウォン(137億米ドル)の予算を拠出
次:Asia-Pacificの経営層はビジネスへの影響に対処するため早めに対策を取る
Asia-Pacificの企業の多くは、世界に先んじてパンデミックを経験しました。こうした企業が直接的かつ劇的な影響を目の当たりしたことで、ビジネスモデルの転換が図られています。安全な距離の確保が強く求められる中、企業は、物理的距離を取ってのコミュニケーション、学習、勤務、モノやサービスの提供を可能にするテクノロジーの活用を加速させています。サプライチェーン、自動化のスピード、消費者行動、人材管理などの分野においては、新型コロナウイルス感染症による影響がおそらく永続するだろうと多くの企業が認識するようになってきました。
グローバルなサプライチェーンは、米中貿易摩擦が深刻化した時に関心を集めましたが、1月上旬に新型コロナウイルス感染症が大流行し始めて以降、急激に注目が高まっている問題です。これを受けて、Asia-Pacificの企業の67%(中国に限ると73%)が、すでに積極的に対処していると回答したのに対し、世界全体では52%でした。自動化のスピードについても同様に、速やかに対応していると回答した割合は、Asia-Pacificが47%と、世界全体の36%を上回りました。
新型コロナウイルス感染症危機により、働き方はじめステークホルダーとのコミュニケーション方法も根底から変わりました。人材の管理方法の見直しに取り組んでいると回答した企業は、Asia-Pacificが55%(中国に限ると70%)だったのに対して、世界全体は39%にとどまりました。