6 分 2021年9月7日

            株価ボードの前で株価指数を見て反応を示す投資家

メディア・エンターテインメント(M&E)企業の経営陣は、M&Aで新たなチャンスをつかむ

執筆者 John Harrison

EY Americas Media & Entertainment Leader

Transformative leader with a passion for media and entertainment. Identifying the opportunities afforded by convergence and disruption. Executing strategies to succeed in a fast-moving market.

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EY Japan テクノロジー・メディア & エンターテインメント・テレコム・ストラテジー・アンド・トランザクションリーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 パートナー

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6 分 2021年9月7日

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M&E企業は、市場の拡大と業務効率の促進を図るためにM&Aを選択しています。

要点
  • M&E企業にとって、パンデミックは変化と戦略的アクションを促す契機となっている。
  • パンデミックの長期的な影響への対応以上に、デジタルトランスフォーメーションと業務の変革が戦略上の優先事項となっている。
  • 買収か構築かというアプローチにおいて、M&E企業の経営陣はM&Aを活用することで業務能力を向上させ、新たなチャンスをつかもうとしている。
Local Perspective IconEY Japanの視点

M&E企業は、新型コロナウイルス感染症のパンデミック下においても、業績を伸長させている企業は数多くあります。これらの企業は、コンテンツやソリューションの強みに加えて、直販モデルとして直接顧客とデジタルプラットフォームを通じて結び付いていることで特に強みを発揮しています。

M&E企業は、ポートフォリオの見直しを進める上でもこのデジタルプラットフォーム(コンテンツ流通、課金、顧客サービスなど)やそれを実現するためにどのようなデジタルテクノロジーを取り入れるか、どこにテクノロジーを取り入れ、いかに強固にしていくかがM&Aを検討する上で大きな論点となってくるでしょう。

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岩本 昌悟
EY Japan テクノロジー・メディア & エンターテインメント・テレコム・ストラテジー・アンド・トランザクションリーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 パートナー

最新のEYグローバル・キャピタル・コンフィデンス調査(pdf)(英語のみ)で、M&Eセクターの経営陣は、最近の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックについて、変化と戦略的アクションを促す契機になっていると回答しています。

M&E企業の経営陣の92%が減収になったと回答している一方、半数以上(53%)は、2021年にはパンデミック以前のレベルに回復すると見込んでいます。ただし回答者の49%は、利益水準は2022年まで回復しないと予想しており、収益が好転するにはまだ時間がかかると考えられます。

業界の幹部は、パンデミックの継続的な影響は、ビジネスの成長に対する最大の外部リスクであると認識しています。従来とは異なるサービスを提供する企業が業界の勢力図を変えつつあり、M&E企業の経営陣は競争激化にも直面しています。特に、ビデオストリーミングやデジタル広告がそれに当てはまります。こうしたディスラプション(創造的破壊)は、業績と市場シェアの下方圧力となっています。

M&E企業の経営陣は、成長のリスク要因として、さらにマクロ経済の見通しを挙げています。しかし、パンデミック後の再開によって、多くのM&Eのサブセクター、とりわけスポーツスタジアム、コンサートホール、映画館、B2Bのイベントなど、対面の集客に依存するような収益モデルを持つサブセクターは、急速な勢いで持ち直すでしょう。

            M&A調査:ビジネスの成長に対する最大の外部リスク

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  • メディア・エンターテインメント(M&E)のハイライトをダウンロードする(英語のみ)

企業戦略の見直しは大半のM&E企業にとって最優先事項である

当然のことながら、M&E企業の92%が、2020年に全体的な戦略とポートフォリオの見直しに着手しました。一方で、少数派ではあるものの、それなりの数の企業はそれ以前から見直し計画を策定していました。この見直しにより、M&E企業の経営陣は重要な優先事項を複数特定しています。

ビジネスやセクターに対するパンデミックの長期的な影響への対処は、最も緊急性の高い戦略的考慮事項として最優先課題に挙げられています。デジタルトランスフォーメーションや業務の安定性など、多くの一般的指標で同業他社に対する優位性を確信していた一方、M&E企業の経営陣は、顧客エンゲージメント、テクノロジー、労務管理や人材関連の取り組みなど、重要分野への投資を検討しており、コスト削減とキャッシュフローの向上を目指しています。

端的に言えば、M&E企業の経営陣は、消費者の行動変容に合わせて優れた顧客体験を提供できるよう、柔軟性を高めたいと考えています。より強固な企業基盤を構築するために、適切な従業員が適切なタイミングで、適切なツールを用いて適切な行動をとることを望んでいます。

M&E企業の経営陣はまた、企業買収を通じて潜在市場の成長分野を特定しようとしています。このことは、新たなチャンスを素早くつかむために構築ではなく買収を選ぶという傾向となって表れています。

変動の大きい地政学と規制を巡る状況は、特に買収アジェンダに海外の商機拡大を伴う場合が多いことから、M&E企業の戦略的な意思決定を左右するもう一つの要因となっています。

クロスボーダー投資

51%

のM&E企業が、本業以外の市場での買収を検討。

戦略的な優先順位に基づいて計画を実行する経営陣にとって、社内の課題が障壁となる

M&E企業の経営陣は、戦略的な優先事項を明確に持ちながらも、行動計画を実行に移すにあたって非常に現実的な社内の課題に対処しています。大規模なディスラプションに直面していても、あるいは直面しているからこそ、変化に対する社内の意欲には温度差があることをM&E企業の経営陣は理解しています。現状維持を求め、変化への対応に課題があることは、従業員が変革を完全に受け入れる上でのハードルとなります。

興味深いことですが、M&E企業の経営陣の64%が、パンデミックの間に競合他社に対する優位性を確信していた一方、最先端テクノロジーの不備を社内の課題の一つとして挙げています。おそらく、認識しているこうした不備に対処するために、M&E企業は、テクノロジーとデジタルケイパビリティ(顧客対応とバックオフィスの両方または業務面)に積極投資を行う必然性を把握しています。

一部のM&E企業の経営陣は、自身が望む戦略に実現性がないと回答しています。つまり、日々の現実と経営陣のビジョンが乖離している可能性を示唆しています。

最後に、業界の多くが、徐々に衰退しつつも依然として収益力のある従来型のビジネスから、大胆な行動と投資を要する高成長モデルへの移行を進める中、M&E企業の経営陣は常に緊張状態にあり、変革の必要性と予測可能である現状の業務運営のバランスを図っています。

            M&A調査:企業戦略の実行に対する最大の社内の課題

M&E企業の経営陣は変化を促す要因に注目する

M&E企業は、新たな市場の実態に即して意義のある変化をもたらす上で、利益率や、最終的にはキャッシュフローの改善につながる要因に注目しています。多くのM&E企業は、直販モデルの戦略に向かって舵を切るにあたり、顧客対応の多く(アカウントの有効化、取引、顧客サービスなど)を完全なデジタルプラットフォームに移行しています。

フロント業務と同様にバックオフィスでも、M&E企業はテクノロジーの活用と自動化によって高コスト労務の移転や配置転換を行い、拡張性を高めています。さらに、戦略的な見直しによって顕在化した、本業以外の資産や不採算資産の売却についても前向きに検討しています。

M&E企業の変革を促すきっかけとしては、パンデミックの影響で収益が落ち込んだこと、既存の業務モデルにはレジリエンスが不足していて、予期せぬ外的ショックから受ける圧力が増大することを認識したことなどが挙げられます。パンデミックとは関係なく、適切な人材を採用し定着させるための取り組みが変革のきっかけとなり、新しい働き方、さらにはM&A活動の推進につながることを業界のリーダーは理解しています。

多くのM&E企業が最近発表した変革プロジェクトは、コスト削減や業務効率の向上といった実務上のニーズに基づいており、柔軟性の高い業務モデルとコスト基盤を作り上げることを目的としています。そうすることで、有効に活用されずにいたリソースを成長に向けた取り組みに振り向けることになります。

M&Aの対象を検討するにあたっては、テクノロジーの整合性とビジネスレジリエンスが最優先される

M&A戦略の策定を行う上でもM&E企業の経営陣はパンデミックの影響を受けています。M&E企業の経営陣の41%が今後12カ月間でM&Aを検討しますが、そのうち39%が業務能力の向上を見込んでおり、35%はボルトオン買収を模索しています。

企業回答者は、ポートフォリオの再評価とリバランスの必要性を挙げています。さらに、資産を検討する際は、対象企業のデジタル戦略とテクノロジーの整合性に焦点を絞り、ビジネスレジリエンスを徹底的に検討していると回答しています。

トランザクションの評価も資本市場の動向に影響を受けており、取引の交渉を一層困難にしています。M&E企業の経営陣のうち約4分の3(72%)は、多くのプライベートエクイティ(PE)の手元資金が記録的な水準にあることから、PEによる競争の激化を予想しています。

            M&A調査:パンデミックがM&A戦略と展望にどのような影響を及ぼしたか

M&E企業は、パンデミックによるグレートリセット後に躍進する準備を整えている

パンデミックは変化を大きく前進させました。M&E企業の経営陣は、必要な見直しを実施しており、実行に移せるだけの態勢が整っています。社内外の双方に存在する課題が障壁となり得るものの、M&E企業は環境(競争、経済、地政学、社会)のリセットから生じる機会に期待をかけています。

サマリー

EYのグローバル・キャピタル・コンフィデンス調査(CCB: Global Capital Confidence Barometer)(PDF)(英語のみ)は、経済見通しに対する企業の信頼感を評価し、キャピタルアジェンダ(資本課題)の管理方法における取締役会の傾向と取り組みを明確にします。

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執筆者 John Harrison

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