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第1章
パンデミックの影響
新型コロナウイルス感染症に関する企業の経験、行動、対応
企業はパンデミックから得た教訓を生かし、危機を乗り越えた先を見据えた投資計画を策定しています。
パンデミックの影響は2022年まで続くと予想されていますが、そのダメージはいつまでも残るとは考えられていません。
パンデミックそのものに関しても同様ですが、セクター全体では経営層の経験はさまざまであり、2020年の企業の歩みは千差万別でした。経済が大混乱に陥り、その渦中に放り込まれた企業とセクターは、市場が完全に閉鎖されるという事態に陥りました。一方、パンデミックとそれに伴うロックダウンは、デジタルトランスフォーメーションをリードしていた企業とセクターにとっては好機となりました。しかしながら、大多数の企業は収益と利益の低下に見舞われています。
現在、経営層は2022~23年にパンデミック前の水準に戻ることを視野に入れており、スピードに違いはあるものの経済が完全に再開する中、企業は拠点を置く国・地域と業務の精査を通じて優位性を探っています。
多くの企業は競合他社と⽐較して⾃社のパンデミック対応に満⾜していますが、これは成⻑に⽬を向けたものでなく、⽣き残ったという観点にすぎません。
2020年通期の業績を報告している企業はごくわずかであるため、今回のパンデミックにおける企業の実際の競争力について公式な見解を示すのは時期尚早です。企業の回答は、対応の実績についての認識として捉えるべきであり、ロックダウンなどの影響による2020年の世界経済の落ち込みを乗り切ったという安堵感を反映している可能性が⾼いでしょう。
業績が上がった企業と下がった企業の回答を比較してみると、デジタルトランスフォーメーションを実行した(上がったと答えた企業が下がったと答えた企業より37%多い)、リアルタイムでのリスク対応(前者が27%多い)、新製品・サービスのイノベーション(前者が14%多い)、経営の安定性(前者が19%多い)に関して、成功の実感がはっきりと⾒て取れます。また、デジタルトランスフォーメーションと経営の安定性については、肯定的な見方をする回答が最も多く見られました。これらの回答は危機を乗り切って事業を継続させようとする取り組みの実情を表しており、経営層はパンデミック初期の衝撃を乗り越え、事業を継続できたことへの安堵感を示しています。
財務業績(前者が1%多い)とカスタマーエンゲージメント(前者が6%多い)については他の項目よりバランスが取れており、おそらく現実をより正確に反映しています。全体的に見て収益と利益が大打撃を受けたことを考えると、同じ厳しい環境の中で苦戦している競合他社と比較して、これほどまでに多くの個別企業が利益を得ているというのは驚くべきことです。
また、今後は資本と人材が株主だけに価値を創造する組織から、持続可能で包摂的な長期的価値を創造する組織へと移っていくため、経営層は従業員、消費者、社会など、より広範なステークホルダーを巻き込む必要があると認識しています。
CEOと取締役会は、新しいデータが利用可能になったときに、実績を継続的に評価してベンチマークする必要があります。業務実績と財務実績の間に存在する認識のギャップを埋めることで、何が効果を上げ、何が失敗に終わったのかをより正確に理解し、将来の改善に向けてさらに強固な基盤を構築することができます。
特にパンデミック初期の頃に、企業が迅速に転換を図ることができたのは印象的です。そうした柔軟性と革新的な考え方は、将来の計画を立てる上で鍵となるでしょう。
企業は組織全体で投資の維持あるいは拡大を計画しているため、パンデミックへの対応は前向きで大胆なものになります。
世界金融危機の直後に投資を行った企業は、景気回復局面で利益を得ています。現在のパンデミックは世界金融危機とは根本的に異なりますが、経済活動が正常に戻ったときには同様の好機が生まれるはずです。
パンデミックによって、CEOと経営層は事業のあらゆる⾯を検証することを余儀なくされています。明るい点としては、経営層は収益面と業務面の両方で投資に前向きになっています。中でも関心が高いのが、デジタルトランスフォーメーション(回答者の63%が投資拡大を計画)とカスタマーエンゲージメント(経営層の57%が投資拡大を計画)です。
最近の実績を考えると、企業は投資を行うことにより、収益性を高める成長を今後加速させるために必要な事業ポートフォリオ、レジリエンス、アジリティを構築することができるでしょう。
パンデミックが最大の外的な脅威であることに変わりはありませんが、経済環境の変化は大きな懸念材料であり、しかもパンデミック前から存在していたリスクはいまだに解消されていません。
ワクチン配布に関する明るいニュースが流れているにもかかわらず、新型コロナウイルス感染症のパンデミックと経済活動の制限が続いていることが、企業にとっての主なリスクであることは回答から明らかです。さらに景気回復が始まっても、その回復がどのくらい確かなものになるかについて、企業は懸念を抱いています。
この点は、世界各国でのワクチン接種の展開のスピードと、ワクチンが実際に効果をもたらすかどうかにかかっています。ワクチンの配布は均等には行われません。また、市場やセクターの再開の時期もそれぞれ異なります。景気が回復したときに加速させていた活動から利益を得られるよう、企業は態勢を整えておく必要があります。
関連する問題として、世界経済の分断化が進む可能性があります。既に、北米と欧州には2つの貿易圏が確立されており、アジア太平洋地域には第3の貿易圏が出現しています。東アジア地域包括的経済連携(RCEP)によって、アジア太平洋地域の15の加盟国間の貿易が促進されることになります。しかし、英国とEUの間の交渉に見られるように、貿易協定には原産地規則などの条項を盛り込むことができ、域外の国々にとって障壁となります。これまで30年間、企業は緊密に統合されたオペレーションとサプライチェーンの構築に時間を費やしてきました。パンデミックによって地理的に集中しすぎていることの弱点が浮き彫りになりましたが、世界経済の分断化が進みすぎた場合、経営層は複数の拠点で同じオペレーションを行うことに難色を示すでしょう。
主要な貿易圏間で緊張が高まり、特に保護貿易主義というレトリックが実際の貿易障壁となれば、こうした経営層の懸念は悪化するはずです。
このような成長に対する新たなリスクに加えて、企業にはパンデミック前から存在していたリスクがあります。昨年初頭は、気候変動の緊急事態についてのニュースが何度も世間の注目を集めましたが、この問題はいまだ解消されていません。同様に、テクノロジーのディスラプションが企業に及ぼす脅威と、事業運営の障害となる、テクノロジーに精通したハッカーの出現というリスクも依然として存在しています。新型コロナウイルス感染症にばかり目が向いていたかもしれませんが、こうした課題は厳しさを増しています。EUの財政支援策も、バイデン政権下で期待されている救済策も、その中心はグリーンテクノロジー、人工知能、5G、ロボット工学など、より幅広いテクノロジーセクターへの投資の加速です。企業はこれらの分野、特にそうした計画から資金提供を受けている分野に投資するよう、より大きなプレッシャーにさらされるでしょう。
ビジネスの主要な検討課題はデジタルケイパビリティの構築となっており、M&A戦略ではデジタル面に注目が集まっています。
パンデミックを受け、多くの企業がM&A戦略を見直しました。買収対象企業のレジリエンスが特に重視されていますが、同時に対象企業のデジタル戦略とテクノロジーの整合性にも注⽬しています。また企業は、自社のポートフォリオの再評価と見直しも視野に入れています。おそらく最も注目に値するのは、多くの企業がパンデミックの影響を好機とみなし、流動的でダイナミックな環境で市場シェアを拡大し、市場投入までの時間を短縮できると考えていることです。
大多数の企業が、パンデミックは少なからずM&A戦略に影響したと回答しています。
パンデミックを経験したことで、多くの経営層の意識が高まったことは間違いありません。実績に不満はないものの、企業は安⼼しきってはいません。世界が新型コロナウイルス感染症を乗り越えようとしている中、⼤胆に⾏動と投資を進めようとしています。多くの企業では、パンデミック収束後、事業の形態、規模、重点を置く部⾨に大きく変更を加える可能性があります。
第2章
戦略的必須事項
パンデミック後の社会を見据えた戦略の再構築
企業は新型コロナウイルス感染症収束後の社会に向けた計画を策定しており、パンデミックを契機とした戦略的な見直しが行われています。
CEOなど多くのビジネスリーダーにとって、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの発生とそれに伴う経済的打撃は、自社の事業の存続に関わる脅威となりました。86%の企業が、2020年に戦略とポートフォリオの包括的な⾒直しを実施したと回答したことに違和感はないでしょう。またそのうち3分の2(66%)は、この⾒直しは予定外のことであり、状況の変化に直接的に対応するためだったと回答しています。
パンデミックによる影響の理解とテクノロジーとデジタルへの投資が、企業の戦略的成長に関する課題の検討に役立ちます。
この見直しで重要な点は、新型コロナウイルス感染症が事業とセクターに与える長期的な影響をより正確に理解して対処することです。パンデミックによって引き起こされた変化については、多くの面でいまだにはっきりしていません。景況感の浮き沈みが予想される「平常時」においては、ビジネスモデルは比較的安定しています。通常は方向性が明確であり、大きな変更は必要ありませんが、未曾有の混乱にあっては、事業の中断が基本的なビジネスモデルを脅かす脅威となります。
企業はパンデミックによって引き起こされた変化のうち、一時的なものと定着するものを見極めようとしています。しかし、パンデミックの経験を踏まえ、次に何が起こるかを考えたとき、ひとつ確かなことは、テクノロジーケイパビリティとデジタルケイパビリティへの投資が極めて重要になるということです。
主要な戦略を考察することは、思わぬ良い結果を生むこともあります。潜在的な成長分野を特定して買収を行い、不採算資産の売却という難しい決断を下すことが企業の最優先課題となっているのは確かですが、世界金融危機後の回復局面では、この2つの行動が景気回復期に成長を加速させたことが明らかになっています。
企業は成長と最適化のための新たな道を模索しており、戦略的成長という目標の中心には顧客が据えられています。
企業は自社の計画を顧客中心とする動きを積極的に進めています。パンデミックの1つの側面として、ロックダウンが繰り返されたことにより、バリューチェーンにおいて上流からサプライヤーまで、さらに下流から顧客まで、この両方で寸断が発生したことが挙げられます。企業はカスタマージャーニーのデジタル化を加速させ、ビジネスプロセスを変革するためにテクノロジーへの投資を進めています。また、新しい価格設定構造や革新的な価格設定モデルについて調査し、営業チームを適応させることで、顧客をつかみ、離さないようにしています。
この点はパンデミックから学んだ重要な方針です。自社の製品とサービスを顧客に提供できなければ、企業は苦境に陥ります。より良い製品やサービスを、より広範囲に顧客が望む価格で提供できない場合、その企業は競合他社に後れを取ることになります。今後は収益と利益を上げることがさらに難しくなりますが、そのとき企業は、市場で勝つためのあらゆる手段を模索していくことになるでしょう。
資本の制約や組織内の硬直化に並んで、テクノロジーケイパビリティの欠如が企業の目標を阻んでいます。
トランスフォーメーション計画はパンデミックによって急増しましたが、経営層は厳しい逆風にさらされています。今、最先端のテクノロジーを利用できない状況は致命的です。テクノロジーとデジタルの導入を率先して推進することが、この1年間の成功の主な差別化要因でした。テクノロジーによって実現できることは多々ありますが、資金、そして適切な活用スキルを持った人材の点で、コストが発生します。
パンデミックがあらゆる種類の組織にとって最大の課題を突きつけたことは間違いありません。リーダーはニューノーマルを見据えて戦略と価値観を再考する必要があり、組織は自らの意識と業務モデルを根本的に、そして迅速に変革しなければなりません。
戦略が失敗する理由として学術論文で一貫して取り上げられている課題の1つに、実行に移せない場合が多いということがあります。つまり、戦略を立てても、理論上はうまくいくものの、実際の運用には適していないという問題です。この点は成功を阻む障壁となっており、調査対象の経営層の15%が認めている事実です。パンデミック後の社会の現実を見据えた戦略を立てるだけでなく、それを実行できるかどうかが勝負の分かれ目になるでしょう。ハーバード・ビジネス・スクールのCahners-Rabb経営学名誉教授であるMichael Beer氏は最近執筆した記事の中で次のように述べています。「ほぼ全ての組織が大きな戦略的課題に取り組んでいます。多くの場合、パーパスそのもの、アイデンティティー、戦略、ビジネスモデル、企業構造を再考する必要に迫られていますが、こうした変革への取り組みはほぼ失敗に終わるでしょう。そしてほとんどの場合、失敗する理由は新しい戦略に欠陥があるからではありません。組織が戦略を実行できないからです」
さらに、こうした大胆な目標を阻む要因として、資本に制約があること、トランスフォーメーションを実行する上で現状とビジョンの間にずれがあること、この変革を推進する経験豊富なリソースが不足していることも挙げられます。
それでもなお、必要な変革は必ず実行しなければなりません。この変革はそれほど遠くない未来で生き残るために必要な最低限のことだからです。経営層は回復計画を作成しようとしていますが、新型コロナウイルス感染症のパンデミックがもたらした問題に対応するだけでは足りません。それ以上の取り組みが求められます。今回は自社を見直し、再検討し、再構築を図るチャンスであり、リーダーは全力で取り組む必要があります。そしてそれを実現するための重要な手段が、デジタルとテクノロジーへの投資なのです。
状況は、もはや「これができるのか」ではなく、「これをやらずに生き残れるのか」という段階にきています。
第3章
M&A Outlook
未来へ向かって
極めて不確実な状況にあるにもかかわらず、戦略的変革を加速させるM&Aの必要性が買収意欲を支えてきました。
M&Aに関して、2020年は特別な年でした。パンデミックの打撃により、世界のM&A取引は第2四半期に事実上停止しました。企業は買収よりも、事業継続の不確実性という新たに差し迫った問題を乗り切ることに重点を置いていました。しかし、7月に入ってからは買収が加速しています。企業は経済活動の回復と業界動向の変化を見越して動いているため、この傾向は今後も続くと予想されます。
2020年下半期の取引額は上半期の2倍以上となり、過去最高を記録しました。低金利、緩和基調が続く資本市場、手元資金が豊富なプライベートキャピタルなど、M&Aの条件は引き続き整っています。
顧客へのサービスや提供の拡大を主な目的とする買収が数多く発表されましたが、この動きは企業がより幅広いサービスとより良いエクスペリエンスを通じて顧客とつながることを期待してのことであり、短期的にはM&Aの主な推進要因になる可能性があります。
調査対象の企業のほぼ半数(49%)が今後12カ月以内に買収を進めたいと回答しており、この好調な投資環境は今後も続くと予想されます。
短期的には、既存ビジネスの補完的なケイパビリティを獲得するためのボルトオン買収がM&Aの⽬的となりますが、今、多くの企業にはトランスフォーメーションを実現するためのM&Aが喫緊の課題となっています。
パンデミックを受けて戦略とポートフォリオの見直しを迫られた結果、企業は投資が必要な分野を迅速に特定することができました。多くの企業は特定した要件をすぐに満たせるような買収を検討するでしょう。今後12カ月以内に実施されるM&Aの対象のほとんどは、ボルトオン買収と特定のケイパビリティの獲得になるはずです。買収の主な目的は、デジタルケイパビリティとテクノロジーケイパビリティの強化、資産の購入、事業の将来性を考えた上での人材不足の解消になります。
少数派ですが、規模によっては中小程度の買収では十分と言えない企業もあるでしょう。そうした企業は、パンデミックを乗り越えた先にやってくる、おそらく今とはまったく異なる環境での成長を見据えています。事業の規模と重点部門を完全に変えてしまうような、変革を実現するための買収が検討されることになります。
各企業はパンデミック下における実績を鑑み、バランスを取りながらこうした判断を下すと考えられます。そこには未来を再考し、改革し、再構築したいという明確な希望が見られます。ここで企業は大胆に目標を立てる必要があります。将来の成長目標を考えたとき、CEOなど多くのビジネスリーダーにとって、まさに今こそ果敢に挑戦すべき時だと言えるでしょう。
2021年は、テクノロジーやイノベーションなど、戦略的ケイパビリティの獲得がM&Aを推進する主なドライバーになります。
今後12カ月間のM&Aへの意欲を支える要因は、景気回復期における経営層の投資意欲と一致しています。これはM&A取引がトランスフォーメーションへの最短ルートになり得るという明確な兆候です。
企業は世界経済の次のステージで自社の成長機会を高めるために、M&Aに注目しています。テクノロジー、人材、生産に関わる新しいケイパビリティ、革新的なスタートアップ企業を獲得していこうとしています。さらに、企業は競争の激しい市場で顧客を獲得し維持するため、重要な差別化要因である製品とサービスの提供を拡大しようとセクターに関係なく対象企業の検討を進めています。また、ビジネスの市場を拡大し、既存の市場シェアを確固たるものにしたいという狙いもあります。このため、業界のコラボレーション、コンバージェンス、エコシステムに関する現在のトレンドが加速し、成果につながる可能性があります。
M&Aは企業にとって業務のレジリエンスを構築し、関税や貿易収支に関する新たな懸念に対処する手段にもなります。
ただし、M&A戦略では、景気回復期での成長を加速させること、そして未来に備えることに重点を置くことが極めて重要です。
取引市場は引き続き健全なものになると見られており、資産を巡る主要な競争相手はプライベートキャピタルだと捉えられています。
2020年はプライベートエクイティ(PE)の取引額が5%上昇しましたが1、パンデミック下におけるPEでは全体的に投資先企業に重点が置かれており、レジリエンスと業務実績の向上、価値創造が重視されていました。経営層は既存の資産ポートフォリオの検討を実施し、不確実な環境下でも事業の継続性を確保できるようにしました。
2021年は、PEなどの形態でプライベートキャピタルの影響が強まる可能性があります。2020年、PE企業は活発な動きを見せていましたが、回復段階にある企業が立ち位置を変えるようになった今、その動きがより活発化すると考えられます。バイアウト用資金だけでも約1兆米ドル、手元資金では実に2兆8,000億米ドルをも利用できるため、プライベートキャピタルは回復局面における価値創造の機会を生かす上で最適な位置にあると言えます2。
第4章
グローバル化と投資の流れ
新たな市場か、同じ傾向か︖
クロスボーダーM&Aは変わらず注目を集めており、多くの企業にとって近接地域での買収が望ましい選択肢となっています。
この4年間、政治の世界ではグローバル化のメリットとデメリットが主要なテーマとなっていました。欧米では、ポピュリズムの台頭の背景にある重要な要因の1つとして挙げられたのがグローバル化でした。世界各国の政府は、国外からの取引の見直しや規制について定めた法律を制定し、強化することで対応してきました。また、国内の優良企業を育成し保護する方法や、企業、特に巨大なグローバル企業を規制する方法にも目を向けています。
企業の見解は多くが明確であり、グローバルに活動することが、成長を加速させるケイパビリティと製品を獲得するための重要な手段だと回答しています。移動の制限によって国際的なM&A取引が停滞し、回復が遅れる中、2020年のクロスボーダーM&Aは取引市場全体よりも急速な落ち込みを見せました。しかし、年末に向けてクロスボーダーM&Aの動きが活発化しています。
最も顕著な回復が⾒られたのが、地域をまたいだM&Aです。知名度と信頼を築くという意味では、地域貿易協定がM&Aの後押しをします。アジア太平洋地域においては、RCEP加盟国間で幅広い製品の関税が撤廃され、電子商取引、貿易、知的財産に関する共通の規則が確立されることになります。この貿易協定は世界の⼈⼝とGDPの3分の1を占めるアジア太平洋地域の15カ国間で締結されましたが、サーベイの回答でも近隣諸国でのM&Aに意欲があるという声が反映されています。
世界のM&A取引の中心的存在が米国と英国であることに変わりはありません。米国は、M&A取引全体とクロスボーダーM&Aの両方で一貫してトップにランクされており、英国はトップ3の常連です。テクノロジー企業の成長に関して言えば、米国は数十年前から世界をリードしています。そして英国は欧州のリーダー的存在です。従って、企業が今後12カ月以内にこの両国の資産の獲得を企図したとしても何ら不思議ではありません。
ドイツとフランスはユーロ圏の経済ネットワークの中心的存在であり、ハイテク製造業をリードしています。両国の企業と資産は事業の自動化を進めながら需要を見込めるため、これらのセクターへの関心が高まるでしょう。
インドは5年ぶりにトップ5にランクインしました。⻑年、クロスボーダーM&Aが盛んになるともてはやされてきたインドですが、まだ完全には実現されていません。ただし、企業が過去10年にわたり依存してきた市場以外での成⻑の機会を求めるのであれば、インドへの積極的な投資は不可欠でしょう。
大方の予想に反し、短期的な視点では欧州が機会と成⻑にとって重要な地域であると考えられています。
世界金融危機以降の10年間、欧州は世界経済の中で後れを取っていると考えられてきました。世界の経済活動をけん引する成長の源は米国、中国、東南アジアであり、欧州はその後を追ってきました。
しかし、経済が再開するにつれて、欧州は景気回復の最前線に⽴つ可能性が見えてきました。欧州経済においては一部の主要国が他よりもかなり大きく落ち込んでおり、回復の余地が大きいという見方もあります。しかし、欧州は単一国家ではありません。企業は個々の市場をにらみながら、各国の具体的な状況に合わせて潜在的な機会獲得のタイミングを見計らうことになるでしょう。
政府の介入がビジネスの分野で強くなっており、投資とM&Aの決定にますます影響を及ぼすことになるでしょう。
世界各国の政府は貿易とクロスボーダーM&Aに障壁を設ける傾向を強めています。これは、国際投資を検討している企業にとっては逆風となります。
これらの障壁を乗り越えるためには、新たな規制を把握し、投資や市場参入のためのシナリオを政府の達成目標と一致させることが最良の方法です。
戦略的投資については地政学的な課題が解消されておらず、企業は状況が明確になるのを見守っており、投資控えが見られます。
2020年は、世界的な公衆衛生危機の年であったと同時に、地政学的な緊張が高まった年でもありました。従って同年に、政治的リスクと、地政学・国・規制・社会レベルでの政治上の判断・出来事・情勢の予測に従って、多くの企業が投資判断に影響を受けたのは当然と⾔えます。しかし大多数の企業にとっては一時的な投資控えであって、国際投資からの完全撤退ではありません。
2021年も政治的リスクが続いた場合、⾼いレベルの不確実性が⽣じ、企業戦略の⽴案と実⾏に⽴ちはだかる壁となるでしょう。
しかし、緊張緩和の兆しは見られます。英国とEUの今後の関係についての交渉が合意に達し、⽶国では多国間の国際協⼒に意欲的な新政権が選出されたことで、企業は国際投資計画の再開に⾃信を深めるでしょう。
パンデミック後の社会に向けて企業の未来を再構築する
新型コロナウイルス感染症の先にある成功をつかむための計画の立案は、この調査で判明した重要な洞察に基づいて行う必要があります。ディスラプションをもたらす力がパンデミックの影響で衰えることはありません。経営層は今、山積する重要な検討課題に集中して取り組む必要があります。その課題が、より良い未来の実現につながるのです。
パンデミック後の実社会に合った戦略を立てる。理論だけでなく、実際に実行できるスマートな思考法が重要となる。
今だけに目を向けるのではなく、長期的価値、つまり人的価値、財務的価値、社会的価値、消費者にとっての価値の創造に焦点を当てた意思決定を行う。
未来の消費者と、彼らにとって何が重要なのかを理解する。
⼈材を⼤切に扱い、確保に努める。
⾃社の投資収益率(ROI)を全て把握する。デジタルとテクノロジー⾯においては特に。
大胆に行動する。すなわち、機会を生かすために迅速に動く。
見直した戦略の実行に必要な資金を確保する。
企業のパーパスと、それをステークホルダー、従業員、社会にどう伝えるかを明確にする。
競合関係を超えて、エコシステムを構築する。つまり、競合他社との協業を検討する。
M&Aについて、立ち止まらない。積極的な買収が業績拡⼤につながる。
サマリー
EYのグローバル・キャピタル・コンフィデンス調査(PDF)では、企業の経済の見通しに対する信頼度を評価するとともに、キャピタルアジェンダの管理方法における取締役会の傾向を特定し、その取り組みについて明らかにしています。