テクノロジーセクターのM&Aの現状
2020年、テクノロジーセクターのM&Aは、歴史的に低調な四半期で始まった後、歴史的に好調な四半期を迎えました。テクノロジー企業の経営陣はパンデミックへの対応に追われたため、年初はディール活動が停止したも同然でした。しかし、企業が即座に方向転換したことで、下半期に入るとテクノロジー関連のM&Aは激増しました。テクノロジー企業は今後の収益増加に向けてM&A戦略の調整を進めており、買収対象企業のレジリエンスと自社のデジタル技術との連携を今まで以上に重視するとともに、統合によるマーケットシェアの獲得を目指しています。
先行きの不透明感と当局による精査の厳格化にもかかわらず、前年はテクノロジー企業による変革を目指した買収が増えました。2020年は、50億米ドル以上のメガディールが全世界のテクノロジーセクター全体の取引額の59%(2019年は47%)を占めています。今後は多くのテクノロジー企業の有機的成長が減速するにつれ、成長する手段としてのM&Aが重要性を増すはずです。調査対象となったテクノロジー企業の16%が、50億米ドル以上の規模の変革を目指す買収を近々進める予定であると回答しました。今後はマルチプルエクスパンション、すなわちファンダメンタルズ(基礎的要因)ではなくセンチメント(市場心理)による株価収益率(PER)の上昇が鈍化する可能性があり、M&Aはますます重要になってくるでしょう。強い買収意欲を示す傾向は、業績が好調で、株主利益が他社を大幅に上回っている企業に多く見られました。
テクノロジー関連の取引市場は引き続き健全な状態が続くと予想されるものの、EYのCCBレポートによると、調査対象となったテクノロジー企業の経営陣の78%が、資産の入札プロセスでは今後12カ月間にプライベートキャピタルなどとの競争が激化すると予想しています。非テクノロジー企業がソフトウェア、ITサービス、垂直型のインターネット取引のケイパビリティの構築に取り組み、商品やサービスのデジタル化を図る一方、プライベートエクイティ企業はアプリケーションとIoTデバイスの確保に加え、リスク対策とコンプライアンス対策に多額の投資を行っています。
特別買収目的会社(SPAC)での過去に例を見ないM&Aの増加成長を抜きに、テクノロジー関連のM&A市場について論じることはできません。より確実な価格設定を提供したことで、パンデミックによる混乱期後に上場を目指す企業の間でSPAC人気が高まりました。SPACによるM&Aは急激に増加し、2021年初めにはテクノロジー関連のM&A取引額の50%を占めるまでになっています1。上場を目指す企業の獲得を狙うSPACの数が過去最高に達したことでバリュエーションがかなり高まり、従来型M&A市場のバリュエーションの上昇も招いています。