6 分 2020年3月17日
青空でスカイボードを楽しむ3人

ミドルマーケット企業が人材の獲得競争に勝つための3つの方法

執筆者 Loletta Chow

EY Global China Overseas Investment Network Leader, EY Belt & Road Task Force Leader and Asia Pacific EY Private Leader

Seasoned in China outbound investment and Belt and Road Initiative.

6 分 2020年3月17日

関連資料を表示

ミドルマーケット企業にとって、優秀な人材の発掘と定着は大きな課題です。しかし、現状ではミドルマーケット企業は想像以上に優位な立場にあるのです。

第21回 Global Capital Confidence Baromet(EYグローバル・キャピタル・コンフィデンス調査) (pdf) によると、ミドルマーケット企業(年間売上高が5,000万~30億米ドルまでの企業)が挙げている最大の課題の1つは、人材の採用と定着をさせることです。しかし、グローバル化の進展、人口構造の変化、新しい働き方の普及によって社会が混乱する中、実際には大手企業よりもミドルマーケット企業の方が優秀な人材を採用し、定着させやすい優位な状況にあるのかもしれません。

ミドルマーケット企業が抱える人材確保への懸念

61%

ミドルマーケット企業の3分の2近くが、スキルの高い人材を発掘し、定着させることの難しさに苦心しています。

一般的に、大手企業は採用ブランドマーケティング、人材募集、エンプロイー・エクスペリエンス(従業員経験)に多大な資金を投じ、候補者として優秀な人材から興味を引くようにしています。一方でミドルマーケット企業は、大手企業の代替の選択肢となるような、優位な立場であるための革新的な手段を見いだす姿勢をますます強めており、その過程で、ミドルマーケット企業は大手企業が求めるような人材を発掘し、定着させています。

企業理念の明示と実践による影響力

特に若い人たちの間では、働く動機は単なる給与など金銭的な見返りではなく、その企業の社会や環境に対する価値観が自分の価値観と一致するかどうかが重要であると考える人が増えています。

Glassdoorの調査「Mission & Culture Survey 2019(ミッションとカルチャー調査 2019)」1では全体の79%が、応募にあたり企業のミッションと企業理念を考慮していると回答しています。企業理念は大きな意味を持っています。企業にとって最も基本的な部分で、企業がなぜ事業を行うのか、誰のために価値の創出を図っているのかを明確に伝えています。

大企業の組織内では、すでに十分に企業理念を果たしてきたと考える経営幹部もいます。ミドルマーケット企業は大企業よりも経営やリーダーシップモデルをスリム化して焦点を絞り込んでいるため、多くの場合、より簡単に信頼性のある企業理念を明確に示し、実践することができます。

ミドルマーケット企業は、企業理念を対外的にアピールし事業全体で実践することにより、企業理念が組織全体に推進されている企業への入社を検討している人材に対し、自社の企業価値を高めようとしています。ある物流企業では、製品の配送時間を大幅に短縮するとともにドライバーの生活を改善したいと検討し、陸路物流における新しい経営モデルの開発の際は、企業理念を忠実に実践しました。自宅から離れてトラックで何週間も移動するのではなく、10時間働いたらドライバー全員が帰宅するよう徹底しながら、利益率を改善したのです。今では新人ドライバーが集まるようになり、その結果としてドライバー不足を解消しています。

ミドルマーケット企業が自社の理念を見いだし、明確に示し、忠実に実践をすれば、組織の成功のために尽力する仕事熱心な人材の確保が期待できます。それらによって、離職者を減らし、経営リーダー候補を獲得するパイプラインを強化します。

ミドルマーケット企業は大企業よりも経営やリーダーシップモデルをスリム化して焦点を絞り込んでいるため、多くの場合、より簡単に信頼性のある企業理念を明確に示し、実践することができます。
David Ellis
EY UK & I Rewards Leader

早い昇進と高い報酬への魅力

ミドルマーケット企業は大手企業と比べて俊敏性が高い点を生かし、社内でのキャリア開発と昇進する機会を充実させることによって人材を集めています。大企業ほど社内規定に縛られることがないミドルマーケット企業は、人材の早期育成に関して格段に柔軟な対応を取り、自由裁量の余地を大きく与えることができるのです。

社員たちは比較的早い時期から(頻繁に)、クライアントとの取引を任され、多様で幅広い業務に配属され、部下の指導を委ねられ、重要な戦略会議への参加も認められるでしょう。

また、高成長が見込まれるミドルマーケット企業は、時間をかけて価値を構築するコンセプトに興味を引かれるような特定の有能な若い人材にとって、魅力的な選択肢となり得ます。こうした若い人材が求めているのは、企業が大きな成功を収めた場合は、金銭的な報酬が得られるというチャンスです。企業が財務目標を達成すれば、社員にも還元されます。一見すると、振れ幅が大きい成果報酬ですが、仮にベンチャー企業が計画通りに事を運べなくても、巻き返しを図る時間は十分にあると考える若い人材にとっては魅力的なのです。大手企業では、これらと同じような賃金構造を複製して採用できる機会は、あったとしてもごくわずかです。

昇進が早く、業績に連動した給与・報酬を受けられる可能性は、競合他社を引き離す強力な差別化要因であり、ミドルマーケット企業は人材を引き付けるために、これらの条件を採用しています。比較的小規模な企業へ入社する代わりとして、キャリア関連であろうと金銭的な報酬であろうと、昇進する可能性の高さで埋め合わせるのです。

イノベーションとテクノロジーによる企業文化への期待

大手企業との人材の獲得競争にあたり、効果的に強調できる訴求ポイントは他にもあります。イノベーションの文化とテクノロジーです。

大手企業が一般的にリスクを回避し、最先端テクノロジーの導入が遅いことに対して、ミドルマーケット企業は、イノベーションを実現し、成長を加速するための潜在能力を引き出すツールとしてテクノロジーの採用に積極的な傾向にあります。EY Global Capital Confidence Barometerによると、50%の企業がテクノロジーとオートメーションを活用して、労働生産性を高めていると回答しています。

オンライン小売業者では、毎日何千通ものメールを顧客から受け取るため、緊急性の高い顧客のクレームを見逃すことがよくあります。その対策として企業が利用しているのが、革新的なテクノロジーを駆使した機械学習のアルゴリズムです。それぞれのメールの内容を解析して、依頼内容の緊急度を自動的に判断し、数多くのメールの中から緊急度が極めて高いものを選び出す人的労力を大幅に削減できるのです。

その他のクリエイティブな企業は、接客業界へ向けてテクノロジーを活用した人材配属のソリューションを提供しています。テクノロジーの力により、経歴の確認や人柄などについて入念に人選を行えるため、経験豊富な地元地域の人材を集め、スタッフの確保に要する時間を6週間から3時間に短縮できます。まさに、企業側と働く側の双方にメリットがあるソリューションなのです。

イノベーション志向であるミドルマーケット企業は業務における俊敏性が高く、組織をフラットに管理する傾向が見られます。こうした企業は、プロフェッショナルな人材にとって、最も魅力的で、期待を持たせるような機会を提供します。

テクノロジーイノベーションを先頭に立って推進し、主導している各国のミドルマーケット企業も、人材採用に関して言えば、企業理念を達成するには優位な立場にあります。アジアに本拠を置くユニコーン企業の数はすでに世界全体の40%2を超えています。研究開発費の総額が世界で最も多いのは米国、中国、日本、ドイツ、韓国の5カ国です3。日本は産業用ロボット技術をリードしており、韓国は5G通信のパイオニアであり、そして中国はインターネットコマース、人工知能、ライフスタイルサービスおよび多様な金融サービスを提供するプラットフォームにより、世界をリードしています4

プロフェッショナルな若い人材は、こうしたイノベーション志向である数々の新規企業が、比較的短いタイムスパンで、世界で最も価値の高い企業へと急速に変革していくさまを目の当たりにしてきました。このため可能性のある若い人材から、イノベーション志向であるミドルマーケット企業が注目され、広く認識されるようになりました。

人材の獲得競争に打ち勝つために

地域にかかわらず、こうした3つの取り組みを効果的に実践しているミドルマーケット企業は、優れた人材の獲得と企業への定着に成功しています。企業の一部では、既にこのような人材獲得への取り組みについて検討を進めており、またその他の企業も視野に入れているでしょう。

採用部門リーダーが人材獲得のための検討するべき内容は以下の通りです。:

  1. 採用したいと願うような優秀な人材たちの考え方・志向を推察しているか? 優れた人材たちから共感を呼ぶような企業理念を明確に示し、忠実に実践を続けることが企業に求められている

  2. 人材獲得において優位な立場となるために何が必要かを把握し、差別化を図るための戦略を採択しているか? 多くの業務分野に携わることができ、多様で早期な昇進がかなうキャリアパスの機会をつくるような制度を整備する必要がある

    長期的な視点で高額報酬を手にできるチャンスを考え、スキルの高いプロフェッショナルな若い人材に見合った給与・報酬制度を提示できているか? 現在、他社に引けを取らない給与・報酬制度を提示しても優秀な人材を採用できていない場合は、長期的に人材を誘因する取り組みについて検討する

  3. 刺激的で先進的な文化が存在しているか? 優秀な人材へ、他社と比較して優位な点をアピールする。多くの場合、ミドルマーケット企業の強みは、テクノロジーとイノベーションの文化である

サマリー

優秀な人材を発掘して定着させることは、ミドルマーケット企業が直面する最も大きな課題の1つです。多くの企業が課題の克服に向けて懸命に取り組んでいますが、俊敏性と適応力の高さを前面に出し、企業理念、金銭的な報酬、そしてテクノロジーとイノベーションを重視した戦略をとることによって優位な立場に立つことができます。

この記事について

執筆者 Loletta Chow

EY Global China Overseas Investment Network Leader, EY Belt & Road Task Force Leader and Asia Pacific EY Private Leader

Seasoned in China outbound investment and Belt and Road Initiative.