2020年10月20日
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ウィズコロナの時代のメンタルヘルス対策とEHSの役割

執筆者 EY Japan

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2020年10月20日

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響が長期化し、収束への見通しがつけづらい状態が続いており、企業は従業員のメンタルヘルスを守るための対策を本格的に検討する必要があります。

1. 新型コロナウイルス感染症が企業に迫るメンタルヘルス対策

新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、企業は従業員のメンタルヘルスを守るための対策を本格的に検討する必要があります。従来型の新型インフルエンザについて、企業は既存の事業継続計画(BCP)や事業継続マネジメント(BCM)で一定の備えをしてきました。しかし、新型コロナウイルスの流行は収束への見通しがつけづらい状態が続いており、社会のあらゆる面で長期持久戦が続いています。

このような環境下において、企業は事業継続の観点から、作業者同士の間隔を確保し、職場の消毒作業を定期的に行うなど、物理的な対策を日常業務に取り入れ状況への適応を余儀なくされています。しかし、終わりの見えない対応が長期間継続することにより、従業員の精神的な疾患が惹起される懸念があり、メンタルヘルスを保護するための手だてを考慮する必要性が高まっています。2020年5月に公開された国連の資料1によると、コロナ禍が原因で精神的苦痛を感じる人の割合は米国で45%、中国では35%に上回ると報告されました。これは身近な人の死や感染が直接の原因であり、また自分も感染するかもしれないという不安感が数字に反映されています。“コロナうつ”は世界的な問題として認知されつつあり、日本においても実態調査を行うため、厚生労働省は2020年9月からオンラインによるメンタルヘルス全国調査を開始しました。

企業としては物理的対応策以外にも、従業員の心理的負担を軽減するメンタルヘルス対策の検討が求められています。メンタルヘルス対策は、企業のEHS(環境・労働安全衛生)施策として取り上げられる頻度が高くなりつつあります。この課題に対応するためには、既存の枠組みを活かして従業員のメンタル不調を防ぐこと、また、対策に取り組んでいる姿勢を社内外に周知できる制度を活用することが推奨されます。

2. ストレスチェック制度:職場のストレス傾向を可視化し、対策を促進

コロナ禍の前から、働く人の精神疾患やメンタル問題は存在しており、近年の傾向として精神疾患を理由とした労災補償の申請件数は増加傾向にあります。

厚労省は2014年に労働安全衛生法を改正し、ストレスチェック制度の実施を事業者に義務付けて、労働者の心理的負担の軽減に努めています。同制度の目的はメンタル不調の未然防止であり、事業者がストレスチェックの個人結果をもとに集団分析を行い、その結果から職場環境の特徴や傾向を可視化し、職場の環境改善を行うことを推奨しています。集団分析のメリットは、受検者の傾向を性別、部署というさまざまな観点から分析できることです。多面的に高ストレスの人が多い集団を特定可能なため、どこに注力して職場改善を行うべきか見通しがつけやすく、メンタル不調を未然に防ぐ効果が期待されています。

一方、運用上、気をつけないといけないこともあります。それは、プライバシー保護の仕組み作りと不利益取り扱い防止の徹底です。ストレスチェックの結果は高度な個人情報であるため、受検者の同意を得ることなく事業者にそれらの情報を提供することはできません。実施者らには個人情報の守秘義務が課せられており、故意にこれを流出した場合には罰則が適用されます。ストレスチェック実施体制の作成に当たっては、関わる組織と担当者の役割、責任範囲を明確かつ入念に定め、実務には適切に個人情報を取り扱うことができる実施者を選定し、情報保護の教育を施すことが推奨されます。

また、事業者は以下の理由をもって、労働者に対し不当な扱いを行うことが禁じられています。

  1. 労働者がストレスチェックを受検しない
  2. 労働者が検査結果を事業者に提供することに同意しない
  3. 労働者が医師による面接指導の申し込みを行わない、など

新型コロナウイルス感染症によるストレスを含めて、従業員のメンタル不調を未然に防ぐために、こうした既存の枠組みを有効的に活用し、物心両面でのEHS対策を取ることが期待されます。

3. 健康経営:健康増進の取り組みを評価、改善する仕組みの活用

ストレスチェックを“守り”のメンタル対策とすると、健康経営は“攻め”のメンタル対策と言えます。健康経営とは、“「企業が従業員の健康に配慮することによって、経営面においても大きな成果が期待できる」との基盤に立って、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること”と定義されています2。従業員が安定した状態で働くことができる環境を創出することが企業としての務めであり、その取り組みを以下の観点で視覚化し、努力をたたえる制度として2014年度に経済産業省は健康経営顕彰制度を創設しました。

  1. 経営理念
  2. 組織体制
  3. 制度・施策実行
  4. 評価・改善
  5. 法令順守・リスクマネジメント

健康経営銘柄に準じた先進的な企業を「健康経営優良法人」として当初500社を認定することを目的として活動がスタートし、2020年には1,476社(大規模法人部門)が認定され、認知度は着実に拡大しています。健康経営が注目されるようになった理由には、長期的な視野に立った場合、安心して心身とも無事に働ける環境で、従業員が心理的安全を獲得し、組織の活性化やモチベーションの向上につながるのではないかという企業側の期待が背景にあります。

安全安心な職場環境を提供できているかを洗い出すために、健康経営調査の質問帳票にも、従業員同士の連携を密にするためのコミュニケーション方法の取り組みに関する質問などが反映されており、企業の取り組みを前向きに評価し、改善を促すメカニズムが同制度に組み込まれています。また、この制度では先進的な健康施策を実施している企業事例を経済産業省のホームページからダウンロードすることが可能です。

4. ウェルビーイング経営:安全衛生をベースに、新たな企業価値を創造

新型コロナウイルス感染症によりメンタルヘルスの問題に注目が集まっていますが、これを心身ともに健全かつ働きがいがある会社を作り出す機会として捉える風潮も現れてきています。その一例として近年話題になっているのが「ウェルビーイング経営」です。

世界保健機関(WHO)の憲章では、健康とは“病気でないことや弱っていないことではなく、肉体的・精神的・社会的に完全に満たされた状態”と謳っており、この“満たされた状態”をウェルビーイングと表現しています。その環境下で満たされた状態とは、従業員に対して心身共に安全な職場環境を提供するだけでなく、高いモチベーションを持って仕事に向き合える仕組み作りが揃っていると解釈できます。

ウェルビーイングを実現するためには安全衛生だけではなく、従業員の配置検討をつかさどる人事、経営方針を具体化する経営企画などさまざまな部署が協力することが必要です。そのためには経営層の思いを明確化し、これを実現するために各部署を束ねるリーダーシップが必須です。また、従業員を巻き込むため、経営層から直接社員に思いを伝えて協力を呼び掛けるダイアローグの場も有効です。今後日本社会は超高齢化と少子化の時代に本格突入し、限られた人的資源を有効に活用し競争することが求められてゆきます。これまでEHSは従業員の安全を守るための役割がありましたが、今後はさまざまな部署との連携の中で、生産性向上、対外認知度のアップなどの価値創造に寄与する役割を果たす可能性を秘めています。

出典:

  1. Policy Brief: COVID-19 and the Need for Action on Mental Health, United Nations, May 2020
  2. 「健康経営とは」、特定非営利活動法人健康経営研究会、http://kenkokeiei.jp/whats(2020年8月21日アクセス)

サマリー

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるメンタルヘルス対策が余儀なくされていますが、終わりの見えない対応が長期間継続することにより、従業員の精神的な疾患が惹起される懸念があります。今まさにメンタルヘルスを保護するための手だてを考慮する必要性が高まっています。

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