TNFDの概要
TNFDは、民間企業や金融機関が生物多様性/自然資本に関するリスクや機会を適切に評価し、情報開示をするためのフレームワークを構築する組織です。UNDP(国連開発計画)、WWF(世界自然保護基金)、UNEP FI(国連環境計画・金融イニシアチブ)、グローバルキャノピー(英国の環境NGO)により、2021年7月に正式発足し、2023年中のフレームワーク公表を目指して策定を進めています。フレームワークの最終的な形は未確定ですが、現時点で提案されている内容から、概要や特徴を整理すると、次のようになります。
1. 対象となる資源のスコープ
生きている(生物的な)自然のほか、水、土壌、大気といった非生物資源も含まれていますが、鉱物資源については「自然に関連した枯渇」がスコープとなっています(「自然資本」に近いものの、完全には一致していない、と言えます)。
2. アプローチ
TNFDは、その名からイメージされるように、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)をベースにして構築されると考えられます。以下の4本柱をアプローチとして採用しており、TCFDと同様に、「自然関連」のリスクと機会を特定し、経営の根幹に係る事項として企業戦略に組み込み、対応していくことにより、企業をよりレジリエントなものとする、また機会を生かしビジネスチャンスとしていくことが期待されます。
- ガバナンス:影響、依存度、リスク、機会に関する組織のガバナンス
- 戦略:組織の事業、戦略、財務計画において、自然に対する影響と依存度、関連するリスクと機会が実際に及ぼす影響と潜在的な影響
- リスク管理:自然に対する影響と依存度、関連するリスクと機会を認識、評価、管理する目的で組織が採用するプロセス
- 指標と目標:関連する自然に対する影響と依存度、関連するリスクと機会を評価、管理する目的で使用する指標と目標
3. 自然関連リスクと機会
「リスクと機会」について、TCFDよりも広く、その概念を指すものとして、「自然関連リスクと機会」という用語を推奨しています。その概念を整理すると、以下のようになります。
- 影響:会社やその他主体による、自然の状態に対するプラスまたはマイナスの影響
- 依存度:人間や組織が機能するために頼っている、人間にもたらす自然の側面(生態系サービス)
- 自然関連の財務リスク(物理的リスクと機会):自然生態系の機能や機能停止に伴う事象によるもの(急性リスク)と、より長期的な変化によるもの(慢性リスク)
- 自然関連の財務リスク(移行リスクと機会):自然に影響を与えるような変化により生じる経済的な損害・利益
- システミックリスク:重要な自然のシステムが適切に機能しなくなるリスクなど
4. 優先順位付け、段階的なフレームワーク
情報開示を行う企業が、フレームワークの特定の側面に優先的に取り組む必要性を示しており、下記の2つのステップを提案しています。
① 自然に対する影響と依存度が最も大きい産業の情報開示を優先
② 優先産業の中で最も重要な自然関連リスクと、十分な質のデータが容易に入手できるものについて、優先的に開示
またTNFDは、報告主体がフレームワークに合わせていくための柔軟で段階的なアプローチを定めており、「基本」、「中間」、「包括的」の3段階に分けて要件を提示することを提案しています。
5. 評価手法(ガイダンス、ツール)
TNFDの技術的スコープと運用モデルに関する提言(TNFD「Nature in Scope」)では、以下の2つのガイダンス、ツールが言及されており、今後、標準的に使用される可能性があります。
- ENCORE:NCFA(Natural Capital Finance Alliance:自然資本分野の国際金融業界団体)とUNEP-WCMC(UNEP World Conservation Monitoring Centre:国連環境計画 世界自然保全モニタリングセンター)が共同開発。環境変化が経済に与える影響を可視化するツール
- SBTN初期ガイダンス: Science Based Targets Network (SBTN)より発行された、SBTs for Nature(自然に関する科学に基づく目標)の設定に関する企業向けの初期ガイダンス