ここで、「サステナビリティ経営」と「SX」の違いについて、ご説明します。「サステナビリティ経営」とは、経営戦略にサステナビリティを統合させることを意味します。例えば、気候変動リスクに対応すること、女性活躍を推進するなど人的資本経営もまたサステナビリティ経営の一つと考えられます。そのため、サステナビリティ経営とSXはほぼ同義語のように思われますが、異なるものです。既にサステナビリティ経営において先進的な日本企業は多くあると思いますが、SXは目指すべき姿というビジョンを明確に持ち、その目指すべき姿からバックキャストして長期戦略を立案し、この長期戦略を実行するためのアクションプランである実行戦略の立案・実行等が必要となります。SX推進とは今後目指すべき姿に向けて経営変革・事業変革を行っていく企業になります。そのため、より長期的なビジョンの中で、現状を維持するのではなく、経営や事業構造を果敢に変革していくことがSXの特徴となります。そのため、既に先進的なサステナビリティ経営を行っている企業が、必ずしもSX先進企業ではないということが特筆すべきことです。
SX先進企業の一例として、米国のテスラ社が挙げられると考えています。同社は、電気自動車の会社ですが、目指すべき姿である“パーパス”として、“Tesla’s purpose is to accelerate the world’s transition to sustainable energy.”(世界の持続可能エネルギーへの移行の加速)を掲げています。同社は、CEOが自ら長期戦略(2006年8月のMaster Plan 1、および2016年7月にMaster Plan 2)を公表し、数値目標を含め計画を達成してきた実績があります。同社の祖業は、電気自動車の製造・販売ですが、2016年8月に、ソーラーパネルメーカーのSolar Cityを買収し、垂直統合型エネルギー企業へと移行しました。電気自動車は、蓄電池としての機能も果たすことを考慮すると、同社は持続可能なエネルギー企業へと転換しています。また、人工知能の開発を通じてテスラボット(ロボット)を開発するなど、強みを生かした事業展開を進めています。テスラ社は、気候変動など新たなサステナビリティ課題をビジネスチャンスにして成功してきた一例だと考えられます。このように、目指すべき姿を明確に示し、長期戦略を公表・達成し、事業構造改革を行っている事例は、SX先進事例の一つと考えられます。
日本においては、2024年が経済産業省および東京証券取引所等により日本企業のSX銘柄が選定されるSX銘柄元年になる予定です。日本企業に、今後、稼ぐ力の本流となるSX推進が浸透し、日本株が外国機関投資家からさらに見直される契機となることが期待されます。
SXの実践に向け、EYが考える企業がとるべきアプローチとしては、価値協創ガイダンス2.0に沿った目指すべき姿、長期戦略、実行戦略(中期経営戦略)、および成果を測るためのKPI設定、ガバナンスおよび株主との対話等の一連の流れを示す価値創造ストーリーの構築です。また、SX推進の取り組みを行っても、開示されていなければ外部から評価を得るのは難しいため、統合報告書における開示の改善も必要だと考えられます。