2023年1月11日
サステナビリティ情報等の開示に関する「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案の実務上の留意事項

サステナビリティ情報等の開示に関する「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案の実務上の留意事項

執筆者 沢味 健司

EY Climate Change and Sustainability Services, Japan CCaSS Quality Leader

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2023年1月11日

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2022年11月7日に金融庁より公表された「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案について、サステナビリティ関連の業務に携わる方々に向けて、改正案の概要と実務上の留意事項をご説明します。

要点

  • 改正案であることから、パブリックコメントを受けてどのような変更がなされるか注視する必要がある。
  • 有価証券報告書等の「記載欄」には核となる情報の記載が必要である。
  • 有価証券報告書の作成部署は、サステナビリティ推進部署と密にコミュニケーションを図り、早期かつ計画的に取り組むことが必要になる。

2022年11月7日に、金融庁より「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案(以下、改正案)が公表されました。本稿ではサステナビリティ関連の業務に携わる方々を想定し、改正案の概要(Ⅰ~Ⅲ)および実務上の留意事項(Ⅳ)についてご説明します。

なお、意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめご承知おきください。

Ⅰ. 何をしなければならないのか

1. サステナビリティ全般に関する開示

サステナビリティ全般に関する開示について、改正案では以下の内容が提案されています。(企業内容等の開示に関する内閣府令 第二号様式記載上の注記(30-2)、企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)5-16-4ほか)

  • 有価証券報告書及び有価証券届出書(以下「有価証券報告書等」)に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が新設される。
  • 「ガバナンス」及び「リスク管理」については必須記載事項とする。「戦略」及び「指標及び目標」については重要性に応じて記載する必要がある。
  • サステナビリティ情報の記載については、その詳細な情報について、任意開示書類を参照することができる。

2. 人的資本、多様性に関する開示

人的資本、多様性に関する開示については、改正案では以下の内容が提案されています。(企業内容等の開示に関する内閣府令 第二号様式記載上の注記(30-2)、企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)5-16-3ほか)

  • 人材育成の方針や社内環境整備の方針及び当該方針に関する指標の内容等について、必須記載事項として、サステナビリティ情報の「記載欄」の「戦略」と「指標及び目標」において記載を求める。
  • 女性活躍推進法等の規定により「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」及び「男女間賃金格差」を公表している会社及びその連結子会社に対して、これらの指標を「従業員の状況」において記載を求める。
  • 「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」及び「男女間賃金格差」を記載するにあたり、任意で追加的な情報を記載することが可能であること、サステナビリティ記載欄の「指標及び目標」における実績値に、これらの指標の記載は不要であることを明確化する。

Ⅱ. 何が望まれているのか

サステナビリティ情報の開示における考え方及び望ましい開示に向けた取組み

本年6月に公表された金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告(以下「WG報告」)で提言されたサステナビリティ情報の開示についての期待等を踏まえて「記述情報の開示に関する原則(別添)-サステナビリティ情報の開示について-」(以下、記述情報開示原則)において、サステナビリティ情報の開示における考え方及び望ましい開示に向けた取組みがまとめられました。主な内容は、以下の通りです。

  • 「戦略」と「指標及び目標」について、各企業が重要性を判断した上で記載しないこととした場合でも、当該判断やその根拠の開示が期待される。
  • 各企業の業態や経営環境等を踏まえた重要性の判断を前提としつつ、Scope1、Scope2のGHG排出量については、積極的な開示が期待される。
  • 「女性管理職比率」等の多様性に関する指標について、連結グループにおける会社ごとの指標の記載に加えて、連結ベースの開示に努めるべきである。

Ⅲ. 適用時期

改正後の規定は公布の日から施行する予定とされており、令和5年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用予定とされています。

Ⅳ. 実務上の留意事項

1. サステナビリティ全般に関する開示

コーポレートガバナンス・コードとの比較

サステナビリティに関して、2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードと改正案を比較すると、コーポレートガバナンス・コードは東証プライム市場企業だけが対象でありコンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or Explain)方式でより柔軟性があるのに対し、改正案は全ての有価証券報告書提出会社が対象であり、必須記載項目がある点で相違があります。

 

2. 人的資本、多様性に関する開示

気候関連財務情報の開示フレームワークであるTCFD(Task Force on Climate related Financial Disclosures)提言との関係

内閣官房から公表された「人的資本可視化指針(案)」によれば、図に示した通り、TCFD提言同様4つの要素に沿った開示を検討することが期待されています。

図 人的資本可視化指針(案)

図 人的資本可視化指針(案)

出所:内閣官房「人的資本可視化指針(案)」(2022年11月15日アクセス)

ただし、その前提として“自社の経営戦略と人的資本への投資や人材戦略との関係性(統合的なストーリー)を描き出しながら、独自性と比較可能性のバランス、価値向上とリスクマネジメントの観点などを検討”することが重要であり、形式的な開示対応とならないよう留意することが必要と考えられます。

3. サステナビリティ情報の開示における考え方及び望ましい開示に向けた取組み

任意開示書類との関係性

WG報告 「1. サステナビリティ全般に関する開示(3)サステナビリティ開示に関する留意事項」では、以下のように記載されています。

“有価証券報告書の「記載欄」に核となる情報を記載せずに、ほとんどの情報を任意開示書類の参照とするといったことが行われると、有価証券報告書に記載欄を設けた趣旨が没却されてしまうため、当局において、適切なエンフォースメントを行うことが重要との意見もあった。”

この記載を踏まえると、サステナビリティ情報を有価証券報告書に何も書かないということは想定されていない、と考えられます。特に、任意開示書類や自社ウェブサイトにおいてサステナビリティへの取り組みが重要と開示している企業においては、有価証券報告書についても一定程度の記載をすることが投資家から期待されていると考えられます。

どの程度記載するのが望ましいか、先進企業ではどのような開示をしているかについては、金融庁から公表されている「記述情報の開示の好事例集2021」が参考になります。気候変動関連の実際の開示例として、以下の項目を有価証券報告書の【事業等のリスク】に記載している企業があります。これらの項目は同事例集に記載されている「投資家・アナリストが期待する主な開示のポイント」に適合したものと考えられます。


有価証券報告書の【事業等のリスク】に記載する項目(実際の開示例)
  • サステナビリティ経営の全体像を図表を交えて端的に記載
  • TCFD提言の開示項目ごとの具体的内容(4つの基礎項目に加え、11の開示項目)
  • 環境マネジメント体制について「指示・報告」「監督」等の指揮命令系統
  • リスクと機会の特定及び重要性の評価プロセス
  • 参照した既存シナリオを含め、リスク・機会の概要と各シナリオに与える影響の程度
  • 重要な指標が変動した場合の各シナリオにおける定量的な財務影響
  • 目標設定の考え方や取り組み
  • リスク・機会の管理に用いる指標について、目標年度、具体的な定量目標

 

重要性の判断

サステナビリティ情報の開示における重要性の判断について、ISSBのサステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項の「重要性」の判断における考慮事項の一例がWG報告で示されています。

サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項の「重要性」の判断における考慮事項

  • 重要性がある情報には、①企業の将来キャッシュ・フローに影響を与えることが合理的に予想される場合は社会及び環境に対する企業の影響、②企業の将来キャッシュ・フローに影響を与える可能性は低いが潜在的な影響は大きいと考えられる事象、が含まれるがこれらに限定されない。
  • 重要性は、その情報が持つ性質や影響度合いによって企業ごとに異なるため、重要性に関する定量的な閾値の設定や、特定の状況における重要性をあらかじめ定めない。
  • 企業の状況における重要なサステナビリティリスクと機会を特定するため、経営者に対し重要性の判断を要求している。 

従って、各企業において重要性を検討したプロセスや、その結果識別されたリスクと機会が、企業および社会に及ぼす影響をどう認識しているのかを開示することと、識別されたリスクと機会に対応する指標と目標を開示することは、投資家にとって有用な情報と考えられます。 
 


多様性に関する指標

記述情報開示原則において、「女性管理職比率」等の多様性に関する指標について、連結グループにおける会社ごとの指標の記載に加えて、連結ベースの開示に努めるべきとされています。

この点、WG報告において “多様性に関する指標については、企業負担等の観点から、他の法律の定義や枠組みに従ったものとすることに留意すべきである。” とした上で “最低限、提出会社及びその連結会社において、女性活躍推進法、育児・介護休業法に基づく公表を行っている企業は有価証券報告書においても開示することとすべきである。” とありますが、連結ベースの開示が何を想定しているのか不明確なため、本項目についてパブリックコメントで質問がなされた場合、金融庁の回答を確認する必要があります。海外子会社の情報も含めて開示する場合には、国や地域によっては人事情報の秘匿性が高くデータの取り扱いに慎重を期するため、早期に関係部署と連携をとることが必要と考えられます。

 

セーフハーバール―ル

有価証券報告書等の虚偽記載について、金融商品取引法において罰則が規定されています。この点、改正案では以下の内容が提案されています。

“サステナビリティ情報をはじめとした将来情報の記載について、将来情報に関する経営者の認識及びその前提となる事実や仮定等について合理的な記載がされる場合や、将来情報について社内で適切な検討を経た上で、その旨が、検討された事実や仮定等とともに記載されている場合には、記載した将来情報と実際の結果が異なる場合でも、直ちに虚偽記載の責任を負うものではないことを明確にすることとします。”

将来情報と実際の結果が異なる場合の程度については明確に示されていませんが、定量情報・定性情報をもって合理的に説明でき得る限りにおいては許容されるものと考えられます。

4. 適用時期

改正後の「企業内容等の開示に関する内閣府令」等は、2023年3月31日に決算を迎える会社から適用となります。このため、上記の改正内容を反映した有価証券報告書を、3月決算会社は金融商品取引法第24条第1項に基づき事業年度経過後3カ月以内、すなわち6月末までに提出する必要があります。タイトなスケジュールとなることが予想されることから、有価証券報告書の作成部署はサステナビリティ推進部署や人事部等の関連部署と密にコミュニケーションを図り、有価証券報告書の開示内容について早期かつ計画的に取り組むことが望まれます。

【共同執筆者】

羽石 康人
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部 マネージャー

GHG排出量、産業廃棄物排出量、社会性項目に関する第三者保証、TCFD開示アドバイザリーを中心とする業務に従事。その他、SBT、ESG評価向上、統合報告書作成等のアドバイザリーならびに非財務情報開示の海外動向などに関する調査にも携わる。
10年以上にわたり、上場会社、非上場会社、地域金融機関、ファンドなどの財務諸表監査、IPO支援、内部統制支援に従事。公認会計士。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

サマリー

改正案は2022年12月7日までパブリックコメントを募集しており、これを受けてどのような変更が行われるか注視が必要です。

改正内容の詳細については当法人の企業会計ナビをご参照ください。

この記事について

執筆者 沢味 健司

EY Climate Change and Sustainability Services, Japan CCaSS Quality Leader

持続可能なより良い社会の発展を目指し、新世代のために情熱を傾ける。プライベートでは障害を持つ人々の活動をサポート。