2. PRBがもたらす意味と現状
実は今回のPRB発足は他の責任原則である責任投資原則(Principles for Responsible Investment: PRI)、持続可能な保険原則(Principles for Sustainable Insurance: PSI)に次ぐ、3番目かつもっとも遅れた発足となりました。導⼊が遅れた原因の一つとして、取引先との関係が強く、簡単に融資先を変更できないなどの理由が挙げられています。PRIを始めとしたサステナブルな企業行動が広まるにつれ、今回ついに発足という形に至りました。この発⾜により、⾦融に関する3アクター(投資、保険、銀⾏)全てが責任投資に関与します。特に⽇本においては、間接⾦融から資⾦調達をする企業が多いため*3、銀行が責任投資に関わることは大きな意味をもたらします。
PRBの発足以降すでに大手3行が署名していることを考えると、持続可能な社会に向けてより良いお金の流れをつくろうとするサステナブルファイナンスの動きがさらに高まるのではないでしょうか。特に化石燃料に関しては、世界から見ても日本の3大メガバンクが多く投融資をしている分野ですが、この原則により投融資を控えるだけでなく投融資引き上げの検討も始まっています。すでにみずほフィナンシャルグループでは2020年6月から石炭火力発電への新規投融資を停止させると表明している状況です*4。
将来的に、この原則の署名の有無や、サステナブルファイナンスに向けた活動状況に関して外部のESG(社会・環境・ガバナンス)評価機関の評価項目に組み込まれることも予想されます。実際に、ESG投資指標を作るDow Jones Sustainability Indices(DJSI)の企業向け質問票のサステナブルファイナンスのセクションでは、アセットマネジメントへのESG基準の統合について問われています*5 。
4. 総括
サステナブルファイナンスを促進するに当たり、PRI、PSIに続き2019年に発足したPRBにより、金融市場におけるアクターがそろいました。原則実施の体制まで4年の猶予があるため、すぐにはモデルとなるような銀行は現れないかもしれません。しかし、各行がインパクト評価に基づいて取り組みを進めることになるとすれば、よりサステナブルな融資が増えていくことが推測され、融資を受ける側の企業も資金調達の在り方を変化せざるを得ない状況になる可能性があります。サステナブルファイナンスに向けてのサイクルは今後より一層活性化されていくと予想されます。
PRBの発足や現状を踏まえて、EYでは主に3つの重要ステップであるインパクト分析、目標設定と実施、説明責任を行うことにおいて包括的な支援を提供できます。インパクト評価では、UNEP FIのインパクト評価ツールを利用して融資先のセクターや融資プロジェクトの内容を評価したり、事業に関連する国のニーズや優先課題などを整理したりすることによってご支援する予定です。また、必要に応じてステークホルダーとのエンゲージメントも実施して目標や行動計画などの策定あるいはレビューに携わり、客観的に信頼できる情報発信のサポートが可能です。
脚注
*1 United Nations Environmental Programme - Finance Initiative, Signatories, https://www.unepfi.org/banking/bankingprinciples/signatories/ (アクセス日:2020年12月18日)
*2 United Nations Environmental Programme, 130 banks holding USD 47 trillion in assets commit to climate action and sustainability, https://www.unenvironment.org/news-and-stories/press-release/130-banks-holding-usd-47-trillion-assets-commit-climate-action-and , September 2019(アクセス日:2020年11月23日)
*3 内閣府, 、今週の指標No.1231「規模別にみた直接金融による資金調達の動向について」(2020年3月4日) 、 https://www5.cao.go.jp/keizai3/shihyo/2020/0304/1231.pdf (アクセス日:2020年11月23日)
*4 みずほフィナンシャルグループ銀行、責任ある投融資、
https://www.mizuho-fg.co.jp/csr/business/investment/index.html (アクセス日:2020年11月23日)
*5 Finch&Beak, Acerating sustainability performance, https://www.finchandbeak.com/documents/Summary Methodology Changes DJSI 2019.pdf, March 2019 (アクセス日:2020年11月23日)
サマリー
銀⾏に対して持続可能な開発⽬標(SDGs)やパリ協定の達成に向けた共同⾏動を⾏う原則であるPRBが発⾜しました。署名機関はインパクト分析を通じて⾃社のポートフォリオをよりサステナブルなものに変更する必要があります。この原則により、サステナブルファイナンスへの動きがより⼀層活性化する可能性があります。