2023年5月9日
TNFDベータv0.4版発行:開示の実施に関する追加的ガイダンス(Annex 4.2)および開示指標(Annex 4.3)について

TNFDベータv0.4版発行:開示の実施に関する追加的ガイダンス(Annex 4.2)および開示指標(Annex 4.3)について

執筆者 茂呂 正樹

EY Climate Change and Sustainability Services, Japan Environmental, Health & Safety (EHS) Leader, Nature Services APAC Regional Lead

環境、サステナビリティの世界にプロフェッショナルとして20年超関与。食、旅、波を愛する。

2023年5月9日

自然関連の財務情報開示フレームワークTaskforce on Nature-related Financial Disclosures(TNFD)のベータv0.4版が2023年3月28日に発表され、多くの付属文書が公表されました。

本稿ではそのうち、開示の実施に関するガイダンス(Disclosure Implementation Guidance:Annex 4.2)と開示指標に関する付属書類(指標リスト)(Disclosure Metrics Annexes:Annex 4.3)について概説します。

要点
  • 開示の実施に関するガイダンスでは、一般的要求事項と、それぞれの開示提言の詳細なガイダンスが提示されました。
  • 開示指標に関する指標リストでは、5つのカテゴリの開示指標が提示されました。

2023年3月28日にTNFDベータv0.4版が発行されました(2023年9月に最終化されたv1.0版が発行予定)。今回のベータv0.4版でも追加的なガイダンス等の付属書類が多々発行されていますが、本稿ではそのうち、以下の開示の実施に関する追加的ガイダンスと開示指標に関する付属書類について、概要を説明します。

  • Annex 4.2 開示の実施に関するガイダンス(Disclosure Implementation Guidance)
  • Annex 4.3 開示指標に関する付属書類(指標リスト)(Disclosure Metrics Annexes)

1. 開示の実施に関するガイダンス(Disclosure Implementation Guidance:Annex 4.2)

 

一般的要求事項(General requirements)

ガバナンス、戦略、リスクおよび影響の管理、指標と目標の4つの柱(Pillar)にまたがる開示の一般的要求事項(General requirements)として、以下の6項目が提示されました。これは、もともとベータv0.1版(2022年3月発行)において提示されていたものが、追加、改訂されたものです。その概要は以下の通りです。

 

① 重要性(マテリアリティ)へのアプローチ(Approach to materiality)
  • 重要性特定のプロセスを(必要に応じて外部基準や規制要件も踏まえ)開示
  • 関連する全ての指標(Indicator)の報告を強く推奨
  • 特定のステークホルダー(投資家、市民社会等)に関わる主要情報を明確に示す
  • 重要性の閾値の定義、制限や除外事項(Limitation and exclusions)、優先順位付けについての開示
② 開示のスコープ(Scope of disclosures)
  • サプライチェーン上の開示カバー範囲(上流、直接操業、下流、投資先(金融機関の場合)等。各段階ごとに開示)
  • 開示対象としたTNFDフレームワークの要素
  • 将来的なスコープ拡大予定
③ 自然関連の依存・影響とリスク・機会の考慮(Consideration of nature-related issues)
  • 自然への依存と影響、それに基づくリスク、機会の特定(これら4要素について明確に区別すること)
④ ロケーション(Location)
  • 自然への依存と影響、ステークホルダーへの影響は、特定の生態系で発生するもののそれを越えた連鎖があることを認識し、評価においては組織が自然と接する場所についての検討を要する
⑤ 他のサステナビリティ関連開示との統合(Integration with other sustainability issues)
  • 自然に関する開示は、可能な限り事業や他の持続可能性(特に気候変動)に関連する開示と統合し、財務および非財務状況について統合的、全体的なイメージを提供すること
⑥ ステークホルダー・エンゲージメント(Stakeholder engagement)
  • 影響を受けるステークホルダーとのエンゲージメントにおいて議論された問題や懸念は、開示内容を作成において考慮すること

開示における推奨事項(Recommended disclosures)

4つの柱(Pillar)それぞれにおける開示提言については、ベータv0.4版においても引き続き改訂がなされているところですが(概要については別稿にて提示しています)、本ガイダンスでは14の開示提言それぞれについて、全セクターを対象としたより詳細なガイダンスがなされています。一部ではありますが、ガバナンスについてのガイダンスの概要(開示において検討すべき事項)は以下の通りです。

 

ガバナンス

A:自然関連の依存関係、影響、リスクと機会に関する取締役会の監視について説明する
  • 取締役会等が、自然関連の依存、影響、リスク、機会について情報を得るプロセスと頻度
  • 戦略、事業計画等の見直しや、業績目標設定、パフォーマンス監視、主要な資本支出、買収/分割等において、自然関連の依存関係、影響、リスクおよび機会を考慮するか、どのように考慮するか
  • 自然への依存、影響、リスク、機会に関する目標への進捗をどのように監視・監督しているか
  • 自然関連事項に関する能力を有する取締役会メンバーの数(絶対数および全体に占める割合)
B:自然関連の依存関係、影響、リスク、機会の評価と管理における経営者の役割について説明する
  • 経営レベルや委員会への自然関連の責任の割り当て(依存、影響、リスク、機会の評価や管理も含むか)、取締役会への報告
  • 関連する組織の構造についての説明
  • 経営陣が依存、影響、リスク、機会について知らされ、監視するプロセス

2. 開示指標(Disclosure Metrics Annexes:Annex 4.3)

上記の開示の実施に関するガイダンス(Annex 4.2)では、幾つかの開示提言において、本追加文書:開示指標(Annex 4.3)で掲載された指標(Indicators, Metrics)を参照することが推奨されています。

本追加文書:開示指標(Annex 4.3)は、指標のタイプ別に大きく以下の5つの追加文書(Metrics Annex)で構成されています。Annex 1~3については、TNFDの開示提言との関連性は図1の通り整理されています。Annex 4~5についても戦略のAと指標と目標のBに関するものとして整理されています。

Metrics Annex 1:依存と影響に関する開示指標(Dependency and impact disclosure metrics)

Metrics Annex 2:リスクと機会に関する開示指標(Risk and opportunity disclosure metrics)

Metrics Annex 3:反応(対応)に関する開示指標(Response disclosure metrics)

Metrics Annex 4:農業、食品セクターにおける開示指標(Disclosur metrics for the agriculture and food sector)

Metrics Annex 5:熱帯雨林生物群に関する開示指標(Disclosur metrics for the tropical forest biome)

図1 TNFD開示提言とタイプ別開示指標(Annex)との関係

図1 TNFD開示提言とタイプ別開示指標(Annex)との関係

各開示指標の概要は以下の通りです。なお、これらの指標は現段階ではドラフトであり、今後フィードバック等を経て改訂される可能性があります。

 

① 依存と影響に関する開示指標(Metrics Annex 1)
  • 該当するTNFD開示提言:戦略A、戦略B、指標と目標A
  • 土地/水使用、汚染/汚染除去等に関する10項目のコア・グローバル開示指標(Core Global Disclosure Metrics)が提示されています。生物多様性枠組み等の国際的な目標等と連動していることから、当該10項目については全て含めることが強く推奨されています(報告しない指標がある場合は、その理由について説明することが求められています)
  • その他、自然の変更要因、自然の状態等に関する追加的な指標も提示されています
表1 依存と影響に関する開示指標の例
自然の変化要因 指標番号 指標
(Indicator)
指標(Metric) 生物多様性枠組
(GBFとの関連性)
陸地、淡水、海洋の使用の変化 C2.0 陸地、淡水、海洋利用の変化の全範囲 生態系の種類(変化前と変化後)、事業活動の種類(絶対値と前年からの変化)ごとの土地/淡水/海洋利用の変化の程度 目標1, 2, 11
汚染/汚染除去 C3.0 土壌に放出された汚染物質の総量 汚染物質の種類に関するセクター別ガイダンスに基づく、土壌に放出された汚染物質の総量 目標7, 11

出典:The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v0.4 Annex 4.3 Disclosure Metrics Annexes(2023年4月28 日アクセス)を基にEY作成

② リスクと機会に関する開示指標(Metrics Annex 2)
  • 該当するTNFD開示提言:戦略A、指標と目標B
  • 5項目のコア・グローバル開示指標が提示されており、全て含めることが強く推奨されています(報告しない指標がある場合は、その理由について説明することが求められています)
  • その他、組織レベルのリスク、機会に関する追加的な開示指標およびリスク・機会のタイプ(物理、法律、市場、評判、技術、資源効率、機会等)ごとの追加的な開示指標が提示されています。これらについては網羅的である必要はなく、自社にとって重要なリスク、機会について報告することとしています
表2 リスクと機会に関する開示指標の例
カテゴリ 指標番号 指標(Metric)
自然関連リスク C5.0 以下のリスクに影響を受ける割合と年間総売上高
1)物理的リスク
2)移行リスク
自然関連機会 C6.0 政府または規制当局のグリーン投資タクソノミーに関連する自然関連の機会に割り当てられた資本価値(機会の種類別)

出典:The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v0.4 Annex 4.3 Disclosure Metrics Annexes(2023年4月28 日アクセス)を基にEY作成

③ 反応(対応)に関する開示指標(Metrics Annex 3)
  • 該当するTNFD開示提言:ガバナンスA、ガバナンスB、リスクと影響の管理A、リスクと影響の管理B、リスクと影響の管理C
  • LEAPアプローチのP(Prepare)に関する指標として今回公開されました
  • 依存、影響、リスク、機会に対する行動、方針、計画、目標を管理するものとして位置付けられています
  • 提示されている指標は全て追加的指標に位置付けられ、網羅的である必要はなく、自社事業モデル等に沿って適切なものについて報告することとしています
表3 反応(対応)に関する開示指標の例
カテゴリ 指標番号 指標(Metric)
自然の変化(依存および影響):ミティゲーションの階層 A17.0 循環資源使用比率(%)
A17.1 自然アクションプランの策定サイト比率(%)

出典:The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v0.4 Annex 4.3 Disclosure Metrics Annexes(2023年4月28 日アクセス)を基にEY作成

④ 農業、食品セクターにおける開示指標(Metrics Annex 4)
  • 該当するTNFD開示提言:戦略A、指標と目標B
  • 産業セクターレベルや、生物群(Biome)固有の比較可能性の重要性に鑑み、TNFDではセクター固有、生物群固有の開示指標を開発しています。ベータv0.4版では、この内農業、食品セクターの開示指標および熱帯雨林生物群についての開示指標が発行されました。今後、他の産業セクターや生物群に係る開示指標についても開発される予定です
  • 農業、食品セクターの対象となるサブセクターは、農産品、畜産(食肉、家禽、酪農)、食品加工、食品小売・流通、飲食業です
  • 影響要因に関するコア・セクター開示指標および影響要因、自然の状態の変化に関する追加的指標が提示されています。コア・セクター開示指標については、自社の事業やセクター、生物群、優先地域に関連するものは全て開示対象とすることが強く推奨されています(報告しない指標がある場合は、その理由について説明することが求められています)
表4 農業、食品セクターにおける開示指標の例
指標カテゴリ サブカテゴリ セクター横断指標 指標番号 コア/追加 農業/食品セクター指標(Metric) 出典
影響要因 陸地、淡水、海洋の使用の変化 陸地、淡水、海洋利用の変化の範囲
•生態系の種類別(変化の前後)
•ビジネス活動別
•優先的な生態系
SC2.0 コア 2020年以降の農業による陸域自然生態系の転換規(km2)
少なくとも原生林、その他の自然再生林(二次林)、淡水の自然生態系で、所有、リース、運営、資金提供、調達先の土地に関連したもの
GBF目標1, 2
SBTN目標
(陸地:2023年ドラフト)
自然の状態の変化 生態系の状態、範囲 組織が依存または影響を受ける優先的な場所における、生態系の状態および範囲の変化の定量的測定 SA6.0 追加 土壌侵食、土壌肥沃度の低下、灌漑地の塩害、湛水など、農業生産総面積に占める土壌劣化のある土地の割合 FAO
(2021年)

出典:The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v0.4 Annex 4.3 Disclosure Metrics Annexes(2023年4月28 日アクセス)を基にEY作成

⑤ 熱帯雨林生物群に関する開示指標(Metrics Annex 5)
  • 該当するTNFD開示提言:戦略A、指標と目標B
  • 影響要因、生態系の状態/広がりに関する開示指標が提示されています。これらは全て追加的指標に位置付けられています
  • これらの指標を開示する際は、森林被覆損失を評価する際に用いた手法やツールについても開示することとしています
表5 熱帯雨林生物群に関する開示指標の例
指標カテゴリ 自然変化要因 セクター横断指標 指標番号 熱帯雨林生物群指標(Metric) 出典
影響要因 陸地、淡水、海洋の使用の変化 陸地、淡水、海洋利用の変化の範囲
•生態系の種類別(変化の前後)
•ビジネス活動別
•優先的な生態系
BA2.0 直接的な事業規制エリア内における自然林被覆の損失(天然林被覆の損失を評価するために使用した方法とツールの説明を含める) TNFD
生態系の状態、範囲 N/A 組織が依存または影響を受ける優先的な場所における、生態系の状態および範囲の変化の定量的測定 BA6.0 平均種数(MSA)で測定される生態系の状態(伐採など森林を利用した活動の場合は管理用に調整されたもの) Schipper他(2020年)

出典:The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v0.4 Annex 4.3 Disclosure Metrics Annexes(2023年4月28 日アクセス)を基にEY作成

まとめ

2022年3月のベータv0.1版発行から今回のベータv0.4版発行を経て、開示すべき情報がより具体的、明確になってきました。気候変動に関する開示フレームワークであるTCFDについては、多くの企業がこれに沿った開示を進めているところですが、TNFDについても、TCFDとの差異、気候変動対応との違い等も踏まえ、取り組み、開示すべき方向性が見えつつあると思われます。早いところでは、既にTNFDベータ版を踏まえた取り組み、開示を試行的に始めている企業も見られ、今後、その動きはより活発になっていくものと思われます。

EYの気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)では、これまでのTCFDに係る取り組み、開示支援の豊富な実績に基づく知見と、生物多様性/自然資本に係るバックグラウンドを持つ人材により、TNFDについても有用な支援サービスを提供させていただきます。

関連資料

  • The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Final Draft – Beta v0.4
  • The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v0.4 Annex 4.2 Disclosure Implementation Guidance
  • The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v0.4 Annex 4.3 Disclosure Metrics Annexes

【共同執筆者】

多田 久仁雄
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部 マネージャー

20年以上にわたり、環境に関する業務に従事。
温室効果ガスをはじめとしたESG/サステナビリティ情報に関する第三者保証や関連アドバイザリー、また生態系・自然環境分野、廃棄物リサイクル分野など、環境全般について広く経験を有する。
現在は気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)のコンサルタントとして、主に環境/EHS分野での業務に従事し、顧客のサステナビリティパフォーマンスの向上に貢献している。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

サマリー

開示の実施に関するガイダンス(Annex 4.2)では、4つの柱にまたがる6項目の一般的要求事項と、また14項目の開示提言それぞれについて詳細なガイダンスが提示されました。

開示指標に関する指標リスト(Annex 4.3)では、依存と影響、リスクと機会、反応(Response)に関する開示指標、またセクター、生物群固有のものとして、農業・食品セクター、熱帯雨林生物群に関する開示指標が提示されました。

この記事について

執筆者 茂呂 正樹

EY Climate Change and Sustainability Services, Japan Environmental, Health & Safety (EHS) Leader, Nature Services APAC Regional Lead

環境、サステナビリティの世界にプロフェッショナルとして20年超関与。食、旅、波を愛する。

EY ネイチャーポジティブ(生物多様性の主流化に向けた社会変革)

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