2020年6月24日
サプライチェーンネットワークが弾力性を備えるには

不確実なビジネス環境下でサプライチェーンネットワークが弾力性を備えるには

執筆者 平井 健志

EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 サプライチェーン&オペレーションズ パートナー

製造業・流通業に対しSupply Chain Transformationのソリューションをリード。趣味はサーフィン。

2020年6月24日
関連トピック サプライチェーン

不安定なビジネス環境を前提にすると、サプライチェーンネットワークには、サプライチェーン全体を横断的に管理するコントロールタワーの設置、有事に備えたプレイブックの策定、デジタル技術を駆使したさまざまなシナリオ検証により弾力性を担保することが重要です。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的なまん延により、ヒト・モノの動きが厳しく制限されると、必然的にサプライチェーンへの影響が避けられない現状を私たちは目の当たりにしています。例えば、ヒトの移動制限による労働力不足、入港制限による遅延、航空便の減便に起因する輸送能力低下と輸送費高騰などが重なり、物流の安定的な維持が懸念されます。結果として、原材料や部品の供給が滞ることで生産遅延が発生し、消費者への商品供給ができず、販売機会損失など企業活動に大きな影響を及ぼしかねません。グローバルなサプライチェーンを基盤とする企業にとっては、貿易摩擦や関税といった観点も含めて、弾力的なサプライチェーンを構築する必要があるでしょう。
サプライチェーンがさまざまな要因によって複雑化する中、その構築・維持には、新型コロナウイルス感染症のような伝染病や自然災害といった多岐にわたるリスク、またそれらが顕在化した際の危機への対応が求められます。これらの事態に対応するためには、従前の安定的なビジネス環境を前提にするのではなく、不確実性を抱えた環境にも柔軟に対応できるサプライチェーンの構築が不可欠です。構築にあたっては、リスクへの対応局面(Now/Next/Beyond)ごとに必要な施策を打つとともに、有事に対する平時での備えが求められます。

まず、事業の継続性を最優先に確保するためのNowフェーズでは、足下のオペレーションと並行してリスク診断を実施し、サプライチェーンに潜むリスクを見極めます。
そして、Nextフェーズは、継続する危機および第2波/2番底に迅速に応じる体制・基盤を構築します。

  • 全体のリスクを管理するコントロールタワーの設立
  • リスクシナリオに基づくプレイブック(行動計画)の策定

その先のBeyondフェーズでは、想定リスクの検討・評価、これを踏まえた代替ネットワークを構築します。

  • サプライチェーンモデルをデジタルツイン化
  • What-Ifシナリオシミュレーションによる弾力的なサプライチェーンネットワークの設計

全体のリスクを管理するコントロールタワーの設立

部門横断でサプライチェーン全体のリスクを管理するコントロールタワーを設け、可視化およびモニタリングすることが、異常の早期発見と対応につながります。例えば、サプライチェーン全体の調達・在庫・物流それぞれの状況をモニタリングすることで事業運営上不可欠な原材料を追跡でき、ロックダウンや港湾/都市封鎖に起因するサプイチェーンの途絶を監視することが可能です。コントロールタワーは、リスクの予兆を素早く検知し必要な調整を促すことでリスクを緩和し、リスク要因の積み上げによるリスクシナリオの実行を回避するとともに、サプライチェーンの整流化を促進する調整機能としても有効です。

リスクシナリオに基づくプレイブックの策定

需給変動が従来よりもはるかに広範囲に生じるようなリスクに対しては、特定の災害への対応を記した事業継続計画(BCP)よりもリスクシナリオに基づくプレイブックによる事前の対応計画の策定が有効です。各リスクシナリオに対するサプライチェーンへの影響分析に依拠したプレイブックを策定しておくことで、企業内での対応策に関する評価および意思決定が迅速にでき、リスク発生時の混乱状況から短いサイクルでの回復が期待できます。また、属人性の排除や、従来調整に時間を要する部門ごとの特性を踏まえた計画作りを事前に行うことができます。
結果として、早期回復することが市場競争力を高めることにつながります。

サプライチェーンのデジタルツイン化

弾力的なサプライチェーン構築にあたり、生産や物流の現場などでの物理的な環境をサイバー空間上で再現(デジタルツイン化)することが有効です。サプライチェーンの実行プロセス全体を可視化しモニタリングすることで想定リスクの検討・評価、これを踏まえた代替ネットワークの検証を可能にします。 デジタル化されたサプライチェーンモデル上では、現実世界におけるシミュレーションが難しい複数のリスクシナリオの実地検証などをサイバー空間で効率的かつ迅速に実施できます。

What-Ifシナリオシミュレーションによる弾力的なサプライチェーンネットワークの設計

現在および将来における複数のリスクシナリオを策定し、サプライチェーンへの影響度を評価した上で、これに耐え得る弾力的なネットワークを設計します。シナリオ策定では、需給変動の予測シミュレーションを実施し、各予測の発生可能性や発生時の影響度、キャパシティの再配分、流通フローの変更などを鑑みて、優先順位と対応方針を決定します。シナリオごとの分析・比較を基に、有事の際の需給変動に対応可能なネットワークモデルを確定します。また、シナリオごとの分析内容と対応方針は、策定しているプレイブックに反映し、より効果的なリスクへの行動計画にしていくことが可能です。

サプライチェーンの弾力性構築に向けたそれぞれの施策の具体的な検討対象・構築手法については以下の記事を参照ください。 

サマリー

弾力的なサプライチェーンネットワークを構築するためには、ビジネス環境の不確実性を前提としたコントロールタワーの設置検討、プレイブックの策定、デジタルツイン化、シナリオシミュレーションといった対応が必要となるでしょう。各施策が互いに連携することで、ほぼリアルタイムでモニタリング、リスク検知、複数のシナリオシミュレーションが可能となり、弾力的なサプライチェーンネットワークの維持を支えることができます。EYではサプライチェーンネットワーク全体の構想策定、それを支えるプロセス、データ、運用設計と基盤構築からセットアップから定着化までワンストップで支援します。

この記事について

執筆者 平井 健志

EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 サプライチェーン&オペレーションズ パートナー

製造業・流通業に対しSupply Chain Transformationのソリューションをリード。趣味はサーフィン。

関連トピック サプライチェーン
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