調達戦略は、企業の目指す方向性とまったく一致していない場合や、評価指標が明確に定義されていない場合が少なくありません。調達機能は、本来生み出すことのできる価値ではなく、単純に調達機能がもたらすことのできるコスト削減額のみで把握されることが多くの企業で行われています。
調達戦略を事業目標に一致させる
調達戦略を企業の目指す姿や目標に一致させて経営側と調達部門が共通のゴールに向かって進むことができれば、優位性のある調達機能の確立は実現します。簡単そうに聞こえるかもしれません。しかし、これは、以下に示す課題が障壁となり、一筋縄にはいかない領域であるとEYでは常々感じています。
課題1:戦略の方向性が一致していない
多くの企業では、事業戦略と調達戦略の方向性が一致していません。そのような場合、調達部門が追求している目標は、企業の目指す姿や目標をサポートするものではないかもしれません。ともすれば、それらの実現を阻害してしまうものである可能性もあります。戦略の方向性にギャップが生じるのは、調達部門の着眼点が常にコスト削減であるのに対し、経営幹部は、イノベーションやサービスを通じた収益の成長を重視していることが要因として考えられます。調達担当者は、価格交渉だけの関係性ではなく、適切な行動を促すビジネス関係をサプライヤーと築く必要があります。
課題2:評価指標が適切でない
調達戦略が事業戦略の方向性と一致していたとしても、調達部門の成果がコスト削減幅で評価されるのであれば、同部門は、引き続き、コスト削減に注力していくでしょう。しかし、サプライヤーとの共同イノベーションに向けた戦略の実行は、コスト削減だけでなく、新しい製品やサービスの創出につながる可能性も秘めています。最近、EYが支援したクライアントの中に、ひたすら運用コストの削減を追い求めている企業がありました。こうした企業の調達部門では、イノベーションの実現に向けた企業の取り組みを後押しするための新たな方策の立案にはほとんど力を入れていませんでした。
課題3:調達担当の経営幹部が不在
調達担当の経営幹部CPO(Chief Procurement Officer)等を置いていない企業では、調達部門は経営層レベルの裁量権はなく、企業戦略上重要な機能として認識されていません。こうした状況下では、調達部門が事業戦略に足並みを揃え、サポートし、影響力を持つことは難しいでしょう。サプライヤーの能力やコストに関する情報を経営層と共有するCPOがいれば、調達部門は新規の製品開発に関する主要な意思決定に影響力を発揮できるでしょう。
課題4:支出への影響力が限定的
調達部門は、組織内のサードパーティー支出の全体像を把握できない場合、影響力が限定的になり、その結果、過小評価を受けるだけでなく、企業に真の価値をもたらすことも難しくなります。実際、EYのプロフェッショナルサービスでもこうした事例は多く、例えば、プロバイダー選定を経営層だけで進めている企業では、自社の事業の立ち位置、専門的ナレッジ、現場の声などの情報に基づいた意思決定が行われず、より良い結果を生み出す機会を逸してしまっています。
課題5:ケイパビリティの不足
調達部門では、多くの場合、戦略レベルの活動や、市場に対する鋭いインサイトやインテリジェンスの提供に必要なケイパビリティが不足しています。これにはさまざまな理由が考えられますが、特に、データ分析のスキル不足、担当者の経験不足、契約社員の過剰使用などが要因として挙げられます。適切なリソースとケイパビリティを備えた成熟した調達機能を構築するには、強固なリーダーシップが不可欠です。
サプライサイドの優位性を創出するには、まず調達戦略と事業戦略の整合性を図り、上記に示した課題に一つひとつ対処していくことが必要です。その際に、貴社の調達部門が以下の事項を積極的にサポートしているかどうか考えてみてください。
- イノベーション
製品やサービスの開発を支援するためにビジネスパートナーやサプライヤーと協働していますか。生産工程などの改善に向けた継続的な支援の提供やイノベーションファンドの立ち上げなどを通じてビジネスパートナーやサプライヤーとの協働を促進する取引上の合意の締結において、調達部門はファシリテーターとしての役割を果たすことができます。
- 供給の確実性
供給の確実性を担保し、供給のディスラプションを回避するために、より強固で安定したサプライヤー基盤を構築していますか。調達部門による、リスクのスコアリング、モニタリング、緩和のプロセスの効果的な実行に向けたサポートは、先を見据えた意思決定の促進につながります。
- コストリーダーシップ
調達した商品やサービスの価値をコスト面で最適化していますか。調達部門は、サプライヤーとの取引上の合意を締結する際に、総所有コストまでも考慮する必要があります。
- 俊敏性とサービス
予期せぬニーズや、さまざまな要件に合わせたカスタマイズサービスなどへの柔軟な対応を可能にする商品やサービスを調達して企業と顧客の期待に応えていますか。例えば、オムニチャネル化をサポートできますか。事業環境の変化に対応できますか。
戦略を策定したら、次に、その戦略による成果を検証するための指標を統一します。これは、適切な評価を行う上で重要なプロセスです。調達部門が組織に価値をもたらし始め、その価値が大きくなるにつれ、経営幹部の関心も雪だるま式に高まっていくでしょう。