2020年6月12日
6分類のサプライチェーン・リスクを特定し解決するには(本記事)

6分類のサプライチェーンリスクを特定し解決するには

執筆者 平井 健志

EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 サプライチェーン&オペレーションズ パートナー

製造業・流通業に対しSupply Chain Transformationのソリューションをリード。趣味はサーフィン。

2020年6月12日
関連トピック サプライチェーン

弾力的なサプライチェーンの構築には、リスク診断によって、危機発生時の収益構造を分析し、経営に影響を与えるリスクファクターを洗い出し、対応すべき課題を特定することが重要です。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的なまん延は、いかにサプライチェーンがリスクにさらされているかを示す契機となりました。しかし、サプライチェーンが影響を受け得る事象は伝染病だけではなく、自然災害や貿易障壁、テロ、サイバー攻撃など多岐にわたっています。米中貿易摩擦や新型コロナウイルス感染症のように、予期せぬ急変をもたらす事象をすべて織り込んでサプライチェーンを構築することは非常に難しく、従来の安定的なサプライチェーンから、不安定性を前提とした弾力性のあるサプライチェーンの構築へとパラダイムの転換が不可欠です。

サプライチェーンの弾力性構築の実現にあたり、サプライチェーン全体に及ぶリスクを把握することが重要です。その第一歩として「サプライチェーンリスク診断」をご紹介します。

なぜリスク診断が必要か

危機対応下において、経営資源が限られている中、対処すべきリスクを見極めることが初動対応の成否を分けます。リスクに対する場当たり的な対応では、対応の工数がかかり危機からの回復が遅れるだけでなく、潜在的リスクの増大にもつながります。また、製品の市場における重要度や収益性といった観点での優先度を検討し、損失を最小限にとどめることが重要です。加えて、危機発生時における収益構造を平常時と比較分析することで、サプライチェーンの脆弱性が経営に与える影響を把握できます。そのため早期のタイミングにおいて、潜在的なリスク、事業継続にあたっての優先度、コスト構造分析によるサプライチェーンの脆弱性といった視点からサプライチェーン全体に関わるリスクを診断し、優先的に対応すべき課題を洗い出します。

サプライチェーンリスク診断とは 

リスク診断は6つのカテゴリーから構成されます。
その範囲はサプライヤーから、製造・物流、顧客にわたるまでを包括したサプライチェーン全体です。診断は各カテゴリーに関連する拠点・部門へのインタビューによって行われ、現状のリスク対応の習熟度を確認することで、最終的にカテゴリーごとのリスクレベルを可視化します。ERP(企業資源計画)システムなどデータが一元管理できている場合は、データによる定量診断も可能です。

6つのカテゴリー

1. 情報と分析
  ・重要なデータの可視化
  ・現状のサプライチェーンにおける影響の特定

2. 動的なネットワークの最適化
  ・グローバルにまたがる貿易、関税、政策
  ・供給から流通までの業務プロセスの担保

3.  総合的な計画の見直し
  ・事業・製品体系ごとの需要見込みの見直し・仮説シナリオの策定
  ・生産・供給計画の見直し・仮説シナリオの策定

4. サプライヤー・顧客との連携
  ・代替サプライヤーの特定と評価
  ・サプライヤー・顧客との契約リスクの把握

5. 財務リスクの影響緩和
  ・財務影響評価
  ・リスクと保証の影響分析

6. 危機管理ガバナンス
  ・ 労働の制約と影響の把握
  ・ 危機管理とコミュニケーション

リスク診断の質問例

実際にリスク診断のインタビューでどういった内容を確認するのか、それによってどのような対応が想定されるのかを、「動的なネットワークの最適化」を具体例に見てみましょう。

動的ネットワークにおけるクイック診断
  • 今後予定されている生産計画を維持するため、必要となる重要部品を特定し、関連する1次~3次請けサプライヤーの場所を把握しているか
  • 仮説シナリオに基づき、サプライチェーン全体で代替利用が必要な港湾、輸送方法、貿易ルートをそれぞれ検討しているか
  • 生産活動においてボトルネックとなり得る制約条件やキャパシティが特定されているか
  • 移動制限に伴う輸送および生産における労働力不足の影響を評価しているか
  • ビジネス状況とプロジェクト進捗のアップデートを行うため、主要な拠点間のコミュニケーションを実施しているか
  • 販売チャネルごとの需要の変化を確認・分析しているか(例:eコマースにおける売り上げの増加など)


実際のインタビューでは診断項目をより現場業務に即した形での内容に落とし込み、情報の管理、ヒト・モノの動き、財務的な事実に基づいて診断することが重要です。

リスク診断後の対応ステップ

対応すべきカテゴリーはリスクの影響度の大きい順に優先順位を付け、リスクの全体像を把握し、優先度の高いカテゴリーの課題を具体化します。

  1. サプライチェーンリスクの深堀り
    リスクの影響度の大きいカテゴリーについて、リスクファクターを分析し、課題を特定します。
  2. 特定された課題への対応方針策定
    特定した課題に優先順位を付け、対応方針・内容を検討します。プランニング、サプライチェーンネットワーク、コストの最適化といった観点で進めていくことが有効です。
  3. 課題対応タスクフォースの設立
    施策実行にあたっては、進捗状況の管理、サプライヤーや複数の部門やエンティティといったステークホルダーとの折衝や意思決定が必要となるため、専任の課題対応のタスクフォースを設立することが肝要です。
  4. 活動計画の策定から実行まで
    ステップ2.で検討した方針・内容に対する活動計画を策定し、実行に移します。実行にあたっては、ステップ3.の課題対応タスクフォースが主導し、実現に向けてコミットします。

サプライチェーンの弾力性構築に向けたそれぞれの施策の具体的な検討対象・構築手法については以下の記事を参照ください。 

サマリー

リスク診断により、危機発生時の収益構造を分析し、質的・量的の両側面から経営に影響を与えるリスクファクターを洗い出し、対応すべき課題を特定することが重要です。EYはリスク診断から課題の分析、対応方針の策定・実行を支援します。

この記事について

執筆者 平井 健志

EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 サプライチェーン&オペレーションズ パートナー

製造業・流通業に対しSupply Chain Transformationのソリューションをリード。趣味はサーフィン。

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