9 分 2021年3月5日

            森林を疾走するマウンテンバイク

CEOが直面する喫緊の課題:アクセルを踏み、消費者の変化の先を行く

執筆者
Kristina Rogers

EY Global Consumer Leader

Global leader for consumer industries. Marketing strategist. Worked in 20 countries. Harvard MBA. Photographer. Scuba diver. Canadian fiction reader. Mother of two.

Andrew Cosgrove

EY Global Business Insights Leader – EY Knowledge

Consumer futurist. Strategist with global FMCG experience. Storyteller. Photographer. Father.

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EY Japan 消費財・小売リーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 パートナー

国内外のM&Aトランザクションに関わるファイナンシャルアドバイザリーサービスを提供。 CPRマーケットセグメント リージョナルリーダーとして、CPRセクターにおけるEYの活動を主導。

9 分 2021年3月5日

EY Future Consumer Indexの結果から、人々が現在とは異なる未来を望んでいることが分かりました。本稿では、消費者の意向に応えるためにCEOがとるべき戦略を5つご紹介します。

要点
  • 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響に対する人々の懸念は、収まるどころか強まっている。
  • 消費者はパンデミックが収束した後、生活を根本的に変えたいと望んでいる。
  • 企業は今、より大胆に行動し、変革を加速させる必要がある。

消費財メーカーは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにうまく対応してきました。健康や衛生の重要性が高まったことに加え、巣ごもり消費へのシフトが起こった結果、その多くが大幅な成長と利益拡大を果たしました。また、想定をはるかに超えるスピードで変化を遂げ、84%が2020年に包括的な戦略とポートフォリオの見直しを実施しました1。激動の1年が過ぎ、少なくともしばらくの間はペースを落としたくなるかもしれませんが、それは誤った判断となりかねません。

消費財メーカーがこれから対応すべき消費者の行動は、従来のものとは異なります。世界中の人々は今、危機を乗り越えながら、お金の使い方や生活スタイルを根本的に変えようと考えています。第6回EY Future Consumer Indexの結果から、消費者は4カ月前に比べて自分の健康、家族、自分たちの未来に対する不安を強めていることが分かりました。消費者の多くが、生活は楽になるどころか苦しくなると予想しており、人々の懸念や価値観は、以下のように今後も変化していくでしょう。

値ごろ感が極めて重要になっている

63%

の消費者が、今後3年間、価格が選択の決め手になると回答している。

パーパスの重要性がさらに高まる

69%

の消費者が、ブランドは社会に良い変化をもたらさなければならないと考えている。

消費者がデータの提供に好意的になる

62%

の消費者が、より健康に良い商品がおすすめに表示されるなら、個人データを提供すると回答している。

消費財メーカーは、今行っている内容で事業の変革を加速させ、EYの調査で明らかになった新たなニーズに先手を打つことができるでしょうか? これは容易なことではありません。現在の商品ポートフォリオをより手頃なものにし、商品のメリットを紹介し、イノベーションを段階的に進め、直販チャネルを試行することが必要となりますが、これだけでは足りません。変化する消費者のニーズと期待に応え、さらに大胆に取り組む必要があります。

CEO Imperativeシリーズの本稿では、より迅速に変革を進めるための5つの手段を明らかにしました(CEO Imperativeは、リーダーが組織の未来を再構築できるよう、EYが重要な解決策とアクションを提供するシリーズ記事です)。

  1. 事業の設計を見直し、消費者が購入するものではなく、人々の生活スタイルを中心とする
  2. 場所や時間を問わず買い物客を獲得する
  3. 消費者を中心にサプライチェーンを再構築する
  4. 経営モデルを変更して「アセットライト化」する
  5. より広い視点から価値をとらえる

新型コロナウイルス感染症危機は、依然として消費者の生活を一変させるような影響をもたらしています。巣ごもり消費の急増が長く続くとは思えませんが、それ以外では、消費者の変化は今後加速する一方でしょう。

消費者の懸念は収まるどころか強まっている

それでは、昨年10月のEY Future Consumer Index以降、何が変化したのでしょうか? 新型コロナウイルス感染症による影響は落ち着き、ワクチンの供給と接種が増えたことにより最近では衰えを見せていますが、それにもかかわらず、人々の懸念はこれまで以上に高まっています。

前回の調査から4カ月が過ぎた現在もパンデミックは続いており、感染症の不安を感じる生活が少なくともあと1年は続くと考えている人の割合は、37%から40%に上昇しました。

パンデミックにより生活が著しく変化したと回答した人も約59%に上り、10月の53%から増加しています。感染症の拡大で生活が変化したと回答した人のうち、64%はパンデミック収束後も元には戻らないと考えています。

人々の懸念は家族の健康、生活必需品の調達、家計、基本的な自由に対して強くなっていますが、これには国・地域によって違いがあります。

消費者は今後も生活を根本的に変え、定着させていくでしょう。このような変化の中には必要に迫られたものもありますが、その多くは、人々がこれまでとは異なる生活スタイルを選んだ結果です。全世界の消費者のうち、約48%がワクチン普及後の生活はパンデミック前より良くなると考えており、36%が、新型コロナウイルス感染症の拡大により以前から願っていた変化が加速し、その変化がオンラインショッピング、商品の値ごろ感、自分の健康、サステナビリティに対する自らの姿勢に表れていると回答しています。

消費者の行動はどのように変わっていくのか

パンデミック後には、消費者のお金の使い方に、今までとは異なる生活スタイル、どのような選択をするか、消費者にとって本当に重要なものが反映されるようになると考えられます。多くの消費者は、値ごろ感や自分の健康を優先することになるでしょう。また、環境や社会面でのパーパスを重視する消費者もいるでしょう。一方、失われた時間を取り戻し、その瞬間を生きたいと考える人は少数にとどまるとみられます。

値ごろ感、健康、サステナビリティ、社会的影響、体験に対する考えには地域差があり、EYが定義する各消費者セグメントの特徴となっていますが、これらの問題については、世界中の全ての消費者が不安を感じています。

  • 値ごろ感:全世界で58%の消費者が長期にわたって支出への意識を高め、慎重になるつもりだと回答し、63%が今後3年間、価格が最も重要な購入基準になると答えている。
  • 健康:消費者の57%が長期にわたってより健康に良い商品を選びたいと考えており、43%が今後3年間、健康や「体に良いもの」が最も重要な購入基準になると回答している。
  • サステナビリティ:49%の消費者が、今後は環境と気候変動を優先した生活スタイルや商品を選ぶと回答し、26%が今後3年間、サステナビリティが最も重要な購入基準になると答えている。
  • 社会的影響:56%の消費者が、今後は社会にプラスの影響をもたらす経営を行っている企業から購入し、38%が社会に貢献する企業であれば、値段が高くてもその企業の商品やサービスの購入頻度を増やすと回答している。
  • 体験:37%の消費者が、健康や安全への不安から自宅以外での体験への参加に消極的になり、76%が楽しみ方が変わったと回答している。

未来の消費者に向けたCEOのアジェンダ

企業の3分の2以上(68%)が、今後3年間で、ビジネスモデルと経営モデルを変革するための投資拡大を計画しています2。とはいえ、現在の動向を受けて、最も大きく変える分野としてビジネスモデルを挙げたのは28%にとどまっています。企業は、より大胆な変革を追求する必要があるでしょう3。消費者の意向に応えるためにCEOがとるべきアクションとしては、以下が挙げられます。

1. 事業の設計を見直し、消費者が購入するものではなく、人々の生活スタイルを中心とする

CEOはかねてから消費者を事業の中心に据えると語ってきましたが、これを達成できた企業はほとんどありません。理由の1つとして、必要なデータの提供に消費者が慎重になっていること、また、提供されたデータを的確に利用する能力が企業にないことが挙げられます。しかし、パンデミックにより、消費者のデータの提供と利用は急増しており、例えば、62%の消費者が、より健康に良い商品がおすすめに表示されるなら、個人データを提供すると回答しています。

消費財メーカーは、消費者の声に耳を傾ける企業とならなければなりません。強力なアナリティクスとAIを活用して、消費者が提供した各データから「唯一の真実(Single Version of the Truth)」を生成するデータレポジトリを管理する必要があります。消費者の声に耳を傾けることにより、企業は絶えず変化する消費者のニーズに応えるアジリティを有し、対象とするセグメントに合わせて商品とサービスを変えることができるのです。

2. 場所や時間を問わず買い物客を獲得する
 

買い物客に訴求する方法はかつてないほどあり、また、その関心を引こうと多くのブランドが競い合っています。パンデミックの間、消費者の77%が買い物の仕方を変えましたが、こうした状況は今後も続くでしょう。しかし、今カスタマージャーニーと事業プロセスのデジタル化を加速させる取り組みに投資している企業は、全体のわずか36%に過ぎません4

勝ち残るにあたって、買い物客を獲得できる方法を全て把握し、それぞれを有効活用する方法が理解できていなければ、苦難の道が待っていることでしょう。買い物の仕方の変化に乗じるには、あらゆるソーシャルメディアやデジタルメディア上で、そして自社のチャネルエコシステム内で消費者の動きをトラッキングし、自社と結び付けておく必要があります。

3. 消費者を中心にサプライチェーンを再構築する
 

チャネルシフト、買いだめ、店舗の閉鎖、国境問題により、消費財サプライチェーンはこの1年間、大混乱に陥りました。企業の56%が、サプライチェーンは今後3年間、自社の事業で最も変化する分野になるとみています5

サプライチェーンは今後、成長の原動力と競争する上での主な差別化要因になり得ますが、機敏性、柔軟性、効率性、レジリエンスを備えていなければなりません。また、可視性を向上させるためのデジタルネットワーク化も必要です。リーダーにはサプライチェーンの経営モデルの再構築が求められます。現地、地域、グローバルで何をすべきか、チェーンに最適な倉庫と製造拠点を実現するにはどうすればいいか、リアルタイムでエンド・ツー・エンドの可視性とモニタリングを構築する方法、SKUを合理化する方法、環境への影響と廃棄物を軽減・削減する方法について、戦略的選択を行うべきです。

 
4. 経営モデルを変更してアセットライト化する
 

パンデミックの間、消費財メーカーのCEOの多くがアウトソーシングや提携を試行してきましたが、その多くはサプライチェーンのディスラプションに対する迅速な対応として行われました。このような状況は今後も続き、さらに加速するはずです。この手法が、過度にリスクを負うことなく、今後求められるスピードと効率の良さで消費者の期待の変化に応える唯一の方法だからです。

どのようなケイパビリティが差別化のための価値をもたらすのか、そしてアウトソーシング先をどこにするか、あるいは、エコシステムのどのパートナーと価値創造を共有するかについて、ビジョンを明確にする必要があります。これこそが「アセットライト」モデルであり、今後、社内、アウトソーシング、提携によるケイパビリティの最適な組み合わせとなるでしょう。しかし、現在、消費財メーカーのリーダーの72%がビジネスパートナーシップの構築と管理に多大な投資をしているものの6、82%は未来のエコシステムで自らが果たす役割を明確に描き切っていません7

5. より広い視点から価値をとらえる

チャネルやオケージョンは見えにくくなっており、企業は個別の収益の尺度にとらわれず、自社の事業が受けるより幅広い影響に目を向ける必要があります。例えば、消費者は宅配を受け入れていますが、その費用の負担を望んでいません。オンラインショッピングについて、消費者が一番不満に感じているのはこの点です。パンデミックの発生以降にeコマースが急成長したことを考えると、自社のeコマースモデルを再評価して採算が取れる供給コストを実現するビジネスケースが、以前にも増して重要性を高めています。実際に多くの消費者が進んで個人情報を提供しており、この事からeコマースは一段と強力なビジネスケースとなっています。

このような取り組みは、個別でとらえると意味をなさないかもしれませんが、より幅広い文脈でみると、成功する上で不可欠なものとなります。直接的な利益(または損失)とは関係のないところで計り知れない価値を創造するため、自社のケイパビリティを全て見直し、収益性に対し「システマチックなアプローチ」をとることが重要です。

サマリー

危機は、変革のための大きなチャンスです。企業は変わりましたが、今後も変化を続けていかなければなりません。今大胆に行動する企業は、これまでの成果を維持するとともに、より収益性の高い未来を築くことができるでしょう。

この記事について

執筆者
Kristina Rogers

EY Global Consumer Leader

Global leader for consumer industries. Marketing strategist. Worked in 20 countries. Harvard MBA. Photographer. Scuba diver. Canadian fiction reader. Mother of two.

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Consumer futurist. Strategist with global FMCG experience. Storyteller. Photographer. Father.

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国内外のM&Aトランザクションに関わるファイナンシャルアドバイザリーサービスを提供。 CPRマーケットセグメント リージョナルリーダーとして、CPRセクターにおけるEYの活動を主導。

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