今回の危機による明らかな影響の1つが、Eコマースへの急速な移⾏です。全世界の消費者の37%が、将来的に買い物の仕⽅が変わっていくと考え、39%が今まで店舗で買っていた商品をインターネットで購⼊する回数を増やすと回答しています。
こうしたデジタル化のスピードは、消費者を相⼿にする企業に難題を突き付けています。今も続くこのオンラインブームはどこでどのような盛り上がりを⾒せているのか、また何が定着するのか、ビジネスリーダーは早急に答えを求めています。
時間がたち消費者が落ち着いてきたことを踏まえ、EYでは今回のIndexのデータから、消費者がどのような影響を受け、将来についてどのように感じているかにより、改めてセグメント分けを行いました。特定したセグメントは4つあり、この4セグメントにより、買い物に対する消費者の意向と期待が、品目、チャネル、市場によってどのように異なるのか、また、今年のホリデーシーズン中、消費者が支出をどのように変化させるつもりなのかが浮かび上がりました。オンラインへの移行に伴い、世界中のあらゆるチャネルで数十億ドル規模の価値シフトが起きています。リーダーには、以下に挙げる問いがこの問題への対応に役立つことでしょう。
Eコマースへの移⾏
39%全世界の消費者の39%が、今まで店舗で買っていた商品について、インターネットでの購入を増やすと回答。
消費者はどのように対処しているか?
パンデミックは確実に多くの消費者に経済的打撃を与え、大きな精神的ストレスをもたらしています。
- 40%が所得減少
- 60%がお金の使い方に慎重になっている
- 41%が必需品以外の支出を削減
- 46%が高額商品の購入・買い替えを先送り
一方、消費者がパンデミックでどのように影響を受けているかは一様ではありません。EYはそれを4つのセグメントに分けました。
31%が「困窮し不安」
このセグメントの消費者は、あらゆる⽣活⾯への不安感が強く、特に懸念しているのが⾃分や家族の健康、家計、節約です。彼らの多くが経済的な損失を被っています。外出費を減らし、新型コロナウイルスに接触する機会をできるだけ少なくするために、今までの⾏動様式を変えています。新型コロナウイルス感染症への恐怖で⽣じる日常生活への影響がなくなるまでに、少なくとも1年かかると考えている⼈が最も多いのがこのセグメントの消費者です。また、うまく対処し⽣活を管理できていると感じている⼈が最も少ないセグメントでもあります。新型コロナウイルス感染症の影響で失業や休業を余儀なくされた⼈が少なくありません。47%がミレニアル世代かZ世代です。
30%が「変化に適応」
このセグメントの消費者は⼀般的に、うまく対処し日常⽣活を管理できていると感じています。多くが経済的損失を被っていますが、家計はそれほど⼼配の種ではありません。⼤多数が、暮らし向きは1カ⽉前に⽐べて同じか、良くなったと感じています。地域経済を除き、パンデミックによる影響についてあまり⼼配していません。その⼀⽅で、パンデミックを受けて⾏動を変化させています。例えば、店舗での買い物の回数を減らし、必需品以外の商品への⽀出を減らし、地産品をより重視するようになってきました。価値観や⼈⽣観も変化しています。
26%が「無関心」
このセグメントの消費者は、パンデミックの影響による経済的損失が最も少ない層の人たちです。地域経済を除き、パンデミックによる影響についてあまり心配していません。また、感染リスクの高い年齢層が多いにもかかわらず、パンデミックにより行動や価値観を変えない傾向にあります。41%がベビーブーム世代で、27%がリタイア世代です。
13%が「将来を楽観」
このセグメントの消費者は、あらゆる生活面への不安感が最も強く、暮らし方と人生観が変わった人たちです。パンデミックの影響により経済的損失を被り、幅広い品目で支出を減らす傾向が最も顕著に見られます。その一方で、早めの景気回復と正常化を見込んでいるのがこのセグメントです。また、自分の行動様式は長期的に良い方向に変化するとみています。危機が比較的早期に収束すると思っているため、今までよりうまく対処し生活を管理できるようになると感じています。55%がミレニアル世代またはZ世代、32%がX世代で、ベビーブーム世代以上はわずか13%です。
Eコマースのチャンスはどこにあるか︖
4つの消費者セグメントのうち3つが、今後は⽀出を減らすつもりであり、また、これまで店舗で購⼊していた商品にもオンライン購入を利⽤することが増えると考えています。オンライン購入に移⾏する動きについては、これまでのように買い物に⾏けないためやむを得ず始めた⼈もいれば、積極的に選択している⼈もいます。
このようにEコマースの人気が急激に高まったこともあり、10年分のデジタルディスラプションがわずか数カ月で起きました。目覚ましい成長を遂げた企業もあります。今、問われているのは、こうしたオンライン化の波に乗り、シェアを勝ち取り、維持していくためには、どのようなエクスペリエンスを提供する必要があるかです。
下の図を⾒ると、この問いに対する答えが品⽬や市場により異なることが分かります。例えば、中国ではオンラインで主に買い物をする消費者の割合が他国よりはるかに⾼く、中国には及ばないものの、英国でもこの割合が⾼くなっています。⼀⽅、ドイツとフランスではオンライン購入が消費者にさほど受け⼊れられていません。
関連記事
関連記事
確実に業績向上につながる戦略と施策を明らかにするためには、商品別でも⾒ていく必要があります。例えば⽶国、ドイツ、フランスでは、テクノロジー商品や⾐類に⽐べ、⽣鮮⾷品をオンラインで購⼊することについて、消費者ははるかに消極的だと⾒受けられます。 今回の調査結果とパンデミック前の市場浸透率とを考え合わせると、⼤きなチャンスが浮かび上がってきます。例えば、新型コロナウイルス感染症拡⼤前は、加⼯⾷品のオンラインでの購⼊が全世界でわずか3.1%(740億⽶ドル)でした1。これが10%(2,370億⽶ドル)にアップすれば、3倍以上増えることになります。Eコマースの割合が3.1%から10%に上昇するならば、1,630億⽶ドル規模の商機が⽣まれるということです。
消費者が求めているエクスペリエンスとは?
下の図の右上を⾒ると、消費者がオンラインで購⼊することが最も多い商品は、購⼊時のサービスや助⾔を最も重視する品⽬でもあります。具体的にはテクノロジー商品、美容・化粧品、⾐類、靴、アクセサリー類です。
これらの商品はまた、消費者が購⼊前にその商品の知覚的経験を求める傾向があります。消費者はセーターの質の良さを触って確かめたりすることや、靴の試着を求めます。ここには、ショールーミングが行われる恐れがあります。消費者は、自分が求めるエクスペリエンスのために店舗に行った後、最終的には最安値のところからオンラインで購入するのでしょうか? 販売の完結に必要なシームレスなオムニチャネルエクスペリエンスとプライスポイント、この2つを両立させるにはどうすればよいのでしょうか?
セールシーズン中の支出行動はどうなるか?
パンデミックを受けて消費者の購入チャネルがどのように変化しているかを把握することは、リーダーにとって極めて重要です。しかし、間もなく始まるホリデーショッピングとセールシーズンが差し迫った関心事であるリーダーも多いでしょう。このチャンスを最大限に生かすにはどうすれば一番いいかと自問する人もいれば、生き残りを図る人もいるはずです。
EYのデータから、全世界の消費者の42%が今シーズンのセールでは1年前より支出を減らす予定なのに対し、支出を増やすとした人は13%であることが分かりました。セールで買い物をする予定の人のうち、72%はそれまで購入を控えると回答し、また、大半がオンラインでのセールを主に利用するとしています。従って、オンライン化の提案は長期的成長に不可欠であるだけでなく、現時点で主要な優先課題でもあるのです。
食料品にとっての最大の課題とは?
⾷料品がオンライン購⼊にどれだけ浸透しているかについては、ほとんどの市場で相変わらず低いままです。しかしこのパンデミックの間、消費者の55%が少なくとも1回は⾷料品をオンラインで購⼊しています。このうち42%は、新型コロナウイルス感染症の影響で、⾷料品をオンラインで注⽂する回数が増えたと回答しています。とはいえ、消費者の53%は⾷料品にオンライン購入を利⽤しないとしています。その理由として挙がったのが、購⼊する商品を⾃分の⽬で確かめたいという声でした。この53%の⼈たちは現在、購⼊先を⼀部はオンライン、⼀部は対⾯と使い分けています。
各ブランドが検討すべき課題の1つが、新商品をいかに消費者に認知してもらうかです。世界中にわたって、食料品の購入にオンラインを利用する人の49%がリピート購入しています。従って、カートに入れたり、お気に入りリストに登録したりしてもらうことが重要です。また54%が、食料品を店舗で購入するときより、オンラインを利用するときの方が新商品を試すことが少ないと答えています。
次に取るべきアクションのヒントとなる3つの問題
Eコマースへのシフトがこのように広範かつ急激に進む今、ビジネスリーダーは、オンライン上の消費者が求めるもの、希望する購⼊⽅法、これらのニーズを満たすために必要なものについて、あらゆる想定を疑問視し続けるよう組織に徹底させなければなりません。この未曾有の状況下で私たちに突き付けられている課題はまた、消費者に寄り添う新たな絶好の機会でもあります。ここで検討すべき点は以下の3つです。
1. ターゲットとなる消費者と、その消費者が望む成果についてどれだけ深く理解しているか︖
消費者は単に美容商品を購入したいのでしょうか、若く見せたいのでしょうか? 新しいスニーカーが欲しいのは、速く走るためでしょうか、おしゃれのためでしょうか? 自発的にこれらのデータを共有してくれる消費者が増えてきましたが、企業は消費者の声を収集しそれに応えるためのケイパビリティに投資しなければなりません。素早い対応が必要です。消費者の需要の変化に合わせて迅速に方向転換するのです。オンラインでは、売れ筋商品が目まぐるしく変わります。真のニーズを把握することにより、消費者を満足させるエクスペリエンスを生み出す必要があります。消費者と共に新商品を開発し、試作品を作り、発売し、そこから学ぶのです。繰り返しの作業に進んで取り組んでください。
2. カスタマージャーニー全体の中で極めて重要な「真実の瞬間」(Moment of Truth)はいつか︖
買い物客が商品を見たり触ったりしたいと思うのはいつでしょうか? 宣伝文句に偽りがないことを確かめたいと思うのはいつでしょうか? 今日の非接触社会では、こうした瞬間を第一に考える必要があります。これは買い物客にとって重要な瞬間であり、企業にとっても大きな差別化ポイントになり得ます。その後で、設計とイノベーションを繰り返して、これらの瞬間を新たに構築してください。
3. 独自のオンライン戦略を策定するのか、実店舗での価値提案を再現するのか?
ブランドが実店舗での価値提案をデジタル環境に移し、商品に知覚レベルで触れたい(⼿で触る、においを嗅ぐなど)という消費者の欲求を満たそうとするケースはよく⾒られます。しかし、実体験型のブランド体験はチャネル固有のものです。各ブランドの実店舗での「昔ながらの物理的」顧客体験の多くをスマートフォンサイズの画⾯に落とし込むことはできません。ブランドを強化する新たなパラメータを⾒つける必要があります。例えば、「責任ある調達や⽣産」を中⼼に据えてリポジショニングを図るなどして、それをオンラインで明確に⽰すのです。
新型コロナウイルス感染症拡⼤の初期の不安定な段階を過ぎ、「ウイズコロナ」に⼊った今、市場、商品、消費者セグメントに出現しつつある新たな相違点の全体像をより鮮明に描くことができるようになりました。これは、ここにきて急激な成⻑を遂げているEコマースのパンデミック収束以降の見通しを予想する上で不可⽋です。
リーダーは、消費者の変化に対応し、また変化を形作りながら、必要とする全てのケイパビリティに素早くアクセスできるようにしておく必要があります。既存のスキルと資本の投⼊⽅法を⾒直し、他者が構築したケイパビリティをどうやって活⽤するかをクリエーティブに考えることが重要です。
新型コロナウイルス感染症が消費者の⾏動を変えつつあります。危機の間だけでなく、危機収束後も意義ある存在であり続けることを望む企業は、⾃社のビジネス変⾰の深度とペースを加速するためにも同様に行動を大きく変えなければなりません。
サマリー
Eコマースが世界的にブームになる中、EY Future Consumer Indexの結果から、消費者の⼼理と⾏動に明確な違いがあることが分かりました。数⼗億ドル規模に上る価値シフトが起きつつあります。⼀⽅、定着度には市場、商品、消費者セグメントによりばらつきが出てくるでしょう。