オムニチャンネルショッピングの時代、買い物客の満足度を最終的に左右し得るサプライチェーンの対応力は重要な差別化要因です。
ですが、従来型のサプライチェーンでは21世紀のサービス期待値に対応できません。各企業はこれを自覚し、サプライチェーンの経営層の81%が、自社のサプライチェーンがオムニチャンネル目的にかなっていないと答えています。
デジタルの世界は、従来型サプライチェーンにおける二つの基本的前提を完全に打ち破りました。買い物客、デバイス、モノがつながることによってリアルタイムの需要がわかるようになり、オンラインでつながった輸送業者、請負業者、サービスプロバイダー、サプライヤーネットワークが対応力をほぼ無限にしています。
こうした新しい条件下で成功するには、現在のサプライチェーンをデマンドレスポンスネットワーク(DRN)へと進化させる必要があります。デマンドレスポンスネットワーク(DRN)とは、リアルタイムかつ機敏、効率的、持続可能な方法で需要を喚起し、感知し、調整し、対応するために構築されたネットワークです。
今日の買い物客の期待:
- いつでもどこでも買い物できる
買い物客は、いつでもどこでもさまざまなチャンネルを通じてブランドや製品と接触できることを期待しています。
- 全チャンネル、全デバイスでシームレスに買い物できる
消費者は、全チャンネル、全デバイスでシームレス、かついつでも利用できる質の高いカスタマーサービスを期待しています。
- パーソナライズされた関係性と製品
消費者は、記憶に残るパーソナルなブランドとの関係性を高く評価します。例えば、共同で作り上げるイベントや、オンライン・オフラインコミュニティー、ソーシャルメディアイベントなどです。
- 包み隠しのない総合的な情報
消費者は、購入する前に徹底的な調査を行います。そして、価格やカスタマーレビューを含めた製品やサービスのさまざまな点について包み隠しのない詳しい情報を期待します。
- 柔軟な配送
買い物客が期待するのは無料配送、無料返品だけではありません。希望した時間通りに自分にとって便利な場所に届けてほしい、配送手配の間際の変更にも柔軟に対応してほしいと考えています。
消費者の期待に応えるうえでの課題:
- 供給コスト(cost to serve)管理
製品を指定された条件に合わせてオムニチャンネルの消費者に届けるためのコストは、需要の増加とともに悪循環に陥ります。また、企業がモバイルコマース機能の構築を急ぐあまりに、従来チャンネルのフルフィルメントと完全統合しないまま、システムやプロセスのボルトを締めてしまうケースが頻繁に起き、その結果、多くの消費財メーカーや小売業者が利益率の継続的低下に見舞われています。
- 動的フルフィルメント
EYが2016年に世界の消費財関連会社経営層を対象に行った調査によると、自社のサプライチェーン活動を需要変化に合わせて迅速に調整できると答えたのは全体のわずか20%。各社とも、在庫をどこに保管し、さまざまなチャンネルからさまざまな場所への注文をどこで処理するのが最善か、その答え探しに苦戦しています。
- ビッグデータの理解
オンラインでつながった消費者、買い物客、機器、デバイスがそれぞれにペタバイト級の体系的、非体系的データを生み出しています。こうしたデータは、需要行動の解読や、マーケティング、販促活動の有効性評価に役立てることができます。ですが、パートナー会社との連携の下、バリューネットワークチェーンをリアルタイム、一気通貫で把握できていると考えているのは小売業者のわずか20%です。
直線連結からダイナミックネットワークへ
デマンドレスポンスネットワーク(DRN)がこうした課題の解決に力を発揮します。デマンドレスポンスネットワーク(DRN)は、共通目的である「需要に応える」を念頭に置いた、プロセス、テクノロジー、企業で構成されたダイナミックネットワークです。
デマンドレスポンスネットワーク(DRN)は、ネットワーク内リソースを最適化するための明確なビジネスルールを組み込んだアルゴリズムによって機能します。このネットワークでは、すべてのノードがつながり、インテリジェントに機能するため、企業が需要変動を読み取り、独自のマーケット活動によってどう需要調整し、どう対応するかの判断が可能になります。
デマンドレスポンスネットワーク(DRN)の構成企業は、場合によって独自の役割とタスクを負うと同時に、各構成者が他の構成者のその時々のケイパビリティやキャパシティーを把握しています。デマンドレスポンスネットワーク(DRN)は極めて協調的であるため、構成者が無駄を減らし、その分空いたリソースをイノベーション、マーケティング、競争力のある価格設定に注ぐことが可能です。
デマンドレスポンスネットワーク(DRN)モデルでは、企業のフルフィルメント業務の大幅なスマート化も可能です。例えば、Eコマース注文のフルフィルメントを在庫過剰店舗に割り振ることができ、従って値下げの必要性が減り、組織全体の全在庫を速やかに利用できます。また、メーカーは別のネットワーク構成者の輸送・倉庫能力を利用し、ロジスティクスコストや設備投資を大幅に増やさずとも対応機会を最大化できます。
デマンドレスポンスネットワーク(DRN)への進化に必要となる三つの重要タスク
1. リアルタイムの需要シグナルを活用する
企業は需要シグナルを捉え、組織にとって意味ある形で解釈しなければなりません。デジタルトランスフォーメーションは、業務チームとITチームの両輪で率いることが鉄則。
センサー、ビーコンを用意し、キャンペーン反応や遠隔注文に耳を傾ける必要があります。
需要シグナルをキャッチすると、ネットワークの他の部分でその状況に合わせたどのような対応を作動させるかを判断できます。その結果、自分たちの需要曲線が描かれ、理解できるようになり、これを基に、需要行動を調整するための効果的な方法を見つけ、将来の意思決定に必要な情報を供給できるようになります。
2. 業務部門と販促部門の連携
需要を捉え、反応する前にそれを調整するには、販促部門とサプライチェーン部門の密な連携が必要不可欠です。つまりは基本に立ち返ること。組織の需要サイドと供給サイドを一体化させ、適した製品を適したチャンネルを介して適した市場に送り届けるための予測を立て、実行します。
Go-to-market販促戦略とRoute-to-market流通戦略の統合によって、需要変動課題に対応し、機敏性、有効性を向上させることができ、また、利益成長に向けた短期的、中期的、長期的投資に注力できるようにもなります。
3. キャパシティーネットワークの積極的管理によって供給に必要な利益を最大化
新しいチャンネルや市場での需要対応には、組織の需要サイドと供給サイドを一体化させるためのプロジェクトの計画、実行が必要です。これによって、ビッグチャンスが期待できる新しいアカウントやチャンネルを最適な供給コストで活用し、利益成長を加速できます。
サービス提供要件に基づくチャンネルのセグメント化とビジネス的価値の判断が重要です。各チャンネルや顧客からの要求に応えるためのサービスとコストインパクトを正確に計算でき、共同で価値創出に取り組める企業が、ボトムラインに大きな効果を実感できるでしょう。
適切に組み立てられ、的確に実行される需要対応戦略によって、高水準のサービスが提供でき、サービスの創意工夫が可能になり、ネットワークの全構成者がさらに大きな価値を手に入れることになります。そしてこれはすべて、問題なく管理できる範囲の供給コストで実現でき、利益成長につなげることが可能です。