建設業 第2回:工事会計基準

2016年12月28日
カテゴリー 業種別会計

建設セクター
公認会計士 石川裕樹/橋之口 晋/藤井 陽/本多英樹

1. 工事特有の会計基準等

建設業においては、個別原価計算や工事進行基準等の特有の会計処理が必要となります。工事契約に係る収益及びその原価の会計処理を定めたものとして、以下の会計基準等が公表されています。第2回では、企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」を中心に説明を行います。

表 工事特有の会計基準等

2. 会計基準の適用範囲

基準は、適用対象とする工事契約を、仕事の完成に対して対価が支払われる請負契約のうち、土木、建築、造船や一定の機械装置の製造等、基本的な仕様や作業内容を顧客の指図に基づいて行うものと定めています(基準4)。また、受注制作のソフトウェアについても、工事契約に準じるものとして、その対象に含まれるとしています(基準5)。この他、移設、据付、試運転といった作業については、土木、建築、機械装置の製造等の工事契約に付随的に含まれる場合は、本体工事と一体として適用の対象に含まれることになります(基準31)。

他方で、請負契約であっても専らサービスの提供を目的とする契約、外形上は工事契約に類似する契約であっても工事に係る労働サービスの提供そのものを目的とするような契約、機械装置の製造等であっても単に標準品を製造するような契約に関しては、その適用の対象外とされています。また、移設、据付等の作業が単に対象物の引渡しを目的とする契約に付随的に含まれる場合には、当該作業が独立の土木工事や建築工事等として取引された場合を除き、その適用の対象外とされています(基準30、31)。

3. 工事契約に係る認識の単位

基準では、工事収益及び工事原価は、工事契約に係る認識の単位ごとに、工事契約に係る認識基準を適用することにより計上(基準8)し、工事契約に係る認識の単位として、工事契約において当事者間で合意された実質的な取引の単位とすることを定めています(基準7)。

一般に、取引に関する合意の確証として交わされる契約書は、当事者間で合意された実質的な取引の単位を反映していることが多いですが、契約書が当事者間で合意された実質的な取引の単位を反映していない場合には、契約書という形式面にとらわれることなく、契約書上の取引を分割、あるいは複数の契約書の単位を結合して、実質的な取引の単位にする必要があります(基準42)。

4. 工事契約に係る認識基準

「2.会計基準の適用範囲」に記載のとおり、基準では対象とする工事契約の範囲を定め、当該工事契約ごとに企業が適用すべき認識基準を明らかにしています。すなわち、基準の対象となる工事契約に関する収益と費用の認識については、工事の進捗部分に「成果の確実性」が認められる限り工事進行基準が適用され、それ以外の場合には工事完成基準が適用されることになります。

(1) 工事進行基準

工事進行基準とは、工事収益総額、工事原価総額、及び決算日における工事進捗度を合理的に見積もり、これに応じて当期の工事収益及び工事原価を認識する方法をいいます。工事進行基準によった場合、工事施工中の決算期においては、工事の進捗に応じた工事収益と工事費用を計上することになります。工事進行基準を適用するに当たり、工事進捗度の計算に実務上、広く採用されている原価比例法(基準6(7))による場合、工事進捗度及び当期の工事収益は以下の算定式によって求めることができます。

工事進行基準 算定式

(2) 工事完成基準

工事完成基準とは、工事が完成し、目的分の引渡しを行った時点で、工事収益及び工事原価を認識する方法をいいます。工事完成基準によった場合、工事の完成・引渡しが行われるまでに発生した工事原価は、貸借対照表に資産として計上され、工事の完成・引渡しを行った一時点で工事収益と工事費用を計上することとなります。工事完成基準は、前述の工事進行基準の適用要件を満たさない工事契約に適用されます。また、工期が極めて短いものは金額的にも重要性が乏しいこと等が多いと考えられ、そのような工事については工事完成基準によって処理することが認められています(基準53)。

(3) 具体的な認識方法の違い

具体例として、工事収益総額1,000、工事原価総額800の工事で、工事原価発生額は1年目が240、2年目が240、3年目が320と、3年にわたって施工される場合に、各年度に計上される工事収益と工事原価の額を比較してみます(工事進捗度の計算は原価比例法(基準6(7))による場合)。

工事進行基準により会計処理をした場合、工事進捗度は、1年目:240÷800=30%、2年目:(240+240)÷800=60%、3年目:(240+240+320)÷800=100%と計算されます。また、工事収益は1年目:1,000×30%=300、2年目:1,000×60%-300=300、3年目:1,000×100%-(300+300)=400と計算されます。

これに対して、工事完成基準により会計処理をした場合、貸借対照表において、1年目:240、2年目:480=(240+240)の未成工事支出金をそれぞれ計上します。そして、工事が完成し引き渡した3年目に、工事収益総額1,000及び工事原価総額800を、それぞれ損益計上することとなります。

このように、工事進行基準と工事完成基準のどちらを採用するかによって工事収益と工事原価の認識時点が異なりますが、工事契約全体を通して計上される総額は同額となります。

表 具体的な認識方法の違い

5. 成果の確実性に係る各見積要素の内容

工事進行基準を適用する場合には「成果の確実性」の3要素、すなわち、(1)工事収益総額、(2)工事原価総額、(3)決算日における工事進捗度、の各要素についての信頼性ある見積りの要件を満たしていなければなりません。従って、3要件のうち一つでも、信頼性をもって見積もることが困難であれば工事進行基準は適用できず、工事完成基準が適用されることに留意する必要があります。以下、これら3要素について説明します。

図 工事進行基準適用の3要素

(1) 工事収益総額

工事進行基準では、工事契約に基づく収益総額を、進捗度に応じて各決算期に配分することとなります。このため、工事収益総額を、信頼性をもって見積もる必要がありますが、その前提として工事の完成見込みが確実であることが必要とされています(基準10)。具体的には、施工者に十分な施工能力があり、かつ、完成を阻害する環境要因が存在しないことが要求されています。工事に必要とされる施工技術、施工実績、竣工引渡しまでの資金力等といった企業自体の施工能力に加え、法令等による施工上の制約の有無といった、施工者以外の外部環境からもたらされる阻害要因も考慮する必要があります。

以上の前提条件を満たした上で、工事収益総額の信頼性ある見積りを行うには、工事契約において「対価の定め」があることが必要となります(基準11)。「対価の定め」には、単に当事者間で実質的に合意された対価の額のみならず、対価の決済条件及び決済方法に関しての合意も必要である点に留意が必要となります。

この「実質的な合意」に関して、契約書等がある場合には特に問題となることはありませんが、追加工事等のように、それらがない場合に、どのように取り扱うかが実務上、問題になります。この点、対価の変更について、発注者と合意に基づき信頼性のある見積りができる場合には、「対価の定め」に関する実質的な合意の存在を認めることも可能であると考えられます。また、「対価の定め」を確認する証憑(しょうひょう)を内部的に規定し、かつ、当該証憑に基づく工事収益総額に信頼性があることを確認する等の企業の内部統制によって、実質的な合意の有無を適切に判定していることも必要です。

<信頼性をもった工事収益総額の見積り>

<信頼性をもった工事収益総額の見積り>

(2) 工事原価総額

工事原価総額の信頼性ある見積りを行うためには、工事原価の事前の見積りと実績を対比することにより、適時・適切に工事原価総額の見直しが行われることが必要とされています(基準12)。建設業においては、ある一定規模以上の工事について、工事の着手から竣工に至るまでの各段階の工事原価を詳細に積み上げた実行予算が作成されますが、当該実行予算を基にした工事原価管理に関する内部管理体制の整備が、工事進行基準適用に際しては必要不可欠となります(基準50)。なお、詳細は第3回において説明します。

(3) 決算日における工事進捗度

決算日における工事進捗度は、工事契約に係る認識の単位に含まれている施工者の履行義務全体のうち、決算日までに遂行した部分の割合となります(基準35)。履行義務に目的物の据付や引渡しのための作業が含まれている場合には、単に目的物の完成のみならず、これらの作業部分も含まれることに留意する必要があります。見積りに当たっては、原価比例法等、工事契約における施工者の履行義務全体との対比において、決算日における当該履行義務の遂行割合を合理的に反映する方法を用いることとなります(基準15)。実務で広く採用されている原価比例法は、工事原価総額の見積りの信頼性が確保されている場合には、これによった決算日における工事進捗度も、信頼性をもって見積もることができるとされています(基準13)。

なお、原価比例法による場合に、発生した工事原価が工事原価総額との関係で、決算日における工事進捗度を合理的に反映しない場合には、これを合理的に反映するように調整が必要となります(基準56)。例えば、外部製作業者に製造依頼する特注品等で、いまだ物理的に据え付けられていない機器についても、検収が終わっているものについては工事進捗度の算定上、工事原価に含めるといった調整が必要であり、このような決算日における進捗度の合理的な調整に関する管理体制の構築が必要となります。

6. 工事進行基準の適用により計上される未収入額

工事進行基準の適用により工事の進捗に応じて計上される未収入額は、金銭債権として取り扱われます(基準59)。これは、工事進行基準は、法的には対価に対する請求権をいまだ獲得していない状態であっても、会計上は、これと同視し得る程度に「成果の確実性」が高まった場合に、これを収益として認識するものであることから、工事進行基準の適用によって計上される未収入額は、会計上は法的債権に準ずるものとされているためです。よって、工事進行基準の適用により計上される未収入額は、会計上、他の金銭債権と同様に取り扱う必要があります。

具体的には、同一の工事契約について入金があった場合には、工事の完成・引渡し前であっても、入金相当額をすでに計上されている未収入額から減額する処理が必要となります。また、金銭債権として取り扱われることになるため「金融商品に関する会計基準」の適用対象となり、計上されている未収入額の回収可能性に応じて、貸倒引当金の設定対象となります。さらに、当該未収入額が外貨建てである場合には「外貨建取引等会計処理基準」に従い、原則として決算時の為替相場による円換算額を付すこととなります。

7. 工事契約から損失が見込まれる場合の取扱い

工事契約を履行することによって、最終的に工事契約から損失が発生すると見込まれることがあります。工事契約について、工事原価総額等(工事原価総額のほか、販売直接経費がある場合には、その見積額を含めた額)が工事収益総額を超過する可能性が高く(赤字工事となる可能性が高く)、かつ、その金額を合理的に見積もることができる場合には、その超過すると見込まれる額(工事損失)のうち、当該工事契約に関してすでに計上された損益の額を控除した残額を、工事損失が見込まれた期の損失として処理し、工事損失引当金を計上するとされています(基準19)。なお、工事損失見積額は、工事原価総額のうち工事収益総額を超過する部分とされているため、対象となる工事原価は直接工事原価のみならず、間接工事原価も含まれる点に留意が必要となります。