デット・エクイティ・スワップに係る債務者側の会計・税務

公認会計士 太田 達也
 

デット・エクイティ・スワップの活用メリット

デット・エクイティ・スワップ(Debt Equity Swap)とは、文字どおりデット(債務)とエクイティ(資本)をスワップ(交換)することです。すなわち、デット・エクイティ・スワップは債務と交換に株式を発行することをいいます。債権者から見たときは「債権の株式化」、債務者から見たときは「債務の資本化」ということができます。

債務者にとっては、過剰債務を減らし財務体質を健全化できるメリットがあります。有利子負債の減少による金利負担の軽減により、再建を行うためのスキームとして利用されることが少なくありません。債務が消滅し、資本が増加することにより、債務超過の解消という効果が生じるケースもあります。一方、債権者にとっても、債権の全部又は一部を全面的に放棄しないで、その一部を株式に交換しておくことによって、将来、再建計画が成功し、株式の価値が上昇したときに、キャピタルゲインや配当収入を得ることが期待できるメリットがあります。また、債権者としては再建企業の株式を取得することにより、経営に関与することも可能となり、モラルハザードを防ぐ効果も期待できます。

今後も、デット・エクイティ・スワップが企業再建の手段として活用されることは確実であると思われます。

 

会社法上の位置づけ

デット・エクイティ・スワップの手法には、債権を現物出資する「現物出資方式」と金銭出資及び債務の返済を組み合わせる「新株払込方式」があります。実務上は現物出資方式を用いる場合が多いため、以下において特に断り書きをしていない場合は、現物出資方式に係る記述であるものとします。

会社法においては、現物出資方式によるデット・エクイティ・スワップ(金銭債権の現物出資)について、原則として検査役の調査は不要とされています。すなわち、弁済期が到来している金銭債権を、その債権額(額面金額)以下で出資する場合には、検査役の調査は不要であると規定されています(会社法207条9項5号)。弁済期の到来した金銭債権を現物出資する場合、弁済額が確定しているから、債務の弁済と払い込みが同時に行われたのと実態は変わらないことから、券面額説(債権の時価ではなく額面金額について資本の増加を認識するという考え方)によっても問題がないと解されたものです。

すなわち、実質的には、金銭出資と債務の弁済が同時に行われたのと同じであるし、現物出資を行う債権者にとっては、より弁済順位の低い株主の地位となることから、特に弊害が見つからないと考えられるからです1。会社法においては、債権の価額=債務者が弁済しなければならない価額(券面額)であるという考え方(券面額説)を採用した上で、それまでの実務における券面額説での運用を前提として、手続きの簡略化(検査役の調査不要)をしたものと解されます2

 

デット・エクイティ・スワップに係る会計処理

以下、デット・エクイティ・スワップに係る債務者側の会計処理を説明します3
弁済期の到来した金銭債権を現物出資する場合において、会社法上券面額説による運用(検査役の調査の省略、変更登記等)がされた場合において、会計処理上も債権の券面額につき資本金(または資本金及び資本準備金)の増加を認識することになると考えられます。会社法上の払い込みを伴う新株発行に該当するため、2分の1規制の対象となり、払込金額の2分の1を超えない範囲で資本準備金に計上することは認められます。

後で説明するように、税務上債務消滅差益が認識されるケースが生じ得ますが、その場合は申告調整で対応することになると考えられます。

 

デット・エクイティ・スワップに係る税務処理

現物出資は、税務上、企業組織再編税制の対象に含まれています。ただし、デット・エクイティ・スワップの場合は事業の移転を伴わないことから、従業者引き継ぎ要件(従業者の概ね80%以上の引き継ぎが見込まれていること)及び事業継続要件(移転した事業の継続が見込まれていること)を満たさないと考えられることから、完全支配関係がある法人間のデット・エクイティ・スワップで適格要件を満たすものを除いて、非適格現物出資になるものと考えられます。

非適格現物出資に該当する場合、債務者側において新株発行において増加する資本金等の額は、給付を受けた金銭以外の資産の価額(時価)と規定されており(法令8条1項1号)、この規定に従うことになります。すなわち、現物出資方式によるデット・エクイティ・スワップの場合は、資本金等の額の増加額は、金銭以外の資産(債権)の時価相当額となります。具体的には、債権の時価相当額につき資本金等の額を増加させ、債務者の財政状態が著しく悪化している場合のように債権の時価相当額が額面金額を下回るときは、債権の時価相当額と額面金額との差額が債務消滅差益(債務免除益)として認識されることとなります。

また、会社更生法、民事再生法その他それに準ずる一定の場合4において、期限切れの欠損金を債務消滅差益に充当することができます(法法59条1項1号、2項1号)。この規定は、会社更生法、民事再生法その他一定の場合に適用されるものであり、通常の私的整理や負債整理の場合には適用されません。

なお、平成21年度税制改正により、資産の評価損益の計上(法法25条3項、33条4項)、期限切れ欠損金の優先控除(法法59条2項)の適用が認められる一定の私的整理の場合の債務免除要件について、デット・エクイティ・スワップが行われる場合(債務消滅差益が生じるものに限る)も債務免除が行われる場合と同様に取り扱われるものとされました。一定の私的整理における再建計画の策定に当たって、金融支援策として債権放棄との組み合わせでなくても、デット・エクイティ・スワップのみでも税務上の要件を満たすため、デット・エクイティ・スワップのみとする再建計画も可能となっています。

企業会計上、券面額説を前提として債権の券面額について資本金を増加させた場合、次のように申告調整が必要になるものと考えられます。

前提条件

デット・エクイティ・スワップに係る税務処理 図

1.会計処理

1.会計処理

2.税務処理

2.税務処理

別表四 所得の金額の計算に関する明細書

別表四 所得の金額の計算に関する明細書

別表五(一) 利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書

別表五(一) 利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書
(注)会計上は利益剰余金に変動が生じないが、税務上は債務消滅差益に対応する利益積立金額の増加を認識する。
別表五(一) 利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書 2
(注)会計上は資本金20,000,000円の増加を認識するが、税務上は資本金等の額が2,000,000のみ増加する認識をする。

なお、別表五(一)の「差引翌期首現在利益積立金額」に18,000,000円の調整が残りますが、永久に解消されない差異と考えられるため、税効果会計における一時差異には該当しない(税効果会計の適用対象にならない)と考えられます。
 

  1. 相澤哲編著「立案担当者による新・会社法の解説」別冊商事法務No.295、P57。検査役の調査を原則不要とした理由として、「弁済期が到来している場合には株式会社が弁済しなければならない価額は確定しており、評価の適正性について特段の問題は生じないと考えられる。」としている。
  2. 藤原総一郎「DES・DDSの実務(改訂版)」金融財政事情研究会、P9。
  3. デット・エクイティ・スワップに係る債権者側の会計処理については、企業会計基準委員会から公表されている実務対応報告第6号「デット・エクイティ・スワップの実行時における債権者側の会計処理に関する実務上の取扱い」を参照されたい。
  4. 民事再生に準ずる一定の場合として、公的機関または独立した第三者が関与する私的整理手続き、例えば企業再生支援機構、整理回収機構(RCC)、私的整理ガイドライン、産業活力再生特別措置法に基づく特定認証紛争解決手続により関与するものなどが考えられる。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。




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