EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
公認会計士 太田 達也
減損会計の適用により固定資産の減損損失を計上した場合、税務上は損金不算入として、法人税申告書別表4で加算調整します。税務上は、債務確定基準に基づいており、災害による滅失などの非常に限定された場合のみ評価損の損金算入が認められています。
別表4で加算された減損損失は、別表5(1)の調整項目として残りますが、それは翌期以降の別表4の減算により解消するものであり、税効果会計における将来減算一時差異に該当します。
本年5月26日に企業会計基準委員会から公表された「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する適用指針(案)」(以下、「公開草案」)において、次のように記述されています。
固定資産の減損損失に係る将来減算一時差異の解消見込年度のスケジューリングは、償却資産と非償却資産ではその性格が異なるため、次のように取り扱う。
(1) 償却資産
償却資産の減損損失に係る将来減算一時差異は、減価償却計算を通して解消されることから、スケジューリング可能な一時差異として取り扱う。
また、償却資産の減損損失に係る将来減算一時差異については、第35 項に定める解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異の取扱いを適用しないものとする。
(2) 非償却資産
土地等の非償却資産の減損損失に係る将来減算一時差異は、売却等に係る意思決定又は実施計画等がない場合、スケジューリング不能な一時差異として取り扱う。
上記の内容は、現行の監査委員会報告第70号における取扱いと実質的に同じ内容です。
償却資産の場合、税務上、減損損失を償却超過額として別表4で加算するため、翌期以降の償却不足額の分だけ毎期認容されるという意味で、「減価償却計算を通して解消される」という記述がされているものと考えられます。その点、非償却資産については、減価償却がないため、減損損失の否認額が売却等によってのみ認容されるので、売却等に係る意思決定又は実施計画等がない場合は、スケジューリング不能な一時差異として取り扱うものとしています。
ここで問題となるのが、事業の用に供していない償却資産の場合です。減損損失を計上した償却資産は、事業の用に供されていないものも多いですし、また、減損損失を計上した時点では事業の用に供されていても、その後において処分する方針が定められて事業の用に供されなくなることも少なくないと思われます。
事業の用に供されていない償却資産については、税務上の償却限度額はないため、償却超過額の認容はされません。従って、売却等に係る意思決定又は実施計画等がない場合は、スケジューリング不能な一時差異として取り扱うものと考えられます。
以下、具体的な設例で説明します。
以下の前提条件であったとします。
X1期の期末に、機械装置A(取得価額1,000)について、帳簿価額500を回収可能価額50まで減損しました。耐用年数10年、定額法で償却しております。X1期末において、耐用年数10年のうち5年を経過しております。
翌期(X2期)の税務上の償却限度額は100(1,000×1/10)ですが、会計上は残存使用可能期間を2年と見積もった結果、償却費は切り下げ後の帳簿価額50を2年で除し、25(50×1/2)になりました。
この機械装置は、X2期の期首から事業の用に供されていません。X2期において、この将来減算一時差異のスケジューリングの可否については、どのように考えるべきでしょうか。なお、売却等に係る意思決定又は実施計画等はありません。
X1期において、会計上の減価償却費も100、税務上の償却限度額も100であった場合、減損損失450が申告書別表4で「償却超過額」として加算されます。別表5(1)の増加欄にも450が記載され、翌期に繰り越されます。この450は、税効果会計における将来減算一時差異に該当します。
前期から繰り越される償却超過額は、税務上、償却費として損金経理したものとして取り扱われます。従って、X2期では、会計上の減価償却費25と前期から繰り越された償却超過額450の合計額475が、償却費として損金経理した額として取り扱われます。
一方、税務上の償却限度額は、当該機械装置が事業の用に供されていないことから、ゼロです。会計上、計上した減価償却費25を別表4で加算するのみであり、前期から繰り越された償却超過額の認容はありません。
ということは、すでに発生した将来減算一時差異の解消がない一方で、新たに25の将来減算一時差異が発生したということになります。
上記の設例で、この機械装置が事業の用に供されていた場合は、結論が変わります。
会計上の減価償却費25と前期から繰り越された償却超過額450の合計額475が、償却費として損金経理した額として取り扱われます。税務上の償却限度額は100ですので、100と実際に損金経理した額25との差額である75について、償却超過額の認容がされ、別表4で償却超過額認容として減算が行われます。
前期から繰り越された償却超過額 450 + 償却費として損金経理した額 25 > 償却限度額 100
→ 実際に損金経理した額は25ですが、償却限度額は100であるため、75は別表4の減算で損金算入できます。
このように、事業の用に供されている場合は、償却超過額の認容を通じて、将来減算一時差異が解消していきます。スケジューリング可能な将来減算一時差異であることが分かります。
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