債務超過の事業を移転する会社分割に係る会計・税務

2019年6月3日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

グループ企業間における不採算事業の移転

不採算事業の整理は企業価値の向上にとって常に重要な課題ですが、会社分割を用いて企業グループ内の他の企業に移転し、当該他の企業の既存の事業と統合することにより、実質的に整理を行うケースもみられます。

本稿では、債務超過の事業をグループ企業間で移転する会社分割に係る会計および税務処理を解説します。

債務超過の事業を移転する会社分割に係る会計処理

例えば、子会社A社において営まれていた債務超過の事業を、同一の企業グループ内の他の子会社B社に会社分割により移転するケースを前提とします。A社とB社は、共通の親会社P社に株式のすべてを直接に所有されている子会社間の関係であったとします。また、完全支配関係がある子会社間の分割であり、債務超過の事業の移転であることから、無対価分割によることになると考えられます。

会計上、共通支配下の取引に該当しますので、個別財務諸表上、A社からB社に移転する諸資産および諸負債は、移転元であるA社における適正な帳簿価額によりB社に移転させることになります。なお、連結財務諸表上は、内部取引として相殺消去により取り消されます(企業結合会計基準44項)。

以下、個別財務諸表上の会計処理を説明します。移転する事業に係る諸資産の帳簿価額が100、諸負債の帳簿価額が300、A社の簿価純資産額は500とします。なお、会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額に不一致のあるものはなかったとします。

1. A社の会計処理

A社の会計処理は、分割型分割により親会社が子会社に事業を移転する場合の親会社の会計処理に準じて処理します(企業結合・分離等適用指針203-2項(2)②、255項)。会社法上、分割型分割という類型はなく、分社型分割および交付を受けた承継会社株式による現物配当として整理されています。会計処理もその内容を反映した処理になります。すなわち、(1)企業結合・分離等適用指針226項に準じた分社型分割の処理と(2)交付を受けた株式を同時に剰余金の配当として株主に分配する処理、以上の二つの処理の複合になります。

(1) 分社型分割の処理

移転事業に係る株主資本相当額がマイナス200であるため、株式の取得ではなく、「組織再編により生じた株式の特別勘定」等、適切な科目をもって負債に計上されます(企業結合・事業分離等適用指針226項)。

仕訳表1

(2) 剰余金の配当の処理

変動させる株主資本の内訳は、取締役会等の企業の意思決定機関において定められた結果に従います(企業結合・事業分離等適用指針233項(2))。実務上は、その他利益剰余金を変動させる場合が多いと思われます。

仕訳表2

2. B社の会計処理

移転を受けた資産および負債は、分割期日の前日に付されていた適正な帳簿価額により計上します(企業結合・事業分離等適用指針256項、234項)。B社における株主資本については、A社で変動させた株主資本の額を、会社法の規定に基づき計上します(企業結合・事業分離等適用指針203-2項(2)②)。A社において繰越利益剰余金を200増加させているため、B社においては繰越利益剰余金を同額減少させます。

仕訳表3

3. P社の会計処理

P社においては、受け取る承継会社株式とこれまで保有していた吸収分割会社の株式が実質的に引き換えられたものとみなし、分割型の会社分割における吸収分割会社等の株主に係る会計処理に準じて処理します(企業結合・事業分離等適用指針203-2項(2)②)。引き換えられたとみなされる額は、①関連する時価の比率で按分する方法、②時価総額の比率で按分する方法、③関連する帳簿価額の比率で按分する方法などの合理的と認められる方法により算定するものとされています(企業結合・事業分離等適用指針295項)。

ただし、債務超過の事業を移転しているため、例えば③の方法で計算するとゼロになります。したがって、P社においては、特に仕訳はおきません。

債務超過の事業を移転する会社分割に係る税務処理

本事例は、完全支配関係がある子会社間で行われていますが、分割後にA社とB社との間にP社による完全支配関係が継続することが見込まれているとします。その場合、適格分割型分割の税務処理を適用することが考えられます(法令4条の3第6項2号ロ)。

1. A社の税務処理

適格分割型分割に該当するため、分割法人から分割承継法人に対して移転事業に係る資産および負債を帳簿価額により引き継ぎます。したがって、分割法人において譲渡損益は生じません。

税務上、A社は、①事業用財産を移転させて得た分割承継法人株式をもって、②株主に対して資本の払戻しをするものと整理されています。税務上、資本の払戻しについては、資本金等の額の減算と利益積立金額の減算として取り扱われます。すなわち、分割法人の分割直前の資本金等の額のうち、移転した事業に対応する割合に相当する部分について分割法人において減算し、それと同額を分割承継法人において加算します(法令8条1項6号、15号)。

一方、分割直前の移転資産の帳簿価額から分割直前の移転負債の帳簿価額と減少資本金等の額の合計額を減算した額について、利益積立金額を減算させます(法令9条1項9号)。

計算式1

(注1) 前事業年度終了の時から当該分割型分割直前の時までの間に資本金等の額または利益積立金額(法令9条1項1号または6号に掲げる金額、すなわち所得計算に基づく増減と連結納税における投資簿価修正額を除く)が増加し、または減少した場合には、その増加額は加算、減少額は減算する(法令8条1項15号イ)。

(注2) 分割法人の分割直前の資本金等の額がゼロ以下であるときはゼロとする。また、分割直前の資本金等の額および上記の分数の分子がゼロを超え、かつ、分母の金額がゼロ以下である場合は1とする。分数の割合に小数点3位未満の端数があるときは、これを切り上げる。

※1 当該金額は、分割承継法人における資本金等の額の増加額となる。

また、利益積立金額の減算すべき額は、次のとおりです。

計算式2

法人税法施行令8条1項15号ロにおいて「分割型分割の直前の移転資産(当該分割型分割により当該分割法人から分割承継法人に移転をした資産をいう。)の帳簿価額から移転負債(当該分割型分割により当該分割法人から当該分割承継法人に移転をした負債をいう。)の帳簿価額を控除した金額」と規定されています。「減算」と規定されておらず、「控除」と規定されていますので、ゼロからプラスを控除しますと、マイナスにはならず、ゼロになるものと考えられます。したがって、分子がゼロですから、資本金等の額は変動せず、利益積立金額を増加させることになります。

仕訳表4

2. B社の税務処理

A社において資本金等の額は変動しませんので、B社においても資本金等の額は変動せず、利益積立金額のみが変動することになります。

仕訳表5

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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