請求済未出荷契約に係る会計・法人税・消費税の取扱い

2020年4月1日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

請求済未出荷契約とは

請求済未出荷契約とは、企業が商品または製品(以下、「商品等」といいます)について顧客に対価を請求したが、将来において顧客に移転するまで企業が当該商品等の物理的占有を保持する契約をいいます(収益認識適用指針77項)。請求済未出荷契約は、例えば、顧客に商品等の保管場所がない場合や、顧客の生産スケジュールの遅延等の理由により締結されることがあります(収益認識適用指針159項)。

請求済未出荷契約に係る会計処理

商品等を移転する履行義務をいつ充足したかを判定するにあたっては、顧客が当該商品等の支配をいつ獲得したかを考慮します(収益認識適用指針78項)。請求済未出荷契約は、顧客への支配の移転を検討する際の収益認識会計基準40項が定める5つの指標のうちの1つである「企業が資産の物理的占有を移転したこと」を形式上満たしていないことになります。

ただし、請求済未出荷契約については、支配の移転に関する定め(収益認識会計基準39項および40項)を適用した上で、次の①から④の要件のすべてを満たす場合には、顧客が商品等の支配を獲得したものと判断するとされています(収益認識適用指針79項)。要するに、企業は資産の物理的占有を移転していませんが、実態から考えて顧客は支配を獲得していると判断することになります。それは、顧客が支配を獲得した商品等を企業が単に預かっているに過ぎないとみることができるからです。

請求済未出荷契約において顧客が支配を獲得したものと判断する要件

① 請求済未出荷契約を締結した合理的な理由があること(例えば、顧客からの要望による当該契約の締結)

② 当該商品等が、顧客に属するものとして区分して識別されていること

③ 当該商品等について、顧客に対して物理的に移転する準備が整っていること

④ 当該商品等を使用する能力あるいは他の顧客に振り向ける能力を企業が有していないこと

顧客に商品等の保管場所がない等の合理的な理由により、顧客からの要望により契約が締結されたこと、企業の倉庫に保管されているにしても顧客に属するものとして区分して識別されていること、当該商品等について、企業の倉庫においていつでも顧客に対して出荷できるように準備が整っていること、仮に他の顧客から同一の商品等の発注があった場合でも、出荷ができないような措置が講じられていること、以上の要件がすべて満たされているときは、原則として、顧客は支配を獲得していると判断することが考えられます。

なお、商品等の保管が、商品等の販売とは別個の履行義務に該当するかどうかを判断する必要があります。長期間にわたる保管サービスや冷凍を伴う保管サービスである場合、取引価格にそのサービス分が加算される可能性があります。仮に明示的に保管料を収受していない場合であっても、別個の履行義務であると判断される場合は、取引価格を商品等の販売と保管サービスという2つの履行義務にそれぞれの独立販売価格の比率に基づいて配分する必要が生じます。

請求済未出荷契約に係る法人税の取扱い

法人税法上、請求済未出荷契約に係る明文の取扱いは置かれていません。しかし、すでに説明した実態に基づいた判断を行うという点において、法人税の考え方も異なるものではないと思われます。法人税における収益計上時期を定めた法人税法22条の2第1項にいう「引渡しの日」は、企業が資産の物理的占有を移転していない場合であっても、資産に対する支配が顧客に移転したと判断されるときは、会計と同様に解釈し、収益計上すべきものと考えられます。

請求済未出荷契約において顧客が支配を獲得したものと判断する先の4つの要件(収益認識適用指針79項)を満たしているときは、たとえ「企業が資産の物理的占有を移転したこと」を形式上満たしていない場合であっても、企業が顧客の商品等を単に預かっているに過ぎないと考えられる実態に基づいて、法人税法上も、同様に取り扱うことが考えられます。

請求済未出荷契約に係る消費税の取扱い

消費税法上、請求済未出荷契約に係る明文の取扱いは置かれていません。しかし、消費税法における資産の譲渡等の時期は、法人税と基本的には同様に取り扱うため、先と同様に、実態に基づいて判断されることになると考えられます。結果として、請求済未出荷契約において顧客が支配を獲得したものと判断する先の4つの要件(収益認識適用指針79項)を満たしているときは、「企業が資産の物理的占有を移転したこと」を形式上満たしていない場合であっても、企業が顧客の商品等を単に預かっているに過ぎないと考えられる実態を考慮して、消費税法上も、同様に取り扱うことが考えられます。

ただし、長期間にわたる保管サービスや冷凍を伴う保管サービスを伴う場合で、取引価格にそのサービス分が加算される場合において、保管料が明示されず、商品等の販売価格と区分しないで一体として対価の収受がされるケースがあります。この場合、会計および法人税では別個の履行義務として、取引価格を商品等の販売と保管サービスという2つの履行義務に配分することが考えられますが、消費税法上、取引価格の配分という考え方は適用されない点に留意する必要があります。この場合、課税資産の譲渡等の対価として収受された金額がそのまま課税対象になると考えられます。

もっとも保管サービスの対価が商品等の販売と明示的に区分されて収受されているときは、その部分を区分して、保管期間の経過に応じて課税対象とすることが考えられます。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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