子会社が所有する親会社株式を現物配当するときの会計・税務処理 ~税務上の適格現物分配に該当するケース~

2022年1月5日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

子会社の親会社株式取得に係る会社法上の規制

子会社による親会社株式の取得は、会社法上、原則として禁止されており(会社法135条1項)、違反したときの罰則規定も置かれています(会社法976条10号)。親会社の支配下にある子会社が親会社株式を取得することを自由に認めてしまうと、会社の財産確保の点において問題があるし、相場操縦、反対派株主からの取得による取締役の会社支配の維持などの弊害が考えられるからです。

ただし、①他の会社(外国会社を含む)の事業の全部を譲り受ける場合において当該他の会社の有する親会社株式を譲り受ける場合、②合併後消滅する会社から親会社株式を承継する場合、③吸収分割により他の会社から親会社株式を承継する場合、④新設分割により他の会社から親会社株式を承継する場合、⑤①から④に掲げるほか、法務省令で定める場合については、例外事由として、子会社による親会社株式の取得が認められています(会社法135条2項、会社法施行規則23条)。

例外事由により、子会社が親会社株式を取得した場合であっても、その親会社株式を相当の時期に処分しなければならないと定められています(会社法135条3項)。

親会社株式の処分に係る方法

子会社が所有している親会社株式の処分の方法としては、①親会社が自己株式として取得する、②取引先等に対して相対取引で売却する、③市場で売却する、④市場価格への影響を考慮し証券取引所のToSTNeTを利用して売却する、⑤組織再編に際して処分するなど、いくつかの方法が考えられます。

子会社が所有している親会社株式を、親会社が自己株式として取得する方法が採られる場合も少なくありません。親会社が子会社から自己株式を取得することについては、株主総会の決議は必要なく、取締役会の決議で行うことができますので(会社法163条)、手続面の負担はそれほどありません。

また、親会社と子会社との間に完全支配関係がある場合は、税務上、子会社において株式の譲渡損益は不計上とされ(法法61条の2第17項)、みなし配当に係る受取配当金は全額益金不算入となりますので(法法23条1項)、課税関係なしに実行できます。

さらに、親会社と子会社との間に完全支配関係がある場合は、子会社が現物配当により親会社に対して親会社株式を交付する方法も考えられます。税務上、適格現物分配に該当することにより、課税関係なしに実行できます。この場合、子会社の剰余金の分配可能額の範囲内で行う必要がある点に留意する必要があります。すなわち、現物配当に当たっては、その配当しようとする資産の帳簿価額が剰余金の分配可能額を超えることはできません。また、会社の純資産額が300万円を下回る場合には配当できず、配当の結果純資産額が300万円を下回ることも認められません(会社法458条、461条、会社計算規則158条6号)。

具体例

以下、具体的な子会社が所有している親会社株式を、現物配当により親会社に交付するときの会計および税務処理を、設例により説明します。

設例 子会社が剰余金の配当により親会社株式を交付した場合

前提条件

子会社が、剰余金の配当により、親会社に対して親会社株式を交付します。配当を受ける親会社にとっては、自己株式の取得に該当します。

親会社株式の処分に係る方法 図表

前提条件

  1. 子会社B社が保有するA社株式の帳簿価額は360(1株)とします。
  2. 親会社A社の所有するB社株式の帳簿価額は、1,000とします。
  3. 子会社B社の株主資本の(会計上の)帳簿価額は、1,800とします。
  4. 剰余金の配当に係る原資は、利益剰余金とします。
  5. A社とB社との間には、完全支配関係があり、税務上の適格現物分配(法法2条12の15)に該当するものとします。
  6. B社の剰余金の配当直前の税務上の貸借対照表は、次のとおりとします。

B社の自己株式取得直前の貸借対照表

B社の自己株式取得直前の貸借対照表

(注)税務上の貸借対照表を前提としています。

解答

1. 会計処理

(1) A社の会計処理

自己の株式による現物配当を受けた親会社は、自己の株式を移転前の適正な帳簿価額により計上するとともに、これまで保有していた子会社株式が実質的に引き換えられたものとみなされます。この場合、実質的に引き換えられたものとみなされる額は、分配を受ける直前のその株式の適正な帳簿価額を合理的な方法により按分して計算します(「事業分離等に関する会計基準」52項、企業結合・事業分離等適用指針297項、268項、244項)。

なお、合理的な按分の方法としては、関連する時価の比率、時価総額の比率、関連する帳簿価額の比率などによりますが(企業結合・事業分離等適用指針295項)、ここでは関連する帳簿価額の比率によるものとします。

解答 仕訳表

※1 子会社における移転前の適正な帳簿価額360
※2 B社株式の帳簿価額1,000 × 360/1,800 = 200
※3 360 - 200 = 160

A社は、子会社B社からA社株式の現物配当を受けますが、企業集団内の企業間の配当であるため、自己株式を移転直前のA社株式に係る帳簿価額により受け入れるものと考えられます。その時の相手勘定の貸方については、子会社株式が実質的に引き換えられたものとして取り扱うため、自己株式の帳簿価額と子会社株式の帳簿価額の減少額との差額について交換差益を計上することが考えられます。

(2) B社の会計処理

(2) B社の会計処理

配当した親会社株式の帳簿価額相当額について繰越利益剰余金の減少を認識します。適格現物分配であるため、所得税の源泉徴収は不要です(所法24条1項)。

2. 税務処理

(1) A社の税務処理

利益剰余金を原資とした剰余金の配当を受けているため、次のように利益積立金額の増加を認識します(法令9条1項4号)。税務上の自己株式の取得価額360は、資本金等の額を減算することにより消去します(法令8条1項21号ロ)。

(1) A社の税務処理 仕訳表1,2

上記の2つの仕訳をまとめると、次のようになります。

(1) A社の税務処理 仕訳表まとめ

A社において、次のように申告調整を行うことが考えられます。

別表四 所得の金額の計算に関する明細書

別表四 所得の金額の計算に関する明細書

別表五(一) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書

別表五(一) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書

会計上はB社株式の帳簿価額を200減少させていますが、税務上の帳簿価額は変わりません。したがって、その減算過大額について別表五(一)上で利益積立金額の増加を認識します。会計上、交換差益を160計上しているため、「利益積立金額の計算に関する明細書」の繰越損益金の増加欄および期末金額が160増加しています。結果として、トータルで利益積立金額は360増加になります。

また、「資本金等の金額の計算に関する明細書」において会計上の自己株式の帳簿価額360を自己否認します。結果として、資本金等の額は360減少します。

なお、適格現物分配に係る益金不算入規定(法法62条の5第4項)が適用されるものであり、受取配当等の益金不算入規定が適用されるわけではないため、別表八(一)「受取配当等の益金不算入に関する明細書」への記載は不要であると考えられます。

(2) B社の税務処理

利益剰余金を原資とした剰余金の配当であるため、利益積立金額の減少を認識します(法令9条1項8号)。

(2) B社の税務処理 仕訳表

会計上、利益剰余金360の減少を認識しており、「利益積立金額の計算に関する明細書」の繰越損益金の欄の数値が同額減少するため、申告調整は必要ありません。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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