サステナビリティに関する情報開示に係る課題

2023年4月3日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

2023年1月31日付で「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」(以下、「開示府令」)が公布され、2023年3月期の有価証券報告書からサステナビリティに関する情報開示の拡充が行われますが、その情報開示に係るいくつかの課題を取り上げます。

虚偽記載の責任

サステナビリティ情報は中長期の将来情報を含むものです。開示した後に事情が変化した場合に虚偽記載の責任が問われることも懸念され、虚偽記載となることを恐れ、開示が充実しない可能性も孕(はら)んでいます。

この点、金融庁は将来情報の記載と虚偽記載の関係について、「一般に合理的と考えられる範囲で具体的な説明がされていた場合、提出後に事情が変化したことをもって虚偽記載の責任が問われるものではないと考えられる」(「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正案に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方(平成31年1月)No.16)との考えを示していました。

この考え方を企業内容等開示ガイドライン等で明確にすることが求められていましたが、今回の開示府令に併せて公表されたガイドラインにおいて、将来情報の記述と虚偽記載の責任および任意開示書類の参照について明確化されました(企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)(以下、「開示ガイドライン」)5-16-2、5-16-4)。

具体的には、サステナビリティ情報をはじめとした将来情報の記載について、①一般的に合理的と考えられる範囲で具体的な説明がされている場合や、②当該説明をするに当たって、例えば、将来情報について社内で合理的な根拠に基づく適切な検討を経た上で、その旨を、検討された内容(例えば、当該将来情報を記載するに当たり前提とされた事実、仮定および推論過程)の概要とともに記載されている場合には、有価証券報告書に記載した重要な将来情報と実際に生じた結果が異なる場合であっても、直ちに虚偽記載等の責任を負うものではないと考えられる点を明確化しています。

ただし、経営者が、有価証券報告書に記載すべき重要な事項であるにもかかわらず、投資者の投資判断に影響を与える重要な将来情報を、認識しながらあえて記載しなかった場合や、重要であることを合理的な根拠なく重要と認識せず記載しなかった場合には、虚偽記載等の責任を負う可能性があることに留意する必要があります。

また、サステナビリティ情報や取締役会等の活動状況の記載については、その詳細な情報について、任意開示書類を参照することができることを明確化し、また、任意開示書類に明らかに重要な虚偽があることを知りながら参照する等、当該任意開示書類の参照自体が有価証券報告書等の重要な虚偽記載等になり得る場合を除けば、単に任意開示書類の虚偽をもって直ちに虚偽記載等の責任を問われるものではないことも明確化しています。

なお、開示ガイドライン5-16-2は、「企業情報」の「第2 事業の状況」の「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」から「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」までの将来情報を対象とする旨が明確化されています。

重要性に関する取扱い

サステナビリティ情報を開示する際の重要性については、金融庁が2019年に公表した「記述情報の開示に関する原則」(以下、「開示原則」)において、記述情報の重要性は投資家の投資判断にとって重要か否かにより判断すべきであるという基本的な考え方が示されていました。

すなわち、開示原則2-2において、「記述情報の開示の重要性は、投資家の投資判断にとって重要か否かにより判断すべきと考えられる。」としており、その重要性は「その事柄が企業価値や業績等に与える影響度を考慮して判断することが望ましい。」としていることを参考にすることが考えられます。

なお、開示原則において、「サステナビリティ情報については、現在、国内外において、開示の基準策定やその活用の動きが急速に進んでいる状況であることから、サステナビリティ情報の開示における「重要性(マテリアリティ)」の考え方を含めて、今後、国内外の動向も踏まえつつ、本原則の改訂を行うことが考えられる。」としているとおり、今後の国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)基準の最終化や、わが国のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)において策定されるISSB基準と整合的な国内基準の内容も踏まえ、開示原則の改訂も検討するとしています(「パブリックコメントに対する金融庁の考え方」No88からNo96)。

IFRSS1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」[案](以下、「ISSB基準案」)では、重要性について、以下のように具体的な考え方が示されています。すなわち、主要な利用者(現在および潜在的な投資家、融資者、その他債権者)の企業価値に関する評価において重要なすべてのサステナビリティ関連財務情報の開示を求めるとされています。具体的には、その情報を省略したり、覆い隠したりしたときに、主要な利用者が報告に基づいて行う意思決定に影響を与えることが合理的に予想される場合には、当該情報には重要性があるとされます。

また、重要性はその情報が持つ性質や影響度合いによって企業ごとに異なるため、重要性に関する定量的な基準等は設けないものとし、企業において重要性を判断することが要求されるとされています。この点について、投資家の投資判断や融資者の与信判断にとって重要であるかどうかの判断は、企業の業態や企業が置かれた時々の経営環境等によってさまざまであるため、各企業において、個々の課題、事象等が自らの企業価値や業績等に与える重要性に応じて、各課題、事象等についての説明の順序、濃淡等を判断することが求められるとする見解がみられます(※1)

なお、「戦略」と「指標および目標」について、各企業が重要性を判断した上で記載しないこととした場合における当該判断やその根拠は、必ず開示しなければならない事項ではありません。その上で、投資家に有用な情報を提供する観点から、例えば、各企業がその事業環境や事業内容を踏まえて、どのような検討を行い、重要性がないと判断するに至ったのか、その検討過程や結論を具体的に記載することが考えられます(「パブリックコメントに対する金融庁の考え方」No99からNo100)。

※1 神作裕之「サステナビリティ・ガバナンスをめぐる動向」旬刊商事法務No.2296、P6。

サステナビリティ情報に対する信頼性確保

サステナビリティ情報については、信頼性確保を求める投資家の声の高まりから、わが国では、企業が、監査法人等から任意で保証を受ける動きがみられます。

また、国際的にも、サステナビリティ情報に対する保証の議論が進んでいます。欧州では、2023年度から開始されるCSRDに基づく報告には限定的保証を付け、徐々に保証水準を上げるアプローチを提案しているほか、米国では、SECが2022年3月に公表した気候関連開示を義務化する規則案の中で、Scope1・Scope2のGHG排出量について、小規模企業を除き、大規模早期提出会社では2024会計年度、早期提出会社、非早期提出会社では2025会計年度から限定的保証を付けることを提案しています。さらに、国際監査・保証基準審議会(IAASB)においても、今後、サステナビリティ情報に関する保証業務の基準についての議論が行われることになっています。

サステナビリティ情報に対する保証の検討を進めるに当たっては、①保証の前提となる開示基準が国際的に議論の途上であること、②サステナビリティ関連情報の保証基準については、今後、具体的な議論が行われること、③保証に必要な知見・専門性、独立性等の観点から、適切な保証主体についてはさまざまな意見があること、などを踏まえる必要があると考えられます。

このため、ディスクロージャーワーキング・グループにおいて、前提となる開示基準の策定や国内外の動向を踏まえた上で、中期的に重要な課題として検討を進めていく必要があるとしています。

任意開示書類の参照

開示ガイドラインにおいて、サステナビリティ情報や取締役会等の活動状況の記載については、その詳細な情報について、任意開示書類を参照することができることを明確化しています。

新設されるサステナビリティ情報の「記載欄」への記載については、任意開示書類に記載した詳細情報を参照することが考えられます(※2)

また、統合報告書やサステナビリティレポートといった任意開示書類は有報提出後に公表しているケースが多いと思われます。この提出時期のズレについて、どのように対応するかが問題になります。

有価証券報告書の記載内容を補完する詳細な情報については、前年度の情報が記載された書類や将来公表予定の任意開示書類を参照することも考えられますが、将来公表予定の書類を参照する際は、投資者に理解しやすいよう公表予定時期や公表方法、記載予定の内容等も併せて記載することが望まれます(「パブリックコメントに対する金融庁の考え方」No238からNo241)。

一方、各企業において、投資者の投資判断上、重要であると判断した事項については、有価証券報告書に記載する必要があります。そして、有価証券報告書における「サステナビリティに関する考え方および取組」では、直近の連結会計年度に係る情報を記載する必要がありますが、その記載に当たって、情報の集約・開示が間に合わない箇所がある場合等には、概算値や前年度の情報を記載することも考えられます。この場合には、概算値であることや前年度のデータであることを記載して、投資者に誤解を生じさせないようにする必要があります。

また、概算値を記載した場合であって、後日、実際の集計結果が概算値から大きく異なる等、投資家の投資判断に重要な影響を及ぼす場合には、有価証券報告書の訂正を行うことが考えられます(「パブリックコメントに対する金融庁の考え方」No238からNo241)。

なお、2022年3月に公表されたISSB基準案では、サステナビリティ情報について、財務情報との結合や、財務諸表と同じ報告期間を対象とすることが求められており、今後のISSB基準の最終化や、SSBJにおいて策定されるISSB基準と整合的な国内基準の内容も踏まえ、適切な情報開示に向けて検討していくことが重要であるとされています(「パブリックコメントに対する金融庁の考え方」No238からNo241)。

※2 参照先の書類としては、「任意」に公表した書類のほか、他の法令や上場規則等に基づき公表された書類も含まれ得ます(「パブリックコメントに対する金融庁の考え方」No234からNo237)。また、「提出会社が公表した他の書類」として、ウェブサイトを参照することも考えられます。もっとも、ウェブサイトを参照する場合には、①更新される可能性がある場合はその旨および予定時期を有価証券報告書等に記載した上で、更新した場合には、更新個所及び更新日をウェブサイトにおいて明記する、②有価証券報告書等の公衆縦覧期間中は、継続して閲覧可能とするなど、投資者に誤解を生じさせないような措置を講じることが考えられます(「パブリックコメントに対する金融庁の考え方」No257からNo261)。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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