6 分 2020年4月23日
高波が打ちつけるウェサン島(フランス)のケリオン(Kéréon)灯台

新型コロナウイルス感染症の中で銀行が直面した3つのテーマ

執筆者 Tapestry Networks

プロフェッショナル・サービス・ファーム

Tapestry Networksは、リーダーたちが問題解決のために相互に学び、新しいアイデアを探り、コラボレートする環境を創出します。

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EY Japanの窓口

EY新日本有限責任監査法人 EY Japan 銀行・証券セクターリーダー シニアパートナー

家族旅行が最大の楽しみ。

6 分 2020年4月23日

グローバル金融機関のリーダーたちが、現在銀行が抱える課題と、財務、リスク、規制コンプライアンスについて長期的観点から議論しました。

Local Perspective IconEY Japanの視点

米国や欧州と比較すると日本における感染者数や医療崩壊の程度の状況は異なり、失業率のボラティリティも相対的には低い状況と言えます。また、金融機関については社会的インフラとしての使命を果たすべく、日本では自粛期間の間も営業時間の変更はあったものの各営業店の営業は継続されました。従ってこの記事で展開される議論の温度感や影響は必ずしも同レベルではないかもしれません。しかし、ここで挙げられている3つのテーマはわが国においても重要なテーマであり、今回の危機が大きな影響を銀行業界に与えることは間違いありません。

所謂3密を避けるべく働き方改革を推進していく方向性は、高度の情報セキュリティが求められる銀行業界においても不可避と思われます。こういった大きな流れは従来マイナス金利環境下で低収益に悩まされ、経費率の改善が求められていた銀行業界において多大な変革をもたらす可能性があります。多くの銀行で対面営業からデジタルチャネルへのトランスフォーメーションの試みが加速し、その結果より顧客ニーズに応えたサービスモデルを構築し、より低コストな経費構造を構築した銀行が優位に立つことになります。

 

EY Japan の窓口

林 慎一
EY新日本有限責任監査法人 EY Japan 銀行・証券セクターリーダー シニアパートナー

Tapestry Networksは3月下旬、2度にわたってBank Governance Leadership Network(BGLN)会議を開催しました。EY Global Financial Servicesのリーダー層、銀行のガバナンス担当役員や経営執行役員、規制当局者など銀行業界における有識者たちが参加したこの会議では、銀行が直面する最大の課題について議論が行われ、財務・リスク・規制コンプライアンスについて長期的観点から意見が交換されました。この議論で浮上したテーマは以下の3つです。

1. 今回の危機は業務運営上のレジリエンスと業務継続計画(BCP)の試金石

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行によって、銀行の業務運営上のレジリエンスと業務継続計画がかつてない形で試されています。テレワークを行う顧客と行員が増えたことで、銀行はその安全確保に懸命に取り組んでいます。ワークフローの再構築をはじめ、既存の業務継続計画にはほとんど組み込んでこなかったシナリオ、例えば世界規模での都市封鎖に伴う経済活動の制限といった極端なシナリオの検討を進めています。しかし、顧客からの問い合わせの急増により、サポートインフラに大きな負担がかかっているのが現状です。

コールセンターはキャパシティーの50~60%で運営しています。労働力が30%減少したことから、多くの支店を一時的に休店しました。スタッフの人数が著しく減少する一方で、業務量は大幅に増えています
某銀行のマネジメント

有識者たちは従業員たちがこのような過酷な環境下で働くことで抱えるストレスについて懸念しています。オペレーショナルレジリエンスを維持していたとしても、従業員が置かれた労働環境については留意しなければならないでしょう。銀行はこれまでのところ、テレワークへの移行に驚くほどうまく対応しているという点で有識者たちの意見が概ね一致しました。新型コロナウイルス感染症がこれほど世界的に拡大し影響を及ぼすとは誰もが予想できなかったとはいえ、なんとか事業を継続できているように見受けられます。その一方でサイバーセキュリティが問題となるかもしれません。「これまでのところサイバー活動の増加は確認されていないものの、状況を注視しています」と述べていました。

2. 銀行は政策対応で重要な役割を果たす

世界各国の政策立案者と規制当局が、新型コロナウイルス感染症危機に伴い金融業界が受ける影響を軽減する対策を講じる中、銀行は経済的対応の中核を担っています。

当局が金融規制を見直し

規制当局は現在、課題と優先すべき事項の見直しを進めています。信用供与と政策立案者による財政対応の支援において、銀行がより柔軟に対応できるようにするためです。その対応はさまざまであり、規制要件を緩和しているところもあれば、監督上の指針の刷新を図っているところもあります。EYからの参加者はこれまでの対応の一部について、「一定の規制報告の期限延長、資金・流動性規則の一部緩和は、いずれも中央銀行の経済対策を補強することを目的としている」と評しました。

規制当局と監督機関も、現在の環境下で顕在化する恐れのあるリスクに注力するべくリソースをシフトさせるようになってきました。信用リスクとオペレーショナルリスクの監視に、より多くのリソースを集中させるため、金融監督業務の一時停止や方向転換に踏み切ったところもあります。ストレステストの実施を先送りする規制当局もある中、当局関係者からは「銀行業界の財務健全性の透明性は重要。銀行はこれまで、他業界が創出したキャッシュフローの恩恵を受けてきました」との発言がありました。

融資ニーズに速やかに対応する際の課題とビジネスチャンス


銀行業界が、経済を支えるべく政府の政策を支える義務を負う中で、業務上およびリスクマネジメント上の課題が生じるとともに、銀行にとってもビジネスチャンスが生まれる可能性があります。


  • 経済対策を効果的に実施し顧客を支援するためには、銀行と政策立案者間のコミュニケーションを高めることが必要。支援プログラムを受けるための要件と、銀行が受けるであろう影響をより明確にする必要があるという点で有識者たちの見解が一致。政府と規制当局による適切な政策介入は高く評価されるべきである一方で、最前線の現場の状況が厳しく、ハイペースで融資し続ける銀行の負担が今後大きくなることであろうことを政策立案者は理解しなければならない、との声が聞かれた。ある有識者は「前回の金融危機の時と同様に、要件の統一が有益だろう」との見方を述べた


  • 銀行は今後、融資の処理に苦慮することになる。銀行システムは通常、今回予想されるような大量の融資申請を迅速に処理するようには設計されていない。ある取締役は、危機以前の話として「所定の基準をクリアして融資の承認を受けるのに、早く対応したとしても14日かかった」と述べた。米国の中小企業庁(Small Business Administration - SBA)の融資部門が現在導入しているテクノロジーでは、これに対応することができない

どの銀行も大量の融資案件を前に難題を突き付けられています。これまでSBAで受け付けた年間融資案件の10倍にも及ぶ量です。これらをどのように引き受け、今後数カ月の間にどのように処理するというのでしょうか
EYパートナー

会議の中でEYが提案したのは、すでに導入済みのテクノロジーに適応させた対応や、新たなテクノロジーの導入、外部の業者(ベンダー)を活用したソリューションの早期創出により処理能力を高めることです。ただし、これら3つの選択肢はいずれもリスクを伴います。他の参加者からは、規制当局と連携した新たなプロセスの導入事例も挙がりました。ロボを利用して政府保証が付けられた融資の迅速な承認と実行を自動化することで、信用引受時の負担を軽減するというものです。

  • 対応次第で銀行の評判は上がりも下がりもする。銀行が政府の政策発信の窓口となることにはレピュテーショナルリスクがあり、問題が起きた場合、銀行が非難を受けることになるとみる取締役もいる。他方、銀行がソリューションの一端を担うと見なされるのはチャンスであると考える見方も。ある取締役は、「金融機関に対する世論の信頼を取り戻す絶好の機会。各金融機関が責任を持ってサービスを提供するかどうかにかかっている」と述べている
米国では今後、中小企業が必要とする資金を十分に拠出することができず、どの銀行もレピュテーショナルリスクを負うことになるでしょう。銀行が、借り手と支援金受給者に資金をタイムリーに支給できなければ問題になりかねません
某銀行のマネジメント

3. 先行きの見えない将来に対応するための継続したモデル検証

経済状況と政府の政策の行方が過去に例を見ないほど不透明なことから、当面の間、バランスシートとシナリオプランニングが課題になると参加者は予測しています。「ニューノーマル」により、戦略と事業運営に長期的に問題が生じることも考えられます。

リスクモデルと前提を問い直す

現在注力すべきは、顧客や従業員がこの危機を安全に乗り切るための方策と成長への道筋を見いだすことです。

その一方で、未曽有の経済封鎖がリスクマネジメントを難しくしています。極端なストレスシナリオの範囲内にあるとしながらも、経済活動の大部分が長期的に封鎖されれば、引き続きモデルの有効性が試されることになると考える有識者もいます。ある銀行の取締役は次のように述べています。「失業率はすでに当行のストレスシナリオの水準をはるかに上回っています。前提の一部を見直す必要があるかどうか、現在検討しているところです」

回復への長い道のり

今回の危機が完全に終息するまでには、当初多くの人が予測していたよりずっと長い期間がかかる恐れがあると警鐘を鳴らす有識者もいました。ある有識者は「現在講じている措置は少なくともあと半年は続けなければならないだろう」との見方を示しています。このような状況下では、回復の時期と道筋を予測することが一層難しくなります。

景気回復は、当初期待されていたV字回復よりも緩やかになるかもしれません。顧客の信頼を戻すことが必要ですが、以前の水準に戻るまでには時間がかかる可能性があります。ある参加者からは、売り上げのない期間が3カ月から半年も続いたら、企業は持ちこたえられないとの指摘がありました。「銀行は、企業がこの時期を乗り越える手助けをするしかないわけですが、どのようなシナリオであっても、巨額の信用リスクを負うのは間違いありません」

「この状況がどのくらい続くかによって、私たちが融資することになっている企業の一部は経営が立ち行かなくなる」とみる参加者もいました。ある参加者は「デット・エクイティ・スワップが行われる」と予測しています。結局は、政府と中央銀行が最終的な頼みの綱になると考えられます。

テレワークへの移行がもたらした成果の1つは、非常に多くの支店を一時閉鎖する中で支店に勤務していた行員の多くをどうすればコールセンターの人材として再配置できるかの確認ができたことです
某銀行取締役

今回の危機下では、経済封鎖が長引けば長引くほど、銀行と取締役にとっては将来に関する問題が続出することでしょう。銀行は今後、支店の位置付けをどのように考えるべきでしょうか。 本店と支店の相談窓口を統合したり、行員の再教育を検討するのも一案ではないでしょうか。

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サマリー

世界の金融機関のリーダーたちが、オペレーショナルレジリエンスと業務継続計画に関わる課題、顧客の融資ニーズに対する政策対応と銀行の役割、銀行が直面する課題とビジネスチャンスについて議論を交わしました。

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