5 分 2020年4月24日
一人で岩壁をよじ登る男性

新型コロナウイルス感染症の流行で浮上した短期的な課題と長期的価値との相関とは

執筆者

Michael Bertolino

EY Global People Advisory Services Leader

Leader of growing, future-focused team of talent practitioners. Award-winner. Supporter of women in business. Extreme cyclist. Husband to Mensa-sharp wife and two thoughtful kids.

5 分 2020年4月24日

自社の存在目的に沿って新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の危機を乗り切った企業は、危機が終息した後も長期にわたって利益となる長期的価値を生み出すことができるでしょう。

Local Perspective IconEY Japanの視点

コロナクライシスの先に訪れるニューノーマル(新常態)な世界とは何か?
EYは短期的かつ金融市場重視の行き過ぎた資本主義が見直されて、社会、企業、個人全てが長期的価値(Long-term value)を重視する価値観と行動に変容すると考えています。その実現には顧客価値、社会価値、財務価値に加えて、人材価値の再構築が必須です。
近代日本経済の父と呼ばれる故渋沢栄一氏の「道徳経済合一説」や「利益の前に公益」の考え方に代表されるように、短期的資本主義に傾倒せず、従業員を“人財”と捉えて、長期的な雇用と能力開発で人材価値を高める努力を永続的に進めたかつての日本企業は長期的価値を伴う経営の原点とも言えます。クライシス後に訪れる人材価値を重視した経営、つまり人材ファーストに舵を切ることは、何か新しいことを始めることを意味するのではなく、日本企業が近代100年かけて培ってきた強みや教訓を再発見し、利活用することが求められているのではないでしょうか?

 

担当窓口

鵜澤 慎一郎
EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ピープル・アドバイザリー・サービスリーダー / マーケッツ/BDリーダー パートナー
藤井 恵
EY Japan Tax People Advisory Services Partner

ここ数年、長期的価値創造への移行が進み、業績だけでなく、顧客、従業員、社会といった人的要因も重視されるようになってきました。企業の評価が、株式市場においての価値と社会にとっての価値の両方を基に判断されるようになってきたのです。

具体的な話をしましょう。私は年初に「『人間こそが最も重要である』とすると、いったい何が起きるだろうか?」という問いを念頭に置き続けようとブログで述べました。私たちが今直面している危機において、この問いがいかに重要なものとなるか、その時点では考えも及びませんでした。

世界中の企業が新型コロナウイルス感染症による影響への対処に取り組む中、⾃社を守ることで精いっぱいのリーダーは、「投資家と株主のために、この危機が及ぼす財務的影響をどう管理すればよいのか」「ビジネス上の喫緊の課題(従業員に活⼒を与えるために必要な対策はここには含まれない可能性がある)に対処しながら、流動性のニーズにどう対応すればよいのか」といった⽬先の問いだけに集中したくなるかもしれません。確かに、これらはいずれも極めて重要な問い掛けです。これらの問いに正しく答えることに全精⼒を注げば、短期的に運営を続け、あるいは⻑期的に経営を強化できるかもしれません。それでも、⼈的要素を考慮に⼊れなければ、ステークホルダー(顧客、従業員、投資家、政府)が⻑期的価値の影響を測定する局⾯になったときに、そうした企業は好ましくないと判断されるだろうと私はみています。

「人間こそが最も重要である」という観点から企業が真っ先に考えなくてはならないのは、「どうすれば従業員の安全を確保できるのか」「どうすれば顧客エンゲージメントを維持できるか」「どうすれば社会の役に立てるのか」です。

自社の存在目的を指針とする企業であれば、短期的なレジリエンスをどうやって高めるか、また、長期的にはどのように即応態勢を整え、組織の回復を図っていくのかを検討するにあたり、こうした多くの問い掛けをまず考えに入れるはずです。

危機の時にこそなおさら、企業は従業員を最優先すべきです。私をよく知る人たちは、これが私の強い信念であることを知っています。従業員は企業にとっては命であり、なくてはならないものです。テクノロジーでイノベーションを起こし、資産を運用して、バリューチェーン全体で顧客に満足とサービスを届けるという素晴らしい体験を常に変わることなく創出しているのは彼らなのです。従業員が素晴らしいエンプロイーエクスペリエンスを与えられ大切にされていれば、顧客中心の姿勢が強まり、組織の業績が向上します。それがパフォーマンスの最適化につながり、流動性が生み出されるようになります。これこそが、すべての企業が目指す(あるいは目指すべき)ゴールなのです。


このような言葉があります。「従業員が幸せであれば顧客も幸せになり、最適な成果が得られる」。たとえ危機的な状況の中にあっても、人間は幸せを見つけることができるし、そうであるべきです。今、この極めて困難な時期に最低限必要なのは、従業員の安全と健康を守ることです。当然のことながら、誰もが将来について不安を覚え、確信を持てずにいます。企業トップに求められているのは、心からの理解と共感を示すことです。

勤務先の会社とそのトップが、職場と⾃宅での⾃分の幸福に⼼を配ってくれていると感じている従業員は、会社の下した決定を信頼して受け⼊れる姿勢を見せるはずです。信頼感と企業の存在⽬的は密接に関係しています。従業員の信頼を勝ち得ている企業は、顧客の信頼を獲得し、パフォーマンスを最適化することができるでしょう。

安全と健康といっても、単に⾝体⾯のことではありません。精神⾯や感情⾯での安全と健康という意味もあります。危機においては、個⼈の⾏動や考え⽅の変化に細⼼の注意を払い、何らかの偏⾒が⽣じた場合は、それを突き⽌め、対処する必要があります。現代のようなインクルージョンと多様性の時代にも偏⾒は存在します。ストレスのたまる状況では「無意識の偏⾒」や、それによく似てはいるものの、より悪質な「差別」が、予想もしなかったような形で表⾯化しかねません。⼈間が本質的に持つこの感情を振り払う必要があります。この時代──危機の前であれ、渦中であれ、危機が過ぎ去った後であれ──に成功を収めるには、多様でインクルーシブな考え⽅と経験が⽋かせません。企業の存在⽬的に命を吹き込むのは⼀体感(帰属意識)です。職場で⼀体感を感じられる従業員は、危機の時にこそなおさら職場に貢献し、成果を出す傾向にあります。

安全には秘密の保持も含まれます。健康問題をはじめとした従業員の秘密を守ることを常に優先課題にしなければなりません。秘密の保持は、信頼感を⽣みます。従業員のプライバシーを侵害したり、守秘義務に違反したりすれば、たとえそれが社会の利益のためを思ってのことであっても、その企業は従業員からの信頼を失うことになるでしょう。ひいては、従業員のエンゲージメントと⽣産性にも⼤きな影響を及ぼし、⾔うまでもなく、法域によっては規制⾯の影響もあるはずです。いかなる理由であれ、従業員からの信頼を犠牲にしても構わないと考える企業は、⾃社の存在⽬的を⾒失っているといえます。

企業は従業員の健康とウェルビーイングを第⼀に考え、適切に対応する必要がありますが、企業の存在⽬的に沿った経営をしていれば新たな商機が⽣まれます。渡航禁⽌令、集団隔離、外出⾃粛、完全な在宅勤務形態への移⾏により、事業の継続と⽣産性に関わる課題が⽣じるようになっています。⼀⽅で、そうした課題が出現したことで、インクルーシブで柔軟な、これまでとは別の働き⽅をするための新たな機会が⽣み出されているのです。

企業がリモートワークを推し進め、スプリットチーム制(チーム分けによる交代勤務制)を強化するにつれ、コラボレーションの新しい仕組みが浮上してきました。ある部⾨の仕事がなくなったとしても、新しい仕事を⼿掛ける部⾨が⽣まれ、仕事のなくなった部⾨の⼈材はそちらに異動することができます。事業を継続しながら⼈事の仕組みを再構築し、従業員の健康とウェルビーイングに対応すれば、イノベーションを起こす機会も⽣まれるはずです。全員が⼀丸となって従業員の安全を確保しつつ事業の継続に取り組むことにより、組織内での、そしてそのエコシステム全体での新たなつながりを引き出すことができるかもしれません。

存在⽬的は企業を成功に導くだけでなく、特に苦境を乗り越える道案内をしてくれる「北極星」です。「淀んだ⽔の中でこそ、⽂化の重要性が最も⾼まる」。これを覚えておいてください。明確な存在⽬的を持ち、それに沿った⼈材の価値をはっきりと認識している企業は、この厳しい状況にあっても従業員を守る計画を積極的に⽴てることができます。従業員が会社に信頼感を抱き、今まで以上に貢献し、優れたカスタマーエクスペリエンスの提供に意欲的に取り組むようになれば、その企業はより幅広く社会に貢献できるようになるでしょう。こうした企業は、新型コロナウイルス感染症の危機が終息した後も⻑期にわたって利益となる⻑期的価値をすでに創出しているのです。

サマリー

新型コロナウイルス感染症の時代においても、組織は人材第一主義を貫き、長期的価値を構築しなければなりません。そうすることが、従業員と顧客、そしてステークホルダーの信頼を得ることにつながるのです。

この記事について

執筆者

Michael Bertolino

EY Global People Advisory Services Leader

Leader of growing, future-focused team of talent practitioners. Award-winner. Supporter of women in business. Extreme cyclist. Husband to Mensa-sharp wife and two thoughtful kids.