デジタル時代のマージャーインテグレーションをいかにマスターしますか。

執筆者

Axel Majert

EY Global Transactions Telecommunications Leader

Strategy and M&A leader in telecoms. Values a multicultural, diverse and ambitious work environment. Passionate about family, history and sports. Former first division hockey player. Father of two.

7 分 2018.03.29

合併を成功させるためには、既存の事業に悪影響を及ぼすことなく、戦略的意図のバランスを取り、価値を取り込むことが必要です。

M&Aが今再び熱を帯びています。ディスラプトされた市場に適応しようと奮闘する企業は、自らのポートフォリオ戦略を絶えず再測定することを迫られています。エグゼクティブは、今ある価値を守ると同時に、将来のテクノロジーのトレンドを見据えて投資することで、将来に耐え得る組織を構築しようと、かつてないほどの多様なディールを評価しています。デジタルディスラプションはまた、業界のコンバージェンスへの入り口となり、古い障壁を取り払い、企業が付加価値を生み出し顧客ベースを拡大するための新たな道筋を開いています。

M&Aはイノベーションと事業拡大への最短ルートとなる可能性があり、現在では資本コストもそれほど掛からないことから、その取引は非常に活発になっており、全く衰える兆しはありません。全世界で3,000人の経営幹部レベルのエグゼクティブにアンケートしたEYの第17回 キャピタルコンフィデンス調査によると、それらの企業の56%が来る12カ月間に全世界で買収を実施する予定であることが分かりました。

これらの潜在的なディールの大部分がコンバージェンス(集約)・プレイであるか、 あるいは新技術の導入を狙った ものであり、買収の統合は、かつてないほど複雑になっています。スタート時点から緻密な計画が必要であり、実行に際しては柔軟性が求められます。

集約する世界におけるディール 根拠

デジタル時代における成長志向のM&Aを加速させているのは、以下の二つの明確なディール根拠です。

  • 将来の成長を目指すコンバージェンスでは、企業は、予測される将来の高成長市場に自らを戦略的に位置付けようと、小規模の、多くはベンチャーキャピタルによるテクノロジー中心のスタートアップを買収します
  • 短期的成長を目指すコンバージェンスでは、米国の通信大手AT&Tによる衛星テレビ放送局DirecTVの買収に見られるように、企業は短期的成長を目指し、隣接した業界で大規模な、しばしば業容を変えるような買収を行います

これらのコンバージェンス・ディールは、まさにその性質によって、ミスマッチからスタートします。スケールのミスマッチが多いですが、ほとんどのケースで、文化、目的、プロセス、そして顧客の態度のミスマッチが発生します。

これらのミスマッチを考慮すると、それがコストアウト・シナジーであれ、収益統合プレイであれ、あるいは市場シェア獲得であれ、大部分の合併・統合計画を形作ってきた従来のディール根拠は、他の戦略的優先課題の二の次になるかもしれません。

コンバージェンス・ディールの成功は、独立した事業を犠牲にすることなく機会の実現を加速し、または機会を慎重に見積もることによって、あるいは、「逆統合」を行うことによって実現するのが一般的です。逆統合が起こるのは、買収対象企業が独立を保ち、買収企業が既存のチームを買収対象に送り込むことで、新たなビジネスモデルと企業行動を成長させ、有機的に親会社に還流させる場合です。

最初から統合を成功させる

経営陣は、株主と取締役会から、このような買収を最初から成功させるという大きなプレッシャーを掛けられています。株主らは即効性を求めています。それにもかかわらず、おおよそ3分の2の企業が合併後の最初の四半期で市場シェアを失っており、 第3四半期になるとその数字は90%になっています。従って、統合の間に、現行の業績に悪影響を及ぼすことなく、どのように戦略的意図を実現し、価値を獲得するのかということが課題となります。

不適切な統合計画 と実行が最もよくある失敗点だといわれています。最終的に、買収または合併が価値を生み出すためには、統合は二つの企業の総和以上にならなければなりません。これを達成するためには、M&A取引それ自体と同じ水準のコミットメントと戦略的意図をもって合併後の統合に当たる必要があります。

「それはテニュアシップ(tenureship) ということです。多くの人が、ディールは締結した時点で完了したと考えますが、私は、締結から本当のディールが始まると考えます。ディールは、その予測された価値が実現されたときに完了するのです」とTransaction Advisory ServicesのTechnology, Media & Entertainment and Telecommunicationsを担当するFaizul Aliは言います。

ディールの完了後に多くの企業が犯す失敗の一つは、何を達成したいか、またいつまでにやるか、ということを検討した上で、投資の根拠を再評価し、逆算による計画立案 をしないことです。これを行った場合は、統合を実行し、シナジーを実現する際のトーンとペースを設定することができます。

多くのインテグレーション(統合)は、その複雑性と相互依存性を完全に理解するためにほとんど時間をかけなかったために失敗します。そして、関連するシナジーが消えていくときにチームはショックを受けます。
Roy Cornick
EY Transaction Advisory Services

これを行わずに、企業は、当初の硬直した統合計画にしがみつき、現実が計画通りにならなかった場合は、全体的な戦略を見直すことなく、ばらばらと継ぎはぎの手直しをする「ばんそうこう」アプローチを取ることになるのです。万能の統合戦略など存在しない一方で、計画を練り上げる前に分析を行い、実行中も数多くの、継続的に見直す必要のある戦略的局面が出てきます。

「多くの統合は、計画を練って実行チームを動員しても、その複雑性と相互依存性を完全に理解するための時間をかけないために失敗します。そして、関連するシナジーが消えていくとチームはショックを受けるのです」と、Transaction Advisory ServicesのRoy Cornickは述べます。

ボーダフォンとKDG:コンバージェンスのケーススタディー

2013年10月、携帯電話事業者のボーダフォン・グループは、77億ユーロでドイツのケーブル事業者カベル・ドイチェランド(KDG)の変革的買収を完了しました。この買収は、モバイル、インターネット、テレビを融合し、ひとまとめのサービスとして提供する広範な業界トレンドを反映した典型的なコンバージェンス・プレイでした。

しかしながら、これらのドイツ通信二大巨人の統合は、大きなチャレンジでした。この「短期的成長コンバージェンス」を、既存の事業をかき乱すことなくどのように成長させたのでしょうか?

「取引の価額を見るなら、もちろんシナジーはありました。しかし、最も大きな価値は、カベル・ドイチェランドの成長ストーリーだったのです」とボーダフォン・ドイツの最高財務責任者であるAndreas Siemen博士は語ります。「ですから、最大のリスクは、介入によって、また人員が去っていったり、既存の戦略がぶれたりすることによって、その独立事業がうまくいかなくなることでした」

Siemen博士は、経営チームは統合プロセスによって独立事業が損なわれないようにすることが優先事項だと決定したと説明します。KDGは勢いを維持し、それに加えて経営陣は、事業の取り組みや、コスト削減、人件費などの面でシナジーをもたらす策を講じることができます。

「私は、最も興味深いテーマは統合のスピードであったと思います。どれくらいのスピードで、またどの程度断固とした決意で、統合が実行されるべきか?討議が行われ、私たちはより慎重な段階的アプローチを取ることを決定しました。合併後も事業が継続することを当然と見なすことはできませんが、新たな機能組織を実現するためにはより重層的な統合を行う必要があります。そのため、われわれは十分に時間をかけました」とSiemen博士は語ります。

これはすなわち、合併は順序を追って起こったのではなく、統合戦略が並行して行われた可能性があるということです。コスト、購買、収益面の短期間でシナジーの出やすい領域に最初に着手しましたが、たくさんの人々への働き掛けが必要なマス・プロセスなど、時間を要する領域ではゆっくりと進めたのです。

Siemen博士は、外部に合併プロセスを説明することの重要性を強調します。「顧客にも全てを伝えなければなりません。会社内部では全てがはっきりしていると考えるかもしれませんが、消費者に対しては何が起こったのか理解できるように十分なコミュニケーションをする必要があります。同様に、ブランディングについても変化をどのように顧客に教えていくかを考えなくてはなりません。ですから、繰り返しますが、私たちは、ディスラプティブなアプローチではなく、段階的なアプローチを選びました」

一呼吸入れる少しの余裕、そして共に検討する少しの余裕があれば、両サイドからの意見交換の機会をより良いものにすることができます。
Dr. Andreas Siemen
ボーダフォン・ドイツ最高財務責任者

最終的に、Siemen博士にとっては、統合の成功に関しては時間が全てでした。「振り返ると、ずっと急速なアプローチを選んでいたとしたら、結果的に、ドイチェランド側の多くの優秀な人材、そしてたくさんのノウハウを失っていたと思います。一呼吸入れる少しの余裕、そして協力する少しの余裕があれば、両サイドからの意見交換の機会をより良いものにすることができます」とSiemen博士は語ります。

成功する合併統合のための三つのアプローチ

最初に統合のトーンとペースを評価することは、ディール根拠がどのようなものであるかにかかわらず、長期的に結合が成功するためには不可欠です。コンバージェンス・ディールに関して覚えておくべき重要な違いは、ゴールがどこであるかに関わらず、重要な新たな企業行動を採用しなければ、そこにたどり着くのは難しいということです。

これを達成するためには、エグゼクティブは、考え方を変え、次の三つのアプローチを検討する必要があります。

  1. 価値を生み出す事業を特定する
    本当に影響力の高い、変化を生み出す行動というのは大概極めて少なく、おのおののディールに固有のものです。合併プロセスの最初に、そのディールから価値を生み出すという面で最も有用なそのような行動をピンポイントで特定し、それらの行動を統合戦略の中核に据えます。
  2. ディールの締結前に、戦略的な経営モデルの再設計を検討する
    コンバージェンス・ディールでは、成功は往々にして、重要な企業行動を推進する経営モデルの変更に左右されます。経営モデルの変更によってそのディールが期待される水準を満たせるかどうかが決まることが多いため、締結前にこれらの変更を徹底的に検討することが重要です。
  3. モジュラー統合を検討する
    コンバージェンス・ディールは、シナジーを得るために全てを素早く統合する従来の合併統合とは異なります。全てが可能な限り素早く統合される必要はないこと、もしかすると一部の機能は全く統合されるべきではないことを認識してください。

ディスラプションは新たな考え方を要求します

デジタルディスラプションとセクターコンバージェンスにより、企業はM&Aを通じてますます自らを将来に耐え得る組織としていくことを迫られています。ただし、企業は、自らの統合戦略において洞察力と柔軟性の両方を備えている必要があります。環境が急速に変化する中で、現在の素晴らしいディールが、来年は売却の対象になることは十分にあり得ます。

それ故、コンバージェンス・ディールのバイヤーは、従来の合併統合の「オール・オア・ナッシング」アプローチを回避しようと努めるべきです。ボーダフォンとKDGの合併から見て取れるように、統合は、機能ベースで、各機能の戦略的重要性に基づいた異なる時間軸で起こる場合があります。

企業がコンバージェンス・ディールへと向かうにつれて、合併統合の重心は、事業シナジーから人材あるいは技術へのアクセスへ、また、収益と利益の成長目標からイノベーションと技術の成熟目標へと移っていくかもしれません。従って、ディールの価値を推進していくためには、新たな考え方と合併後の統合に対する新たなアプローチが必要なのです。

サマリー

急速に変わるM&Aの世界では、ディールを締結するためには、革新的な考え方と、合併後の統合に向けた新たなアプローチが必要です。

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Axel Majert

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