7 分 2022年5月11日
ライトアップされた壁に向かって立つ男性の後ろ姿

メタバース:ヒューマンエクスペリエンスの次のフロンティアを形作る5つの質問

執筆者 Nicola Morini Bianzino

EY Global Chief Technology Officer

ニコラ・モリーニ・ビアンジーノ/グローバルなEYの組織が展開するサービスラインとマーケットの中心に、テクノロジーを据える。ニューラルネットワークのパイオニア。イノベーター。AIと機械学習のソートリーダー。元一流アスリート。

投稿者
EY Japanの窓口

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 テクノロジー/メディア・エンターテインメント/テレコムセクター パートナー

Japan TMTセクターにおいて、デジタルを活用したビジネスモデルおよびオペレーションの変革を支援。

7 分 2022年5月11日

メタバースにおけるフィジカルとデジタルの融合は、素晴らしい機会であると同時に、重大な課題も生み出します。

要点
  • 私たちは今、メタバースという新しいテクノロジーを駆使する時代を迎えようとしています。
  • メタバースは、私たちがこれまで経験してきた数々の劇的な変化と同様に、ヒューマンエクスペリエンスのあらゆる側面を質的に変えていくと考えられます。
Local Perspective IconEY Japanの視点

メタバースはゲーム業界をはじめとして、B2C、C2Cでの新たな関係性構築に貢献し、B2Bへも発展していく様相を呈しています。さらに、ブロックチェーンと融合することで新たな経済活動も生み出しつつあります。その一方、暗号資産のように技術ドリブンでビジネスが急速に発展する際は、利用者保護のルール作りが遅れがちです。

EYとしては、企業の今後のビジネスの発展を支援すると共に、政府や業界団体と連携しルール形成にも貢献していきたいと考えています。

既にメタバース上でのバーチャルアイテム販売やビジネス活用が行われており、市場の急拡大が予測されています。メタバースのバリューチェーンは形成中ですが、領域により収益性に差があることが分かっています。

企業はメタバースを未来の話とするのではなく、自社のポジショニングを今から検討すべきです。さらに、メタバースを新たなインフラとして捉え、データ活用能力の獲得や人材育成を検討することが求められます。

EY Japan の窓口

三浦 貴史
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 テクノロジー/メディア・エンターテインメント/テレコムセクター パートナー
荻生 泰之
EY Japan フィンテックリーダー/ブロックチェーン・コンサルティング・ビジネスリーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジックインパクト パートナー

新しいテクノロジーパラダイムが出現するたびに、産業、経済、社会および日常生活が根本的に変革することが期待されます。ソーシャル、モバイル、クラウドなどの変革からおよそ10年、私たちは今、新たな変革、つまりメタバースの先端に立っているのかもしれません。

インターネットの後継として注目されているメタバースとは、共有できる永続的な三次元のバーチャル空間のことで、人々はデジタル上の自己表現(アバター)を通じて、モノや環境、そしてお互いに交流することができます。何十年も前からSF小説の主役になっているメタバースは全く新しい概念というわけではなく、主にゲーム業界で初期のバージョンがすでに存在しています。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより、現実とデジタルの融合が加速し、補完的な新技術の進化も相まって、メタバースは人間の活動のあらゆる領域に拡大すると考えられています。

数百kmも離れたローマにあるコロッセオの真ん中で、バーチャル上でホワイトボードを使って同僚とアイデアを出し合うミーティングを開催することを想像してみてください。あるいは、ウェブサイトをスクロールするのではなく、店舗の通路を歩いて自分に合うものを見つけ、それを玄関先まで届けてもらうことでもよいでしょう。また、製品のばらつきを調整し、ボトルネックを最小限に抑える最適なプロセス製造ラインをシミュレーションしたり、高価な試作品を作ることなく、革新的な航空機の翼のデザインをテストしたりすることもできます。

これらは、メタバースが私たちの能力を向上させ、つながりを拡張し、交流を豊かにする一例に過ぎません。

確かにこのコンセプトはまだ初期段階にありますが、メタバースがどのようなものなのか、人々がどのように利用するもので、またどのような機会を生み出せるのか、その片りんが見えてきています。企業、政府、そして社会全体にとっての課題は、この次のテクノロジーの時代をうまくナビゲートして、ヒューマンエクスペリエンスの次のフロンティアを切り開くことです。

ピクセルからボクセルへ:あらゆる産業の未来

新型コロナウイルス感染症のパンデミックをきっかけに、私たちの生活や仕事は、ピクセルの世界へと移行していきました。しかし、オンラインプラットフォームは、オフラインで行われる私たちの活動すべてとはいわないまでもその多くを媒介しますが、物理的な存在の代替となることはできません。メタバースでは、このギャップを埋めることが可能かもしれません。物理的な原子とデジタルのビットを織り交ぜ、実際に存在していなくても存在感を生み出す、触覚的で感覚的なイマーシブ(没入型)エクスペリエンスを構築することによって、それを実現しようとしています。つまり、私たちが大切にしている場所や物を含め、インターネット上だけではなく、インターネットの中に存在することができるようになるのです。

時間と空間の物理的な制限を受けないメタバースは、ゲーム以外の業界にとっても変革をもたらす新たな機会になります。モバイルインターネット時代と同様に、イマーシブ時代では、顧客エンゲージメント、ブランディング、製品開発、イノベーション、そして最終的にはビジネスモデル全体に対する企業のアプローチを根本的に変革することが求められます。すでに多くの企業が、既存のゲームプラットフォームを活用してバーチャルなソーシャルスペースを構築したり、アバター用の服や靴などのバーチャルアイテムを販売したり、工場のデジタルツインを作成してオペレーションを最適化したり、さらには新入社員の面接や研修を実施したりと、さまざまな試みを行っています。

各国政府も、メタバースを用いた国民へのサービス、教育、観光、文化イベントなど、より深く豊かな交流の可能性に注目しています。経済的に余裕のない小さな国が国際的に存在感を示すために、メタバース上での大使館の設立が計画されています。また、データに基づいて物理的な環境をデジタルで再現し、人工知能と組み合わせることで、山火事の延焼を予測し、消防士を先回りして配置するという試みも行われています。

このような初期の試みから、メタバースの驚くべき可能性を垣間見ることができます。しかし、さまざまなメリットがある反面、落とし穴がある可能性もあります。既存の現実を再現した本格的なバーチャルイマーシブは、結局私たちが現実とデジタルの世界で直面している多くの課題と重複することになるでしょうし、間違いなく新たな課題を生み出すでしょう。

また、メタバースを完全に実現するために必要な技術的マイルストーンの他に、コンセプトを取り巻くメタバースに対する人々の期待や熱狂を和らげるといった、人間を中心とした重大な課題に直面するでしょう。メタバースが私たちの物理的・デジタル的な現実のさまざまな側面と交わるとき、以下に挙げたように5つの重要な質問が浮かび上がります:

1. メタバースにより企業はどのように発展、変革していくのか?

テクノロジーの融合がメタバースへの道を切り開いていくのと同時に、完全に接続された三次元のイマーシブエクスペリエンスは、産業界全体にあらゆる機会をもたらします。企業は、将来の戦略を策定する際に、メタバースについてどのように考えるべきか、メタバースの到来に備えるために今どのような投資をすべきか、といったことを自問しています。

デジタルトランスフォーメーションがビジネスのさまざまな面での進化を企業に求めているように、イマーシブなメタバースの世界でも、トランスフォーメーションが求められます。新たな市場、新たな顧客の嗜好、新たなビジネスモデルと共に、新たな競争の場が開かれるでしょう。どのような新しいイノベーションモデルが台頭するのでしょうか? 必要となる新しいスキルセットはどのようなものでしょうか? タレントマネジメントにどのような影響を及ぼすのでしょうか? 

顧客エンゲージメントの主要なインターフェースとしてメタバースが広く利用されるようになるのは数年先のことであると思われますが、企業は今のうちから、短期的・長期的なビジョンにメタバースを組み込む必要があります。

2. 規制当局はメタバースへの準備ができているか?

規制当局はすでに、現在のデジタル技術がもたらす外部不経済の管理に取り組んでいます。個人情報の収集、プライバシー、ディープフェイクなどの問題は、私たちの社会の構造や、企業が顧客や従業員とどのように接するかについて、大きな影響を与えています。おそらく、メタバースによってこれらの課題は拡大し、新たな課題ももたらされることになるでしょう。

近い将来、メタバースへの入り口となるのは、バーチャルリアリティーやAR(拡張現実)のデバイスです。これにより、企業はメタバース上で交流できるようになるだけでなく、表情、血圧、視線など、より一層個人データを追跡できるようになります。現行の法律やデータ規制は、公平なアクセスからセキュリティ、責任、知的財産権およびデジタル権に加えて、誠実な自己表現などの新しいものに至るまで、さまざまなベクトルで更新する必要があります。誠実かつ公正な規制とはどのようなものでしょうか。そして、規制当局が成功を収めるためには何が必要なのでしょうか?

3. メタバースは人間を中心としたエクスペリエンスをどのように再構築するのか?

人間の興味を中心とすることは、今日の企業にとって、差別化の要因としてますます重要になっています。メタバースでは個人のペルソナが表現され、バーチャルな没入感のある空間を移動しようと思うため、全く新しい意味を持つことになるでしょう。メタバースでのエクスペリエンスを成功させるには、新たな顧客の行動や期待を理解し、それに適応する必要があります。さらに、多くのエコシステムを経由してメタバース上でカスタマージャーニーをたどるようになると、これまで以上に信頼が不可欠になります。

今後、メタバースが主要なテクノロジーのインターフェースとして活用されるようになると、潜在的なテクノロジー依存症やメンタルヘルスへの影響を検討することも必要です。現世代のソーシャルメディアのテクノロジーにはこれと同じテーマの懸念がすでに存在しており、メタバースはエクスペリエンスをさらに広げ、危険性が増す可能性があります。

では、このような状況下で、ブランドがカスタマージャーニーを設計・実施する方法はどのように変わるのでしょうか? 真に信頼されるエクスペリエンスを提供するには、何が必要なのでしょうか? カスタマーエンゲージメントやロイヤルティは、どのように再定義されるのでしょうか? 

4. メタバースは、サステナビリティに対してどのような新たな次元を開くのか?

今、人類にとっておそらくは最大の問題であるサステナビリティ(持続可能性)への対応は、企業や政府にとっても重要な課題です。この地球規模の問題に総力を挙げて取り組むために、メタバースはどのような役割を果たすのでしょうか?

メタバースを技術的に実現するには膨大な新しいインフラが必要となり、それを採用するには、弾力性に富んだネットゼロのソリューションが必要です。さらに、製品やエクスペリエンスの消費がバーチャルやデジタルに偏ると、現実の資源の消費や温室効果ガスの排出に大きな影響を与える可能性があります。これは、移動機会の減少につながる一方で、電力網への需要が増す可能性があるため、良い意味での影響といえます。

メタバースによって、私たちが現実世界よりもバーチャルやデジタルの世界を大切にするようになれば、環境への関心も薄れていくのでしょうか? 一方で、メタバースで現実世界を観察・モデル化し、行動する能力を変革し、環境への影響をより深く理解し、よりよい判断を下すことができるようになるかもしれません。

5.メタバースの実装は世界中でどのように展開されるのか?

インターネットはすでにバルカン化(地政学的な境界に沿って、国が管理する小規模なインターネットに断片化すること)しており、世界各地で異なるルールのもとに運営されています。実際、テクノロジーはグローバル競争の新たな基盤となりつつあり、メタバースも例外ではありません。相互運用性を実現するために、世界的に認められた標準規格が登場することは間違いありませんが、今日のインターネットの世界でもそうであるように、主権者となる政府が介入してくるでしょう。

世界的な地政学と保護主義の台頭は、メタバースの進化にどのような影響を与えるのでしょうか? 同様の断層線が現れるのでしょうか? インターネット自体の性質によって多国籍化が進んでいる企業にとって、どのような意味を持つのでしょうか? 

地方分権の流れは、主権者や企業の規制を受けない集団統治の核心的な試みです。ブロックチェーンを利用した交換の仕組みがメタバースで普及していくと、経済のパラダイムを決定づけるものになっていくのでしょうか? このような移行は、今後のビジネスモデルや企業構造にどのような影響を与えるのでしょうか? 

新しい現実の複雑性と課題

新しいテクノロジーの波頭では、ディストピアとユートピアのビジョンが拮抗しますが、メタバースも同様です。今後どのようなメリットやリスクが発生するのか完全には想像できませんが、私たちが魅力的なヒューマンエクスペリエンスの新たな次元に踏み込もうとしていることは、間違いありません。この記事は、EYが提案するメタバースに関する一連の深堀りの第1稿です。次回以降の記事では、上記の重要な質問をさらに掘り下げ、企業、政府、経済、そして個人にとって実用的かつ実践的な戦略を明らかにしていきたいと思います。

サマリー

私たちはメタバースという画期的なディスラプションの前線にいるかのようです。メタバースでは、ヒューマンエクスペリエンスの次のフロンティアとして、人間の活動のあらゆる領域に全く新しいアプローチをとることが求められるでしょう。企業、政府、そして社会全体が、その影響や幅広いステークホルダーにもたらす意義を理解し、それに応じた設計を行う必要があります。

この記事について

執筆者 Nicola Morini Bianzino

EY Global Chief Technology Officer

ニコラ・モリーニ・ビアンジーノ/グローバルなEYの組織が展開するサービスラインとマーケットの中心に、テクノロジーを据える。ニューラルネットワークのパイオニア。イノベーター。AIと機械学習のソートリーダー。元一流アスリート。

投稿者
EY Japanの窓口

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 テクノロジー/メディア・エンターテインメント/テレコムセクター パートナー

Japan TMTセクターにおいて、デジタルを活用したビジネスモデルおよびオペレーションの変革を支援。