欧州グリーンディールは雇用にどのような影響を及ぼすか
主な判断基準は、雇用をどれだけ創出できるかです。
2020年10月に実施した「欧州アトラクティブネス(魅力度)」パルスサーベイ(英語版のみ)によれば、持続可能性と気候変動を重視した取り組みが、今後3年間で2番目に高まるトレンドになると投資家が考えていることが明らかになりました。短期的には、欧州大陸全体で、エネルギー、運輸、建築、製造業、農業セクターへの投資の準備が整っているプロジェクトが無数にあります。欧州気候基金(European Climate Foundation)(pdf・英語版のみ)とEYが共同で実施した調査において、多くのプロジェクトの存在が明らかになりました。5こうした投資は総額で2000億ユーロに達し、2020年にパンデミックにより失われた雇用のおよそ4分の1に相当する230万人の雇用が創出されると予測されます。
再生、リサイクル、再生可能エネルギーなど、それぞれが単独で成長していく分野もあります。エネルギーセクターを例に挙げると、750憶ユーロに相当する374件のプロジェクトがあり、これらのプロジェクトにより100万人を超える雇用が創出され、4億6400万トンの排出量が削減される可能性があります。プロジェクトには、送配電ネットワークの拡大、太陽光パネルのギガファクトリー、イスラエル、ギリシャ、キプロス間の電力網相互接続も含まれます。
運輸セクターでは、870憶ユーロに相当する217件のプロジェクトが存在し、新たに100万人の雇用創出と、1490トンの排出量削減が見込まれます。このプロジェクトには、電気自動車の充電インフラ、都市交通システムの環境効率、電気推進船や水素タクシーの開発などがあります。6Shift2Railについて作成された予測報告書では、EUの鉄道輸送システムの競争力が高まり、直接また間接的に400万人~600万人の雇用が創出され、2050年までに6~8メガトンのCO2が削減されるとEYは予測しています。
上で述べたプロジェクトから、将来の成長分野についてのヒントが得られ、今後10年間でどこに機会を見いだせるかを明らかにすることができます。今後、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)に向けた準備が進むにつれて、さらに多くのことが明らかになるでしょう。
バリュードリブンな持続可能性のイニシアチブは増加する傾向にあります。このため、ESG(環境・社会・ガバナンス)メトリクスや再生可能エネルギーのテクノロジーなど、新しいスキルセットが必要になるでしょう。2020年代に成長が期待される主なセクターは既に明らかです。グリーンなエネルギーと運輸、エネルギー・リノベーション・プロジェクト、カーボンゼロの建築資材などのセクターです。6月7日に発表された2021年EY「欧州アトラクティブネス(魅力度)」調査では、CO2排出量や廃棄物の削減や、よりクリーンなエネルギー源へのアクセス向上を重視するなど、今後、投資家が投資プロジェクトに持続可能性をどのように反映させようと考えているかについて、新たな見解を示しています。
過去の景気対策から得た教訓に、政策の成功の判断は少なくとも4、5年の期間ですべきだというものがあります。例えば、2009年米国復興・再投資法では、短期的には雇用への影響がほとんど見られなかったものの、長期的には100万ドルあたり約15人の雇用が創出されました。7
今後10年間にわたって、規模にかかわらず多くの欧州企業が、カーボンニュートラルを達成する方法も定めていくでしょう。多くの企業では、この決定が、バリュードリブンな持続可能性に取り組んでいること、すなわち、環境問題への取り組みによって成長を果たしていることを示すことになるでしょう。
コラボレーションが成功の鍵となる
欧州グリーンディールの壮大な目標は、組織単体では達成することはできません。誰も取り残すことなく気候中立な経済に公正な方法で移行する「公正な移行(Just Transition)」の実現には、コラボレーションが鍵となります。
この新たな成長の時代には、公的セクター、民間セクター、第三セクターが力を合わせて変革を起こし、ノウハウを広め、将来のグリーン産業を構築し、雇用を創出していかなくてはならないでしょう。
EUは歴史的な規模でグリーンジョブ(緑の雇用)に投資しています。米国も同様の投資を開始しています。復興の予想図は既に描かれています。その実現は、ひとえに私たちの取り組みにかかっています。