
研究開発税制の改正ポイント 新たな試験研究費「サービス開発」の活用について
Japan tax alert 2017年2月16日号
平成29年度税制改正の主要項目の1つに研究開発税制の見直しがあります。ビッグデータや人工知能(AI)等を活用した新たなビジネス開発が今後の経済成長の中心的な役割を担うと考えられるため、このようなサービス開発にかかる投資を試験研究費の対象に含めて企業の挑戦をサポートしようとするものです。また、従来からある試験研究費の税額控除についても、より多くの研究開発投資を行った企業に対して税額控除率を増やす等、メリハリを効かせた制度とする改正が行われます。
本アラートでは、本年度の研究開発税制の改正のうち、新たに追加される「サービス開発」について、その制度の内容と今後の活用ポイントをご紹介します。なお、記載内容は平成29年度税制改正大綱に基づくものであるため、今後の国会における法案審議の過程において、修正・削除・追加などが行われる可能性があることにご留意ください。
1. 試験研究費の範囲の拡大
デジタル技術の急速な発展により、社会構造が変化しています。すべてのモノがインターネットにつながり(IoT)、人工知能(AI)等を駆使して個々のニーズにカスタマイズされたサービス提供が普通に行われる時代が到来しようとしています。人工知能(AI)やビッグデータ等を活用した高付加価値のサービスを生み出すことは今後の経済成長にとって不可欠であり、企業の競争力維持・強化のために求められることでもあります。
そこで、今まで「モノ作り」中心の産業構造を前提としていた試験研究費の範囲に「サービス開発」を加え、あらゆる産業の様々な研究開発投資を税制面からも後押しする体制が整えられます。
(1) 税額控除の対象となる「サービス開発」
ここで想定しているのは、ビッグデータや人工知能(AI)、IoT等を活用した「第4次産業革命型」のサービス開発です。単に新たなサービスを始めるというものではなく、研究開発の手法に基づくサービス開発が対象となります。そのため、「観測」「分析」「設計」「適用」というプロセスを経たものを対象としており、具体的なイメージは次のとおりです。

(2) 対象となる費用
新たに試験研究費の範囲に含まれる「サービス開発」のための費用とは、上記(1)のプロセスを通じて発生する原材料費、人件費、経費及び委託費の額です。なお、経費に含まれる外注費と委託費については、このうち原材料費、人件費及び経費に相当する部分に限って対象となります。
また、税額控除の対象となる費用の額は、その事業年度の損金の額に算入される費用に限られるため、税務調整を要する費用については適用対象となる事業年度を誤らないように留意が必要です。
(3) 具体例
サービス開発の具体例として、次のものが経済産業省から公表されています。
- 自然災害予測サービス
ドローンにより山地の地形や土砂、降雪状況等を収集・分析して的確な自然災害予測を提供するサービス - ヘルスケアサービス
ウェアラブルデバイスにより個人の健康状態を細かく収集・分析して健康維持サポート情報を配信するサービス - 農業支援サービス
センサーにより農地の温度や湿度等を細かく収集・分析して効果的な農作業情報を配信するサービス - 観光サービス
ドローンや人工衛星により自然界や生態系情報等を細かく収集・分析して観光情報(オーロラやクジラが見られる等)を配信するサービス
2. 今後の活用ポイント
(1) 現状のチェック
今後の活用を検討するにあたり、まずは自社の税額控除に関する税務ポジションと税務ポリシーの有無を確認することが考えられます。
①税務ポジション
試験研究費の税額控除には税額控除限度額(法人税額の25%まで等)があるため、試験研究費に一定割合を乗じて算出される税額控除額のすべてを控除できるとは限りません。試験研究費の額と法人税の額との大小関係によって、試験研究費の範囲が拡大しても控除限度額の制限を受けてメリットを享受できない場合があるため、まずは自社がどのような税務ポジションなのかを確認する必要があります。
税額控除の限度額まで余裕があるときは、税制改正への対応のみならず、現在の適用状況を見直してみることもポイントといえます。試験研究費の範囲等を見直すことによって更なる税額控除の適用が可能となるケースもあるためです。
②税務ポリシーの有無
次に、試験研究費の範囲や損金算入タイミング等を定めた税務ポリシーの有無を確認します。税務ポリシーを定めることで社内処理の統一化が図られ、集計ミスが防げると共に税務調査時のリスク低減にも役立ちます。未整備の企業にあっては、これを機に策定することをおすすめします。
(2) 改正内容への対応
①新たに研究開発税制の適用が見込まれる企業
今まで試験研究費の税額控除制度は製造業等のモノ作り企業を中心とした制度でしたが、そのような先入観念にとらわれることなく、改めて自社に制度対象となる研究開発活動はないか見直してみることがポイントです。特に人工知能(AI)やビッグデータ等を活用して新たなサービス提供を始めようとする企業や、この数年で急速に拡大している金融とテクノロジーを融合させたフィンテック(FinTech)関連企業など、技術革新の分野においても試験研究費の税額控除の適用可能性があると考えられます。
自社で生じる費用の中に税法上の「サービス開発」に該当するものがある場合、その集計作業を行う必要があります。特に、初めて試験研究費の税額控除を適用する企業にとっては、該当する費用の一年分を申告書の提出までに集計しなければなりません。これを期末になってから始めても間に合わないため、早い段階から税務ポリシーの策定を行い、集計プロセスの構築に着手しておくことが次のポイントとなります。
また、税務ポリシー作成の一環として試験研究費の税額控除対象であることを疎明するため資料整備も併せて行うと効果的です。
②従来から研究開発税制を適用している企業
試験研究費の範囲が広がり、既に試験研究費の税額控除制度を適用して来た企業においても適用範囲の拡大が考えられます。
近年のIoT化、つまりネットとリアルの世界の融合によってモノとサービスを組み合わせた新たなサービスが登場する世の中になっており、製造業とサービス業の境界が薄れて行く傾向にあります。従来から本制度を適用していた製造業においても、サービス開発の有無を確認し、適用の機会を逸することなく対応することがポイントです。
また、新サービスの開発が今般の「サービス開発」に該当しないときであっても、そこに「技術の改良や考案、発明」に係る試験研究活動が含まれているときは従来の試験研究費に該当する場合もあるため、その観点からの検討も有用といえます。