2022年度、税制改正を含む経済政策案をメキシコ大統領が議会に提出

Japan tax alert 2021年9月17日号

2021年9月8日、メキシコのオブラドール大統領は2022年度経済政策案を議会に提出しました。本提案には新しい税法や税率の引上げに関する施策は含まれておりませんが、納税者による税務浸食や濫用を抑制するためのさらなる規制が加えられています。メキシコ議会では、本提案について議決に向けた議論が今後行われることになります。議論によっては、本提案内容が変わる可能性もあります。本提案が2021年11月15日までに議決されると、議決案が大統領により署名され、最終的にはメキシコ連邦政府官報に掲載されます。提案内容は上記連邦政府官報発行日を以て法制化され、2022年1月1日に発効される流れとなります。

本提案が法制化された場合、特定の納税者が追加での税務申告義務を求められます。また、再編、合併、スピンオフで、非課税取引として取扱う場合には、当該取引が「有効な事業目的」に基づく取引であることを税務当局に証明する必要があります。このような税制強化が進む中、メキシコ議会における今後の動向を注視する必要があります。

海外投資家にとって特に注意が必要な点は次の通りです。

関連会社間の資金調達に関する事項

通称「Back-to-Back」ローン

本提案では、税務上「Back-to-Back」ローンの定義を拡大することで、事業目的のない融資を「Back-to-Back」ローンの対象として、課税強化を図ることになります。

規制外特別目的金融機関(通称「Non-Regulated SOFOM」)について

本提案では、従来、Non-Regulated SOFOMに適用された恩恵を排除しています。例えば、同SOFOMが過少資本税制(海外の関連当事者が金融取引の大部分を実行する場合)の対象外であることや、SOFOMより関連非居住債権者宛の支払に掛かる4.9%の特別源泉税率の適用を受けていることに対してこういった恩恵が無くなる可能性があります。

また、本提案では、過少資本税制に関する修正案も含んでいます。金利控除の制限を、税務上の資本勘定をベースに計算する場合、払込資本並びに留保利益に加え、繰越欠損金を含める事も記載されています。また、過少資本の算定が会計上と税務上で20%以上の相違があった場合でも納税者が事業目的の正当な理由を証明し、その他の条件をクリアした場合には、税務上の算定を許容する可能性があります。

また本提案では、納税者がインフラや電力といった特定の活動を行っている場合、政府との合意を得た場合にのみ、これらインフラや電力に関する債務を過少資本税制の計算より除外出来ることを挙げています。

キャピタルゲイン課税

本提案では、非居住者が「ネットベース」でのキャピタルゲイン課税を選択する場合に必要な要件の変更を挙げており、また、法定代理人を任命する為の要件変更も含んでいます。さらに本提案では、監査人が税務監査報告書に含めなければならない範囲を拡大することも示唆しています。これに加え、監査人は移転価格に関する情報や関連情報を報告書に含めることも謳っています。

国内取引で簿価ベースでの株式交換や海外取引で繰延利益を伴う株式交換が絡む再編について、メキシコの税務当局(SAT)より事前承認を得るための追加要件も提案では含んでいます。当局からの事前承認を得るには、納税者は、再編前5年間の関連取引を報告する必要があります。そして、再編後、追加の株式譲渡、資本の増減、事業部門の売却等の特定な取引を行う場合には追加での報告義務が必要となることが記載されています。

再編、スピンオフ、合併について

本提案では納税者が再編、スピンオフ、合併に伴い当該取引を非課税扱いにするために、適切な事業目的の証明を行い、追加要件も満たす必要があることを含んでいます。

SATが合併やスピンオフに関して適切な事業目的があると判断するには、当該取引前後5年における関連当事者の「支配」状況を確認する必要があります。SATが「支配」があると判断するには、資本関係の増減の推移を確認し、株主の住所変更等を証明する必要があります。

マキラドーラに関する移転価格税制

本提案では、マキラドーラがメキシコ移転価格規則に準拠するオプションとしてAPAの申請を排除しています。その結果、セーフハーバーのみが許容されることを提案しており、これに加え、「シェルター」会社を通じて運営している非居住者のAPAの申請は許容しないことも提案しております。

非居住者の法定代理人に対する追加義務

本提案では、メキシコ非居住者の法定代理人に対する追加義務が含まれています。例えば、本提案では、納税者が将来追加徴税をされた場合には法定代理人も金銭に関する連帯責任を負い、負債を支払えるだけの十分な資産を持っている事の証明を行う必要があります。

付加価値税

本提案では、納税者が付加価値税(VAT)のクレジット残高を得るために、輸入書類(ペディメント)に記載された名前と納税者の名前が一致する場合にのみ、認めることにしています。

さらに本提案では以下の内容も含まれています。

  • メキシコで不動産リースがVATの対象となるタイミングを決定する「ソーシングルール」についての変更を行う
  • 非居住者のデジタルサービスプロバイダーに対する情報申告義務を、四半期ごとではなく月次ベースに変更する
  • 3カ月以上連続して月次申告並びに納税を怠ったデジタルサービスプロバイダーには罰則を課す


その他の規定

その他、提案点は以下の通りです。

  • 納税者に年次税務レポートの提出を義務化する
  • 税務における「連帯責任」の対象者拡大
  • 固定資産として見做される用益権減価償却率の変更
  • メキシコ企業が保有する外国企業の所得からインフレ調整並びに為替変動の影響を除外する

Contacts

Ernst & Young Tax Co., Latin America Tax Desk, Japan & Asia Pacific

Raul Moreno - Partner

Ernst & Young LLP (United States), Latin American Business Center

Tak Morimoto - Senior Manager

Ernst & Young Mexico

Alejandro Polanco - Partner

Miguel Severiano - Executive Director


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