ブラジル、OECDの移転価格ガイドラインに合わせた新移転価格税制を提案

新移転価格税制は、移転価格分析の対象となる取引が増えるだけではなく、ブラジルが現在採用している既定の移転価格算出法から、独立企業間原則に切り替わることになるため、現地法人を含む納税者に大きな影響を与えます。そのため納税者は、新しい税制が各企業の日常業務に与える今後の影響の検討、ならびに、本提案の今後の進展とブラジル議会における進捗状況に注意する必要があります。

ブラジル税務局(RFB)と経済協力開発機構(OECD)は、2022年4月12日に会合を開き、新しい移転価格(TP)税制で独立企業間原則を導入するというブラジルの提案について協議しました。ブラジルは、自国の移転価格制度をOECDの「多国籍企業と税務当局のためのOECD移転価格ガイドライン(OECDガイドライン)」に合わせるために、独立企業間原則を完全に実施することは重要な一歩になります。

背景

2018年以降、ブラジルのOECD加盟プロセスの一環として、RFBとOECDは協力してブラジルのTP規則をOECDガイドラインと整合させる作業を行っています。

ブラジルのTP税制をOECDガイドラインと合わせる背景には、(i)ブラジルを多国籍企業(NNEs)の世界的なバリューチェーンに統合するため、(ii)二重課税や二重非課税のシナリオを回避するため、(iii)ブラジルの税制における目標を達成するため(現在の税源浸食と利益移転(BEPS)による歳入の喪失を防止する)、(iv)ブラジルのOECD加盟を促進するため、などの理由があります。

新たに提案されたTP税制

比較対象者の選定方法
本提案では、TP分析の一環として、納税者が国内または国外の比較対象者を選ぶことができることになっており、OECDのガイドラインや他の一部のラテンアメリカ地域ですでに適用されている方法と一致します。

関連者の概念
新税制では関連者について十分な定義がなされており、納税者に税の確実性を示すために関連者の該当事例も記載しています。

TP分析手法
本提案では、取引単位営業利益法(TNMM)や利益分割法(PSM)など、OECDが認めているすべてのTP分析手法が導入されています。また、無形資産取引評価におけるバリュエーションをベースとした分析手法の取り入れなど、特定のケースについて、他の手法も認められています。

TP分析手法の選定
本提案では、それぞれの企業間取引の機能やリスクといった各取引の性質にもとづき、納税者が考える最も適切なTP分析手法を選ぶことが求められています。現在のブラジル国内TP規則では、納税者は最も有利な手法を使用することができ、その結果TPの調整額を最も低く算出する事が許容されているため、この変更には重要な意味があります。

分析の対象となる関連者取引
新しいTP税制では、ロイヤルティなど現在ブラジルのTP規則の対象外のものも含め、すべての関連者間取引と、あらゆる種類の金融取引が対象とされています1。また無形資産に関する特定の手法の検討も含まれています。こうした幅広い手法が適用できることは、最も重要な変更のひとつと考えることができます。

比較対象分析
本提案は、比較対象分析を新しいTP税制の基礎として確立するもので、比較対象は、関連する経済状況や各取引の詳細な分析が基準となります。OECDの視点から見ると、比較対象分析はTP分析の中核となるものですが、現在のブラジル国内のTP規則には含まれていません。

TP調整
本提案では、納税者が独立企業間原則(通称 The Arm’s Length Principleまたは「ALP」)を遵守していない場合の一次調整と、利益移転の結果に対処する二次調整が認められています。二重課税をなくすため、相互協議(MAP)のもとでも同様の調整を行うことができます。

コモディティ商品
本提案では、独立した第三者が採用したマーケットアプローチに基づいてコモディディ商品を定義しており、コモディティ商品を定義する現在の規則に影響を与える可能性があります。本提案の重要な特徴は価格設定日です。新しい制度では、コモディティ商品の価格設定日を取引が行われた日と見なしますが、これはOECDガイドラインの概念と合致しています。つまり、ブラジルで採用されている現在の「6番目の手法」のアプローチ(PCI/PECEXを使用した価格見積り法)を今後適用しない可能性があるということです。

無形資産
新制度では、会計上の無形資産という概念ではなく、OECDガイドラインに準拠した無形資産の具体的な定義が定められています。この点で、新しい法律の中で、DEMPE2機能の概念は利益配分を推進するツールとして、重要な役割を持ちます。現在のブラジル国内TP規則では、無形資産を対象とした適切な方法が規定されておらず、ロイヤルティをその適用から明確に除外しています。ロイヤルティは、現在ブラジルでは、法令に規定された料率にもとづく損金算入制限の対象となっています。ロイヤルティの損金算入制限は、ALPと連動した租税回避対策としてのみ有効になるよう改定されます。

グループ内サービス
本提案では、グループ内サービスをOECDガイドラインに合致するよう定義しています。また、低付加価値のサービスは、セーフ・ハーバー・ルールの対象となりうる数少ない取引のひとつと言えます。

費用分担契約(CCAs)
本提案にはCCAsという概念が取り入れられており、CCAsに関する包括的な指針が含まれています。その中で、開発CCAsとサービスCCAsという2つのタイプのCCAsを定義しています。この変更は、ブラジルで営業活動を行い、CCAsに参加している多国籍企業にとって重要なものです。これらの多国籍企業は貢献した金額に対する適切なリターンをもらう必要があります。

事業の再編成
新制度は、事業の再編成から生じる適切な補償を決定するための、原則ベースの指針を制定しています。

金融取引
本提案は、借入契約、キャッシュプーリング、補償、保険など、あらゆる種類の金融取引を対象としています。また、ALPの適用に関する指針も含まれています。現在のブラジルのTP規則では金融取引の対象範囲が非常に限られているため、この変更は重要なものと言えます。新しいTP制度では、利息制限法の適用が除外されることはありません。

税の確実性
税の確実性と簡素化のため、本提案ではセーフ・ハーバー・ルールを実務で導入しやすくするための法的枠組みを導入しています。またRFBは、BEPS第1の柱(Amount B) にもセーフハーバーの適用が最適ではないかとも強調しています。また、この提案では、RFBが事前確認(APAs)を結ぶ権限を与えています。

TP文書の作成
BEPS行動計画13の3段階のアプローチ(国別報告書(CbCR)、マスターファイル、ローカルファイル)に従い、本提案も同様に3段階のアプローチを導入しています。ブラジルはすでに、国内法の一部として、国別報告書(CbCR)の提出を義務付けています。

今後の導入に向けて

RFBとOECDは、新しいTP税制を採用する方針を確立しました。RFBは今後、利害関係者と対話し、彼らのフィードバックをもとにブラジル議会に提出した一括法案を成立させる予定です。その間、OECDとRFBは引き続き、(i)コンプライアンスと税務管理プロセスの作成、(ii)潜在的セーフハーバーの作成、(iii)紛争防止と解決プロセスの作成、(iv)新しいTP税制に関連した特定の問題についての二次的な法律の作成に取り組んでいく予定です。

この新TP税制に向けた提案は、ブラジルのOECD加入のためのさらなる一歩であり、多国籍企業に重要な影響を及す。OECDとRFBは、2023年までに新TP制度の導入を提案しています(但し本年末に総選挙が行われるため目標年までの実現は難しいかもしれません)。しかし多国籍企業には、新TP制度が事業活動に及ぼす潜在的な影響を評価することをお勧めします。今後本提案が、ブラジル議会に提出された後の進捗状況まで注視する必要があります。

巻末注

  1. 借入契約、キャッシュ・プーリング、補償、保険などを含む。
  2. 無形資産の開発(Development)、改良(Enhancement)、維持(Maintenance)、保護(Protection)、使用(Exploitation)の英単語それぞれ頭文字を取り、「DEMPE」と言われる。

お問い合わせ先


Ernst & Young Tax Co., Latin America Tax Desk, Japan & Asia Pacific

Raul Moreno Partner

Luis Coronado Partner

Ernst & Young LLP (United States), Latin American Business Center

Tak Morimoto Senior Manager

Japan tax alert 2022年5月2日号をダウンロード