第1章 総論
まず、本報告書における基本的視点として、サステナブルファイナンスは、持続可能な経済社会システムを支えるインフラと位置付けるべきものとの認識が前提です。その上で、民間セクターが主体的に取り組むとともに、制度的な枠組み作り等を通じて政策的にも推進していくべきとしています。
横断的論点として、まず受託者責任が挙げられます。かつては投資判断にESG要素を考慮することは受益者の経済的利益以外の要素を考慮することになり、受託者責任に反するのではないかとの議論があったものの、サステナブルファイナンスの意義を踏まえてESG要素を考慮することは、日本においても受託者責任を果たす上で望ましい対応として位置付けが可能と考えられています。
さらには、インパクト投資の普及・実践に向けた多様なアイディアを実装していくことが望ましいとされています。また、タクソノミー(グリーンやサステナブルといった概念を分類し、明確な基準を制度化するもの)に関する国際的議論への参画やトランジション・ファイナンス(脱炭素化に向けた移行に資金を向けるもの)の推進が重要であると指摘しています。
第2章 企業開示の充実
本報告書において、投資家・金融機関との建設的な対話に資する、サステナビリティ情報開示の在り方については幅広い検討が適当であり、特に気候関連開示は喫緊の課題であるとしています。具体的には、以下のような提言がなされています。
サステナビリティ情報開示 | 比較可能で整合性のとれたサステナビリティ報告基準の策定は、開示情報の比較可能性の向上、ひいては資本市場における効率的な資源配分に資するものである。日本としては、国際会計基準(IFRS)の設定主体であるIFRS財団の基準策定に積極的に参画すべきである。 |
気候関連開示 | 2021年6月に公表されたコーポレートガバナンス・コードの改訂版(補充原則3-1③)において、特にプライム市場上場会社に対してTCFD等に基づく気候変動開示の質と量の充実を進めるべきとしている。また、当該企業開示の質と量の充実を促すとともに、IFRS財団等の国際的な動向を注視しながら、検討を継続的に進めていくことが重要であるとしている。 ※ コーポレートガバナンス・コードの改訂版については11ページを参照。 |
第3章 市場機能の発揮
本報告書において、国内外の資金を呼び込み、グリーンボンド等の取引が活発に行われる「グリーン国際金融センター」を実現することにより、世界・アジアにおける脱炭素化、ひいては持続可能な社会の構築に向けた投融資の活性化に貢献すると考えられることを指摘しています。そのためには、市場の主要のプレイヤーである機関投資家、証券会社や銀行等の金融機関、取引所、ESG評価機関等が、それぞれに期待される役割を適切に果たすことが求められます。具体的には、4つの分類にて次の提言がなされています。
1. 機関投資家 |
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2. 個人に対する投資機会の提供 |
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3. ESG評価・データ提供機関 |
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4. ESG関連債プラットフォーム |
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第4章 金融機関の投融資先支援とリスク管理
本報告書において、間接金融の比率が高い日本では、銀行をはじめとする金融機関がサステナビリティに関する機会とリスクの視点をビジネス戦略やリスク管理に織り込んでいくことで、実体経済の移行を支える役割を担うことが期待されていると指摘しています。具体的には、金融機関が投融資先における気候変動対応を推進する上で、ノウハウの蓄積やスキルの向上、分析ツールの開発等を進めることが重要であるとしています。
また、金融庁において、監督上の目線を盛り込んだガイダンスの策定、金融機関とシナリオ分析の活用について議論を進める等、気候変動リスク管理態勢の構築を促すことが適当であると指摘しています。
サマリー
ESGやSDGsへの関心の高まりを背景に、資産運用業者に対し、サステナビリティ投資に関する基本方針やエンゲージメント方針の開示等の要求が予想されます。金融庁では資産運用業者等に対するモニタリングの促進を重要視しているため、これらの在り方については金融行政動向を引き続き注視する必要があります。