企業の誠実性にとって正念場となるか?

執筆者 Andrew Gordon

EY Global Forensic & Integrity Services Leader

Global Forensics Leader focusing on helping organizations build their integrity agenda so they better anticipate and mitigate risk.

7 分 2020年6月25日

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パンデミックの中で高まる非倫理的行動のリスクと、それを抑えるための重要な対策を、EYグローバルインテグリティレポート2020で明らかにします。

要点
  • パンデミック最盛期に実施した調査では、企業の90%が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が倫理的な行動にリスクをもたらすと回答しています。
  • 企業にインテグリティを根付かせて非倫理的行動を防ぎ、第三者と長期的な信頼関係を築き、データを安全に保護するために、企業は行動を起こさなくてはなりません。

新型コロナウイルス感染症による混乱の中で、企業、政府、市民は、困難かつ倫理的ジレンマを伴う重大な決断を新たに迫られています。

地域社会への必要物資の提供にあたり従業員と顧客を守る最善策を模索する小売業者から、政府に支援を要請する一方で株主に配当を支払い続けるべきかどうかを検討する企業の取締役会にいたるまで、正しい行動を取ることが、かつてないほど難しくなっています。感染症が拡大する前も、感染が加速する中でも、世界中の数千の企業から得たインサイト(洞察)をまとめたEYグローバルインテグリティレポート2020(PDF、日本語版英語版)には、そうした状況が反映されています。 

  • 最新のレポートについて

    このグローバルインテグリティレポート 2020は、EYがこれまで行ってきた不正行為グローバルサーベイシリーズに引き続き、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより浮き彫りになった倫理的課題の克服を支援するため、組織がインテグリティアジェンダで優先すべき3つの重要なアクション、すなわち個人の行動、第三者の管理、データインテグリティについて強調しています。

    2020年1月から2月にかけて、世界的な市場調査会社のイプソス・モリが、33の国・地域で抽出された大規模な組織や公的機関の取締役、上級管理職、管理職および一般従業員を対象に現地語で2,948の調査を実施しました。さらに、2020年4月のパンデミックの最中、中国、ドイツ、インド、イタリア、英国、米国で上記回答者に対して、600の追加調査を実施しました。

グローバルインテグリティレポート

90%

調査の回答者の90%は、新型コロナウイルス感染症が組織の倫理的な事業活動にリスクをもたらすと回答。

企業に対する社会からの幅広い監視の目が強まってきており、パンデミック最盛期における緊急事態下で企業や政府が下した決断は、今後数カ月から数年にわたって真価が問われることになるでしょう。誠実な行動が、今まで以上に重要になります。しかし課題が大きくなるにつれ、リスクも大きくなります。財政やレピュテーションでつまづく危険が多々ある中で、企業がそうした状況を克服するにはどうすればよいのでしょうか。

正念場:混乱の中で試される企業のインテグリティ

パンデミック最盛期に実施した調査の回答者の大多数は、新型コロナウイルス感染症が組織の倫理的な事業活動にリスクをもたらすと回答しており、事実、依然として多数の従業員が個人的な金銭的利益のために、非倫理的行動を厭わないと回答しています。世界的なパンデミックは、非倫理的行動に対する動機を高め、新たなきっかけとなるという形で、こうした傾向を悪化させる一方です。

パンデミックが蔓延する以前から企業は重圧に直面しており、貿易戦争、制裁と輸出規制、不正や政治的混乱といったすべてが企業に重くのしかかっていました。現在、市場環境の悪化は別として、回答者は新型コロナウイルス感染症が倫理的行動に対して及ぼす最大のリスクを次のように回答しています。

  • 従来の働き方の崩壊(リモートワークの増加など)(33%)
  • サプライチェーンの断絶(28%)
  • 従業員の福利厚生費および給与の削減(24%)
  • 人員の削減(22%)

また、この調査は、組織内の職階別の倫理的行動に対する認識において懸念すべき乖離を示しています。一般従業員の多数(53%)は、管理職が法令や行動規範、業界の規制に従っているか疑いを持っていますが、一方で取締役の58%は、自分たちはルールに従って行動していると確信しています。また、すべての回答者の中で、自身のキャリアや給与の向上のために第三者が⾮倫理的⾏動を取ることを黙認すると回答しているのは13%にすぎませんが、この⽐率は、取締役では20%に増加します。

高まるプレッシャーと厳しくなる監視の目

エコノミスト誌が警告したように、新型コロナウイルス感染症による経済への悪影響は不正行為に関して最悪の事態を引き起こす可能性が高く、過去10年分に相当する企業の不正スキームが露呈すると同時に、新しい不正スキームが生み出されるおそれがあります1

さらに、2007~08年のリーマンショック以降、社会の目も劇的に変化してきており、企業は、環境、社会およびガバナンス(ESG)への取り組みを通じて、これまで以上に人々や地球のために行動することを求められています。この社会の変化による監視の目は、企業とそこに属する人々の行動の両方に対して向けられているのです。一方、ソーシャルメディアの台頭によって、インテグリティの問題をよりオープンに議論するためのプラットフォームが提供されており、消費者は目を光らせています。

新型コロナウイルス感染症拡大以後の世界では、企業はビジネスの再構築に全力で取り組み、既存の脅威だけでなく、新しい脅威にも対処する必要があるでしょう。例えば、企業がサプライチェーンを再構築する際は、サプライヤー、物流ルートおよび調達方法の変更に関するビジネスとコンプライアンスへの影響に細心の注意を払う必要があります。パンデミックの渦中における制裁違反は、後になって規制、財務、業務およびレピュテーションに影響を与える可能性があります。

インテグリティが解決の鍵

しかし、これらの大きな試練の最中においても、危機とその後の再構築への対応にあたって、「インテグリティアジェンダ」を中心に据えることにより、企業は身を守ることができます。「企業のインテグリティとは、『グリーンウォッシング(上辺だけの環境への配慮)』でも、マスコミ向けに正しいことをしているように振る舞うことでもありません」とEY Americas Forensic & Integrity Servicesリーダー、トニー・ジョーダンは述べています。また、「インテグリティは、組織が地域社会を支援するべくサービス提供することで、長期的価値を生み出すような行動をとることです」とも述べています。

インテグリティアジェンダを策定することは、罰金や罰則の回避により企業を守るだけでなく、企業が経済的に成功し、ステークホルダーに長期的価値を提供する上でも有用です。例えば、米エシスフィア社の調査では、世界で最も倫理的な企業の株価指数は5年間にわたり、米国の大型株セクターを13.5%も上回っていることが明らかになりました2

このことを裏付ける初期兆候として、すべての資産クラスにわたって、ESGファンドの70%以上が2020年初来4カ月間で他の競合ファンドよりも優れた運用成績を上げています。米ウォールストリートジャーナル紙の2020年5月のレポートにあるように、サプライヤー、従業員、投資家、規制当局、政府との間で信頼に基づく強力なパートナーシップを構築する企業は、状況の変化に迅速に適応可能な、より強固で機動力のある事業体制を有しています3

誠実な事業活動によってもたらされる重要な恩恵とは

インテグリティの実現

EYは独自の調査に基づき、インテグリティで危機を乗り切る最良の機会を得るために企業が取るべき重要な3つの行動があると考えています。

  1. 企業にインテグリティを根付かせ、非倫理的行動から身を守ります。誠実に行動することは、ミッションステートメントやポリシー以上のものです。これは、CEOおよび取締役会から一般従業員、ビジネスパートナー、第三者にいたるまで、組織内のすべての当事者が発揮すべき個人的資質です。各当事者は組織の代表であり、その行動には企業の真の価値が反映されています。

  2. インテグリティに基づき、第三者との信頼関係を築きます。企業が拡大するにつれ、さまざまな市場で第三者の代理業務に依存するようになっていきます。第三者と信頼できるパートナーシップ関係を築いている企業は、純粋な取引関係のみを築いている企業よりも弾力性のあるサプライチェーンを構築しており、より多くの優良顧客を有しています。

  3. データを保護し、その価値を倫理的に活用します。新たなテクノロジーの進歩によって事業活動が最適化され、企業は増大する保有データから新しいインサイト(洞察)を活用できるようになりました。しかし、これらのツールを活用するには、リスクを正しく評価して適切な導入(訓練を含む)を行う必要があります。

意図と現実のギャップを埋めるには、組織がインテグリティの観点から企業文化、統制およびガバナンスを評価し、新しいテクノロジーを駆使して、より優れたデータインサイトを提供することにより、コンプライアンスプログラムの有効性の向上に全力で取り組む必要があります。

ビジネスインテグリティを保持することは、その使命に忠実であり続け、約束を守り、法律と倫理規範を尊重し、社会の信頼を育み、危機的状況における回復力を高め、最終的に組織に成功をもたらします。これにより、財産やレピュテーションという礎を築くことができるでしょう。

  • 調査について

    このグローバルインテグリティレポート 2020は、EYがこれまで行ってきた不正行為グローバルサーベイシリーズに引き続き、危機により浮き彫りになった倫理的課題の克服を支援するため、組織がインテグリティアジェンダで優先すべき3つの重要なアクション、すなわち個人の行動、第三者の管理、データインテグリティについて強調しています。

    2020年1月から2月にかけて、世界的な市場調査会社のイプソス・モリが、33の国・地域で抽出された大規模な組織や公的機関の取締役、上級管理職、管理職および一般従業員を対象に現地語で2,948の調査を実施しました。さらに、2020年4⽉の新型コロナウイルス感染症のパンデミックの最中、中国、ドイツ、インド、イタリア、英国、⽶国で上記回答者に対して、600の追加調査を実施しました。

  • 参考記事を表示する#参考記事を非表示にする

    1. Who’s lost their trunks: The economic crisis will expose a decade’s worth of corporate fraud, (The Economist, 18 April 2020)
    2. By the numbers, (Ethisphere Magazine, “The World’s Most Ethical Organizations” edition, Spring 2020).
    3. ESG Investing Shines in Market Turmoil, With Help From Big Tech, (The Wall Street Journal, 13 May 2020).

サマリー

企業は一世一度の難題に直面しています。世界的なパンデミック以前でさえ、企業は対処すべき大きな難題を抱えていました。現在、企業は倫理的ジレンマを伴う重大な決断を新たに迫られており、迅速かつ厳格な監視下で対応しなければなりません。インテグリティは推進力として不可欠であり、ミッションステートメントやポリシー以上のものです。これは、CEOおよび取締役会から、一般従業員、ビジネスパートナー、第三者にいたるまで、誰しもが発揮すべき個人的資質です。これを実践する企業は、より弾力性に富み、パンデミックの余波をうまく乗り越えられる組織として位置付けられるでしょう。

この記事について

執筆者 Andrew Gordon

EY Global Forensic & Integrity Services Leader

Global Forensics Leader focusing on helping organizations build their integrity agenda so they better anticipate and mitigate risk.

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