2021年4月20日
地政学戦略から見た10大リスク:新国家主義(ネオステイティズム)の台頭―各国の産業政策による介入の広がりがビジネスに与える影響とは?

地政学戦略から見た10大リスク:新国家主義(ネオステイティズム)の台頭―各国の産業政策による介入の広がりがビジネスに与える影響とは?

執筆者 EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

EY Strategy and Consulting Co., Ltd.

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2021年4月20日

米中対立が深刻化する中、世界中に広がりを見せているのが新国家主義(ネオステイティズム)です。

各国による産業政策による介入の広がりは、ビジネスにどのような影響を与えるのでしょうか?

要点
  • 近年、多くの国の経済政策において、自由競争的なアプローチから、国家が大きな役割を担って介入を行うアプローチへのシフトが生じている。
  • 国外からの直接投資に対するスクリーニングや規制を厳格化する国が増加し、重要な産品の輸出制限も広がっている。
  • サプライチェーンおよび通商は各国の保護主義的な政策の影響を受けることになり、戦略的な重要性の高まっている産業領域では、政策により市場動向や成長機会がゆがめられる可能性に留意する必要がある。

近年、多くの国の経済政策において、自由競争的なアプローチから、国家が大きな役割を担って介入を行うアプローチへのシフトが生じています。実際、この10年で産業発展のための戦略や方針を発表した国は、先進国も新興国も含め、110カ国以上に及んでいます。また、国の安全保障を理由に、国外からの直接投資に対するスクリーニングや規制を厳格化する国も増えています。この傾向は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を背景にさらに加速し、多くの国で国外からの投資に対する規制が強化されるとともに、医療関連用品を含めた重要な産品の輸出制限が広がっています。

新型コロナウイルス感染症が短期で収束する見込みがつかないことを背景に、各国による自国優先政策はより顕在化し、世界は新国家主義(ネオステイティズム)の新たな時代に突入しています(図5)。多くの政府は、サプライチェーンの国内回帰や多様化に向けた政策的な取り組みを始めています。例えば、日本もサプライチェーンの国内投資促進を目的とした補助金制度を実施しており、また、インドではナレンドラ・モディ首相が、国内の製造業を支援するため「アートマ・ニルヴァール・バーラト(自立したインド)」を提唱しています。今後もこのような施策はさらに広がっていくと考えられ、重要産業の国内回帰とサプライチェーンの多様化に向けた議論がすでに始まっている米国や欧州も含め、新国家主義の台頭は世界的な傾向と言えます。

各国政府は、国内回帰を支援する政策の導入だけでなく、国内企業が製造活動をコントロールしやすくするための取り組みも実施していくものと考えられます。投資のスクリーニングメカニズムについても、新型コロナウイルス感染症を背景に、その適用範囲が拡大するとともに、その数も増えていくことになることが予測されます。こうした施策をすでに検討している国では、パンデミックによる景気の大幅な変動を理由に、関連施策の迅速な法制化が進められるでしょう。また、こうした投資のスクリーニングは、国家の戦略や安全保障の観点から重要とみなされる分野に加え、医療などパンデミック対応において重要な分野、財務的苦境により国外からの買収リスクが高まっている分野にも適用されることになるでしょう。

地政学的な競争が激化していることも、多くの国が産業への国家介入へとシフトする要因になっています。EUでは、重要テクノロジーにおける国際的な競争力を高めるため、「戦略的な自立」の一環として、産業や通商において、より積極的な政策を推進していくものと考えられます。米国では、バイデン政権が、電気自動車や軽量素材、5G、AIなどのテクノロジーの研究開発と製造にフォーカスした製造業支援計画を推進しています。中国では、政府の強い関与の下、テクノロジーとイノベーションの発展を推進していくと考えられます。2020年5月には、全国人民代表大会がデジタルインフラへの1.4兆米ドルの投資を承認しています。同国は技術開発戦略を引き続き遂行し、主要デジタルテクノロジーにおける基礎的研究と応用の双方を強化していくことになるでしょう。

こうした産業競争は世界中に広がっており、日本や韓国、さらに東南アジアの多くの国の政府が、こうした分野の開発に直接介入を行っています。このような新国家主義の広がりは、グローバリズムの退潮に拍車をかけるとともに、世界貿易機関などの国際機関を弱体化させるとも考えられます。

ビジネスへのインプリケーション

  • サプライチェーンおよび通商は、各国の保護主義的な政策の影響を受けることになるでしょう。貿易および投資の障壁が強化されることで、国境を越えた事業活動のコストも増加するため、サプライチェーンの多様化やローカリゼーションが促進されることになるでしょう。また、企業が国境を越えた取引、特にM&Aを検討する際は、各国の投資規制強化を考慮に入れ、より厳しいデューデリジェンスを実施する必要があります。国外への投資を試みる場合は、その実現までの期間が長期化する可能性や、投資に関する厳格な規定への準拠という意味で、障壁が高くなる可能性も考慮に入れる必要があります。

  • 戦略的に重要性が高まっている産業領域では、政策により市場動向や成長機会がゆがめられる可能性に留意する必要があります。産業政策を推進する国では、国からの政策的支援など、国内企業を優遇する方向に傾く公算が高いと考えられます。特に、各国がフォーカスする領域において、国内企業が有利になると思われますが、これにより海外企業との競争力が弱まり、成長機会が減少することも考えられます。重要なノウハウや知的資源を有する企業においては、その国の企業と新たな提携関係を締結できる機会があるかもしれません。

  • 企業の政治色が強くなると、それは企業評価上のリスクともなりえます。産業政策が強化されると、自国政府の政策を支持する方向への圧力や、国外でのビジネスにおいても自国の政府や社会の価値を守るための圧力にさらされる可能性があります。そしてこれは、国外でも国内でも、その企業の評価およびコンプライアンス上のリスクを増大させる要因になるかもしれません。

サマリー

米中対立が深刻化する中、世界中に広がりを見せているのが新国家主義(ネオステイティズム)です。具体的には、国外からの直接投資に対するスクリーニングや規制を厳格化する国が増え、重要な産品の輸出制限も広がっています。サプライチェーンおよび通商は各国の保護主義的な政策の影響を受けることになり、戦略的な重要性の高まっている産業領域では、政策により市場動向や成長機会がゆがめられる可能性に留意する必要があります。

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執筆者 EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

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