2021年4月28日
欧州の戦略的な「自立」:米中対立が続く中で注目される「第三極」の動きは?

欧州の戦略的な「自立」:米中対立が続く中で注目される「第三極」の動きは?

執筆者 EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

EY Strategy and Consulting Co., Ltd.

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2021年4月28日

米中対立が深刻化する中、EUは戦略的な「自立」を企図しています。

「第三極」の「自立」は、EUの域内および域外でのビジネス環境にどのような影響を与えるのでしょうか?

要点
  • 米中をはじめとする大国間の地政学的な緊張が高まる中、EUはそのポジションと役割を明確化することに尽力し、「世界におけるより強い欧州」を確立することを目指している。
  • EUは、貿易および投資に関する政策の見直しや、環境・デジタルにフォーカスした新しい産業戦略を打ち出し、また、こうした取り組みの中で、国際的な規範や基準の形成をリードしていくことになると思われる。
  • EUの戦略的な「自立」は、各企業にとって同市場での成長機会や、事業コスト、投資にかかわるリスクを変化させうるものであることから、事業や投資にかかわる戦略のアラインメントが求められる。

米中をはじめとする大国間の地政学的な緊張が高まる中、EUはそのポジションと役割を明確化することに尽力しています。2019年、新欧州委員会が始動すると、同委員会はこれを「地政学」委員会と位置付け、「EUの行動において、野心的かつ戦略的で、積極的な姿勢をとること」で、「世界におけるより強い欧州」を確立することを目指すとしました。EUは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを背景に、今後もこの姿勢を推し進め、加速させていくものと考えられます。このパンデミックにより、EUにおける重要物資の供給について、EU域外への依存度の高さが浮き彫りとなりました。また、このパンデミックにより、経済環境も不安定化している中、域内の雇用と産業を優先的に保護する動きが一層顕在化することになるでしょう。

EUは、政治的にも経済的にも、より開かれ、より戦略的で、より自立性の高い、パンデミック後の欧州を目指し、ビジネスにかかわる領域においても、その政策や規制をより厳格なものにすると予想されます。具体的には、貿易および投資に関する政策の見直しや、環境・デジタルにフォーカスした新しい産業戦略などが考えられます。また、EUはこうした取り組みの中で、特に環境とデジタルの分野において、国際的な規範や基準の形成を今後もリードしていくことになるでしょう。

域外政策については、EUが体制面では相反するとし、その一方で、競争相手ともパートナーとも位置付けられる中国に対し、一貫性のある共通のアプローチを模索していくと考えられます。ドイツをはじめとするEU加盟国は、中国との関係において利害が衝突することも少なくないため、この作業は困難なものになると予想されます。2020年に大筋で合意にいたったEUと中国との間の包括的投資協定の発効についても、欧州議会における承認の見通しは必ずしも立っていません。

アメリカとの関係については、EUはバイデン政権下で米国との関係の再構築を企図していますが、米国の世界的なリーダーシップに依存することはもはやないとも言えます。EUには、この4年間で対米関係が根本的に変わったとの認識があり、それが国際社会においてより「自立」した役割を果たそうとする、EUの姿勢の強化につながっています。

EUは、「開放的で戦略性の高い自立性」という方針の下、戦略的かつ安定的な供給確保と、多国間貿易での競争力および開放性の維持とのバランスを、模索していくことになるでしょう。こうした取り組みでは、欧州企業の域内および域外での競争条件の均一化や、不公正な貿易取引に対する措置の強化、「欧州で重要な産品を生産することによる、戦略的バリューチェーンへの投資およびこれらの分野における第三国への過度な依存の低減」に注力するものと考えられます。例えば、域外からの投資に対する審査も強化されるでしょう。国外からの直接投資の制限を強化している米国および中国と比較すると、EUにはその規制強化の余地が残っていると言えます(上記図表を参照)。また、EUは競争の枠組みも見直し、域内産業に均一的な競争条件を提供できるよう、規制を変更していくものと予想されます。さらに、重要なデジタルテクノロジーにかかわる製品の製造における自立性を強化するため、必要な原材料の安定確保も目指していくものと考えられます。

ビジネスへのインプリケーション

  • EUのテクノロジーおよびライフサイエンス分野では、成長機会が欧州企業に偏ることが予想されます。EUが競争条件の均一化や域外対抗のための助成の強化、競争に関する枠組みの整備を進めることにより、欧州企業(特にテクノロジーや医療用品など「戦略」領域の企業)の域内での競争環境は比較的緩やかなものになると考えられます。一方、これらの分野の非欧州企業には厳しい規制が課されるだけでなく、EUでの事業や投資から締め出される危険性もあります。また、テクノロジーや医療分野でグローバルサプライチェーンに依存している企業は、戦略的な「自立」を踏まえた欧州の新規定により、域内での製造を迫られることになる可能性もあります。
  • EUでの事業コストも、非欧州企業では増大するかもしれません。すべての分野において、均一的な競争条件が付されることで、管理上のハードルが上がり、また新たな税制が導入される可能性もあります。税制にかかわる例としては、域外からの輸入品の価格にその炭素含有量を反映したものにする、炭素国境調整メカニズムが挙げられます。このメカニズムによって、EUは、企業が炭素排出規制の緩い国に生産拠点を移すことによってEUの環境目標の達成が損なわれる危険性を避けるだけでなく、新しい環境規制によりEU企業の競争力が弱まるのを防ぐことも企図しています。
  • 戦略的分野への域外からの投資案件では、実現までに時間を要するか、却下される可能性があります。域外からの直接投資に対するスクリーニング規制は、加盟国および欧州委員会内の協力と情報共有を可能にするもので、こうしたEUの新しい規制により、直接投資のスクリーニングメカニズムを持たない加盟国でも、このようなメカニズムを導入する動きが加速するかもしれません。これは域外の投資家にとっては、投資のハードルが上がることになり、また投資が却下される可能性があるという点ではリスクです。

 

地政学を踏まえた戦略的判断

  • 自社の成長戦略が、EUの戦略的な「自立」方針により生じる新たな機会を捉えられるようなものとする。
  • 新しい規制に伴う財政面および事業面のリスクを踏まえ、適切な計画を立て、これらのリスクをあらかじめ低減する。
  • デューデリジェンスの一貫として、EUにおける地政学的および規制上のリスクを加味する。
  • 自社のサプライチェーンが、EUの新たな方針に即応できる態勢であるかどうかを確認する。
  • 自社の公共政策への取り組みに、規制動向に関する戦略的視点があるかどうか、自社の事業にとって規制動向が有利または不利に働くかを見極める。

サマリー

米中をはじめとする大国間の地政学的な緊張が高まる中、EUはそのポジションと役割を明確化することに尽力し、「世界におけるより強い欧州」を確立することを目指しています。例えば、貿易および投資に関する政策の見直しや、環境・デジタルにフォーカスした新しい産業戦略を打ち出し、また、こうした取り組みの中で、国際的な規範や基準の形成をリードしていくことになるでしょう。EUの戦略的な「自立」は、各企業にとっての同市場での成長機会や、事業コスト、投資にかかわるリスクを変化させうるものであることから、事業や投資にかかわる戦略のアラインメントが求められます。

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執筆者 EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

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