6 分 2020年12月9日

            山頂で夕日を眺める男性

2021年:地政学戦略から見た10大リスクとは

執筆者
Courtney Rickert McCaffrey

EY Global Geostrategic Business Group Insights Leader

Geopolitical analyst and strategist. Creative methodologist. Proud feminist. Passionate about generating insights to help executives make better-informed decisions.

Jon Shames

EY Global Geostrategic Business Group Leader

Helping businesses understand the implications of geopolitics. EY lifer (35 years!) Washington Capitals fan. Competitive tennis player and bad golfer. Arts and travel lover. Father, husband and son.

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EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 EY ストラテジー・アンド・トランザクション EYパルテノン 地政学戦略グループ(Geostrategic Business Group ) ヴァイス プレジデント

地政学観点を取り入れた戦略構築が専門。日課はジム通い。無類のヒップホップとレゲエ好き。

6 分 2020年12月9日

2021年は、ビジネスにとってこれまでにない変化の年となるでしょう。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の国際政治経済への影響から社会不安の高まりにいたるまで、企業は主要な10のリスクに備える必要があります。

要点
  • 新型コロナウイルス感染症の国際政治経済への影響が、各国の新たな産業政策や新興国の債務問題を含め、世界に多くの変化をもたらすでしょう。
  • 地政学上の三大勢力である米国、欧州、中国が、テクノロジーやデータ領域での競争を一層活発化させることになるでしょう。
  • 2021年は試練の年となる一方、企業はパンデミックへの対応を通して高めたレジリエンスを生かすことができるでしょう。
Local Perspective IconEY Japanの視点

多くの日本企業にとって、地政学上のリスクが真正面から検討される機会はこれまで限定的でした。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の拡大によって世界的な不確実性が一層高まる中、国際情勢の変化を踏まえた戦略構築の必要性も今までになく高まっています。単に情勢の変化を追うだけでなく、業界や自社にかかわるリスクを特定し、その分析結果を具体的な戦略に織り込んでいくことが重要です。また、戦略の落とし込みまでを可能にする社内体制の構築も肝要となってきます。

世界的にサプライチェーンの見直しや、環境関連の領域での政策転換が加速する中、これらの変化は日本企業にとっても決して他人事ではありません。これらの不確実性をリスクから機会に変えるためにも、地政学観点を取り入れた戦略の見直しと構築が必要です。

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上田 倫生
EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 EY ストラテジー・アンド・トランザクション EYパルテノン 地政学戦略グループ(Geostrategic Business Group ) ヴァイス プレジデント

2020年は地政学上のリスクが顕在化した一年でしたが、2021年も状況は継続するでしょう。パンデミック、米中対立、気候変動をはじめとするさまざまな要因が相まって、企業・市場・経済の業績・パフォーマンスが地政学上の変化の影響を受ける度合いは、戦後最高の水準に達すると思われます。

新型コロナウイルス感染症は、2021年最大の地政学上のリスクです。各国はそれぞれに政策的な措置を打ち出してきましたが、元来、パンデミックへの対応は、安全保障、国を超えたリーダーシップ、各国間での協調もしくは競争といった要素を伴います。また、新型コロナウイルス感染症は、多くの国において、経済格差や医療アクセス格差、社会的不公正といった既存の社会課題を改めて浮き彫りにしました。今回のパンデミックは、単なる公衆衛⽣上の危機ではなく、ビジネスにも大きな影響を与える地政学上のリスクと捉えるべきものなのです。EYのGeostrategic Business Groupがまとめた2021年の主要な10のリスクも、それぞれ新型コロナウイルス感染症と連関しています。

  1. 新型コロナウイルス感染症の国際政治経済への影響
  2. 米中間の相互依存関係の弱まり
  3. 欧州の戦略的な「自立」
  4. 新国家主義(ネオステイティズム)の台頭
  5. 気候変動にかかわる領域での政策転換
  6. テクノロジーとデータを巡る地政学的な競争の激化
  7. 米国の政権交代に伴う政策転換
  8. 新興国の債務問題の深刻化
  9. インド太平洋地域における地政学的な勢力争いの激化
  10. 社会不安の新たな波

2021年は、新型コロナウイルス感染症が個々のリスクに影響を与えるだけでなく、企業をとりまく政策環境の不確実性も⾼まると思われます。各国のパンデミック対策は常に変化しています。激しい政策環境の変化が各国それぞれで起きており、それに伴う不確実性が⽣じているのです。戦略の策定と実⾏にあたり、企業は難しい対応を迫られることになるでしょう。地政学上のリスクを継続的にモニタリングし、潜在的な機会と課題を把握することが、これまでになく重要になってきます。

2021年に留意すべき地政学上のリスク

2021年は、新型コロナウイルス感染症の地政学的影響が、企業をとりまくグローバルな経営環境を形づくることになります。ワクチン・ナショナリズム、輸出規制、国境を越えた⼈の移動制限、パンデミックの国内政策措置が、各国の市場に変化をもたらします。企業のレジリエンス向上、サプライチェーンの見直しが求められる背景にも、パンデミックがあります。

⽶国・欧州・中国の間で繰り広げられる競争も一層激化するでしょう。通商、テクノロジー、国内産業への支援をめぐる競争が継続する中、中国と⽶国の間の相互依存関係も弱まっていくでしょう。EUは、貿易・投資・産業政策を駆使し、また、国際的なルール形成の⼒も活用し、戦略的な「自立」を目指すと思われます。

今後は、既存のルールや政策にも大きな変更が加えられていくと考えられ、企業はそうした変化にも向き合っていかなければなりません。新型コロナウイルス感染症を契機に過度の他国依存を見直す機運が⾼まった結果、多くの国が⽣産拠点の国内回帰やサプライチェーンの多様化を推進しようとしています。新国家主義(ネオステイティズム)時代の到来です。また、新型コロナウイルス感染症で落ち込んだ経済に対する景気刺激策として、気候変動にかかわる領域での新たな産業政策が打ち出されていくでしょう。実際、各国はカーボンニュートラル⽬標を相次いで発表しています。これは、取り組みの遅れていた国にプレッシャーをかけることにもなり、2021年11⽉に開催される国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)における成果への期待も⾼まります。テクノロジーやデータにかかわる領域では、標準規格、データプライバシーやデータローカライゼーションの規則、デジタル課税、独占禁⽌法の執⾏といった点を軸に、各勢力が地政学的な競争を激化させるでしょう。

2021年にバイデン政権が成立すると、⽶国は国内政策を転換します。バイデン次期⼤統領は、産業政策と環境政策に注力すると公⾔してきました。加えて⼤きな変化が予想されるのは、通商、反トラスト、移民政策です。企業は、⽣産拠点とサプライチェーンの米国回帰が加速することを予期しておく必要があります。他方、環境関連の領域では、成⻑と投資の機会が拡⼤するでしょう。

新興国の債務問題は、2021年にも臨界点に達すると思われます。新興市場の中で資⾦調達が脆弱(ぜいじゃく)になると予想されるのは、ブラジル、インド、メキシコ、南アフリカです。国際的な債務救済の取り組みにもかかわらず、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、問題の解決は難しくなっているのが現実です。これら市場の成⻑⾒通しは、予想以上に悪化する恐れがあります。

21世紀に⼊り、地政学的な勢力争いの舞台となっているのがインド太平洋地域です。近年、インド・中国間、オーストラリア・中国間などでの緊張も今までになく⾼まっています。地域の各国が、⽶中両国の間でバランスを取りながら独自の外交政策を展開する中、2021年のインド太平洋地域は、情勢が⼀段と不安定になると思われます。このような中で展開される各国政府の政策が、この地域の成⻑戦略や投資戦略に影響を与え、また、サプライチェーンの見直しを促すことにもなるでしょう。

最後に、社会不安の新たな波が押し寄せる可能性にも留意しなければなりません。2021年にデモなどの抗議運動へとつながる可能性の⾼い要因は、パンデミックに伴う規制、拡大する格差、顕在化した社会的不公正、気候変動などの環境問題、ガバナンスの透明性をめぐる問題などです。抗議運動により、企業活動にディスラプションが⽣じる可能性があることに加え、諸問題への対応が、企業のレピュテーションリスクを増⼤させる可能性にも留意しておく必要があります。

企業が地政学上のリスクに向き合うために求められるアクション

これらの地政学上のリスクに対し、企業はどのように向き合えばよいのでしょうか︖ 具体的な検討課題は業界や企業によっても変わってきますが、重要となるアクションは、下記の5つにまとめられます。

1. 自社に関係するリスクを特定し、継続的にモニタリングする。

自社のビジネスに影響を与えうる地政学上のリスクを特定したうえで、継続的に情勢をモニタリングする必要があります。新型コロナウイルス感染症の影響で国際政治経済や各国政策に⾼いレベルの不確実性が⽣じることを踏まえると、2021年はこのような対応がとりわけ重要となります。

2. 各リスクが⾃社に及ぼす影響を分析する。

地政学上のリスク要因が、収益、サプライチェーン、データ、知的財産などの自社ビジネスを⽀える柱に及ぼし得る影響を洗い出し、評価を加えましょう。とりわけ、⽶中関係の変化が⾃社に及ぼす影響の評価は、定期的に実施しておくべきです。また、テクノロジーやデータを巡る国際競争がもたらす影響についての評価も重要です。

3. 各リスクの分析結果を、戦略に反映させる。

不確実性を把握し、市場参⼊・撤退やM&Aなどのトランザクションを含めた戦略構築を⾏うために、地政学上のリスクを踏まえたシナリオを検討します。こうしたシナリオ分析の戦略への活⽤は、新型コロナウイルス感染症が世界の不確実性を左右する大きな要因となっている現在、特に重要です。2021年の、インド太平洋地域における各国の政治的な駆け引きや欧州の動向が、中長期の国際ビジネス環境を形づくることになるからです。

4. リスクのモニタリングについて、全社的なコミュニケーションを図る。

EYが世界各国のマネジメントを対象に調査したGeostrategy in Practice 2020でも明らかになったのは、社内の複数の事業部門が、政治リスクの特定、モニタリング、評価をそれぞれ独自に行っているケースが非常に多いことです。社内の部門を横断するチームを活用し、パンデミックという非常事態への対応で学んだ教訓も生かしながら、地政学上のリスクをめぐる社内コミュニケーションを強化することが求められます。このような社内コミュニケーションの強化は、企業のレジリエンスや競争力のさらなる向上にもつながります。

5. 関係するステークホルダーとの連携を通し、リスクを機会にする。

今後もさまざまな問題において、政策当局や世論が企業活動に介入してくる可能性があります。その⼀⽅で、政策当局、従業員、顧客、NGOなどの関係するステークホルダーとの連携を、リスクのコントロールに活用することも可能です。連携の仕方次第では、潜在的なリスクを機会に変えることもできるでしょう。気候変動など環境関連政策の転換、新国家主義(ネオステイティズム)の台頭の結果としての国内産業政策の変化、高まる社会不安に連動した新たなニーズの発生は、ビジネス機会にも変わり得るものです。企業は、関係するステークホルダーとの連携をより強化していくことが重要になります。

サマリー

2020年は新型コロナウイルス感染症の嵐が吹き荒れた1年でしたが、2021年はパンデミックの影響がさまざまな領域で顕在化することになるでしょう。新型コロナウイルス感染症の影響とそれに伴う地政学上のリスクをコントロールするにあたっては、リスクの特定、評価、戦略への反映といった具体的なアクションが求められます。また、社内における部門横断的なコミュニケーションや、関係するステークホルダーとの連携も重要です。

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執筆者
Courtney Rickert McCaffrey

EY Global Geostrategic Business Group Insights Leader

Geopolitical analyst and strategist. Creative methodologist. Proud feminist. Passionate about generating insights to help executives make better-informed decisions.

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地政学観点を取り入れた戦略構築が専門。日課はジム通い。無類のヒップホップとレゲエ好き。